「え?」
なんで?
「なんでまだその程度なの?」
エルフの隠れ里で精霊と話し終わった後、ルーラでアーリハーンに飛んでルヴィスに記録してもらった直後に、レベルアップしにきた高所恐怖症のバーンモドキと足の速いおっさんの報告を聞いてがっかりした。
「魔法使いに転職した2人がルーラを使えるようになる事を優先した結果なんだから、仕方ないだろう?」
「そうだぞ?」
「それにしても遅いだろう?」
最大火力のお前がいるロマルアでさえ、誰もレベル15にすら成っていないとか…
なにより
「ロマルアとイススとダァマの三箇所に分かれているから経験値を取り合う事もないと言うのに…」
僧侶以外は全員魔法使いになって、ルーラとリレミトで緊急脱出できるようになってから攻略を開始する計画なのに…
「バケモノの襲撃が十日に一回あるかどうかだからなぁ…」
え?
「積極的にモンスターを狩って行こうって話だったんじゃないのか?
俺は今からダァマまで歩いて、襲ってくるモンスターを全部倒して経験値にする予定なんだが?」
ロマルア側の旅の扉まではホイミスライムにバイキルトとスカラをかけて戦力にしたり、怪我した時にホイミをしてもらったりする予定でもあったけど。
「そう言われても、MPが切れたらそれ以上戦い続ける事はできないし。」
「はっはっは。 俺なんかその三箇所を往復しているだけだからレベルアップなんてたま~にしかできないぞ?」
ちっ
そう言えば、このおっさんはキメラの翼を節約するために伝令役をしているんだったか…
「ダァマでリーダーに詳しく聞くか…」
「ああ。 そうしてくれ。」
エルフの里で貰った『種』の分配についても話さないといけないしな。
「あ! アーリハーンの入り口にホイミスライムが居たと思うけど、倒してないよな?」
折角一緒に飛んできたのに、ただのスライムにランクダウンとかしていたら面倒くさい。
「ああ。 ホイミンなら入り口でスライムを殴っていたぞ?」
「ホイミンて…」
元バブルスライムで、その前はスライムで、さらにその前は俺達と同じ人間だったんだが…
というか、アイツはスライムをいじめて楽しいのか?
「『こんにちわ! 僕、悪いホイミンじゃないよ!』って本人もいっていたぞ?」
「自分で言ったのか!」
何考えているんだ?
「レベルアップも終わったし、情報交換も一応したし… そろそろ行こうか?」
「そうだな。 コイツの言うとおり、レベルアップをしないといけないしな。」
やる気はあるのか…
まぁ、『MP切れたらただの人』と『伝令』じゃあ、やる気があってもレベルが上がらないか。
「そうだ、ロマルアまで一緒に行かないか?」
「旅は道連れだ。」
う~ん。
一緒だと経験値を独り占めできない… けど
「ロマルアまでと言わず、おっさんとアイツがある程度連携ができるようになるまで面倒みるよ。」
おっさんとホイミスライムを組ませる事で、これまでモンスターを出来るだけ避けてきたおっさんのレベルを上げる事ができるようにしようというのも計画にあったはずだし。
「ホイミスライムのMPは無限じゃないから、あまり頼り過ぎないようにもしたいし。」
「はっはっは。 では、よろしく頼む。」
はいはい。
とりあえず武道家1人と魔法使い2人、それにホイミスライムというパーティーで旅をしようじゃないか。
「もっとも、お前が居る時点で俺はバイキルトくらいしかやる事ないけどな。」
「いや…」
なんだ?
――――――――――
ロマルアに着いてすぐ城に向かう。
「ちょっ なんなんだよ?」
「一体どうしたのだ?」
ホイミスライムは旅の扉に置いてきた。 夜になったらロマルアの北に移動しているはずだ。
っと、目標発見。
「よう。 久しぶりだな。」
「おお! 魔法使い殿ではないか! 久しぶりですな!」
カンタダ… あいかわらず変態な格好だな。
ま、それはそれとして
「とりあえず、聞きたい事がある。」
「ん? なんだ?」
「アイツの評価だ。」
高所恐怖症のバーンモドキを指差す。
「俺の評価?」とか言っているが無視する。
「彼か…」
「言い難いかもしれないが、はっきり言ってくれ。」
もっとも、カンタダの様子が、悪印象である事を物語っているけど。
俺も前は…
『メラミよりも強い…おそらくメラゾーマと同等の威力のあるメラが使えるとか反則だろ? おそらくギラもベギラゴン級だよ?
…高所恐怖症だけど、モンスターとの戦いでアイツ以上に貢献できる奴なんていないと思うんだが?』
と思っていたのだ。
「あー…
その、彼のスクルトは一度に20人以上の防御力を上げるから、魔物の襲撃の際、大怪我をする者が減ったのだが…」
そうか…
攻撃魔法よりも補助魔法の方を評価する事でごまかすつもりか。
しかし、そうはさせんぞ!
「イオで外塀を壊したり、ギラで大火事を起こしたりして、魔物の攻撃で怪我人が出た頃よりも… なんて事はないか?」
「あー… その…」
やっぱりか。
「やっぱり、お前はヒャダルコが使えるようになるまで攻撃魔法を控えたほうがいいな。」
「そんな…」
魔法を使わないほうがいい魔法使い…
でも仕方ないだろう? アーリハーンからロマルアまで、敵を倒して経験値が放出されたのにコイツのメラやギラの炎が邪魔で回収できないって事が何度あったか…
あ、でもヒャダルコはヒャダルコで問題があるかもしれないか…
馬鹿でかい氷が長時間維持されたら、やっぱり邪魔だし…
はあ… ほんっとうに面倒くさいなコイツ…
「じゃあ今度は… そう、僧侶も来ただろ? 彼女はどうだ?」
「彼女か…」
やっぱりこっちも問題児か?
「彼女のおかげで、彼(空飛ぶ僧侶の事だろう)が来ていた頃よりもロマルアの穢れは減ったと思うのだが…」
ニフラムが大好きだからなぁ…
「魔物との戦いの後、そこの彼にニフラムをかけて喧嘩しなければ、その、優秀… なんだと思う。」
コイツのレベルアップの邪魔をしているのかよ…
「それじゃあ、戦士2人は?」
危険人物だが、奴らの振り回すバットモドキはなかなかの威力だ。
「彼らか…」
ぇー。 その反応だとやっぱり問題児なのかよ…
「彼らの強さは確かに認めるが…」
認めるが?
「その… 他の兵が怯えてしまってな?」
なんじゃそりゃ…
「そんなにグロいのか?」
「グロい? あれはそんなレベルを超えてしまっている。」
何しやがったあの2人!?
「正直、俺も彼らと組むのは遠慮している。」
「そこまで酷いのか…」
現地の人との協力関係を結べていないって…
レベルアップってこんなに難しい事だったとは思わなかった。
――――――――――
ロマルアでバーンモドキにすらなれない高所恐怖症と、イススとダァマの分かれ道でおっさんとホイミスライムと別れた後は一人旅だった。
イススの女王はすごい美人だと言っていたが、砂漠が面倒だったので同行を拒否した。
…ホイミスライムって砂漠大丈夫なのか? 水分の塊で熱に弱そうなんだが。
それはそれとして、ダァマでリーダーと今後に付いて話し合う。
「これが『力の種』でこっちが『素早さの種』ですか…」
「『賢さの種』は無いんだってさ。」
アフロに「賢さが上がる種があったらルヴィスに食べさせていると思わないか?」と言われてすごく納得してしまった。
「『賢さの種』はゲームでも扱いが難しかった気がするから、まあいいです。」
そうなの?
俺、種は全部勇者に使ってたんだが… ま、昔の事だ。
「個人的には素早さが欲しいけど、童顔チビとかの強化に使ったほうがいいかもしれないとも思ってな?」
「?」
わかんないかな?
「ほら、ラーミアのいる島に一番乗りするのはアイツだろ?」
「ああ! なるほど。」
着地予定地点にモンスターがいたら大変だからな。
「あと、全員のレベルアップについて考えがあるんだけど。」
「なんですか?」
「ヴァラモスの居る城の付近は穢れだらけで見えないんだったよな?」
アフロと話し合って、効率の良いレベルアップの方法を思いついたのだ。
「…そういう事ですか。」
「そういう事です。」
ゲームのように城があるのなら、城を隠してしまうくらいの規模の穢れがそこにある事になる。
ならば、その穢れでレベルアップしたら良い。
「でも、あれほどの穢れですよ? 高レベルな敵がうじゃうじゃ」
「うじゃうじゃ居るなら『穢れの状態のまま』で存在しているかな?」
あの周辺に大量のモンスターがいるかどうかは、植物経由で世界樹に確認してもらえばいい。
「ああ…」
「もっとも、人間が近づいたらモンスターになる可能性はあるけどな?」
それでも、試してみる価値はあると思う。
「童顔チビのレベルアップを優先して、ラーミアを確保する事にしましょうか。」
「だな。」
どうせ、初めて世界樹に行った時みたいに俺が同行する事になるんだろうけど、背に腹は代えられないからな…
オーブが必要なのかって事も少し気になるが… たぶん…
091025/初投稿