記録した後、ルーラでロマルアに飛んだら門の外に着いた。
そういえば、レバの村に飛んだ時も、村の入り口が着地地点だったな。
この世界は変なところがゲームと同じで、時々イラっとする。
「待たせたな!って… いない?」
それはそれとして、カンタダを待たせては悪いと門を通って叫んでみたら、そのカンタダがいなかった。
「ふぅむ…」
門から、おそらく城へと続く道の先に、城壁より少し上くらいの高さで赤と黄色の大きな旗が風に吹かれている。
「ずいぶんと眼に悪そうな柄の旗だなぁ。」
あれがロマルアの国旗なのか?
国旗なら派手でもおかしくはないかもしれない。 でも、モンスターに見られないか?
そんな事を考えていると、複数の視線を感じた。
ぐるりと辺りを見回すと、白い長袖長ズボンを着ている疲れた顔の男が数人、こっちを見ている。
服の上から鎖かたびらを着けている奴もいる。
なるほど、肌に直接鎖かたびらつけたら痛いだろうからなぁ…
ロマルアの兵は全員パンツに長靴の覆面マントだと思っていたが、ただ単にカンタダが変態だったという事か。
「待っていたぞ!」
噂をすればなんとやら、カンタダが兵達の宿舎と思われる建物から出てきた。
「それでは、城へ案内しよ… ん?」
「なんだ?」
「穢れが浄化されている?」
変態なのにそんな事がわかるの ああ
レバの村からロマルアまで歩いて、途中のモンスターもできるだけ倒していたから、体が黒くなっていたのかもしれない。
「精霊に浄化してもらった。」
「ああ、お前達は精霊に浄化してもらえるのだったな。」
ん?
ルヴィスの話だと、精霊は基本的に不可侵な存在なんじゃないのか?
だと言うのに、『俺が精霊に浄化してもらえる』という事をあっさり受け入れすぎていないか? それに…
「お前達?」
「ああ、お前達『精霊に選ばれた者』の特権なのだろう?」
「…ああ。」
そうか。
おそらく、ダァマにいる先輩達の誰か、もしくは全員がルヴィス以外の精霊と接触しているのだろう。
距離で考えるとエルフの村が近いか?
でも、ダァマを拠点にしていそうだし… どういう事だ?
「だいたい十日に一度、お前の仲間が飛んでくるからそれまでロマルアにいるといい。」
「飛んでくる?」
キメラの翼はもうないんじゃないのか?
ルーラが使えればレバの村で13人を救出できたはずだ。
そもそも、ルーラを使えると言ったらめちゃくちゃ驚いていたじゃないk ああ!
「『日の光に当たると空が飛べる』人か?」
「うむ。 立派な方だ。」
「立派?」
「外塀を覚えているか? あれは、あのお方のルカニとニフラムによって安全を確保できたからこそ、あれだけ広い範囲を囲えたのだ。」
空を飛べる人は僧侶なのか。
そして、外塀から城壁まで一時間歩いた事を考えると、結構な範囲を塀で囲って土地を確保したのも事実だろう。
でも
「ニフラムとルカニで安全確保?」
「そうだ。 ルカニで脆くなった魔物を我ら戦士が攻撃して、弱ったのや死骸から出る穢れをニフラムで浄化するのだ。」
「なるほど。」
ふむ。 弱ったモンスターはニフラムで止めを刺せるのか。 …経験値は溜まりそうに無いけど。
空を飛ぶ仲間は頭脳明晰で回復もできる。 これは、期待しても良さそうだな。
そんな話をしながら、てくてくと城に向かって歩く。
アーリハーンは門を通ってすぐに城が見えたがロマルアではそうではな 見えた。
城はアーリハーンと同じ二階建てか。 どの国でも城は二階建てなのかな?
そういえば、ゲームにはナジミの塔があったけど、アーリハーンの周辺に塔はなかったな… もしかして、この世界には高い建物がないんだろうか?
おや?
さっきから見えていた赤と黄色の旗は城の屋上に立っているんだな。 何の意味があるのかわからんが。
高い建物とあの旗の事… カンタダに聞いてみるか? それとも空飛べる人に聞いてみるか? ちょっと悩む。
「我らの城は他国と比べて門から少し遠いのが欠点だったが、魔物が溢れる今の世ではそれによって王の安全が確保されている。」
へえ、城が門から離れているのは欠点だったのか。
でも、多少不便でも浄化の事を考えると王の安全を確保するほうがいいと思うぞ?
「城の上に赤と黄色の旗が見えているだろう? お前の仲間はあれを目印にしてロマルアに来るのだ。」
「魔物に狙われないのか?」
「最初は俺もそう思ったが、あの高さだと、塀の向こう側からは見えないんだ。 あれ以上高くても低くても上手くいかないらしい。」
遠くから良く見えるように赤と黄色、城が塀から離れているから、塀の向こうからは旗は見えない。
「なるほど。 悪趣味な旗だと思ったが、あれでも結構色々考えてあるんだな。」
「うむ。 色々と考えてあるのだ。」
でも、あんな旗を選んだのが俺と同郷だと思うと悲しくなる。
さらに歩いて、気がついたら城内で玉座の前。
不思議な事に、その玉座には誰も座っていなかった。
「王様は透明人間だったのか…」
流石ファンタジーな世界。 俺の想像の斜め上を行く展開だ。
「そんなわけがあるか!」
カンタダはそう叫ぶと玉座の側に立っていた高そうな服を着ている男に怒鳴りつけた。
ちょっとした冗談なのに… やっぱり堅物キャラなのか?
「何で王がいねーんだ!? 精霊に選ばれた者が来ると連絡が来たはずだろうが!!」
「カンタダ殿! 落ちついてください!」
「落ち着けるか! 穢れを浄化しないと気持ち悪いんだよ!」
ぶっちゃけた!
俺よりも浄化の方が大事だとぶっちゃけやがった!
「王は今、北門で浄化をしております!」
「まだ北門にいるのか? 俺が南の敵を片付けてどれだけ経っていると…」
おそらく大臣だろうと思われる人に怒鳴り散らすカンタダ。
もしかして、ロマルアって南側をこの変態1人に守らせているのか?
…違うか、疲れた顔の兵士も数人いたな? それでも少人数過ぎる気がする。
「くそっ 俺も北に行く! さっさと片付けて浄化させる!!」
「俺も行こう。」
北にもいけるのか… どういう立場なんだカンタダ?
疑問は残るがそれはそれとして、王の浄化ってどんなのか見てみたいのでついていく事にする。
「ありがたい。 伝説の魔法があれば怖いもの無しだ!」
マホトーンには弱いけどね。
「できれば武器と防具が欲しいのだけど?」
「む? 魔法使いなのに武器が要るのか?」
「強力な魔法を近距離で破裂させてもいいのか?」
「それは困るが… 扱えるのか?」
「そこはかとなく。」
「そ、そこはか?」
何を言っているのかわからないだろうが、俺もよくわからない。 そこはかとなくってなんだ?
カンタダは装備を着るのに時間がかかるだろうからと言って、先に北に向かった。 せっかちな人である。
そして俺の言葉に困惑しながらも、大臣っぽい人が鎖かたびらと鋼鉄の剣を持ってきてくれた。
「思ったよりも軽いな。」
「そうなのですか? 兵の中には鎖かたびらさえも重たいと言って皮の鎧を着る者すらいるというのに…」
「そうなの?」
戦士レベル15が効いているのかもしれない。 それとも筋肉の質を改造した成果か?
「それじゃあ、行ってくる。」
鎖かたびらを着るのにかなり時間がかかってしまったので、少し慌てて北門に向かう。
30分ほど走ると、学校の運動会とかで使うような物のよりもさらに安っぽい感じのテントが見えた。
ホイミホイミと聞こえると言う事は、僧侶が兵隊達を癒しているのだろう。
このテントを一つ一つ探せばすぐに王が見つかるだろうが…
「思ったよりも苦戦しているみたいだし、戦闘に加わったほうがいいな。」
そう判断して、俺は門から出て外塀、戦場に向かう。
――――――――――
「メラ メラ」
「メラ メラ」
「メラ メラ」
外塀を出ると100人ほどの兵隊がその倍以上のモンスターと戦っていた。
…3人1組の魔法使い達が外塀の上に立ってメラを連発している姿はなかなか愉快だ。
「メラミ」
どおん!!
掌から出たが炎の玉が、メラの届かない場所にいるモンスターを焼く。
「おお! なんという炎だ!!」
魔法使いや戦士が驚いているが、そんな事よりも戦おうよ?
「カンタダはどこだ?」
「カンタダ様はあちらで1人、最前線を支えています。」
「へえ…」
1人で最前線ねぇ…
前の俺なら褒めているところだが、無理をした結果仲間を失くした今の俺には無謀としか思えない。 …記憶は無いが。
「本来なら魔法使いの援護をつけるところなのですが、魔物の数が多すぎて」
「わかった。 俺が行くからお前達はそこで無駄な怪我をしないように頑張ってくれ。」
「よろしくお願いします。」
「ヒャダルコ」
「ヒャダルコ」
「ヒャダルコ」
カンタダと初めて会った時と同じように、ダメージを与えながら分断する。
「おお! よく来てくれた。」
「すまん、鎖かたびらを着るのに手間取って思ったよりも遅れてしまった。」
「気にするな。 それよりも奥の魔物どもにベギラマを。」
「わかった!」
無事にカンタダと合流、バイキルトとスカラを自分とカンタダにかけて、コンビで最前線を切り開いていく。
「はっ! やっ! ていっ!」
ざしゅっ! ざく! ざん!
「いいぞ! いい! 鋼鉄の剣! 素晴らしい!」
蛙や芋虫、足が腐って動きの鈍い犬ゾンビをばっさばっさと切り裂ける。
さほどダメージを与えない薙ぎ払いや、ダメージを与えても次の攻撃に繋げられない突き刺ししかできないフォークと違って、次から次へと攻撃できるなんて… 素晴らしいぞ、鋼鉄の剣!!
バイキルトの効果もあるのだろうが、それを差し引いても扱いやすい!
「ヒャダルコ」
もちろん、魔法を使うのも忘れない。
ベギラマだと燃えた敵に体当たりされる間抜けな兵士がいるのでヒャダルコを使う。 …ヒャダルコ連発って、MPの消費が結構厳しい。
それと… 凍って動けなくなったモンスターに鉄の槍で止めを刺すのはいいけど、それで勝ち誇った顔をするのもどうかと思うぞ? 兵隊さん。
「これで終わりだ!」
カンタダの斧が最後の1匹に止めを刺して戦闘は終わった。
モンスターの遺骸から出る経験値がもったいない。
それに、さっき浄化しないと気持ち悪いと言っていたよな? なら
「穢れは俺が引き受ける。 精霊に浄化してもらえば王の負担にはならないからな。」
「わかった。 浄化が終わったら城に来てくれ。」
俺の言葉に、カンタダは兵達と共に帰っていった。
これだけの経験値、浄化が終わるのは深夜になりそうだから… ロマルア城に行く前にスライムと話し合っておくのもいいかもしれない。
浄化に時間がかかったと言えば信じるだろう。
090925/初投稿
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