「えい。」
躊躇なくフォークで突き刺そうとしやがった。
「うわぁっ!」
「ちょっ! 攻撃するなって言っただろうが!」
スライムはとっさに避ける事ができたが、石の床に深い傷が出来ている。
…当たっていたら人殺しになっているところだぞ?
「どいて! そいつ殺せない!!」
「落ち着け、これがこいつの『力』なんだ!」
「え?」
「『スライムに憑依する』のが僕の『力』みたいなんです。」
死なないと発動しない『力』だったらしい。
そう聞いたとき、俺は親しみを感じたね。
「え?」
「スライムには憑依できるけど一角うさぎには憑依できないし…」
「気が付いたらスライムになっていて、自分の体を食べてたんだとさ。」
「なによそれ…」
本当に… 不可抗力とはいえ、自分の体を食べるのは嫌だ。
しかし、それはそれとして…
「今の一言に、このスライムの『力』よりも重要な事があっただろうが。」
「え?」
「一角うさぎに憑依できないって事だ。」
「? それが?」
わからないのか?
「だから! 一角うさぎがこの島にいるってことだよ!」
「!!!」
「アーリハーンから人がいなくなった理由の、モンスターの群れがココから東の方にいるんだとさ。」
「それって、大変じゃないの!」
そうだよ。大変なんだよ!
…だけど、チャンスでもある。
「だから、一度戻ってレベルアップしよう。 二日も歩いたから、お前はベギラマ使えるんじゃないか?」
「ベギラマ? …そうか!」
「スライムの話が本当なら、ルヴィスのおかげでかなり弱っているらしいし…」
「わかった!」
弱っているなら俺のメラでも倒せるかもしれない。
それが無理でも、ベギラマの威力はギラの倍だったはずだから何とかなるだろう。
つまり、経験値大量獲得のチャンスって事だ!
「お城の近くに行くと苦しくなるから、僕はここで待っているよ。」
「それじゃあ、お前の遺品をルヴィスに渡しておこう。」
「頼むね。 僕はもう帰れないけど、せめて」
自分がもういないと言う事を、か…
「わかっている。」
スライムの案内でレバの村及びその周辺で死んだ先輩達の遺品(靴の数からおそらく8人分)を回収してルーラで帰る。
――――――――――
「こんなに?」
レバの村で回収した遺品を袋から取り出して並べた俺にルヴィスはそう聞いてきた。
「ああ。 墓も5人分あったから、併せると13人が死んでいるな。」
「なんてこと…」
「ココの廃墟でもスニーカーとかあったわよね?」
「…後で回収しよう。」
スライムに食べられると骨まで溶けるとは…
「人の遺体は骨まで溶けるのに、なんで化学繊維とかゴムは溶けないのか?」と不思議に思う俺はやっぱり人としての感性がおかしいんだな。 うん。
「お墓に入った人のはどうするの?」
「掘り出して靴と髪だけでも回収しよう。」
「やっぱり、掘り出すのね…」
それだけあれば遺品としt
「ああ、鞄とかがあるならそれも回収だな。」
「…」
「できれば遺体をメラで燃やしてゾンビにならないようにしたほうがいいだろうし?」
「…そっか。 そういう可能性もあったね。」
この島は浄化が進んでいるといってもモンスターがたくさんいる事も事実。
不確定要素は排除しておいて損は無いだろう。
えぐえぐと涙を流す駄目精霊を放置したまま、遺品回収についての話し合いを続ける。
「レバの村から旅の扉に向かう途中でモンスター達の犠牲になった奴もいるだろうから、そいつらの遺品回収もしたいところだけど…」
スライム以外のモンスターは巣に持ち帰ってから食べる可能性もある。 捜索範囲の広さが溜息ものだ。
「ねえ、ベギラマで燃えちゃうんじゃない?」
「…今回はレバの村から少しだけ離れた場所で戦おう。 それで、ヒャダルコ?を覚えたら遠慮なく殲滅しに行くって事でどうだ?」
「そうだね、レバの村周辺の遺品はスライムが集めてくれていたし、ベギラマ使っても大丈夫だよね。」
床に石を擦りつけて字を書く。
『かいたひと 44にんめ
いひんかいしゅう
アーリハーン
ればのむら lllll lll 』
「こんなもんだろ」
「これで私達が留守の間に先輩達がココに来ても状況がわかるのね」
「ルヴィスがいるから書かなくても良かったかもしれないが…」
「この島の浄化が終わったら別のとこに行くかもとか言っていたし、これでいいんじゃない?」
「そういえば、そんな事も言っていたな。」
人や動物さえいなければスライムが増える程度ですむし、ある程度浄化したら場所を変えるというのは当然だな。
「でも、なんで誰も戻ってこないのかな?」
「ダァマから見える限界がレバの村なのかもしれないな。」
地図を見るに、ダァマとレバの村の間に高い山などはないようだし…
ふと気が付くと、壊れた天井から光が入らず、窓や壊れた壁から夕日が差し込んでいる。
そろそろ夜だ。 スライムの話だとモンスターは夜になるとレバの村に来るらしいから…
「そろそろ行くか?」
「ええ。」
「俺がスカラで防御を上げて、お前がギラやベギラマで殲滅する。」
「経験値は私が優先。 ヒャダルコってレベルいくつだったかしらね?」
「20前後だったと思うが… 敵の数が多すぎたら俺が囮になっている間にルーラで逃げろよ?」
「わかっているわよ。」
立ち上がり、手を繋ぐ。
「ルヴィス!」
「いつもの頼む。」
「…うん。」
両手で涙を拭った後で、いつものように冒険の書を取り出した。
「私が言えた義理じゃないんだけど、この子達の敵討ち、お願いね?」
「ああ。」
「ええ。」
「冒険の書に記録しますか?」
――――――――――
「ベギラマ」
掌から出る火炎放射が、前方にいる敵全てを焼く。
「メラ メラ メラ はっ!」
ぼひゅっ ぼひゅっ ぼひゅっ ざすっ
ベギラマに耐えた奴らには俺のメラや2人のフォークで止めを刺す。
焼死したモンスターから経験値を獲得したいが、次から次へとやってくるので魔法で倒した奴らの所へ行く余裕が無い。
「最初は兎やアリクイだけだったのに!」
「まったく!」
「なんできのこやカニがいるのよ!」
「この島から人がいなくなった理由が良くわかったよ! くそっ!」
べぎぃ
ジャンプして、いつの間にか近くにいたカニの上に着地する。
ぶんっ!
フォークを大きく振って、敵を牽制する。
「メラ」
これで打ち止めだ。
ざく
ベギラマを受けて黒焦げのくせに突っ込んできた奴にフォークを刺す。
筋肉の質を改造してあるはずなのに、すでに疲れが出てきた…
「ここは一旦退却しろ!」
「うん!」
レバの村に一時退避…
いや、こんなに敵がいるならルーラで逃げたほうが確実だ。
「ルーラで逃げろ!」
そう叫びながら、フォークを振るう。
倒せはしないが払うくらいならまだできる。
「イオ」
爆発で敵をぶっ飛ばしたか! やるな!
「ほら!」
「俺にかまわず逃げろ!」
伸ばされた手を取らずに、そう返す。
「そんな!」
「最初から決めていただろうが!」
最悪、『記録した時の状態で復活する』俺が囮になると。
「でも!」
「いいから行け!」
「黙って手を取りなさい!」
そう叫んで、また手を伸ばしてくる。
くそっ!
この数相手にそんな隙を見せるなんて、自殺行為だぞ!
ざす
「ぇ?」
にぶいおとがして
「ぁ」
のばされていたてが
「ぅそ!?」
そらにまって
「ぃっっくっしょうっっ!!! ルー」
「マホトーン」
のこされたかのじょのからだから
「ラ」
「馬鹿野郎! 走れ!!」
「なんっ!?」
ふきだすまっかなちが
「ぎゃぁぁぁぁあああああっ!!」
「くそっ! くそっ! くそっ!」
あたりをそめた
・
・・
・・・
「やっと、起きたね…」
090916/初投稿