「ぐ ぅ?」
ルヴィスの声で目を覚ます。
「俺は死んだのか?」
「そうね…」
ルヴィスに膝枕してもらっているので、首を動かすだけで壊れた壁から朝日が差し込んでいるのがわかる。
あー
昨夜のモンスター討伐で、俺はリタイヤしてしまったようだな。
ギラも使えない魔法使いじゃ何も出来なかったって事か…
「で? あいつはどこだ?」
「…帰ってきてないわ。」
俺が死んだ後も戦い続けたのか?
だとすると、スライムが安全な場所を知っていてそこで休んでいるのかもしれな
!!!!!!!!!!!
「ぐぁぁぁぁああああああ!!!」
頭がっ!
「頭がぁぁあ!」
「どうしたの!?」
「ぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」
知らないお父さんが私の頭を優しく撫でる。
あいつの名前で私を呼んで、俺はそれに笑いながら応えていた。
場面が変わる。
知らない女性が俺を呼んでいる。
お母さんと私は手をつないで知らない実家に続く道を歩いていた。
場面が変わる。
知らない親友と毎日を楽しそうに楽しく過ごす。
場面が変わる。
あいつの両親と一緒に乗ったバスが事故に会う。
場面が変わる。 変わる。 変わる。
葬式で泣く。 一人になる。 それでも働いて。
場面が変わって、変わって、変わって、変わって…
俺の知らない私の大事な人達が生かしてくれたこの―――――
そうか
そういう事なのか…
「ルヴィス…」
「なに?」
心配そうに俺を見るルヴィスに宣言する。
「レバの村に行ってみる。」
「うん。」
壊れた天井の真下まで歩く。
…お前は、いつもこんな感覚だったんだな?
「待って! 寝すぎて馬鹿になったの?
階段はあっちだし、記録はどうするの?」
ルヴィスを無視して、俺は呪文を唱える。
「ルーラ」
レバの村では、真っ黒でドロドロな形になったスライムが待っていた。
「なんでそんな事に?」
「君の『力』を聞いていたから、君達が倒したモンスター達の経験値を全部受け止めたんだ。」
自我を失くさないようにするだけでも結構大変なんだよ?」
ほう?
スライムのレベルアップってそうやってするのか?
「ほら、あそこに彼女の遺品がある。」
遺品…
「ルーラが使えなくなるくらいベギラマを使ったのか?」
「マホトーンを使えるモンスターがいたんだよ。」
魔法使いの天敵がいたのか。
「でも、あいつは戦士レベル15の強さがあったはずだが?」
「マホトーンを使えるのがいたんだって言ったろ?」
!
「お前の知らないモンスターが結構いたのか?」
「そうだよ。 カニやらキノコやら… こんな事になるならもう少し深く潜入しておけばよかったよ…」
そう言えば、スライムだと一角うさぎにさえ踏み潰されかねないとか言っていたな。
「思った以上に種類がいたのか…」
「君は、彼女に1人で戻れと言ったんだけど、彼女が『君と一緒に戻る事』に固執してね。」
ごたついている間にマホトーンをされてしまったのか。
「死んだら記録した時の状態に戻ると言うのも良し悪しだね。」
「うん?」
「死んだ瞬間の記憶があれば、僕が説明しなくてもいいだろう?」
「そうだな。」
どうやって死んだか覚えていたら対策を考えやすいからな。
「もっとも、死んだ時の事を覚えていたら、ココに来る君の心は復讐で一杯だったんじゃないかな。」
「そうなのか?」
「命を懸けた戦いだったからね…」
「吊橋効果とかそういう事か?」
「だね。」
それは考えてなかった。
「でも、彼女の死ぬ瞬間を覚えていないのは良い事だと思うよ?」
ん?
「あいつ、俺より先に死んだのか?」
「君に手を伸ばしたせいで隙ができたんだよ。」
「あちゃー…」
「ああ…
あの場面を覚えていたら、ここに戻ってこようとは思えなかったか、復讐心に囚われていたかだと思うよ?」
そうかなぁ?って、どうした!?
「ぐ ぁ ぁ あああ」
「おい! どうしたんだ?」
「言ったろ? 自我を失くさないようにするだけでもキツイんだよ。」
スライムのレベルアップとかじゃないのか?
「じゃあ、ルヴィスのとこに行くか?」
あいつならなんとか出来るかもしれない。
「いや、それよりも良い方法がある。」
そう言って俺の足元までぴょこぴょこと跳ねてくる。
「なんだ?」
「無駄にしないでね?」
スライムだった物から噴き出す黒い煙を、全て受け止めた。
――――――――――
床の傷が1つ増えて、俺のレベルも20まで上がった。
あいつと手をつないで記録したからだろう。 歩くたびに、経験値が入っている。
生き返った俺は、あいつの記録した時点の状態が『追加』された状態で復活した。
おかげで俺のモノだけじゃなく、あいつの記憶や経験なども持ってしまっている。
「今回はアイツが俺より先に死んだからこういう状態なのか?
一緒に記録した人が生きている状態で俺が死んだらどうなるんだ?
死ぬのか? それとも、生きたままで俺に『追加』されるのか?」
俺の疑問に、ルヴィスは「わからない。」とだけ答えた。
アーリハーンの廃墟では、スニーカーだけでなくハイヒールやイヤリングなども発見できた。
「これで5人分か…」
レバの村で13人、アーリハーンではあいつとこの5人で併せて6人。
「44人の内19人がすでに… はぁ…」
レバの村の東でも結構死んでいるだろうから、もしかしたら生き残りはダァマにしかいないのかもしれない。
「早く、生き残りにレベルアップの事を教えて戦力を増やさないとな。」
ドラクエ3では、勇者1人でバラモスは倒せる。
でもこの世界で勇者でもないやつが1人でヴァラモスに勝てるのか?
「独り言が増えた。 …精神的にやばいな。」
アーリハーンの廃墟での捜索の後、レバの村の東でヒャダルコを連発して遺品を捜す。
走っているうちに脱げたのだろうか? すでに3人分の靴が見つかった。
この舗装もされていない小石だらけの道を裸足で走っても、モンスターから逃げられる速度が保てるとは思えない。
「旅の扉に近づくとスライムしかいないってことは、ここまで来れた人はロマルアまで行けた可能性は高いが…」
浄化の効果はルヴィスを中心に円状に広がっていると確信した。
「行くのね?」
「すでに22人が… 半分が死んでいる。」
「ええ。」
「ダァマで生きている可能性のあるのが11人、残り10人が生死不明だ。」
ロマルアにどれだけ辿りつけているか…
「ロマルアに着いたらすぐに戻ってきてね?」
「ああ、王や神父に浄化される前にレベルアップしに戻る。」
「それじゃあ… 冒険の書に記録しますか?」
「ああ。」
「冒険の書に記録しました。」
――――――――――
ルーラでレバの村まで飛んで、新しい相方と共に歩く。
「死ぬ前に元気なスライムに憑依できて良かったよ。」
「そうだな。」
あの後、ひょっこり出てきて驚いた。
「城や町や村では別れないといけないけど… これからよろしく!」
「…ああ。 よろしく頼む。」
俺達はロマルアを目指して歩き出した。
090919/初投稿