GS日記 第9巻 友 何も無い荒れ果てた地。 かつてここには、白龍会と呼ばれるGS組織が建てた寺が在った。 それも今は昔。 魔族メドーサの陰謀に関わったとして、GS協会から免許取り消し処分を受け、その後再建される事もなく、ただ荒れ果てた地となった。 そんな地に、50年ぶりに立つ2人の男。 一人は小柄な老人。 髪は真っ白なれど、背中はピンと真っ直ぐ。 そして猛禽の様な鋭い目。 一人は魔族。 額から鬼のような角を2本生やし、口からは牙を出す。 されど目つきはどこか優しく、懐かしさと郷愁で溢れていた。 「お久しぶりね、雪之丞」「本当にな、勘九郎」 2人は短く言葉を交わす。 そこには敵意や嫌悪など、一切無く。 ただ懐かしい旧友に会った、そして言葉を交わしている、ただそれだけ。「捜してたんだぜ、ずっとな。電話すっからって言ったろ?」「ええ、そうね、そうだったわね……」 勘九郎は空を見上げる。 気持ち良い位の満月が見える。 それは魔族である彼にとって、実に都合が良い環境。 月には魔力が溢れ、満月の夜に彼の様な存在は、能力の底上げが行われるから。「自信が無かったのよ、あんたに勝つ。 何もかも捨てて、それでも強さを求めたって言うのに、 私が復活したあの時、あんたに赤子の手を捻るみたいにあっさり倒されちゃったじゃない。 だからよ、悔しくて悔しくて、ずーっと修行してたのよ」 勘九郎は両手を天に向けると、一気に力を解放する。 ブワッと放出される魔力。 勘九郎の魔力に中てられ、ゴゴゴゴッと大地が揺れる。 揺れが頂点に達したその時、勘九郎を中心として放出されていた魔力が収束し、彼は天に向けていた両手を下ろし構えを取る。 大地の揺れが止まり、辺りは静寂と化す。 だが、勘九郎から発せられる威圧感は凄まじく、その威容は修練を積んだ者のみが辿り着く極み。 それを見た雪之丞も「へっ、やるじゃねーか」と呟くと、先程の勘九郎と同じように自らの力を具現化させた。 魔装術。 それは自らを一時的に魔物に変え、人間以上の力を発揮させる禁術。 だが雪之丞のそれは違う。 魔物に変えるのでは無く、潜在能力を意思でコントロールして引き出す魔装術の極み。 霊気を完全に収束させ、自らの鎧と化す。 そして勘九郎の前に立つと、同じように構えた。 勘九郎と何処か似通った、いや、まったく同じ武の構え。 一人は魔装と元始風水盤の力で魔物となり、人を超える力を得た。 一人は魔装を極め、人としての限界を超えた。 同門で始まりは一緒だった。 でも、途中から違う道を歩んだ二人の、最後の戦いが始まる。「「ウオオオオオオオォッ!!」」 ダンッ、ダンッ、ダダダダダダダダダダダンンンッ!! 2人が咆哮すると同時に、互いの拳を連打で打ち合う。 速度は雪之丞が僅かに勝り、力は勘九郎が圧倒する。 「やっぱり強いわね、雪之丞」「てめえもな」 言いながら雪之丞は勘九郎に突撃する。 それは無謀な行為。 勘九郎は当然、迎撃の拳打を連打する。 しかし雪之丞は常人ではない。 動きの速さと身体の軽さ、そして何より、圧倒的強者との闘いの経験が勘九郎に比べ遥かに勝る。 雪之丞に殺され、復活した後は圧倒され、その後は只管修練に励んだとは言え、技術は上がっても経験は上がらない。 様々な経験値が、圧倒的なほど雪之丞に劣るのだ、勘九郎は。 最初の拳撃を軽く円を描くようにかわし前へ。 2撃目は自らの拳を使って攻撃を横に流し、更に一歩前進し。 3撃目を放つ前に逆に此方から牽制の一撃を放ちつつ、更に前進。 最後に残りの拳打を、人間離れした度胸と体術で、紙一重でかわしながら勘九郎の懐深く入り込む。 瞬間、死地だと言うのに、二人は目を合わせニヤリと笑いあう。 そして勘九郎の腹部に手を当てると、雪之丞は持てる最大の力で霊波砲を撃ち放った。 腹部に大穴を開け、仰向けで倒れる勘九郎。 雪之丞は荒く息を吐きながら、「オイ、まだあるんだろ、奥の手が。さっさと出せよ。でねーと、俺がこれ以上闘えんくなる」 そしてそのままドカッと座り込んだ。「アンタの勝ちで良いわよ。」 のそっと立ち上がると、勘九郎はすっきりとした表情を浮かべそう言った。 勘九郎の腹部は既に完全に無傷な状態まで修復し、一方、雪之丞は息を切らし、体力の限界が近い。 傍から見ると、勝者は勘九郎にしか見えない。 それでも自分が負けたのだと、勘九郎は思った。 自分がここ数年、必死の思いで手にした力。 それを使えば雪之丞に圧倒できる。 それでも、彼は自分の負けだと思ったのだ。 今、ようやく気づいた。雪之丞が、あの雪之丞が、ただの老人になっていた事に…… そんな老いさばらえた身体で、自分に一撃を入れてきた。 その一撃は、魔族に堕ちていなければ、確実に自分の命を奪っていた筈だ。 人はここまで強くなれるのね…… 勘九郎はそう思うと、今の自分が情けなく感じてくる。 やっとの思いで手にしたこの力も、酷く醜く霞んで見えた。 もし、もしもあの時、雪之丞の手を取っていたら……「なーにバカな事を考えてやがる。どんな手段で手にしようと、お前の力に変わりはねーよ」 そう言うと雪之丞は、魔装術を解く。 そこから現れるのは、白髪が目立つ老い衰えた老人。 そして老人は再び魔族に向かい、ゆっくりと戦闘体勢を取った。「……死にたいの、あんた?」 「舐めてんのか? 死ぬのは勘九郎、お前だ」 目の前にいるのは唯の老人。 既に霊力も残り僅か、力も覇気も感じない。 それでも勘九郎は、一歩後ろに後ずさる自分に気づいた。 私が恐怖を感じているの? 勘九郎はその事実に驚愕し、そして歓喜する。 それは雪之丞が放つ魂の輝きだから。「ごめんなさいね、雪之丞。私が間違っていたわ」 勘九郎は雪之丞に謝ると、異空間から宝珠を取り出す。 それは、彼がここ数年取り組んできた努力の結晶。 最初は九尾。 これは怨念を取り出す前に逃げられた。 次は崇徳。 封印を施し、力を弱らせ、さあ喰らおうとしたその時、たまたま訪れた美神一行に驚き制御に失敗。 逃げられ、暴れられた上に、美神一行に滅ぼされてしまった。 そして最後に酒呑。 源頼光に騙まし討ちにあった憎悪と怨念。 その全てをこの宝珠に集めた。 最後のチャンスと、慎重に事を運び、ようやく成功した力の塊。 それを頭上に掲げると、ゴクッと丸呑みする。 途端、彼を中心に風が吹き荒ぶ。「ウオオオオオォォォォンンンッッ!!」 咆哮を上げる勘九郎。 彼を中心に吹き荒ぶ風は、ギリギリ残っていた木や岩を吹き飛ばす。 その嵐の近くに在りながら、何事も無いように佇む雪之丞。 それどころか、楽しそうに勘九郎を見つめる。 ワクワクして落ち着きの無い子供のように。 そして次の瞬間、彼を中心に舞っていた魔力が、妖気が、怨念が、彼の体に纏い始める。 収束し、そして、彼の体を覆う鎧となった。 その鎧は彼の体の一部となって、禍々しい力を放っているのが雪之丞には解った。 禍々しく見えるその力を、勘九郎はかつて魔族に堕ちた時とは違い、自分を見失う事無く完全に制御してみせる。「待たせたわね、雪之丞」 勘九郎はそう言うと、ブオンと轟音を立て、拳打を雪之丞目掛けて打ち放った。 それを大げさなまでの横っ飛びでかわす。 今まで雪之丞がいた空間がドグオオオオォォォンッという爆音と共に爆ぜる。「ヒューッ!」 雪之丞が感嘆の口笛を吹く。 ニヤリと笑うと、「これなら本気で行っても問題ねーな」 と嘯いた。「言い残す言葉はある? 遺言があるならキチンと届けるわよ?」 それは勘九郎の冗談めいた挑発。 だが、雪之丞はニヤニヤしていた顔を引き締めると、「ねーよ。妻には、ここに来る前に伝えてあるからな」 雪之丞はそこまで言ってから、ふと気づいた。 言わなければならない言葉を、言ってなかった事に。「……いや、あったぜ。俺には弟子がいる。 神楽坂明日菜、その娘に伝えてくれ、強くなれってな」 言い終わると同時、最初の時の様に勘九郎に突撃する。 最初と違うのは、雪之丞が魔装術を使っていないこと。 そのせいなのか、圧倒的なまでにスピードが遅いこと。 そして何より、勘九郎の存在自体が圧倒的になっていること。 先の時と違い、勘九郎の攻撃をかわしきれず、老いた体に無数の拳打が叩き込まれる。 だが、雪之丞は全身の骨を砕かれながらも前へ進んでいく。 そして、右目を潰し、左腕を付け根から吹き飛ばされようと、ただ勘九郎の懐深く目指して突進した。 本来ならば、勘九郎の一撃が体に叩き込まれた時点で勝負はついたはず。 なのに、雪之丞は止まらない。 そして遂に、彼は勘九郎の懐に入る。 右手に全ての力を込める。 彼の人生、全てを詰め込んだ一撃を、勘九郎にぶち込む為に。 右の手が光に包まれ、収束し右手を覆う小手となる。 それは魔装。だが、見る者が見れば解る。 ハンズ・オブ・グローリー 彼の親友であり、ライバルでもある男の霊能。 それを魔装で模した技だと。 だが、本家であるソレよりも、凄まじい程の威圧。 込められた力だけでも、横島のソレの数倍はある。 それは雪之丞の取っておき。 何時か来るであろう、横島との対戦の為の奥の手。 名づけて、魔装拳。 何の捻りもない、だが横島の親友らしい安直なネーミング。 それが、勘九郎に向って放たれた。 ズガガガアアアァァァンッ!! 雪之丞の全てを注ぎ込んだ魔装拳での一撃。 それは、勘九郎の首から下を、全て吹き飛ばす。 そして、残った首もバサァーっと音を立てながら、砂となり四散した。「俺の、負けだな……」 ポツリと雪之丞が言葉をこぼした。「ええ、そうね……」 何処からともなく、勘九郎の声が響いてきた。 雪之丞はそれを不思議と思わず、最後の時を待つ。 左の腕があった場所からは絶え間なく血が噴出し、顔や体を自らの血で濡らし、大地を赤黒く染め上げた。 息も切れ、体力も切れ、そして霊力すらも残されてはいない。 雪之丞の眼前で風が舞い上がる。 砂となり、塵と化した勘九郎のソレが一点に集まり、そして黒い炎を上げて具現化する。 新しき魔族、修羅に堕ちた怨霊勘九郎が生まれた瞬間。 下級魔族としての肉体が滅び、新たに精神体となって蘇ったその威容は、魔族メドーサに勝るとも劣らない。 体躯は2メートル半ば。髪は燃え上がる様な赤。体は暗黒の炎に怨霊の鎧。 両目は青く光るサファイア。右手に巨大な斬馬刀。その存在に酒呑の怨念。 そして、勘九郎自身の魂。「そろそろ、楽にしてあげるわ」「すまねえな……。ああ、顔は汚すなよ? 妻が、かおりが怒るからな」「何よぉ、あんた。尻に敷かれてるの?」「うっせーよ、男はみんなそーなんだよっ!!」 殺し合い、これから殺し殺されるとは思えないほど、優しい空気が2人の間を流れた。 憎しみ合って戦りあった訳ではないのだから。 2人は戦わずにいられなかった。 そして雪之丞は、戦いの中で死ぬ事を選んでしまったから。 体の調子が悪くなり、息子に病院へと連れて行かれた。 そこで、死病に冒されていると告げられた。 妻に子、孫や曾孫に囲まれた、そんな温かい場所で死ぬのかと、どこか憮然とした思いになった。 幼い頃に母を亡くし、孤独で育った自分には夢のような場所なのに。 そんな時、勘九郎から連絡があった。 一人で行けば死ぬ。そう自分の霊感が囁く。 悩んだ、かおりにプロポーズする時以上に悩んだ。 結局、子供達に囲まれて静かに終わろう、そう思い、行くのを止めようとした。 だが、「さっさと行きなさい。あなたが何をしたいのか、よーく分かっておりますわ」 そう言いながら、俺の外着を用意して待っていてくれた。「一足先にお逝きなさい。わたくしも、玄孫の顔を見て、それからその気になったら逝きますわ」 自分は、ずっと戦いたかったのだ。 魂が尽きる最後の時まで戦いたかったのだ。 そう気づかされた。「じゃあね、雪之丞」「ああ、じゃあな、カマ野郎」 ズブリと自分の体を、勘九郎の貫き手が貫いたのが分かる。 意識が遠のいていく。 段々と昔の光景が瞼に写る。 ああ、これが走馬灯ってやつかよ…… 何処か冷静な部分が判断するも、その光景から目を放せない。 もっとも自分が熱かったあの時、その夢を見る。 そして最後に……「……よ……ま……ート……ゃく…ける……ぞ……………………り……………………ママ……」「ぷっ、何よあんた。まだ、マザコン治ってなかったの?」 勘九郎は笑う。笑いながら泣く。 そして雪之丞の全身にこびり付いた血を拭い、まるで宝物でも運ぶ様に雪之丞を持ち上げる。 すると彼の身体の中から光る球体が、少しづつ天に向って浮かび上がってきた。 それは彼の魂。 雪之丞程の男の魂、それを喰らえば魔族であり、鬼であり、怨霊でもある勘九郎はどれほど強くなるだろう。 しかし、「お行きなさいな、雪之丞。また、会いましょう……」 勘九郎の言葉に答えてなのかどうかは分からない。 それでも勘九郎の言葉に応えたかのように、彼の魂はゆっくりと天に向かい飛んでいく。 勘九郎はもう一度小さく「さようなら、雪之丞」 天にむかって囁き、冷たくなった彼の身体に、 「あんたの帰りたい場所へ連れてってあげるわ」 優しく語りかけながら空を飛んだ。 目指すは彼の愛する者たちがいる場所。 今も彼を待っているだろう、家族の場所へ。 アスナの心地いい身体の重みを感じながら、幸せにまどろんでいたその時、急に悪寒が走った。 それは覚えのある感覚。 かつて、アシュタロスに美神さんの魂を奪われた時にも感じた霊感。 何故かは解らない。 だが、思わず口にしたその名前。「雪之丞?」 俺は逸る気持ちを抑えながら、アスナを起さぬ様にソファから身を起す。 脱ぎ捨ててあった衣服を身に着けると、アスナに毛布を掛け、霊感の赴くままに外に出ようとした。 と、その時、ピピピと鳴る携帯のコール。 発信者の名前は、雪之丞。 俺は急いで電話に出る。 だが聞こえてきた声は、雪之丞の声ではなく、年老いた女の声。 彼の妻、弓かおり。 不吉な予感に背筋がゾゾッと怖気走る。「雪之丞が逝きました。あの人から貴方に宛てた遺言がありますの。 夜分遅くで申し訳ないのですが、至急こちらへ来て頂けませんこと? 明日菜ちゃんも連れて……。 あの子に、会わせたい方がいらっしゃいますんで」 体から力が抜けて行くのが分かる。 俺は弓さんに了解した旨を伝えると、携帯を切って呆然と佇む。「忠夫、どうしたの?」 起しちまったか……、いやどうせ起さなきゃならんのだから、ちょうど良いか……。 俺はそう考えると、アスナの方を振り向く。 今の俺は、ひっでー顔してんだろうな。 そう思いながら、アスナに向って言葉を搾り出した。「雪之丞が死んだ」 何を言われたのか、初めは分からなかったんだろう。 一瞬、んっ?とした表情を浮かべて、それから真っ青になる。 この子は雪之丞の事を慕っていたからな。 そう思いながらも、俺はアスナを急かす。「制服かなんかにスグ着替えろ。アイツが待ってる」 俺はそれだけアスナに伝えると、大声を出して愛子を呼ぶ。 最低限の身だしなみを急いでつけなければ。 眠りこけている者たちを全員叩き起こすと、俺は愛子に手伝って貰いながら一張羅に着替える。 そしてアスナを抱きかかえると、一気に雪之丞の住んでいる所まで『転/移』した。 何時かはこんな日が来るのは解っていた。 いや、解っているつもりだった。 こうやって一人、また一人と居なくなっていくんだな。 そして俺は死んでしまった雪之丞と対面する。 ……すっげー、良い笑顔なんだが? なんか、満足したーって言うか、腹一杯メシ喰って幸せだーっ! そんな顔。 あんまり良い笑顔なもんで、頬をピクピクと痙攣させてしまう。 場に相応しくないんで、突っ込むのは全力で我慢しているが、ツッコミてー!! なんでそんなに嬉しそうなんだよっ!! しかも、しかもだ、明らかに魔族、それも中級以上の魔族と談笑している雪之丞の家族。 あーーっ、ツッコミてーーーーーーっ!! いや、だってよ、そいつからは血の匂いがプンプンしやがる。 雪之丞の死因は聞いてねーけど、無数の裂傷に砕かれている全身の骨、失われている左腕、間違いなく殺されたんだろう。 今、そこにいる魔族に。 ツッコムのを全壊で我慢しながら、ピートが来るのを待つ。 やがて来たピートが雪之丞に手を合わせると、俺と同じに何かを堪える様に、頬を引き攣らせる。 そして俺の方をチラッと見ると小声で「横島さんの仕事ですよ。ほらっ、早くっ!!」と急かしてくる。 そんな俺たちを見て、弓さんがクスクスと笑いながら手紙を差し出す。 俺と、そしてピート宛の2通。 さっきまでの軽い気分が一気に落ちる。 自然と神妙な表情になり、二人同時に手紙を開く。 バーカ 思わずグシャッと握り潰したくなるのを必死で堪えた。 横を見ると、ピートも矢張り同じようにピクピクと顔を引き攣らせている。 気を静めるため、二人同時に大きく深呼吸。 そして意を決して2枚目を開く。 もしこれでアーホだったら暴れてやろう、そう思いながら。 まあ、アホでは無かったが、2枚目も大した内容ではなかった。 次会った時には決着をつけよう。 間違いなく勝つのは俺だけどな。 そんな事が原稿用紙一枚分も書かれていた。 ピートのも似たような内容だったのだろう。 苦笑しているのが分かる。「また会おう、だそうですよ、横島さん」「ああ、気ぃ使わせちまったようだな、まったく……」「ええ、本当に。いい加減でガサツなヤツだったと思ってたんですけどね。 人間は、本当に成長するのが速い。そして、……置いて逝ってしまうんです」 ピートのその言葉は、俺に向けてなのか、自分に向けたものなのか。 はっきりとは分からない。 だが……、「ああ、本当にな……。 だがな、俺は元々は人間だっつーの!! まるで最初っから人外だったみたいな言い方すんなやっ!?」 その後、殴り合いの喧嘩に発展した俺達を、実に楽しそうに、それどころか参加したそうな顔をしている雪之丞の子供達を見て、アイツの血が確実に受け継がれているんだと思った。 普段の俺達なら絶対にしない殴り合い。 それは、雪之丞を送る俺達なりの儀式。 ボコボコのボロボロになった俺とピート、そしてアスナは、その後の通夜と葬式が終わるまで、雪之丞の家族同然の扱いを受けながらアイツの側に居続けた。 ピートなんて仕事全部ポイしてな。「ワッシだけ仲間ハズレなんて、酷いですジャーッ!」 なーんて言ってるどっかの馬鹿でかいジジイが居たが、それはまた別の話。 全てを終え、家路についた俺とアスナを待っていたのは、にこやかな『表情』を浮かべるマリア。「お帰りなさい・ませ。横島さん・アスナさん」 驚き、マリアの微笑みに見惚れた俺に抱きついて来る。「横島さん・愛してます。ドクター・カオスの984.5%好き」 愛の言葉を囁きつつ、俺を優しく抱きしめながらそっと唇を奪ってくる。 いつぞやのホレ薬の時の様な恐ろしげなものではなく、普通の人間がするみたいな、ただ甘いキス。 まるで血が通っているみたいに暖かい唇と舌先。 たっぷりと唇の感触を味わい、そしてそっと唇が離れると、互いの唇の間に架かる唾液で出来た銀の橋。 あの野郎、遂にやってくれたか!? カオスには終生の『友』の称号を贈呈しよう! さあ! 善は急げだ!!「じゃ、俺はもう休むから。おやすみアスナ、愛子、タマモ、シロ」 俺は皆におやすみと声を掛けると、ワクワクしながらマリアの腰に手をやり部屋へと戻った。 じとーっとした目で睨みつけてくるアスナと愛子を、意図的に無視しながら。 その後はたっぷりと一晩中マリアの初物の体を堪能しまくった。 それは素晴らしい性能だったとだけ言っておこう。 ただ……、 朝の目覚めで感じたのは、マリアの柔らかい体と体温、そして洒落にならん程の体重。 軽く数百キロはあるその重みに、俺は朝から瀕死の状態になった。 あっ、ダメ、潰れちゃう……、こ、小錦なんか、目じゃねぇ……グフォッ………… 後書き 勘九郎と雪之丞の別れのシーン。 あれはメフィストと高嶋のそれをイメージしてしまいました。 ちょっと失敗だったような…… あと、雪之丞の最後の一撃で、勘九郎の首から上を吹き飛ばす事が出来たら、勘九郎復活成らずでユッキーの勝ちでした。 おまけ ヨコアスR強者番付けGS編 小竜姫≧横島(何でも有り)=怨霊勘九郎>九尾狐>>>>雪之丞(25)≧横島(文珠無し)≧ピート≧雪之丞(老)>勘九郎>酒呑>タマモ>シロ>>崇徳>>美神≧アスナ じじいになってもYOKOSHIMA達と同等に戦える、それがウチのYUKINOJOU。 そして小竜姫とも互角に戦える、他のSS作品に無いと信じたい、ラスボスクラスのKANKUROU。 タマモが九尾の癖に今一っぽく見えるのは、横島たちが強すぎるのと、強くなる気があまり無い為。 美神が下にいるのはおばあちゃんだからです。 それでもアスナと同等以上。ってか美神って策略、戦術能力が高いんだと思う。 崇徳と酒呑は復活の際に、勘九郎による弱体化が行われています。 横島(何でも有り)が上にいるのは、タマモ達から得た霊力と文珠を無制限に使ったら、です。 ただし、一度それをやると弱体化します。 大体シロの辺りまで。 これらは正面から小細工無しで戦った場合です。 純粋な戦闘力です。 実際に戦ったら、簡単に引っ繰り返る可能性有り。