「うぉぉぉおおおおおおおお」
旅の扉からロマルアへ続いていると思われる道を歩いていると、マッスルな覆面マントの男が斧を振り回してモンスターの群れを相手にしていた。
「おらぁああ!」
どずん!
斧による大振りの攻撃が見事に当たる。
「グァァアア」
断末魔の悲鳴を上げながらぶっ飛ばされるモンスター…
ぐぁっはっはっはと豪快に笑う男。
「俺の目はおかしくなってしまったようだ。」
「僕の目もおかしいみたい。 別のスライムに憑依し直すかなぁ…」
覆面は… 百歩譲って良いとしよう。
マントも… 千歩譲って良いとしよう。
しかし、パンツと長靴『だけ』という組み合わせは許せない。
それをして良いのは美人でエロいお姉様だけだというのに…
せめて服とズボンを着てくれ。 その格好は犯罪だ。
「…お前は旅の扉の向こう側に戻っていてくれ。」
「そうだね。 他のスライムに」
「奴がこっちに気づく前に早くいったほうgいけ!」
「うん!」
ぴょんぴょんと低く飛び跳ねながら逃げるスライム。
戦いながらこっちに近づいてきているあの変態の注意を、こちらに向けてスライムに気づかせないようにしなければ。
「ヒャダルコ」
ダメージを与えるだけでなく壁としても使える便利なヒャダルコで変態の援護をする。 …壁と言っても低くて薄いが。
「ヒャダルコだと!?」
木の陰から人が現れた事よりもヒャダルコの方に驚くのか。 ならば
「そっち側にもヒャダルコ」
もっと驚かせてやろう。
これで、こそこそ逃げるスライムに気づくこともないだろう。
「伝説の呪文を使えるなんて… お前、『精霊に選ばれた者』か!?」
ヒャダルコって伝説の呪文なのか? 精霊に選ばれた者というのはなんとなくわかるが…
「話は後で。 今はこいつらを倒しましょう。」
「ふっ そうだな!」
おりゃあああっと群れに突っ込む変態。
もしかして、こいつは浄化されたマナを取り込んでレベルアップできる体質なんだろうか?
モンスターの攻撃を受けても、たいしたダメージではないみたいだしなぁ…
「ふん!」
フォークで芋虫の頭を貫く。
戦士レベル15の力に魔法使いレベル20の力が上乗せされているからか、魔法無しでもそれなりにやれる。
もっとも、ヒャダルコで敵を分断したからこそ1対1の状況にできるのだけれど。
20分ほどで戦いは終わった。
「ちっ 穢れが酷い。 そろそろあの野郎のとこに行かないと…」
「穢れ?」
「ああ、早いとこ王に浄化してもらおう。」
なんだ、経験値のことか。 って!
「王に浄化してもらうって事は、ロマルアは無事なのか?」
覆面のせいで表情が見えないが、その覆面がわずかに縦に動いたと言うことは無事なのだろう。
「そうか、お前はアーリハーンの精霊に呼ばれたばかりなのだな?」
「おう。」
アーリハーンの精霊ってルヴィスの事だよな?
拉致されてから10日以上過ぎているが、そういう事にしておこう。
でも、精霊の居場所は基本的に人間に知られちゃいけないんじゃなかったのか?
ロマルアに辿り付けた先輩達が自分達の事を説明する時に話したか?
もしかして、『精霊に選ばれた者』って他称じゃないくて、自称だったりするんだろうか? だとしたら痛すぎるんだが…
「ならばロマルアに案内してやろう。」
「頼む。」
「俺の名はカンタダ。 生まれた時に魔物と戦う力を精霊に与えられた者だ。」
「カンタ?」
「カンタダだ!」
「カンタダ? 微妙に言い難いな…」
生まれた時に魔物と戦う力を精霊に与えられたというのは、レベルアップできる体質の事か?
いやまて、そんな事より… こいつ今、自分のカンタダと名乗ったよな?
もしかしてカンダタなのか? 王様の宝を盗んだりしているのか? でも、浄化してもらうって事は…?
気になるけど、「昔、盗賊していました?」なんて聞けないしないなぁ…
二時間ほどで高さ3メートル程の土と石でできた塀が見えてきた。 …しょぼい。
「あれがロマルア…」
「あれはアーリハーンとレバの村の連中が来てから作られた外塀だ! ロマルアの城壁はもっと大きい石造りだ!!」
さっきまで穏やかに話していたのに怒鳴り声を出す。
ロマルアの事を馬鹿にされたと思ってしまったかな?
「ですよねー。」
「あれでも効果はあるんだぞ。 スライムなどの小型の魔物は飛び越せないし、人間サイズの魔物も目の前で塀を乗り越えたりしない限り中に入ってこないんだ。」
「大型の魔物は?」
「やつらはコレの5倍の高さの石塀でも簡単に壊せるからなぁ…」
「そうなんだ…」
こえぇ…
そんな話をしながらさらに一時間歩いて、やっと門に着いた。
「おお! アーリハーンよりも大きい塀と門だ。」
「そうだろう? ロマルアの守りはアーリハーンよりも優れているのだ。」
すごいだろうと自慢するカンタダを半分無視して門をくぐると、頭の中でスイッチのような物が押されたような感じがした。
この感覚が、この場所にルーラで移動できるようになったという事なんだなと、何故か『理解できた』。
「カンタダ。」
「ん? なんだ?」
「ロマルアは無事だったとアーリハーンの精霊に教えてくるから、三時間ほど待っていてくれ」
王様に会うまでにこれまで歩いて稼いだ分とさっき大量に獲得した経験値でレベルアップしたい。
「今から戻るのか? アーリハーンまで五日はかかるだろう? 王に浄化してもらってからのほうがいいんじゃないか?
って、三時間!?」
「ルーラなら数分でアーリハーンに着くし、精霊と色々話したい事もあるし」
「ルーラだと!?」
「ルーラがどうした?」
なんだ?
俺がヒャダルコを使えるのを知っているだろうに…
「そうか、お前はヒャダルコを使えたのだからルーラも使えて当然か…」
「ああ、それじゃあ、三時間くらいしたら戻ってくる。」
「わかった。 アーリハーンで浄化を続ける精霊様に、我らの国ロマルアが健在であると伝えてくれ。」
「あ、ああ… それじゃあ行ってくる。 ルーラ」
もしかして、アーリハーンに誰も帰ってこない理由は、ルヴィスのしている浄化作業の邪魔をしない為だったりするのか?
そんな事を考えながらアーリハーンに帰った。
――――――――――
「なるほどねぇ…」
「誰もここに戻ってこないわけだよなぁ?」
「レベルアップの事を知らなくても、聞きたい事ができたら聞きに来てもよさそうだとは思っていたけど…」
レベルアップしながらそんな話をする。
「で、カンタダみたいに体質のあるやつはいいとして、魔法使いと僧侶を1人2人、レベルアップさせに連れてきても良いか?」
「それは駄目よ。」
なんでだ?
「本当はこの世界の人達全員をレベルアップさせたいけど…」
「うん?」
「そうするとヴァラモスを倒した後で人間が暴走するかもしれないでしょ?」
ああ、なるほど…
「それが、他の世界の人間を拉致した理由なのか?」
「そうよ?」
言ってなかったっけ?という顔をグァシッっと右手で掴む。 そう、アイアンクローだ。
「ぐぅっ!?」
「拉致した時に、そういう事をきちんと説明していたら、レベルアップやその他もろもろの説明も出来ていたんじゃないのか?」
「ぎ、ギバデデヴィデヴァ」(い、言われてみれば)
「本当… しっかりしてくれよ、精霊様よぅ…」
「ズヴィバゼン」(すいません)
アイアンクローをしながら、予想通り三時間ほどでレベルアップが終わった。
「まあ、精霊の邪魔をしたいと思う奴はいないって事がわかっただけでも良いとするさ。」
「うぅ… 頭全体がジンジンするよぅ…」
それは良かったな?
「で、今回の成果は?」
「んと、レベルが22になって新しくバイキルトの呪文が備わったわ。」
「バイキルト…」
「攻撃能力大幅アップね。」
カンタダにでも使ってみるか?
「あの子に使って攻撃力を上げてみたら?」
「うん?」
なんでスライム?
「モンスターはバイキルトやスカラの様な呪文の効果が長続きするの。」
「ほう。」
「だから、呪文で強化して強くしたらスライムでも戦力になると思う。」
「それで?」
「あなたが町にいる間にあの子が経験値を溜めて、街から出たらおいしく頂けば?って事よ。」
「なるほど!」
それができれば僧侶になるまでの時間がかなり縮まる。
「それで、レバの村の東側のモンスターを倒してくれれば一石二鳥なのよ。」
「それは駄目だ。」
「なんで!?」
「俺が居ない間にお前がどっか行ったら困る。」
「え? そ、それって…」
島の浄化が終わったら別の場所を浄化しに行くらしいからなぁ…
「妖精の村と世界樹の精霊が俺に協力してくれるまではここに居てもらわないと…」
「ぶー。」
この馬鹿は俺の世界でどんな文化に染まったんだか…
「スライムには他の場所で頑張って貰う事にする。」
「ぶー。」
「カンタダを余り待たせるのも悪いから、ささっと記録してくれ。」
「ぶー。」
「記録してくれ。」
「わかりました。 します。 しますからどうか顔から手を離してください。」
「記録してくれ。」
「うう… 冒険の書に記録しますか?」
「ああ。」
「冒険の書に記録しました。 だから手を離して…」
090922/初投稿
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