GS日記 第10巻 敗北 雪じいちゃんのご遺体がある道場を出て、私はご家族が談笑している別棟の居間にやってきた。 とは言っても、ここから道場の中は丸見えで、そんな訳で皆さん此方でお話してるんだろう。 とても怖い魔族と…… 私がかおりおばあちゃんに示された場所へ行くと、その魔族が私の所にやって来る。 目の前に居るのは巨大な存在。 さっきまで雪じいちゃんの家族と談笑していた魔族。 見上げる程のその体躯に、圧倒されそうになるのをグッと堪える。「貴女が神楽坂明日菜ちゃん? ふーん、この子が雪之丞の弟子ね……」 怖い。私はこの魔族が怖い。 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い…… 忠夫に助けを求めたい、そんな弱い心と戦いながら、私はこの魔族と対峙する。 もっとも、忠夫はピートさんと殴り合いの喧嘩してるみたいだけどね。「私に何の用よっ!」 気合を入れ、相手の雰囲気に負けないよう威勢良く話を切り出す。「雪之丞からの最後のお願いでね、貴女に遺言を届けに来たのよ」 もしかしてとは思ってたけど、この人オカマなの? 外見は男っぽいし、何より声がずぶとい。 ……魔族って皆こうなのかしらね? 思わず遠くを見てしまう私。 だけど魔族はそんな私なんて気にもしないで、話を続けた。「強くなれ、だそうよ。」「……雪じいちゃんの最後を看取ったの、アンタ?」「ええ、そうよ。だって、私が殺したんだもの」「はっ?」「私のこの右腕が、あの子の胸を刺し貫いたよ。ズブリってね」 えっ? だって、この魔族は雪じいちゃんの家族と、楽しそうに…… でも、確かにこの魔族からは血臭がしてくる。 さっき見た、雪じいちゃんの遺体。 凄く良い笑顔だった。 でも、顔や体には無数の裂傷。何より、左腕が無かった。 ザワリ……チリチリとした、何かが自分の中から競り上がってくる。 昔を思い出す。まだ、忠夫とこの世界に来る前の事を。 黒く、暗い感情が胸の奥から湧き出してくる。 ダメ、ダメだ。そんな感情に支配されてはダメだ! 私は自分に何度も言い聞かせる。 ダメだ、と……。憎しみに支配されるのはダメなんだと。 それでは、ガトーさんの言う幸せには、なれないんだって。 ギュっと手を握り締め、歯をギリギリと鳴らしながら、私は黒く暗い感情を必死で抑えた。 何より、私なんかより憎む権利があるご家族が平然としているんだ。 私如きが如何こう言っていいものじゃ、無いんだろう。「あら? 予想とは違う反応ね。雪之丞なら間違いなく殴りかかって来る場面よ、ここは」 魔族はそのままかおりおばあちゃんの所に行くと、一礼して庭の方を指差す。 かおりおばあちゃんは大きく溜息を吐くと、小さく頷いた。「さ、庭に出なさいな。貴女があの子の弟子に相応しいか、私が確かめて上げるわ。 そこでするには、お尻がキュートなヴァンパイアハーフと横島が暴れてるから出来ないしねぇ」 魔族がそう言いながら指を差す。 その先には、雪じいちゃんが眠る道場で、喧嘩して暴れる忠夫とピートさん。 雪じいちゃんの家族達がそれを楽しそうに見守る。 かおりおばあちゃんが溜息吐くのも分かると言うものだ。 それに、これはチャンス。 あの魔族を私が倒せるとは思えない。 でも、私は…… 私は頷くと、スカートを膝上までたくし上げ、左太腿の裏側に隠し持っていた神通棍を取り出す。 シャキンと音を立て、神通棍が伸びる。 一振りし、身体を慣らす。 そしてゆっくりとした足取りで庭に出た。 目の前に立つのは、強大な魔族。 体から不気味な黒い炎を噴出させている、雪じいちゃんの仇。「あら、そんな無粋な道具を使ってくるの? それでも雪之丞の弟子なのかしら?」 カチンっと来た! 落ち着け、私。 コレぐらいの挑発に乗ったらダメよ!!「私の師匠は雪じいちゃんだけじゃないのよ! 令子おばあちゃんとか一杯いるんだから!!」「それは残念。あの子は素手で私の体を滅ぼしたわよ?」 雪じいちゃんが化け物なのは良く知ってる。 あれに勝てるのは私が知る限り、そこで喧嘩してる忠夫とピートさん。それに古い知り合いのナギにラカン位のものよ? それも下手したら勝っちゃう可能性がある位、すんごく強かったのを、私はよーく知っている。 そんな雪じいちゃんを殺したこいつが、生易しい相手な訳がない。 だから私は全力でいかなきゃならない。 使える物は、何でも使え! 最後に立って居たヤツが勝ちなのよっ!! 私は心の中でそう叫びながら、自分を鼓舞する。 そして、力を出す。 左腕に魔力を…… 右腕に気を…… 反発し合う力を束ね合わせる! ゴッと私を中心に衝撃波が放たれる。 私の生まれた世界の究極技法『咸卦法』 その咸卦の気を収束させる。 私の師である忠夫と雪じいちゃんは、霊力を収束させる事に関しては天才的だ。 それぞれの切り札がそれを物語る。 文珠に魔装術。どちらも霊力を、そして魔力を凝縮し収束させる。 そんな2人の師を持つ私だ。 咸卦の気を収束させ、肉体強化レベルを上げるだけなら、ガトウさんにだって負けやしない!! そして、その全てを神通棍に! 神通棍を通った咸卦の気がバチバチと鳴り、光輝く。「いくわよ!」 言うと同時に、右太腿の裏に隠し持っていた銃を左手で抜き、そのままダン、ダン、と顔を目掛けて2連早撃ち。 あっさりと避けられる銃弾に目もくれず、私は神通棍を槍の様に魔族目掛けて突き出す。 キュボッと空気を裂きながら、彼の胸に吸い込まれる。 そう、吸い込まれた……「……あれ?」「ふーん……、珍しい力ねぇ? でもねぇ、私の様な中級以上の魔族や怨霊には、余り効果が無いわよ?」 何処か少し困った様に、私にそう言ってくる魔族。 ガーン!! 私の切り札、効果無し!? 銃刀法違反を無視した銃撃はあっさりと避けられ、切り札の咸卦法は効果なし!? ショックを受けて呆然とする私に、凄まじい一撃を魔族が放ってくる。 右手をこちらに向け、撃ち放つ霊波砲。 ドゴッと轟音を響かせるソレを、必死に神通棍で受け止める。 ビキッ…… 神通棍が軋む音。 不味い、マズイマズイマズイ。 このままじゃ、神通棍が折れる! でも如何すれば良いのか、わかんない!! 私がそうやって焦ってる間にも、ドンドンとひび割れが大きくなり、遂にはビキビキビキーンと音を立てながら粉々に砕け散った。 令子おばあちゃんの特製神通棍が…… 驚愕する私に、神通棍を砕いた一撃がそのままの勢いで私の腹に叩き込まれた。「カハッ!」 肺から空気を吐き出し、余りの苦しさから息を吸うことも出来ない。 苦しさの余り、私は地面に這い蹲る。 そんな私に、失望したとでも言わんばかりの態度で、魔族の人がこう言った。「はあ、これじゃ雪之丞も浮かばれないわねぇ。弟子がこんな雑魚なんじゃ……。 私の名前、覚えときなさい。勘九郎、新しき魔族、修羅に堕ちた怨霊勘九郎よ。 かっこいいでしょ? 今つけたのよ、これ。何か強そうじゃなぁい?」 そう言うと、悔しそうにヤツを見上げる私に興味を失くしたのか、かおりおばあちゃんの方を向くと、深く礼をする。 最後に、「今の貴女じゃ、私に傷一つつけられないわ。 あの子は、雪之丞は魂の輝きだけで私を圧倒できたわ。 魔力も霊力も殆ど残されていない、そんな状況で私の肉体を殺したのよ、あの子」 そして、そのまま空気に溶け込むように消えていった。「アア……、アアアアァァアアアァーーーーーーーーーーーーッ!!」 悔しさと、何より自分の不甲斐なさに、私は大声で泣き喚く。 気づくと、背広がボロボロで、顔もボコボコの忠夫が私を抱きしめてくれていた。 忠夫の暖かい胸で、何時までも涙を流し続ける私。 その内私は、泣き疲れてそのまま眠ってしまった。 眠りながら私は、まるで子守唄の様に聞こえてくる、忠夫とピートさんの話に耳を傾ける。「なあピート。かんくろうって名前、どっかで聞いた気がするんだが?」「本気で言ってるんですか横島さん!? ほら、いたでしょ、GS試験受けた時に雪之丞と一緒に居たヤツですよ! 香港でも戦ったじゃないですか! メドーサの部下だった男ですよっ!!」「メドーサなぁ、あの乳は実に見事だった。コギャルにクラスチェンジした時は如何しようかと。 そういやあの蛇女が、俺の初めてのディープキスの相手だったんだよなー。懐かしいぜ」 …………死ねば良いのに。 xx月xx日 雪じいちゃんのお葬式が終わった。 一匹狼ぶってたわりに、沢山の人達が雪じいちゃんとの最後の別れにやって来てくれた。 悲報を聞いて駆けつけてからの3日間。 私と忠夫とピートさんは、ずっと雪じいちゃんの家族としてその場に居たの。 って言ってもね、初七日にはまた行くんだけどね。 出棺の時には、またあの魔族、怨霊勘九郎が来た。 普通は大騒ぎになると思うんだけど、流石は雪じいちゃんの知り合い。 みーんな平然としてたわ。 他にも魔族の人がいたしね。 一体何者なんだか雪じいちゃんって。 って思ってたら、普通に忠夫の知り合いでもあったよ。 私はここに誓う。 いつか必ず、怨霊勘九郎をギッタンギッタンのメッタンメッタンにしてやるってね! 雪じいちゃんの御家族が恨んでいないんだから、私も恨まない。 何より、強くなれってこのオカマ族、もといオカマの魔族を倒せる様になれって事よね。 絶対倒す! あのオカ魔族!! ついでに、傷ついて落ち込んでてもおかしくない私をほっといて、マリアさんを自分の部屋に連れ込んだ忠夫もいつか殺す!! xx月xx日 令子おばあちゃんが、壊れてしまった神通棍の代わりを3本もくれた。 高い物なのにいいの?って聞いたら、若い頃に貯め込んだお金が一杯あるから良いんだって。 おまけに旦那さんの輝彦じいちゃんも、私に精霊石が込められた銃弾をプレゼントしてくれた。 一体何事?って、よーく考えたら、私の誕生日だったわ。 色々あってすっかり忘れてたわよ。 そういえば私、使徒になったのよね。 なんも変わらないからすっかり忘れてた。 あー、身体能力が上がった……かなぁ? xx月xx日 昨日は使徒となった日以来の、初めての忠夫との一夜を過ごした。 性魔術で、タマ姉さんとシロ姉さんから得た霊力を私に注ぐのだ。 う~ん……、ちょっとだけ胸が大きくなったような、やっぱり変わらないような。 背も伸びたような、やっぱり変わらないような…… それよりも全身が筋肉痛みたいで、すんごく痛いよ~。 xx月xx日 レミが唐巣神父に弟子入りした。 神父も、もういい歳なのに大変よね? そういえば、この間レミにバレちゃった。 忠夫との関係。 すんごい目で睨まれちゃった。 仕方ないわよね? 敗者の妬みの視線を受けるのが、勝者の義務なのよ。 レミは神様に一生捧げてればいいのよ、身も心も。「んぁ、イッちゃう、あ、あ、あぁああああああっ!」 ドク、ドクンッ、っと私の子宮目掛けて放たれる精液を感じながら、私は絶頂感から抜け出せない。 射精しながらも、痙攣するように激しく腰を振り続ける忠夫に、私の頭は弾けてしまいそう……「すごっ、すごいのっ、またぁ……あ、ああああっ、いっ、いくっ……んっ、んふっ!」 最後に大きく、ズドンっと私の最奥を一突きすると、何度も達した私の体力は限界で、意識が遠くなっていく。 でも、忠夫の杭の様な肉棒から放たれる精液が止まると、今度は私の全身を忠夫の霊力が駆け抜けていった。 足の爪先から髪の毛に至るまで、絶える事無く注ぎ込まれていく霊力に、何故だか私の肢体は激しく快感を覚えるのだ。「くぅああぁああああぁぁああああっ!!」 絶頂してビクン、ビクッ! と震えている私の頬を両手でそっと包む忠夫。 随喜の涙を溢れさせる私の瞼にチュッと軽くキスをすると、そのまま私の唇を奪い、貪ってくる。 私の膣道を貫いて子宮にまで達している肉棒をそのままに、忠夫は私の唾液を啜り流し込んでくるディープキスを、いつまでも続けてきた。 どれだけそうしていたのだろう? 忠夫は充分満足したのか、今だ私の中にある杭を、グポッと音を立て抜き出す。 途端に私の股間から溢れ出す二人の愛の体液。 霊力による急成長の痛みに耐えながらそれを眺めていると、互いの愛の行為で汚れた私の股間を、忠夫がキレイにティッシュで拭っていく。 この時、前に忠夫が悪戯で私の性感を高めてきたんだけど、その時はあまりの快感に辛くて大泣きしてしまった。 それ以来、優しく労わるようにキレイにしてくれる。 私はこの時間がとても好き。愛されている感じがするから。 錯覚かもしれないけどね。 私のいつまで経っても無毛なそこをキレイにし終えると、忠夫は疲れたように私の横にストンと横になった。 そんな忠夫の胸に、自分の胸を押し付ける様にして抱きつく。 忠夫は私の頭を数回撫でると、そのまま二人で他愛もない話を始めた。 こういう関係になってから、もうすぐ1年が経つ。 私は中2になり、もうすぐあの、私が生まれた世界に再び『行く』 『帰る』のではなく、『行く』のだ。 夏休みに入ると同時にね。 4~5年は帰って来れないって、忠夫は言ってる。 それでもカオスさんのお陰で、当初の半分の年月で済むんだそうな。 いない間の私の学歴は、六道で何とかしてくれるらしい。 タダじゃないわよね、きっと…… なに要求してくるつもりなのかしら? 不安でならない。 そんな不安の対象が居る場所に、私達は明日行くのだ。 冥菜の誕生会。 どんな罠を仕掛けてくるか分らない、あの冥子おばあちゃんは。 そんな不安に駆られている私に気づいてくれたのか、忠夫は私の髪の毛に触れるだけのキスをしてくれる。「大丈夫だ、アスナ。最悪でも命は取られん」 ……それは安心して良いのだろうか? 後に、この不安が的中している事に気づくも、後の祭り。 だってね? 世界転移の為のお別れの挨拶周りの時、優しく自分のお腹を撫でる冥奈を見て、凄まじいほどの敗北感が…… アンタ、その年で子供産むんかいっ!! 間違いなく彼女のお腹に居るのは忠夫の子供で、16才になったばかりの冥奈に向って叫んだ私は悪くない。 『避/妊』のハイパー文珠を無効にするとは、六道恐るべし。 えらく楽しそうに笑う冥子おばあちゃん。 ここに帰って来たその時は、絶対に闇討ちしてやる!! 役に立ちそうにない神様に私は誓った。 って、私が神に誓っていると、忠夫ったら冥菜を抱きしめて、別れのキスなんかしてるんだけど? 何これ? 冥菜がヒロインみたいな扱いなんだけど? 頬を染めながら、「いってらっしゃいませ~、横島せんせ~~。冥菜、ずーっと待ってるわ~、貴方が帰ってくるのを、この子と一緒に~~~~」 まるで映画のワンシーンの様な雰囲気を作って、冥菜はツツゥーと涙を一筋零した。 そして再び唇を合わせる二人。 ……プッチーンって来た。 私は拳を振りかざし、今の自分が出来る、最大出力の天馬彗星拳を忠夫目掛けて撃ち放った。「ぶっ!?」 横っ面に私の必殺拳を受けた忠夫は、そのままズザザーと顔面で地面を削るように吹き飛ぶ。 そんな忠夫に止めを刺すべく、私が神通棍を手にして振り上げると、後ろからレミに羽交い絞めされた。「はなしてー! 私の知らない間に子供作ってるなんてーーっ!!」「まあ、落ち着くわけ」 テンパって暴れる私に、レミが冷静に私を宥める。「なんで、なんでー! アンタ悔しくないのっ!!」「だって、その場に私いたし」「……へ?」 間違いなくアホ面晒しているだろう私に、レミは両手を桃色に染まる頬に添えて、イヤンイヤンってしながらこう言った。「赤ちゃんは出来なかったけどね?」 咸卦法を使って暴れまくる私に、 忠夫にむかってダンピールフラッシュ、ヴァンパイア昇竜拳の連続コンボを繰り出すピートさん。 そんな何時ものドタバタ劇場を、この場に集った皆は楽しそうに見守った。 再びこのドタバタが見られると、堅く信じて…… 後書き ちなみに、冥菜のお腹にいるのは…… わかるよね? 今回はそんな復活。 あれか? 近親相姦とか考えてる? そんな方は、GS編設定集をお待ち下さい。