俺は現在、無駄に長い人生の中でもトップクラスに入る程のピンチを迎えていた。 原因はそう、目の前にいる少女、不死の魔法使い、闇の福音、人形使い等のちょっとイタイ2つ名持ちの『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』 魔力を封じられ、幼女と言っても良いその姿で、それでも尚、これほどの力を魅せるのかと。「どうした、横島忠夫。キチンと私の話を聞いているか? と言うかだな、そのほっかむりは何なんだ? 私を馬鹿にしてるのか、このエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを!」 上から目線で俺を追い詰めてくる。 俺は虚勢をはり、何でもない風を装うので精一杯。 彼女の女王様的なオーラに押され、このままでは! ああ、認めなくてならない。俺は今、猛烈に彼女の前に跪き、足の甲にキスをして忠誠を誓ってしまいそうだと。 何だって俺は、この手のオーラを醸し出す女に弱いんだか。 もしも目の前の少女が、ムチムチのバッツンバッツンだったら、既に俺は彼女の愛奴隷となっていた事だろう。 美神令子により魂の髄の髄まで刻み込まれたM的な丁稚体質が、彼女のSッ気に引き寄せられてしまうんだ。 もしかして若い頃を取り戻そうとした弊害か? これが俺の業だと言うんか!? こんな事ならほっかむり何てかぶるんや無かった! ああ、イヤだ! こんな見かけ幼女に忠誠を誓うなんてイヤだ! せめてナイスバディーなお姉さんなら、むしろ喜んで丁稚になるのにっ!! 誰かワイを助けてプリーズ! ああ、誰か、ワイを……正しいエロへといざなえ…… エヴァンジェリンが喋っているのを、右から左へと聞き流しながら、俺は必死で自意識を保っていた。 ロリペドエロ丁稚へと堕ちないように、来る筈の無い、大切な使徒に心からの助けを求めながら。 ネギま!のほほん記 第3巻 使徒として この日のネギの授業は事の他上手くいったと言っても良いだろう。 昨日の初授業の時は騒ぎに騒いで授業を滅茶苦茶にした2-Aの生徒だったが、流石に反省したのか今日は大人しく真面目に授業を受けていた。 流れるように授業が進み、ネギを心配していたあやかや千鶴も一安心と言ったところか。 ただまあ、ネギがチラリ、チラリと長谷川千雨の方を見るのはご愛嬌。 千雨もネギが自分を見ていることに気づいているのか、必死で目を逸らしあさっての方を見る。 その事に気づく者は、アスナ達を除けば極々僅かで、2度目の授業の出来としては合格と言っても良い。 事実、指導教員のしずなの目から見ても、充分以上の出来だ。 キーン コーン カーン クゥォ~ン……、授業の終わりの鐘が鳴る。「えっと、今日はコレで終わりですね。次回はテキストの78ページから始めますので、キチンと予習をしておいて下さい。 それとですね、2時間目の授業は、瀬流彦先生が用事があって来れないそうですので自習だそうです。 いいんちょさん、後はよろしくだそうですよ?」「はい、わかりましたわ。ネギ先生も頑張ってくださいね?」 うっすらと笑みを浮かべ、あやかはネギを励ます。 明らかに挙動不審な千雨の事だ。 間違いなくネギと木乃香が空を飛んでいるのを見たのだろう。 ならば彼女を如何にかせねばなるまい。ネギが自分自身で。 コレばかりは彼女が助けてあげることは出来ない。 立派な魔法使いを目指す為の最初の試練になるのだから。 ネギはコクリと頷くと、顔を引き締める。「それでは1時間目の授業を終わります。あと、長谷川さんはお話があるので、ボクの後をついて来て下さい」 一気に騒然とする教室。 朝倉や双子の姉妹、それにまき絵と言った面々が興味津々。 ネギに押し寄せて話を聞こうとするも、あやかが素早く扉の前に立ってネギを教室の外へと逃がす。 ならばと千雨の方へと矛先を向けるが、こちらも既に逃亡済み。「ちょっとちょっとぉっ! 何だって邪魔すんのさ、いいんちょっ!!」「私に構っている暇がありましたら、ネギ先生を追いかけでもしたらどうかしら?」 あやかは充分時間を稼いだと扉の前を退くと、ワァーっとクラスの半分以上の生徒達が押し寄せ、そのまま教室を出て行ってしまった。 残ったのは元より興味の無かった面々と、そして横島の関係者のみ。 先程まで騒然としていた教室が、あっという間に閑散としたのを見て、あやかは呆れた様に溜息を吐いた。 教室を見渡せば、「お疲れさま、あやか」と労いの言葉をかける千鶴に居眠りモードに入ったアスナ、ネギが心配な木乃香と夏美。 あやかに事情を聞きに近づいて来るアキラ、のどか、夕映の3人。 後は興味なさげな桜咲刹那、龍宮真名、ザジ・レイニーデイ、四葉五月、葉加瀬聡美の5人だけ。「みなさんときたら、本当にもう……」 右頬に手を添え、もう一度溜息を吐く。 だがあやかは解っていた。 自分が横島の使徒になっていなければ、同じように後を追いかけたのだろうと。 でも、今の自分は違う。 もしも、あの人とネギ先生のどちらかしか助ける事が出来ない状況なら、迷わずあの人を取る。 もしも、ネギ先生の存在があの人にとって害悪にしかならないのなら、迷わずネギ先生を排除する。 もしも、ネギ先生を殺さねばあの人を救えないのなら、迷わずネギ先生を殺す。 後悔はする。罪悪感で夜も眠れなくなるかもしれない。 それでも、『今』の雪広あやかにとって、横島忠夫は何者にも代えられない。 ただ同時に、あの少年が敵対する事は、余程の事が無い限り大丈夫。 昨日一日の観察でネギの性向を判断し、あやかはそう確信もしている。 だからと言って、決して油断も侮りもしないが。 世の中、何が起こるかワカラナイ。 半年以上前の自分では、今の自分を想像出来ないように、何かの切欠でネギが敵になる可能性だって有り得るのだから。 ネギはあやかにとって非常に好ましい少年だが、だからこそ…… だからこそ、あやかは想う。「ネギ先生、お願いですわ。忠夫さんの敵にだけは、ならないで下さいませ」 小さく、本当に小さくあやかは呟く。 昨日からネギに向けていた母性溢るる慈愛の表情ではなく、横島忠夫の使徒としての冷たい顔で。 誰にも何にも代えられない、大切で至上な主を持つ、従者の顔で。「あやか、怖い顔してるわ。少し抑えなさい」 あやかは千鶴の言葉に、ハッとする。 思わず小さく呟いてしまった言葉が、周囲の者達に聞こえてしまった事に、迂闊さと情けなさの入り混じった後悔。 千鶴と夏美は少しだけ顔を顰めさせているものの、平然とあやかの言葉を受け入れた。 彼女達は知っている、使徒がどう言った存在なのかを。 それに夏美は右腕の問題もあって、生涯を通して横島について行く気満々だから、根っこの部分ではあやかと同じなのだろう。 千鶴もそうだ。彼女にとっても小さい子供は大切で慈しむ存在だが、それ以上に彼を求めている。 もっとも、特別彼にとって害悪で無いのなら、普通に慈しむであろうが。 それはあやかも同じ事で。 だが、アキラとのどか、それに夕映の3人は驚きに目を見開く。 そして木乃香は特に…… 「あんな、いいんちょ。ネギくんのこと、嫌いなん?」「いいえ、とても好ましい理想的な少年だと思っていますわ」「だったら! なんでそんな怖い顔……」 あやかはそっと木乃香の唇に指をあて、それ以上の言葉を吐き出させない。 彼女はこれ以上の失点を重ねる訳にはいかないのだ。 なんせこの場は学校、誰の目があるか分からない。 木乃香の唇に指を当てたまま、あやかはグルッと教室中を見渡す。 四葉五月と葉加瀬聡美は談笑しており、此方を見てはいない。 龍宮真名は面白いモノを見たとでも言わんばかりの笑みをあやかに向けている。 ザジ・レイニーデイは興味が無さ気だ。 一番脅威な桜咲刹那はいつの間にか教室を出た模様。 あやかはホッと胸を撫で下ろす。 今、教室に残っている者は、五月とザジを除けば何らかの形で魔法(裏の事情)を知っている者達だから。「私にとって、あの人以上に大切なモノなどありません。そういう事ですわ、このかさん」 出来るだけ小声で、それでいて木乃香、アキラ、夕映、のどかにはしっかりと聞こえる様に。 そして、そっと廊下の方を伺う。 あやかには感じ取る事は出来ないけれど、確かにソコに居るのだろう。 今、最もあやかが気をつけねばならない相手、桜咲刹那。 関西呪術協会の長の娘、近衛木乃香の護衛。 何故か護衛としての仕事は殆どせず、離れた場所から常に此方の様子を伺う少女。 だからこそあやかは警戒するのだ。彼女は護衛なんかじゃなく監視者だと。 その彼女に木乃香が裏の事情を僅かなりとも知ったと知れれば、横島が自分よりも強いと断言した西の長と敵対する可能性が出てくる。 いや、相手が西の長個人だったらまだマシだ。 下手をすれば、関西呪術協会そのものが敵となる可能性だってある。 今だ戦力足り得ない彼女では、その最悪な未来が到来した場合、何も出来ずにただ見ているだけとなってしまう。 その未来を手繰り寄せてしまう程の失態を、たった今犯しかけてしまった。 仮面を被らなければ。 何枚も何枚も、自分の家族足る者達の前以外では。「ネギ先生は危険……なのですか?」「これ以上、その手の会話は厳禁です。誰が聞き耳を立てているやも知れませんわ」 チラリと目だけ廊下に向け、夕映の疑問には答えず、これ以上の会話をピシャリと止める。 例えどれだけ勘違いされ様と構うものかと。 あの真っ直ぐな少年に、悪意を持っていると思われても問題は無いのだから。 自分好みの少年から嫌われるかも知れないと思うと、ちょっとだけ涙目だが。 そしていつもの様に優雅に微笑み、自然とアスナの隣へ。 くーくー、と幸せそうな笑みを浮かべながら眠る彼女。 お世辞にも駆け引き上手とは思えない彼女を補佐するのが、今の、そしてコレからの自分の役割だろう。 大切な大切な家族。永遠を共に歩む姉妹。互いの肢体で知らぬ所は無い仲。 口中の唾液の甘さも、秘裂から溢れ出る蜜の甘さも、その唇から漏れ出す声の甘さも全て知っている。 身体中のスミからスミまで、互いの指と舌が這わなかった場所など無い。 喘ぎ、悶え、愛し、愛され、愛する主に愛され合う。 唇を合わせ、身体を重ね、快感を貪り合いながら貫かれる。 愛してますわ、忠夫さん。 愛してますわ、アスナさん。 愛してますわ、千鶴さん、夏美さん。 アキラさん、のどかさん、夕映さん、アナタ達は、私達に愛される覚悟はありますの? そして、このかさん、アナタは……? 一瞬、ホンの一瞬だけ彼女達だけに見える様に、凄絶なまでに妖艶な姿を見せ付ける。 人ではなく、彼の為だけに生きる使徒としての姿。 ゾクリと身を竦ませる4人。 心から恐怖を感じた。 もう、普段の様に微笑んでいるあやか。その彼女に。 木乃香を除く3人は、あやかが何を言いたいのか分かった気がした。 自分達の覚悟を問うているんだと。 そして木乃香は恐怖で身を竦めさせる。 小学生の頃からの知り合いだった彼女が、どこか遠くに行ってしまった気がして。 幼い頃、あれだけ仲が良かった刹那みたいに、彼女達も自分の傍から居なくなる。 そんな、孤独と言う名の恐怖と不安に、再び心を苛まれる。 授業が終わり、休み時間になって早々、ネギの事なんて気にも止めずに居眠り。 あの子の事はあやかに任せておけば大丈夫。 私は次の時間が自習って事もあり、素直に睡眠欲に身を委ね、心地好いまどろみの中、懐かしい夢を見た。 ナギ達と旅をしていたあの頃の夢。 きっとネギと会ったからよね? そう思いながら、懐かしい人達と再会する。 ナギ、ラカン、アル、詠春、そして、ガトーさん…… ちょっと遠くにいる人、行方が知れない人、そして、死んでしまった人。 ナギが捕まえてきたネズミ、こんなんがメシかよと文句を言う忠夫。 アルが余計な事を言って、酷い目に遭うタカミチ。 笑って見ている詠春とラカン。 我関せずとタバコを吸ってるガトーさん。 みんなが揃って楽しそうにしている、最後の記憶。 ……彼らと沢山話したいことがあるのに、上手く言葉に出来ない。 そんな私の頭を、タバコ臭い手でクシャっと撫でる。 やだ、涙が零れそう……「なあ嬢ちゃん、今、幸せかい?」 ちょっとばかり考えてたのと違うけど、すんごく幸せなんだと言葉にしたい。 でも、声が出ない。それでもこの気持ちを、ガトーさんに何とか伝えたい。 だから私は何度も何度もコクコクと頷く。「だったら行けや。あのエロ野郎が嬢ちゃんを待ってるからよ」 気づけばガトーさんの周囲は暗闇で、さっきまで楽しそうにしていたナギ達は何処にも居なく。 ニッと渋く微笑むガトーさんが、タバコを持つ手で軽く手を振る。 暗闇がタバコの煙で白くなり、光が溢れ……そして……私は目を覚ます。 目を覚ました私は、ガバッと席から立ち上がった。 そんな私に驚いたのか、いつの間にか隣に居たあやかが私を下から覗き込む。「どうなさいましたの、アスナさん」 あやかが私の頬にハンカチをあて、涙を拭う。 気づけば涙が零れ、私はどうやら眠りながら泣いてたみたい。「ううん、何でもない。ちょっと昔の夢を見ただけだから。あっ、悲しい夢じゃないわよ?」 懐かしい、とても会いたい人の夢だから。 笑みを浮かべながら、私は心配そうに此方を伺うあやかに「だから大丈夫よ」と言って席に座った。「あれ、何か閑散としてない? 授業中よね、今?」「はあ、そうなんですの。みなさんネギ先生を追って行ったっきり帰って来ないんですのよ。まったく、何をしているんだか……」 ナギの息子か…… 上手く千雨ちゃんを誤魔化せると良いんだけど。「アスナさんはネギ先生が心配では無いのですか?」「んっ? 心配って……、まあ、何とかなるでしょ。アレぐらい自分で何とか出来ないようじゃ、この先マホラじゃやってけないわよ」 ゆえちゃんに簡単に答えを返しながら、何だか不安そうにしている子達を見る。 そんなにあの子が心配なのかな? アレでも教師になる位なんだから、そんなに心配する必要は無いと思う。 イザとなったら学園長やタカミチが何とかするに決まってるし、どうにもならなくなったら忠夫が出張るでしょ。 目下の子達にはアレでスンゴク甘いんだから。「だからね、そんな不安そうにしなくても大丈夫よ? 別にこのかが悪い訳じゃないんだしさ」「うん、そうやな……。でもウチは気にしてへんよ……」「って、今にも泣きそうな顔して言われても、説得力ないわよ?」「ああ、ちゃう、ちゃうんよ。あんな、アスナ、少し聞いても良い?」 上目遣いでオドオド。 そしてチラチラと私を見て、あやかを見る。 何? 私はそう思いながらあやかに視線で問いかける。 ゆっくりと、少し億劫な様子で首を振るあやか。 このかが何を聞きたいのか分からないんじゃなくって、あやかじゃ如何にも出来ないって事かな? 何だかアキラちゃんやのどかにゆえちゃんまで、ちょっと様子が可笑しいし、アンタ何かやったの? ……まあ良いわ。どうせこのかに聞けばスグわかるし。 そう思ったその時だ、背筋にゾクリと悪寒が走ったのは。 私は勢い良く椅子をガタンと引いて立ち上がり天井を見る。 そこから不吉な感じが…… 『だったら行けや。あのエロ野郎が嬢ちゃんを待ってるからよ』 さっきの夢で、ガトーさんが私に言った言葉。 もしかして、アノ人になにか……? 険しく顔を顰めさせる私をあやかが厳しい口調で問いかける。「どうしたんですの? あの人に何かっ!?」 ああ、あやかにはわかっているんだ。 例え今は感じられずとも、私の様子だけで忠夫に危機が迫っているって。「わかんない。でも、何かあったんだと思う」 それを聞いて、あやかも眉根に皺を寄せ難しい顔に。 他の娘達は、急に厳しい顔になった私達を見て何処か不安気。 このかがブルブルと震え、でも私はそんな事を気にする余裕は無く。「アスナさん!」 あやかは素早く鞄から除霊道具を取り出すと、外野が何か問いかけるのも無視して私の身体に装着させる。 今の自分では足手まといと言いながら、それでも少しでも役に立とうと。 自分の太腿に隠し持つ神通棍を私の太腿に、腰にお札の入ったホルダーを装着させる。「さあ、急いで!」 あやかにドンッと背中を押され、私は教室を飛び出した。 廊下に出ると階段まで走り抜け、一気に駆け上る。 途中、認識阻害の魔法が掛かっているのに気づくと、不安は最高潮に。 屋上へと出る扉をバァーンと乱暴に開ける。 瞬間、目に入る光景に、全身の血が凍りついた。 屋上の床に倒れ伏す忠夫の姿。 両脇にエヴァンジェリンと茶々丸さん。 彼の身体を中心に、流れる水の赤…… 血、アレは、血……よね……? 茶々丸さんの手には、忠夫の血に濡れた手拭。 ぐったりと動かない、タダオ……私の…… ヒュッと息を呑む音。私の喉奥からの音…… 何かが切れる。冷静にならなきゃいけないのに、目の前の光景が私からソレを失わせた。 エヴァンジェリンが慌てた様子で何かを囀る。 でも、私の耳まで声は届かず。 ドッ! 私の中の力が弾けた。 エヴァンジェリンは真祖の吸血鬼、ならば霊力は特効。 でも茶々丸さんは機械、霊力では不利。 私ではエヴァンジェリンと茶々丸さんの2人に勝つ事なんて不可能。 エヴァンジェリンがまともに魔法を使えなくてもだ。 そんな事は解っている。誰よりも!誰よりも! それでも私は使徒として大切な主を、女として愛する男を、傷つけたモノをユルセナイ。 スカートをたくし上げ、神通棍を右手に納める。 左手であやか謹製のお札の束を手に取り、霊力を最大限まで高めてエヴァンジェリンに向けて投げつけた。 エヴァンジェリンは少し焦りを見せるものの、それでも悠然と私のお札を魔法障壁で弾く。 いや、弾いたつもりだった。 例え弱まっていても真祖の力で出来た障壁。 漸く素人の域を脱した程度のあやかの札など防ぐに容易い、はずだった。 だが、見るからに力拙いその札が、私の完全魔法無効化能力を付与された霊力で増幅され、彼女の障壁を突き抜ける。「ぐっ! バカな! この程度の魔法札を防げないはずがっ!?」 10枚を超える『縛術』の札がエヴァンジェリンに纏わりつき、彼女の行動を阻害させた。 私は右手の神通棍に霊力を通し、彼女の体を目掛けて槍の様に突く。 だが、彼女の身体に吸い込まれる寸前、茶々丸さんの機械の腕にガギンッ!っと弾き返される。 くっ! やっぱ霊力じゃ彼女の相手をするのは不利か! 勝ち誇るでもなく、今だ困惑の顔を隠せないでいるエヴァンジェリンは兎も角、茶々丸さんの相手はマジでキツイ。 でも、だからって此処で引く訳にはいかない!! あとどの位の間、あやかの札がエヴァンジェリンの動きを止めていられるか分からない以上、ここで無理してでも一気に茶々丸さんを、倒す! 私は霊力から、魔力、気に力の質を換え咸卦の気に融合させた。 バシンッバシン!っと身体中の血管が弾け飛ぶ様な痛みに襲われながら、私は咸卦の気を高めていく。 無理な気の放出で制服のアチコチが破れ、身体のアチコチから血を滲ませる。 鼻から血が滴り落ち、私は乱暴に手でソレを拭い取った。 強引に霊力から咸卦法に切り替えた弊害だろう。 私の身体と霊脈はボロボロに傷つき、だけどそれでも私は止まらない。 私は彼女達から一旦大きく距離をとると、すかさず神通棍をエヴァンジェリン目掛けて投げつける。 咸卦の気が大量に込められたソレは、封印状態のエヴァンジェリンの身体では耐え切れまい。 当然その攻撃は茶々丸さんによって防がれるだろうが、その時生じた隙を私は見逃さない。 そう、茶々丸さんには守らねばならない相手が居る。 ならば、ソコを突くのが私に残された数少ない勝利への道。 ドガン! 大量の咸卦の気が込められた神通棍が、エヴァンジェリンを庇った茶々丸さんの腕を破砕する。 同時に私は咸卦の気で全身を強化し、一気に茶々丸さんの懐近くに。「主婦友達だと思っていたのに!」「アスナさん、アナタは勘違いをしています」 聞く耳なんて持つモノか! これは私に与えられた数少ないチャンス。 コレを逃し、更にエヴァンジェリンが自由になった瞬間が私の敗北。 ならば、此処で確実に茶々丸さんを、潰すっ!!「ちょっ、待てっ! 良いから少し話を聞けっ!?」 エヴァンジェリンの叫びは空しく戦いの喧騒に吸い込まれ、 私は忠夫と同じく全身を血で真っ赤に染め上げ、捨て身の攻撃を尚激しさを増していく。 愛する主が目を覚ます、その時まで。 後書き 無印連載開始から、早半年。 無印初期からご覧下さる方も、最近Rから見始めた方も、今年一年本当にありがとうございました。 来年もよろしくお願い致します。 2009.12.29 by uyryama