ドスーン! ドスーン!
大きな足音を立ててゲーマー娘が荒野を歩く。
彼女が一歩踏み出す度に土煙が大きく舞い、遠くから見ていると戦争モノの映画や、昔見ていた戦隊モノのラスト5分くらいを思い出してしまう。
「やっぱり距離をとっていて正解だったな。」
そうだな。
遠くから見ていてもその存在感に圧倒されてしまうものな。
「アレを見たら、毎日お前から『離れていろ』と言われるまでもなく、距離をとっている理由がわかっただろう?」
ああ。
いくら安全だと言われても、自分からあんな生き物の傍に居たいと思うやつはいないよな。
「がぁ!」
がごおん!
ゲーマー娘の右パンチ一発で元々は柱だったと思われる岩がぶっ飛ぶ。
…飛んで行った方向は海だけど、どっかの村や町や城を破壊していたりしないかちょっと心配。
「ぐっ がががああああああ!!」
人がそんな心配をしている事を知りもしないで、彼女はそう叫んだ後に目の前の瓦礫の山にその巨大な尻尾で凄まじい一撃を放つ。
どがががああああん
瓦礫の山は先ほどの元柱と同じように跡形もなく空の彼方へ飛んで行った。
そう、彼女はドラゴラムでドラゴンになって瓦礫の撤去をしているのだ…
それもかなりノリノリで
「いつもニコニコ笑顔で草木に水をやっているとは思えない暴れっぷり。
…アイツもストレスが溜っていたんだな。」
考えてみれば、ダァマの口煩い神官達や避難民達との交渉はアイツに頼りっぱなしだったからな。
…リーダーが居たのに。
「ま、あれはあれとして…」
「ん?」
「さっきは、結構すっきりしたな。」
すっきり? さっき?
…ああ
「イオナズンの事か?」
「ああ。
それほどすっきりしなかったか?」
「したかしなかったかなら、すっきりしたが、その話の振り方では反応しにくいぞ…」
ヴァラモスの城は…
この四股男の特大イオナズン連発で半分は崩壊、さらに俺達12人のイオナズン連発で完全に崩壊した。
…ボスの城を大人数で爆破するRPGなんて、俺の知る限りでは存在しないんだけどな。
異世界に拉致されて数カ月、やっぱりストレスが溜っていたんだなぁ…
ちなみに、そうやって出来上がった瓦礫の山をイオナズンが使えないゲーマーなドラゴン娘が大きく叫びながら片付けているのだ。
「確かに、イオナズンの爽快感があれほどだとは思わなかった。」
道具に頼ることなく、自分の力だけであんな事ができるようになるとは数ヶ月前には考える事すらなかったぜ。
癖になったらどうしてくれるんだ。
「威力がありすぎて地下じゃ使えないのが残念だ。」
コイツのイオナズンの威力はもちろん、俺のイオナズンの威力も想像以上だったからなぁ… 地下で使ったら生き埋めになってしまう。
あ、通路が広ければドラゴンになって暴れるのも面白いかもしれないか。
って、俺はいつの間にそんな魔法中毒者になったんだ?
「それで結局、ヴァラモスは地上にはいなかったみたいだしな。」
「ああ…」
ヴァラモスの姿は瓦礫から発見されていない。
もし地上に居たなら城の一階か二階に居たはずなので、瓦礫が半分以上片付いているのにも関わらず遺骸はもちろん穢れの放出さえ確認できていないという事はそういう事なのだろう。
そもそも、ギアガの大穴を開ける事ができていたらヴァラモスは地上に居てくれたほうが楽だな… というだけの事だったわけだし。
それに、穴を開ける事ができなかっただけでなく、城の破壊にMPを半分以上使ってしまった今は「地下に引き篭もっていてくれてありがとう。」って気分だしな。
「おーい、急に黙り込むなよ。」
リーダーがあんなだし、お前が代わりに色々考えてくれるというなら黙り込む事もなくなるんだがな?
「あのさ、今日は地下への入り口を見つけたら一旦戻らないか?」
ん?
「イオナズン使いすぎてみんな疲れてるだろ?」
「ああ。」
確かに魔法の連発でみんな疲れているし、それでいいかな…
それに、城にアレだけのダメージを与えたのに襲ってくるのは地上を徘徊している鎧だけというのも気になる。
放っておけばドラゴンが地上を更地にしてしまうから、地下への出入り口を隠すために息を潜めている… という事はないだろうし。
やっぱり、ヴァラモスは俺が思っているj
「がおおおおおおおお!」
突然、瓦礫を片付けていたゲーマードラゴンの雄叫び(雌叫び?)が響いた。
「お!」
「どうやら、見つけたようだな。」
ゲーマードラゴンの報せを聞いて、俺たちと同じように瓦礫処理の巻き添えを避けて遠くでその様子を見ていたみんなが集まりだす。
途中で四股されている(?)4人が近づいてくると、隣を歩く四股している(?)男の顔が徐々に鬱になっていくが、面白いので放っておく。
「まったく、みんな一緒にいないといざと言う時危険ですよ? もっとリーダーの言う事を聞いてください。」
そういう事は前みたいにリーダーとしてまともに働いてから言え。
「あっちの木陰なら瓦礫が飛んできても私がガードできたのに…」
木陰よりも大きな瓦礫が飛んできたらどうしようもないだろうが。
「別に木陰じゃなくても私の『力』なら…」
あの勢いで空に飛んでいく瓦礫に、武器や防具が強化できるくらいじゃどうしようもないと思うんだが?
「男2人で何していたの?」
瓦礫とお前達から避難していたんだよ。
個人的には、お前達がもっと真面目だったら、コイツをどう扱ってくれてもいいんだけどな?
貴重な戦力を無駄に疲れさせるわけにはいかないからなぁ…
ゲーマードラゴンの足元にはとても大きな穴があった。
地下へ続く階段の一段一段の幅は広く、段差も人間には少し厳しいくらい… おそらく小型のモンスターでは登ることができないだろう。
「ほお… これが地下への入り口か…」
「思っていたよりも大きいですね?」
ゲーマードラゴンの側にはすでに空と陸の移動タイプ2人がやって来ていた。
仲良しなのはいいんだけど、できる事ならこの2人にはそれぞれ他のコンビとくっついてトリオになっていてくれたほうがありがたいのだけど…
まぁ、どっちのコンビと一緒に居ても精神をやられてしまいそうだけどな!
「確かに大きいな。」
「それに穢れも酷そうだ。」
「歯ごたえのある敵がいるといいんだが…」
「まったくです!」
少し遅れて一緒に居るだけで精神的に疲れるコンビ2組もやってきた。
鉄バットコンビ… ちょっと離れている間にバットが汚れているのは何故だ?
空手馬鹿師弟も、拳が汚れているぞ?
まあ、経験値を稼ぐのは良い事だからツッコミはしないけど。
…ま、心の中でツッコミをいれるのはこの辺にして
「それじゃあ… そこのおっさんとそっちの君、俺と一緒に少しだけ奥に行くぞ。」
「ん?」
「なんで? 今日はダァマに戻って休むんじゃないの?」
はぁ…
「リレミトが出来るか試すんだよ。」
足の速いおっさんと怪力娘がいればリレミトが出来なくても無事に帰ってこれるだろうし…
「なるほど。 リレミトができるかどうかって、攻略する上では重要ですね。」
そうだな。 でも本当はリーダーであるお前が発案すべきなんだがな。
「できれば後1人来て欲しい。」
3人ではちょっと怖い…
というわけではなく前衛と後衛の人数を2人ずつにしたいだけ。
「じゃあ俺が行くよ。 お前のリレミトが効かなくても俺のリレミトなら大丈夫かもしれないし。」
おお。 それは考えていなかった。
「言われてみれば、それは試してみる価値があるかもしれないな。」
…お前をこの4人から守っていて良かったよ。
「だろ?」
「ああ。 それじゃあ頼む。」
「頼まれた。」
まあ、お前はそのハーレム状態から脱出したいだけなんだろうけど…
「それじゃあ私達は暫くここで待っています。
リレミトで戻ってきた時に4人だけというのも危険かもしれないですし。」
リーダーはリーダーで、怪力娘だけがこいつと一緒にいるのが気に食わないだけだろうが、何があるかわからない場所へ行ってへとへとになって帰ってきた処に大量の鎧が!って事になっても困るから、その申し出は快く受け入れよう。
――――――――――
両手を広げた人間が4人並んでまだ余裕があるくらいに幅の広い通路を進む。
「暗いな…」
考えてみたら、この世界に来て初めてのダンジョンじゃないか?
「今はまだ外からの明かりが刺してくるけど、そこの角を曲がったら…」
「明日突入は無理かな? 松明を用意しないといけないでしょ?」
「はっはっは。」
おっさん…
「会話に入れずに寂しいのはわかるが大きな声を出すな。 モンスターに気づかれたら面倒だぞ。」
少しは考えて行動してほしい。
例えば、地下への入り口が大きかった事と、階段(?)の段差が大きかった事、そしてこの通路の広さから考えて…
あー…
「ロマルアの城壁も、巨大モンスターには効果が無いというような事をカンタダが言っていたのを思い出してしまった。」
松明だけじゃなくて他にも色々道具を揃える必要があるかもしれないな。
「え?」
「は?」
「そういえば、そんな話を聞いた気もするな。」
思い出すのが遅すぎたかもしれない。
「そんな大きなモンスターがいるのか?」
「じょ、冗談でしょ?」
心外だな。 俺は冗談でこんな事は言わないぞ。 というか、巨大モンスターの話をダァマで聞いた事はないのか?
なかったとしても、ドラクエ知識からヤマタノオロチとかが存在するかもしれないとか考えたりしないか?
…でもまあ、簡単に説明はしておこう。 いざという時びびって動けないとか、死亡フラグになってしまうしな。
「『入り口の大きさ』と『階段の段差』と『通路の広さ』から考えられる事は3つだ。」
「3つ?」
「A.段差を無視できる飛行型モンスターや、影とかの実態のないモンスターが大量にいる。
B.でかいモンスターがいる。
C.AとBの両方が。」
沈黙が痛いな。
「…ねえ、戻ったほうが良くない?」
「…広いと言っても広範囲の魔法が使える程ではないし、そのほうがいいか。」
「ね? そう思うよね?」
「じゃあ戻ろうか。」
4人同時に来ると逃げるくせに、1人ずつとならそうやって話せるんだよな…
というか、今戻ってもどうせまた来る事になるんだが?
それに
「はあ… 地上であれだけドタバタしたのに何の反応も無かったんだから、そこまで怖がるな。」
俺の予想通りなら、おそらくモンスターはそんなにいない。
「う…」
「でも…」
「…」
あー… もー…
「それじゃ、そこの角を曲がって10メートルくらい進んだらリレミトを試してみよう。」
「うん!」
「そうしよう。」
「わかった。」
考えてみれば、初めてのボス戦がラスボスだったらびびってしまうのが普通かもしれない。
だって、この世界に来てから雑魚と戦った事はあってもボスと戦った事があるやつがいないんだからな…
ジバンクにヤマタノオロチがいるか世界樹に聞いてみるか?
「いっその事、イオナズンで地上からこの地下通路を破壊して、またゲーマーにドラゴラムで瓦礫を撤去してもらうか?
うまくいけばヴァラモスが生き埋めになるかもしれないし…」
なんてなー。
それができるなら精霊達が異世界から隕石を召喚して城ごと地下ごとヴァラモスをぶっ潰しているってーの。
お前ら…
つまらない冗談に頷いたりするなよ。
091114/初投稿