まほらのほほん記 第2巻 初めての衝撃「水着のねーーちゃーーーーーんっ!!」 そんな叫び声を上げながら、ビーチへと駆け出す一人の男性。 色々あって私の主様となった人、横島忠夫さん。 霊気構造を崩壊させていた私を、自らの使徒とする事で救ってくれた。 あれから数日が経っても、まだ私は身体の調子が酷く悪い。 元の調子に戻るのには、早くても一月は掛かる。 彼のその言葉に、私と横島さん、それに同じ使徒で先輩になるアスナさん。 ルームメイトで、私を心配して身の回りのあれこれをしてくれる夏美さん。 そして、あれから鬱々と塞ぎこむ千鶴さん。 その5人で、我が雪広グループのリゾートアイランドにやって来たのです。 心配させてばかりの私、そんな私の両親がいろいろと便宜を図ってくれたお陰。 もちろん貸切ですので、あの方がお望みの水着のねーちゃんはおりません! ええ、おりませんとも!! こんなにも美人で可愛い女の子を、4人も! 連れてらっしゃるというのに、あの人は本当にもうっ!!「なんでじゃーーーーーっ! 青い海、白い砂浜だと言うのに、水着のねーちゃんどころか人っ子一人いねーーーーーーーーーーーーっ!!」 波打ち際で、辺りを忙しなくキョロキョロさせて、あの人が叫ぶ。 それを見て、夏美さんは楽しそうにケラケラと笑い、アスナさんは恥かしそうに頭を抱えてます。 千鶴さんは……、儚げな表情を浮かべながら、悲しそうに笑います。 そしてスグに、「あやか、大丈夫? 余り日に当るのは良くないわ。早く屋根のある所に行きましょう?」 私の手を引き、休憩所の様な場所まで行くと、私を椅子に座らせ、アスナさんと夏美さんを手足の様に扱き使いながら、一心に私の世話をする。 私の膝にタオルケットを掛け、テーブルを持ってきて飲み物の用意までしてくれる。 ありがたい事なのですが…… 何故そこまで罪悪感を感じるのですか? 私がこうなってしまったのは、千鶴さんの責任ではないでしょう? 何度そう言っても、千鶴さんは首を振るばかり。 あの時、私の事を思わず、あの人の事を想ってしまったのはそんなに罪なのでしょうか? 出来の悪いパニックモンスター的な、B級映画の様な出来事に巻き込まれた私達。 死を目前にし、化け物に蹂躙された貴女が、あの方に助けられたあの時、あの方を想って顔を赤らめたり青ざめさせたりするのは、そんなにいけないこと? あの時の千鶴さんは、年相応でとても可愛らしく、貴方もこんな表情が出来たのですね。 私はとても嬉しく思いましたのに。 私がそうやって千鶴さんの事で悩み考えていると、先ほどまで波打ち際で叫んでいたあの人が私の所にやって来る。 そして、私のおでこに手をやると、「大丈夫か? 熱はないようだが……」 そう言って、おでこに当てていた手を、そのまま頬を通って下にツツゥーと下ろしていき、私の顎をクイッと持ち上げる。「ここに来る前に補給しといたが、やっぱ飛行機は辛かったか?」「ええ、そうですわね、少しだけ」 自分の頬が赤く染まって行くのが良く分る。 頭がポ~っとして、身体中の血液が顔に集まってしまったみたいですわ。 私は下品にならない程度にうっすらと口を開け、そっと目を瞑って彼の唇を待つ。 彼の唇が私の唇と重なり合い、私の口の中に彼の舌がヌルッと侵入してきます。 彼の舌が私の舌を絡めとり、ちゅるると私の唾液を啜り上げてくる。「んん……」 ちゅ……くちゅぅ……と、静まり返り波の音しか聞こえなかった周囲に響き渡り、その淫音を聞くたびに如何にかなってしまいそう。 彼は私の胸の膨らみを手の平で覆うと、優しくゆっくりと揉みあげてくる。 私はその度にビクンビクンと身体が痙攣してしまう。 彼の手の平は、私の胸の頂を何度もクニュクニュコリコリと弄び、私を高みへと連れて行く。、 そのままたっぷりと5分程それが行われ、何度も私は頭を真っ白にしてしまう。 私がイッてしまう度に、ドンドンと霊力が送り込まれて行くのがわかります。 そっと私の唇から放れてしまった彼の唇を、私は物欲しそうに見てしまう。 もっと、もっとして下さい、と…… そんないやらしい私の唇の端から唾液が流れ落ち、それを舌を這わせペロッと舐め啜る彼。 それだけで私は感じてしまい、子宮がキュンっとなった気がしますわ。 下着がぐっしょりと濡れ、彼が欲しくてたまらない。 飛行機に乗る前に、あれだけ私の胎内に注いで貰いましたというのに。 こんなにも彼を愛おしく想ってしまう。まだ、出会ってから5日しか経っていないというのに。 使徒になったせい? わかりません、もしかしたらそうかも知れませんわね。 それでも、今の私が幸せを感じている事は確かで、何より使徒になったのは最終的には私が望んだ事。 あの時、あの事件の後で、私は自分という存在が薄れて行くのが解りました。 血の気が引き、力が入らずにグッタリと横たわっていた私は、あの人が呼び寄せた両親と千鶴さん、 アスナさんと高畑先生、そして先生が連れて来て下さった夏美さんに囲まれて…… 私は、人として死ぬ事を選んだ。 霊気構造の崩壊。精神の疲弊。 本来ならば、これに身体の致命的損傷も加わる筈でした。 ですが、横島さんのおかげでそれは無くなり、それどころか自分の最後まで教えてくれました。 話によると、『この世界』には霊気構造云々の技術は確立されてなく、それを判断出来るのは横島さんだけとか。 そのまま原因も解らず死んでしまう筈だった私を、助ける事が出来る可能性を持っているのも、彼だけでした。 そして告げられたのです。 人として死ぬか、それとも彼の従者となって、人としての理から外れ、彼とその仲間達と共に永遠を彷徨うか。 永遠の若さ。それは女性にとっては心底欲しい物かも知れません。 ですが、それはとても辛く苦しいものではないかと、私は思うのです。 両親や友人が年老い、死んで行くのをただ見守る事しか出来ず、自分はいつまでも若いまま。 若いままなのですから一つ所に居る事も出来ず、文字通り彷徨う事になるのでしょう。 それはとても恐ろしい事だと私は思いました。 ですから、迷わず死を選びました。 何より、彼にこれ以上迷惑をかけたくは無かったですから。 何のリスクも無く、そんな事が出来る筈などありませんわ。 そう告げると、彼は困った様に笑い、「確かにしばらくは俺の負担にしかならん」 そう正直に話してくれました。 ただ、自分にもメリットは有る、とも言いましたが。 先行投資だと、今は負担にしかならなくても、いつかは自分の支えになれるのだと。 そう言ってくれたあの人に、私は首を振ってもう一度拒絶の意志を口にしようとしました。 ですが、私の両親が泣いて止めるのです。 頼むから生きて欲しい、そう言いながら。 千鶴さんと夏美さんも、同じようにワンワン泣きながら、生きて、と…… 私は生きる、そう決めました。 説得はされたのですが、それでも最後に決めたのは自分。 彼の使徒となった私は、それから今日までの間、幾度と無く彼に愛され……、でも、それは私にとって必要な行為。 私の霊気構造の崩壊を止める為に、私は人としての器を捨て、そして魂の補修の為に大量の魔力が必要となったのですから。「もう充分ですわ。折角の南の海ですもの、アスナさんと夏美さんを連れて遊んで来てはどうです?」 私がそう言うと、最後に頬に触れるだけのキスをして、 真っ赤になっている夏美さんと、頬を引き攣らせているアスナさんを連れて、着替えの為と荷物を置きに水上コテージに行ってしまわれました。 2人一部屋で使うそこは、それぞれ私とアスナさん、夏美さんと千鶴さん、そして最後に横島さんの3部屋。 私の荷物はアスナさんが、千鶴さんの荷物は横島さんがそれぞれ持ってコテージに入って行くのを確認すると、私は千鶴さんに傍に来て欲しいと伝えます。 いい加減、今のままでは不健康極まりないですわ。 ですから、アスナさんと二人で考えた作戦を発動ですわね。 夏美さんにも、お願いしとかなければいけませんわね。 使徒となってから、1日に何度も彼に抱かれている私。 その所為でしょうか? こうなる前と倫理観が違う気がします。 簡単に言えば、千鶴さんは横島さんに抱かれてしまえばいいのでは? そう思うのですわ。 悶々と彼の事を想い悩むより、ずーっと健康的に感じますし、何より、私への罪悪感を少しでも減らす方策でもあります。 性魔術、それによって彼に魔力の譲渡を行えば、それだけで私の為になるのですから。 「いいの、あやか……?」 おずおずと不安気に、小声で私に囁く千鶴さん。 彼女は、こんな自信無さ気な方ではありませんのに。 やはりここは……「ええ、千鶴さん。私に遠慮する事ありませんのよ? 先にあの方を想ったのは、貴方なんですから」 戸惑いながらも、ハッキリと頷く彼女を見て、これでもう大丈夫と確信しました。 あの方は、人を癒す天才ですから。 その後は、化け物に犯された私でも大丈夫かしら? そう呟く彼女に、それは私も一緒でしたわ。そう言って彼女を元気付ける。 夏美さんに根回しをし、横島さんにも千鶴さんを抱いてあげて欲しいと言っておく。 まさか、あんな事になるなんて思いもよらずに。 まあ、結果オーライですわね♪ 顔を赤らめながら励まし見送る夏美に、私は手を振って応えながら、ゆっくりとした足取りで彼のいるコテージへと向った。 本当に良いの? あやかが大変な時に、初恋の胸の高鳴りに浮かれていた汚い私。 そんな私を彼が愛してくれる? 死にそうなあやかを放っておいて、血塗れで戻ってきた彼に抱きつき、求めるようないやらしい私なんかを。 横島さんは、それは化け物の体液のせいだと言ってくれたけど。 違う、私は確かに欲したのだ。 あやかの安否を気にするよりも、彼が欲しかった、抱かれたかった。 そして、今も…… 罪悪感を感じながらも、彼の胸に飛び込む誘惑に勝てない。 トクトクと高鳴る胸。あの時、媚薬に犯された時みたいに熱く火照る肢体。 あやかが用意してくれた私の心の逃げ道。 横島さんへの魔力譲渡。 その言葉に縋り、彼に抱かれるのは、本当に良い事なの? それでも私は…… 彼の泊まるコテージの入り口に着くと、私はコンコンと扉をノックして、「失礼します」 そう言いながら中へと入る。 中は明かりも無く、人の気配が一切ない。 誰もいない部屋に入ると、私は彼の使うベットに腰を掛ける。 どこかホッとする自分がいる事に気づく。 彼が眠るだろうベットにパタンと倒れこむと、私は備え付けの鏡に映る、自分の酷い顔に驚いた。 ああ、これじゃ皆が私を心配するのも当然だわ。 そうね、私はあやかを理由にして逃げていただけなのかもね。 そう思うと、自然と顔から笑みが戻り、クスクスと笑い出してしまう。 誰もいない彼の部屋で、彼が眠るだろうベットに潜り込み、私は布団に包まれながら幸せな夢を見ようと思う。 今頃彼は何をしているのだろう? あやかとアスナさんの所かしら? フフフ、ずるい子達ね。今日は私に譲るって言ってたくせに。 明日はお仕置きね! 何が良いかしら…… 私はあの惨劇のあった日から、初めて心から笑った。 そして、そのまま幸せな明日を夢見ながら、ぐっすりと眠りについたのです。「ってことなのよ、夏美」 千鶴は自分の大きな胸の前で、手をパンと鳴らす。 彼女は満面の笑みを浮かべているが、先ほどから話しかけられている夏美は、ガタガタブルブルと震えるばかり。 それはそうだろう。なんてったって千鶴の背後からは、何やら黒いオーラが噴出しているのだから。「そ、そうだったんだぁ、ちづ姉。元気になってよかったね!」 必死で恐怖を抑えながら、夏美は擦れた声を紡ぐ。「あら、ありがとう夏美、心配かけてごめんね? でもね? 貴方は今、何をしてるのかしら?」 ゴ、ゴ、ゴ、千鶴の背後から吹き出る黒いオーラから、瘴気が発せられる。 夏美は思わず「ヒィッ!?」と悲鳴を上げ、逃げようとするも、恐怖からか他の要因のせいか動けない。「ち、違うよちづ姉っ!? 私は被害者だよう! 夜這いされたんだよっ!!」「そう、それは大変だったわね。でもね、夏美ちゃん。だったらなんで彼の胸にスリスリしてたの?」 そう、彼女は裸の横島のお腹に胸を押し付けるようにして、幸せそうに彼の胸に頬をスリスリし、更に、彼の足に自分の足を絡め、身体を密着させていたのだ! スリスリしている時の彼女の顔は、とても幸せそうに緩みきっていて、そんな幸せそうな彼女を千鶴は今まで見た事が無かった。 ごろにゃーんっと、子猫が甘える様であった彼女は、千鶴と目が合うまでずっとそうしていたのだ。「え、えっと……、てへっ」 悪戯がばれた子供のように笑顔で返す夏美。 千鶴はどこからともなく2本のネギを取り出し、自分の目の前でクロスさせる。 シャッシャッシャッ…… ネギとネギを擦り合わせる千鶴。 夏美は千鶴が何をしようとしているのかは解らない、理解出来ない。 でもこれから起こるのが、自分にとって最悪の惨劇である事だけは解った。 体の振るえが止まらない。 ゼェゼェと何故か呼吸が荒くなってくる。「ね、ねぇ、ちづ姉? 何をしているの?」 夏美の問いかけに、千鶴は心底楽しそうな笑みを浮かべる。「2人とも一晩中裸でそうしてたのよね? 風邪をひいてはいけないわ」 そしてゆっくりと、2人が重なり合うベットへと近づいてくる。 寝た振りをして誤魔化そうとしていた横島も、余りの恐怖から背中が汗でぐっしょりと濡れる。 助けて! 誰か助けて!! 2人の心からの救済の願いは、どこに届く事もなく。 シャッシャッシャッ…… ネギの擦りあう音が、こんなにも恐ろしいなんて。「風邪の時はね、ネギをお尻に刺すといいらしいわよ? 温熱効果が高まって……そうよね、寝たふりしている横島さん?」「ギックゥ!?」 ビクンとする横島。 それを見て、更に笑みを深める千鶴。「さあ2人とも、プッスリ逝きましょうか……。大丈夫、私なんかふとーい触手にお尻を犯されたけど、今はとっても元気だわ。ネギの1本や2本、平気よね?」 2人は必死で起き上がり、逃げようとするも、絡み合った足が邪魔で逃げ出せない。 そんな2人のすぐ側まで来ると、千鶴はネギを天高く掲げた。「いやーーーーーーーっ!? ちづ姉、ゆるしてぇーーーーーーーーーーっ!!」「いややーーーーーーっ!! そんなんワイはいやじゃーーーーーーーーっ!!」「おはようございます、アスナさん」「おはよ、あやか」 すっきりと晴れわたり、今日も良い1日が送れそう。 2人はベットから起きると、窓から覗く澄み渡る青空を見てそう思った。 今頃、彼と千鶴は良い朝を迎えているのかしらね? 2人はチクンとする胸の痛みを誤魔化し、それでも友人が元気になってくれれば良いのに、そう思った。 そう思ったその時、どこからともなく聞こえてくる男と女の絶叫。 いやーーーーーーーっ!? ちづ姉、ゆるしてぇーーーーーーーーーーっ!! いややーーーーーーっ!! そんなんワイはいやじゃーーーーーーーーっ!!「何ですの?」「さあ? ろくでも無い事だってのは分かるけどね?」 二人はそのまま笑い合う。 アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「さ、朝ごはんの用意するわね」「手伝いますわ、アスナさん」 そして、長い長い、この世界に来て、まだ学校行ってないけど、初めての夏休みが本当に始まる。 のほほんと過ごす毎日が、今日から始まる。