それはいつもの朝のひと時。 パジャマにエプロンで朝食の準備をする木乃香。 寝坊したのか、セーラーブラウスに下着だけのアスナ。 どちらもおいしそ……、もとい、可愛らしく元気に魅力的である。 そんな2人を、鼻を伸ばして見守る横島。 実に素晴らしい光景だ。 彼は心からそう思った。 彼女達を見ていると、かつての自分がどれだけ狭量だったのか、痛い程良く分かるから。 少しだけ大人になった今の俺ならば、あの時、あんな喧嘩別れにはならなかったろうに…… 昔を思い起こしながら、アスナがスカートを身に着けるのを、チッとこっそり舌打ちする。 木乃香が舌打ちする横島を微笑ましそうにしながら、パタパタパタ……、足音を立てて郵便受けから朝刊を取りに行く。「横島さ~ん。なんか新聞と一緒に手紙が入ってたえー」 差し出される朝刊と手紙を受け取る横島。 眉を顰めながら受け取ると、横島は慎重に手紙を調べる。 こんな時間に手紙が届く訳が無い。 当然、切手も貼ってなければ押し印も無い。 差出人の名前は、クウネル・サンダース。 知らない名前だ。 呪い等の呪術がかかっていないのを確認し、横島は手紙を開いて読んでみる。 それはかつての戦友からの便り。 たった今、思い起こしていた悔恨の出来事の登場人物の一人。 内容は、『会いたい。 会ってあの頃の事を詫びたい。』 ああ、そうだ。詫びねばならない。俺も、アイツラに詫びねば…… 横島は手紙を読み、何度も彼の現在地を確かめる。 そして、「木乃香ちゃ~ん。今度の休み、図書館島まで案内してくんない? 昔馴染みとそこで待ち合わせでさぁ」「ええよ~」 木乃香に感謝の言葉を返しつつ、横島は再会の時の為の準備を始めた。 こっそり、パジャマの隙間から覗く、起伏の少ない胸の谷間をチラ見しながら。 まほらのほほん記 第9巻 真・日々彼是 その2 横島は木乃香と、それに途中で出会った木乃香の友人達に連れられ、図書館島までやって来た。 この中でアイツラが待っているのか。 そう思うと彼は少し緊張する。 何せ、最後に会った時は、殆ど喧嘩別れの様なものだったから。 互いに互いを貶しあい、そして、あの決定的な一言で、赤い翼を出て行ってしまう事になったのだ。 その後もチラホラ顔を出してはいたが、それはアスナやタカミチと言った目下の者達の為であり、決してアイツラとの仲が修繕した訳では無かったのだ。 「大丈夫なん? 横島さん」 木乃香が心配そうに横島に声を掛けた。 そして、彼女の友人の2人も同じように心配そうだ。 何処か浮かない顔をしながら、自分の身長よりも大きい荷物を持っていれば、誰でも心配はするだろう。「元々私達が運んでいた荷物です。無理しなくて良いのですよ?」「お? 全然平気だぞ?」「平気そうでは無いのですよ? 先程からウンウン唸り声を上げてるです」 言われて気づく。自分がどれだけ緊張していたのか。「ああ、違う違う。これから会うヤツラの事を考えていたらな……」 そう言いながら、持っている荷物を指定された場所まで運び、そして丁寧に降ろす。 少女達は横島にお礼を言うと、今度は彼に労わりの声を掛けた。「どう言う方なのですか? 話したら、少しは楽になるですよ」「ダチだったヤツラだ。だけどな、互いの信念をぶつけ合って喧嘩別れしちまったんだよ。 あの時の俺は、いんや俺達は、相手の信念を受け入れる事が出来なかった。 でも今なら解る。どっちかが正しかった訳じゃねーって事が。きっとよ、どっちも正しかったんだ。 今の俺ならそれが良く解る。でもな、これから会うんだって思ったらよ、どうにも……」 横島は遠くを見つめる。郷愁を帯びた何処か切なそうな顔で。 少女達は、目の前の青年が見た目と違って、沢山の悲しい経験をしているんだと感じた。 いかにも青二才といった風情の男だが、何処か老人染みた郷愁を感じるのだ。 どれだけの辛い思い出があるのだろう? そう思うと、自分達まで切なくなってしまう。「大丈夫です。きっとご友人方も、同じ事を思ってるですよ。きっと……」「わ、私もそう思いますーーー」「ウチもそう思うえ、横島さん」「あんがとな、木乃香ちゃん。それに、えっと……」「綾瀬夕映です」「あっ、あのー、宮崎のどかですーー」「あんがとな、綾瀬さんに宮崎さん。少し、楽になったよ」 木乃香の頭をグワシ、グワシと少し乱暴に撫でながら、横島は夕映とのどかに礼を言う。 さらさらの長い髪がグチャグチャになるのも気にせずに、木乃香は「えへへ~」と、心底嬉しそう。 もしも彼女に尻尾があったなら、ぶんぶんと激しく振っていた事だろう。 そんな2人を微笑ましそうに見守る夕映とのどか。 のどかは本当に嬉しそうにしている木乃香を見て、少しだけ羨ましく思った。 郷愁を帯び、悲しげに儚く笑う彼。 胸がキュンと高鳴った気がする。 あれ? 私、もしかして彼に惹かれてるのかなー? そう思った瞬間、ボンっと顔が真っ赤に染まった。「ど、どうしたですか、のどか!?」「な、な、な、なんでもないよー、ゆえーー」 腕をグルグル回し、頭をブンブンと左右に振る。 のどかは、今思ったことを必死に否定する。 男の人が苦手な自分が、こんな簡単に誰かを好きになるはずが無い。 本を返しに行く途中に出会った彼。 持っていた大量の本を、嫌な顔一つせずに持ってくれた彼。 見かけによらず、力持ちな彼。 木乃香の同居人で兄代わりの彼。 そして、どこか遠くを見つめる彼。 きっとその目は、沢山のモノを諦め、大切にしていたモノを、沢山捨ててきた目。 のどかの頭の中を、悲しげに笑う彼の顔が過る。 私が癒してあげたいかも……。あの、悲しそうに遠くを見つめる目を、微笑で自分に向けて欲しいな……。 のどかは我知らず、振り回していた腕を止めると、両目を塞ぐ前髪を掻き分ける。 そして、木乃香の頭を撫でる彼の横顔をそっと見つめてみた。 子供の様な笑みを浮かべ、木乃香と言葉のやり取りをして、とても楽しそう。 さっきまでの彼とは違い、こんな彼も良いかも…… いいなー。このかーーー。 訝しげに自分を見る夕映の事も忘れ、のどかは前髪で隠していた顔を外気に触れさせたまま、じぃっと横島の顔を見つめ続けた。「本当に大丈夫ですか、のどか? もしかして、彼の事が?」「ち、違うよ、ゆえゆえー!? 会ったばっかりの人を好きになんてなってないよーーー!?」 横目に彼を見ながら、それでものどかは否定する。 が、夕映はそんなのどかにニヤリと笑いかけると、「私は好きなのかなんて聞いてないですよ。そうですか、のどかが男の人を好きになったですか」 ワザとらしく、うんうんと大きく頷く。 そして、チラッと横島の方を見ると、「でものどか、私も少し分かる気がするですよ。 まだ出会って間もない私達にでさえ、彼の瞳に宿る悲しさや切なさが伝わって来るほどです。 あの方は、どれだけ悲しい思いをしてきたのでしょうね?」 両の手の平を胸に当てる。ゆっくりと顔を左右に振ると、のどかの方を見る。「男の人と言うのは、馬鹿でスケベで考えなしだと思っていたですよ。ああ言う方もいらっしゃるのですね。」 もちろんそれらは、のどかと夕映の勘違いというものだ。 横島という男は、馬鹿でドスケベで行き当たりばったりな考えなし。 第一印象がとても大切だという実例だろう。 2人はこの先、横島がどれだけ馬鹿でエッチな事をしようと、彼を嫌う事など、決して無かったのだから。 横島が知らない内に少女達の心をゲットしていたその時、突如少女達の目の前に、ローブを被った長髪の胡散臭い笑みを浮かべるイケメン男が現れる。「お待ちしてました、横島さん」 この男が横島さんの…… 少女達は心配そうに横島の方を見る。 彼は緊張しているのか、表情を少し硬くさせ、ギュっと手を握り締めている。 夕映は彼の傍に行くと、握り締めている彼の手を、優しく自分の手で包み込んだ。「大丈夫です。大丈夫ですよ」 まるで幼子をあやすように、夕映は声を掛ける。 夕映は自分の大胆な行動に驚く。 それと同時に、納得もした。 この短い時間で、彼にホンの少しだけ心を奪われてしまったのだと。 そしてそんな自分に気づくと、少しでも彼の心の負担を小さくして上げたい。 心からそう思った。 「ありがとう、綾瀬さん。もう大丈夫だ」 言いながら横島は、自分の手を包む彼女の手にそっと口付けした。 ボン、大きなおでこまで赤くする夕映。 赤くなり、ワタワタとする彼女の頭を、ポンポンと数回優しく叩くと、横島は「待たせたな」と言ってローブの男の方へと歩み寄る。 そして、「木乃香ちゃん、今日は遅くなるだろうから、先にメシ食って寝といてね。アスナにもそう言っといて」「はい、気をつけてな、横島さん」 横島は手を振りながら、ローブの男と共に視界の外へと消えていった。 視界から消え去った彼の影を、いつまでも切なげに見続ける夕映。 そんな彼女を羨ましそうに見つめるのどか。 2人のいつもとは違う様子に、ようやっと気づく木乃香。「夕映ものどかも、もしかして、横島さんのこと好きになってもうたん?」「い、い、い、い、いえ、まだそこまでは……」「そ、そ、そ、そうだよーーー!?」 慌てた様子の2人に何度も頷くと、「でもな、横島さんは競争率は高いと思うん。ウチが知ってるだけでも、アスナやろ、いいんちょやろ、千鶴さんに夏美もや」 2人は内心で、それにこのかもですよね(だよね)と、付け加えると、「いいんちょがですかっ!? 驚きです……」「うんー。てっきりいいんちょは、小さい男の子が好みだと思ってたよーーー」「それがな、いいんちょ。横島さんにいってらっしゃいませって、ホッペにちゅーしたんよ」「「---っ!?」」 驚きの余り、一瞬息を止めてしまう二人。 今だその想いは完全なモノでは無いとは言え、こうもライバルが先を進んでいれば、何かと焦ると言う物。 のどかは夕映の方を見てニッコリと笑う。「ねえ、ゆえゆえー。妻妾同衾って知ってる?」 相手が先を進んでいるのなら、こちらは2人がかりで行ってみよう。 うぶで引っ込み思案な筈の親友の言葉に、ビシッと石化してしまう2人。 のどかは純な表情そのままに、とんでもない事を考え、そして口に出してしまった。 その後、2人は木乃香の進めもあって、横島邸へと場所を移す事にする。 ライバルであろうアスナの偵察や、今、自分達の胸に宿りつつある想いが本物かどうか確かめる為に。 一度寮に戻り、お泊りセットを手にして、夕映とのどか、ついでに何でか憑いて来たハルナの3人で、決戦場たる横島邸へと入る。 「こ、これは、何て濃いラブ臭なのっ!?」 ハルナの電波話を先駆けに、盛り上がりを見せる横島邸。 アスナは友達と仲良くなった事を密かに喜び、木乃香も同様に喜んだ。 夕食をみんなで作って食べ、お風呂に入り、リビングに布団を敷いて皆で雑魚寝。 明日の朝には、あやか達も朝食を食べにやって来るとあって、朝食の下拵えも万端整える。 かしましく騒ぎ、いつの間にかに静まり返る。 後には、スゥースゥーと規則正しい寝息。 少女達の1日は、こうして過ぎ去って行く。 沢山の誤解をそのままに…… もしも、もしも夕映とのどかと一緒に居たのが木乃香じゃなくて、アスナかあやかだったなら。 2人はこんな勘違いをせずに、横島の事を想ったりはしなかったであろうに…… それが、幸か不幸かは別として。 一方、横島はと言うと……「横島さん、スリットから覗く生足は素晴らしい」「ジャックよ、黒のガーターにパンストのすべすべ感は素晴らしい」「アル、ソックスからはみ出る肉は実に素晴らしい」「ブルマは素晴らしい」「スク水は素晴らしい」「セーラーの上だけは(ry」「いやいや、(ry」「それは(ry」「巨乳は(ry「ロリもなかな(ry こんな感じで、かつて、互いのフェチを最上の物と信じてやまなかった3人は、互いを認め合い、そして高めあった。 彼らは昔の自分を恥じていた。 あの時の自分達が、どれだけ狭量だったかを知るが故に。 互いの愛する物を組み合わせる事で、無限の可能性が広がっていく。 それを知ったがために。 あの時、言い争う自分達にナギが言った言葉。 そんなもん、最後は全部脱がしちまうんだから、どうでもいいじゃねーかっ!! この言葉だけは、今でも許す事は出来ないけれども。 それでも彼らはこう思うのだ。 あの頃のアイツはまだまだ子供だった。 今ならばアイツも俺達を理解出来るはずさ。 いつの日か、暇になったら助けてやるか、まったく仕方がないヤツだ…… そう結論付けると、男達は、いや、漢達は頭を寄せ合い議論を始めた。 題材は、エヴァンジェリンをもっとも魅力的に魅せる衣装は何か? 明け方まで続いたソレは、 横島の好きな猫耳とニーソックス。 ラカンの好きな眼鏡にセーラー服の上だけ。 そして、アルビレオ・イマが大好きな旧スク。 アルビレオだけ1つとは平等ではないと感じるかも知れない。 だが、エヴァンジェリンと言う素材自体が彼の趣味なため、割合的には彼が1番得しているだろう。 漢達は、いつか必ずこの素敵衣装を彼女に着せる事を誓うと、互いの世界のお宝を交換し合い、そして何も言わずに別れた。 彼らには、もう言葉など必要ないのだ。 朝焼けに目を細めながら横島は思う。 昼まで寝たら、たった今入手したお宝を、心行くまで堪能しよう。 横島は、今日だけは童心に帰るぞと、ワクワクした気持ちを抑えきれずにスキップしながら家路に着いた。 そして、家に帰るなり、風呂にも入らずに部屋へと戻る。 寝ぼけ眼で、リビングで寝ていた女の子をテイクアウトし、抱き枕として活用しながら。「むにゃむにゃ……、みーかみさーん……」 少女が目覚めるまで、あと、1時間 部屋割り表 横島宅 横島&アスナ&木乃香 エヴァ宅 エヴァ&茶々丸 寮 あやか&千鶴&夏美 楓&双子 刹那&龍宮 千雨オンリー まき絵&亜子 裕奈&アキラ チア3人娘 葉加瀬&さっちゃん 超&くー&ザジ 夕映&のどか&パル 朝倉&美空 後書き 部屋割り表、どうでしょうかね? 個人的には、朝倉&パルにして、美空&ココネしたいと思ってるんですけど、それは無しにしときます。 クラス事みたいですからね、部屋割り。 とりあえずはこんな感じで考えて下さい。 いや、ここはこう言う方が良い、何て方は感想で。 まあ、前話でも言いましたが、この部屋割りがヨコアス内で活用される可能性は低いですけどね。