経済活動を妨害する、そんな悪霊達を退治する。 それがゴーストスイーパーの主な仕事である。 かつては地価の高騰などで、超ボロイ商売だったこの仕事も、 不況の嵐においては、かつての面影などない…… なんてこたぁ、なかったっ!! 今でも除霊は最先端のビジネス。 この世界には、幽霊を住まわせる土地などないのだっ! だが、GSは常に死と隣り合わせの危険な仕事である。 そんな業界に、新たなニューフェイスが登場した。 『横島除霊事務所』 かつて世界を救い、日本を心霊テロから守った英雄、横島忠夫を所長とする事務所である。 この物語は、横島除霊事務所で起きた、数々の心霊事件を追った物語………………ではない。 GS日記 第1巻 横島除霊事務所 xx月xx日 タダオがオウチをもらった。 ジンコウユーレーイチゴー。 ミカミのおばあちゃんがゆーには、タダオへのたいしょくきんなんだって。 きょうからここにすむの。 いっこくいちじょーのあるじだね、タダオ。「マジっすか?」「マジよ」 美神さんが俺に人口幽霊一号を譲るだと!? ウソだっ! コイツは美神さんの皮を被った偽者だっ!! いや、まてよ……。 昔、ピートから聞いた事がある。 イタリア系マフィアは、殺す相手には敵意を隠し、贈り物をするのだと……「なんでですか美神さんっ!? 俺、まだなんも悪い事してないっすよ!」「落ち着きなさいっ、こんバカッたれーーーーーっ!!」 ドガシャアッと、美神さんの右のジョルトアッパーが俺の顎を撃ち貫く。「げはぁっ!?」 そのまま壁にズガンとぶつかり、額から血を噴き出しながら、とても懐かしい感覚に襲われる。 ああ、俺は本当に帰ってきたんだと。「まったく、アンタはホント変わんないわね」 年は60近いものの、外見年齢は充分に30代で通じる。 そんな彼女が郷愁を感じているのが分かる。 確かに帰ってきた。でも、もう、あの頃とは違うんだな……。「退職金よ、退職金。横島クンってば、この世界から消えちゃったからさ、退職金払えなかったのよね~。 それにね、マジメな話、そろそろこの子に充分な霊力を供給出来無くなっちゃったのよ」「えっ、そうなんすか?」「あんたねー、見りゃ分かるでしょう? もう、若くはないのよ、私は。アンタ帰って来たせいかさー、旦那が焼きもち妬いて困ってるってのもあるわね。 そんな訳でね、この事務所をアンタに押し付けて、旦那の所でのんびりすごそうかなー、なんてね」「……お、おぅのぅれぃっ、ずぅわいじょおーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」 血涙をダクダクと流しながら、怨敵の名を憎しみを込めて叫ぶ。 そして、いつもの様に藁人形を取り出すと、俺は怒りと憎しみの赴くまま、壁に向って藁人形を打つ。 打つ、撃つ、打つ、討つ、打つ、撃つ、討つ、打つ、撃つ、打つ、討つ、打つ、撃つ、討つ、打つ、撃つ、打つ、討つ、打つ、撃つ、討つ、 打つ、撃つ、打つ、討つ、打つ、撃つ、討つ、打つ、撃つ、打つ、討つ、打つ、撃つ、討つ、打つ、撃つ、打つ、討つ、打つ、撃つ、討つ。 かんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかん カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン ふ、フフフ、ふははははーーーーーーーーっ!! 今頃、西条の馬鹿がのたうち回っているのが、見てとれるようだわーーーーーーーーーーーーっ!! アーーーーーハッハッハッハッハッーーーー「やめんかーっ!」「げぶらっ!」 どこからともなく飛んできた運動靴が、俺の後頭部を直撃する。 そして再び壁に額を打ちつける。 またまた額から血を噴き出す。「みーかみさーんっ、なにするんすかっ!?」 俺は美神さんに文句を言いながら、愕然とする。 ハイヒールじゃねー。 今、初めて気づいた。 彼女の格好。 ゆったりとしたロングスカートに、毛糸のセーター。 何かよ、勝手に脳内変換されてたみたいだ、あのボディコン姿に。 ああ、俺は、遅かった。分かっていた、筈なんだけどな……。 実際にこうして目の当たりにすると、何とも言えない喪失感。 そんな俺に気づかない振りをして、美神さんが俺に優しく話しかける。 こんなに優しくされるなんてな。そんな事を考えながら、神妙に彼女の言葉に耳を傾けた。「倉庫にね、私が使ってた除霊道具が残っているわ。それも全部、横島クンにあげるわ」「へっ? だってアレ、高いでしょ。ホントに良いんすか?」「ええ、いいわ。正直なところね、アレはあの頃の思い出が詰まり過ぎて、使ってないのよ」 そう語る美神さんは、年相応に見えて。 多分、俺は今、とても泣きそうなツラしてんだろう。「横島クン。私ね、アンタが帰ってきてくれて、本当に嬉しく思っているわ。ずっと、心残りだったから…… それはね、多分だけど、おキヌちゃんもそうなんじゃないかな。 これで、やっと、アンタを思い出にできたの、私たちは……」「……そうっすか。俺はフラレタんですね、2人に。 コンチキショーーーーーーーーーーーーーッ! 美神さんとおキヌちゃんの浮気モーーーーーーーン! 俺ってモンが有りながら、他の男とくっつくなんて、クッソーーーーーーーーーーーッ!!」 俺は叫びながら、おどけた風を装って、何度もガンガンと壁に頭を打ち付けた。 それを見て、やはり懐かしそうに笑う美神さん。 涙が零れ落ちそうになる。 それを必死で食い止める。 彼女には、涙を見られたくなんて無いから。 どんだけ色んな出会いが会っても、俺にとって美神令子とおキヌちゃんは特別だった。 そう、特別だったんだ……「ねぇ、横島クン。まだちょっと時間あるからさ、聞かせてくんない? アナタがこの40年近く、一体なにやってたのか、ってね」「ええ、いいっすよ」 俺は血を拭う振りをしながら、必死で涙を拭う。 見透かされているのは、分かってんだけどな。 男の意地ってモンだろ?「そうね、特にっ! なんで『若い』ままなのか、とか……」 若い。ここの部分をやたらと強調してるのは、何故? さっきまでのホンワカした感じではなく、俺を睨みつける彼女を見て、身体が縮こまってしまう。 やっぱ、いつまでたっても、怖いもんは怖いんじゃーーーーーーっ!「い、イエッサー!!」 背筋をピンと伸ばし、素晴らしく美しい敬礼をして、俺は話し出す。 美神さんは、ちょっとって言ってたくせに、結局朝から晩まで失われた互いの40年間を語り合った。 時に笑い、時に涙ぐみ。 アスナを親父とお袋に預けておいたのも忘れ、話に没頭してしまった。 次の日の朝、泣きべそをかきながら抗議してくるアスナを、そっと宥める美神さんを見て、 本当に変わったんだな。 これまで以上にそう思ったね。 だってよ、子供なんてみんな滅べばいい、なんて言ってた人だぜ? 思わず指差して笑っちまった俺に、罪なんて無いと思うんだ。 原型を留めないくらいボコボコにされながら、そう思ったよ。 それにしても、心の底からこう思っちまう。 ああ、俺は本当に帰ってくるのが、遅かったんだな……ってさ。 xx月xx日 タダオがじむしごとよーいんとして、机のおねーちゃんをつれてきた。 いっつも机といっしょ。 へんなの。 xx月xx日 机のおねーちゃんがつくえじゃなくなった。 なんか、きょうはヒョコヒョコへんなあるきかた。 どーしたの、ってきいたら、タダオのモノになったら、机といっしょになったんだって。 きょうからOLヨーカイらしい。 xx月xx日 タダオのはつしごと。 ほーしゅーが3ぜんまんえん。 すっごーい! いっきにおおがねもちになった! xx月xx日 きつねヨーカイあらわる! タマモおねーさんってよびなさい、っておこられた。 xx月xx日 きょうからタマモおねーさんが、わたしのおねーさんに。 おとうさまがわたしのこせきをつくるときに、ついでにそうしたんだって。 神楽坂玉藻。なんかうれしい。 xx月xx日 きょう、いぬのおねえちゃんがきた。 おおかみでござる、ってこーぎしてたけど。 シロおねーちゃんは、タダオのデシなんだって。 これからは、いっしょにじむしょでくらす、かぞくになるみたい。 タダオは金だすからがっこういけって、シロおねえちゃんと、ついでにタマモおねーさんをこうこうにいかせた。 ワタシも、そのうちしょうがっこうに行くみたい。 たのしみ。 xx月xx日 シロおねーちゃんだけずるいって、タマモおねーさんと、あいこさんがもんくをいってきたの。 タダオはしゃーねーなーっていいながら、ふたりのへやをつくった。 きょうから5にんかぞく。 にぎやかだ。 xx月xx日 タダオのおとうさまとおかあさまに、いっしょにすもうっていったら、ことわられたの。 こどものせわになるほど、おちぶれてないんだって。 つまんないなー。 でもね、タダオはナゼかホッとしてたよ。 なんでかなー? これより3年後、タマモとシロの高校卒業と同時に、それまで細々と活動していた横島除霊事務所が正式に発足した。 所長 横島 忠夫 副所長 神楽坂玉藻 所員 犬塚 シロ 九十九愛子 仕事の達成率が異常な程に高く、また、オカルトGメンとの仲も良好なこの事務所は、小規模ながら業界でもトップクラスとして有名となる。 もっとも、所長の横島忠夫が、定期的に10年単位で行方不明になるのと、美人で有名な所員全てが、所長の女だという事でも有名となってしまうのだが……。 ちょっとしたヨコアス共通設定 美神が結婚したのは35才。 おキヌちゃんが25才。 おキヌちゃんが9年、美神が14年、横島を待っていた事になります。 おキヌちゃんはプロポーズされた際に、25才になるまでに横島が帰ってこなかったら、結婚する。 そう銀一と約束し、結婚しました。 美神は35過ぎてもまだまだ待つ気まんまんでしたが、待ち疲れからか無気力状態で日々を過ごしていました。 みかねた西条が無理矢理彼女を押し倒して、事におよびます。 その後プロポーズするも、あっさり一度ふっちゃいます。 だが西条は諦めませんでした。 美智恵どころか横島の両親まで使って、説得にあたります。 美智恵は娘が心配でしたし、何より横島が帰ってくるのは絶望的です。 当然、西条を応援しますし、横島の両親も息子の為に人生を棒にふるのは良くないと、美神を説得。 結果、西条と結婚。西条と美神は夫婦別姓で結婚生活を送る事になりました。 現在、美神にはアスナと同年の孫娘が一人。ただし日本にいません。 おキヌちゃんには、横島がネギ世界に再訪する時間軸で、20才前後の孫がいる事になっています。 どちらもでませんが。 子、孫、曾孫世代が出るのは、一部のキャラだけです。 ひのめについては何も考えていません。 後書き タマモと愛子の姓は捏造です。