「ゲームでは、地下一階までだっけ?」
「だったと思うけど…」
あれから三日かけて、俺達は巨大な扉の前に立つことが出来た。
地下へ続く道をイオナズンで強引に広げて、邪魔な瓦礫はドラゴラムで排除し、またイオナズンで道を拓き…
そういう事を地味に、飽きても、呻きながら、時々ルヴィスを苛めてストレスを発散しながら、やっと…
四股男のイオナズンでも壊れない壁とこの扉が、そこにヴァラモスがいる事を俺達全員に想像させる。
「いよいよか…」
俺の考えが正しければ、そんなにキツイ戦いにはならないだろうが…
「イオラ」
どおおおん
扉の前に残っていた邪魔な瓦礫がそれで完全に取り除かれる。
扉のすぐ向こう側にヴァラモスがいる可能性もあるので、ゲーマードラゴンは結界士と一緒に少し離れた場所で待機していてもらう。
「ほら、扉の隙間から穢れが漏れ出ています…」
リーダー、あんたがどう考えていたかわからないが、俺としてはそれも想定の範囲内なんだ。
まあ、予想が外れたら責められるだろうから何も言わないでいたんだけど。
「なあ、このまま扉の隙間から漏れ出る穢れを浄化し続けるっていうのはどうだ?」
「名案だ!」
自称社長とその部下…
「そうですねぇ…」
「いいんじゃない?」
「確か、エルフの隠れ里にいる精霊が穴を空けるんでしたよね? それまでは…」
「燃えよりも萌え…」
お前らはアイツといちゃいちゃしたいだけだろ?
というか、腐女子は何が言いたいんだ?
「ここで修行を続けるのも有りか…」
「今戻ってもどうせ留年ですし…」
空手馬鹿もか…
「僕はどっちでもいいですけど?」
「はっはっは。 俺と同じだな。」
むぅ…
「俺はさっさと終わらせたい。」
お前は4人から逃げたいだけ… でも
「俺もさっさと終わらせたい。」
俺の考え通りなら、今が一番倒しやすいは
「それじゃあ、13対2という事で… ここで漏れ出る穢れを浄化していきましょう。」
ずなんだけどなぁ…
仕方ない
――――――――――
「一人で行くの?」
「ああ。」
みんなはこれまで通りイススとヴァラモス城跡を行き来して浄化をするつもりみたいなので、俺1人だけアーリハーンに戻ってルヴィスと話す。
「勝算は?」
「予想通りなら100%勝てる。 予想が外れたら死ぬ。」
だから俺1人で行く。
「そっか…」
「記録を頼む」
俺の言葉に頷いて、ルヴィスが冒険の書を取り出す。
「それじゃあ、冒険の書に記録しますか?」
…
「どうしたの?」
…
「ね」
「ヴァラモスは」
「ぇ?」
俺の考えが正しければ…
「ある意味、お前の被害者か?」
「ぁ…」
どうなんだ?
「ある意味では… ね。」
そうか
「でもっ」
でも?
「私が居ない間にこの世界を支配しようとしたんだから、自業自得なのよ。」
…
「記録を」
「ぇ」
「記録を」
「あ… 冒険の書に記録しますか?」
「ああ。」
「冒険の書に記録しました。 でも、死なないでね?」
「さてな。」
大魔王がいるのなら、なんのためにヴァラモスを送り込んだんだ?
こんな世界にどんな価値が…?
――――――――――
イススに飛んで、そこからドラゴンになってヴァラモス城跡地の、あの扉の前へ…
これで長かった冒険も終わり。
あ…
結局水の上を歩ける人がどこにいるのか、わからないままだったな…
「ま、仕方ない。 ヴァラモスを倒せばアフロか世界樹のどっちかが元の世界に返すだろう。」
ルヴィスには期待しない。 それが俺のジャスティス。
「やあ。」
「おう。」
そういえば、ホイミスライムはイススにいられないのでここで寝泊まりしているんだったな。
「1人でここに来たって事は、僕と同じ結論に?」
「ああ、俺はお前のあの姿を見ているからな。」
「だよねー。」
アレを見た事のない奴らには信じてもらえないだろうから言わなかったけど。
「僕も一緒に行くよ。」
?
「ここらにスライム系なんて居たか?」
「死ぬ事前提で話をするんだね。」
「ホイミスライムVSヴァラモスだからな。」
「僕達の想像通りなら、戦いらしい戦いにならないで済むだろう?」
ん?
「それが?」
「僕が一緒に行くのは、想像が外れて戦う事になった時のためだよ。」
あー
「つまり、俺が逃げる時間を稼いでくれるって事か?」
「補助系を全部使ってくれればそれなりに戦えるだろうからね。」
「でも、俺は死んでも」
「死んだら駄目だよ。」
む。
「なんd」
「戦うことになるんなら、ヴァラモスの情報はみんなの元に持ち帰るべきだ。」
「でも、それじゃお前が」
「僕はすでに死んでいるんだ。」
…その言葉は、ずるい。
ぎぎぎぎ
人間1人がギリギリ通れる程度に扉を開けて進入する。
四股男のイオナズンでも壊せなかった癖に、人間1人の力でこんなに簡単に開くんだから、ファンタジー世界って怖い。
内部は巨大な神殿の様な造りだった。
「イオナズン」
どおおおおん
「いきなりイオナズンねぇ…」
ちょっとびっくりした。 けど
「残念だったな? あらかじめマホカンタをかけておいたんだ。」
「…そうか。 最初の一手を間違えたな。」
そう言ったヴァラモスは俺の思っていた通りの姿をしていた。
「やっぱりか。」
精霊から貰ったオリハルコン製の剣を構える。
「我の姿に驚かぬのだな?」
「予想していたからな。」
あの時、コイツもそんな風になっていた。
もしあいつらの言ったように少しずつ穢れを浄化する方法をとっていたら、完全な状態のヴァラモスを相手にしなければならなかったかもしれないな。
だけど
「今、楽にしてやる。」
「ホイミスライムのバイキルトパンチでな!!」
構えた剣がほのかに輝く。
後ろのホイミンを後ろ蹴りで黙らせるのも忘れない。
…思っていたよりもシリアスなシーンなんだから、それっぽく行動してほしい。
「ほぉ… 精霊はその剣と魔法を人間に託したのか。」
「俺なら『無駄にしない』だろうとさ。」
「もっとも、お前に止めを刺すのはこのバイキルトキックだがな!!」
一番面倒な役を押し付けられたと思ったが… 世界樹は俺1人で決着をつけることになると予想していたのかもしれないな。
ホイミスライムを踏みつけながらそんな事を考える。
「そうか…」
そうなんだよ。
「なんでこんな世界を支配したのかさっぱりわからないが、俺にはどうでもいい事なんで聞いたりはしない!」
「なっ!」
俺はラスボスにどうしてこんな事をしたのか説明させるような、テレビゲームの優しい主人公じゃないんだよ!
「さらばだヴァラモス!!
ライデイン!!!!」
手の平から剣、剣からヴァラモスへと雷が伝わる。
「ぐあああああああおおおおおおおお!!!!」
それが、穢れを溜めすぎて形を保てなくなった…
自我を失くさないようにするだけで精一杯になってしまったモンスターの、最後の声だった。
091114/初投稿