右手にハンズ・オブ・グローリー。 左手にサイキックソーサー。 次から次へと引っ切りなしに現れる、そんな悪の妖怪・魔族を蹴散らし倒す。 彼の名は横島忠夫。 横島除霊事務所の所長であり、この業界でもトップの実力を誇るゴーストスイーパーだっ! ゴーストスイーパー それは、魑魅魍魎と命がけの戦いを繰り広げる、死と隣り合わせの危険な仕事である。 この物語は、ゴーストスイーパー横島忠夫の、愛と青春の物語……………ではない。 GS日記 第3巻 タマモと美神 xx月xx日 雪じいちゃんから、霊波砲のこつを教わる。 咸卦法のおかげか、出力だけは高いが今一使いづらい。 周囲の物を無駄に壊してしまいそうになる。 要するに、破壊魔呼ばわりされてる雪じいちゃんよりも、私のほうが破壊魔って事よ。 あはは、笑えんわ。 忠夫が言うには、あの世界の技は、対人、対軍に特化していて、この世界では使い辛いだろう、だって。 対霊、対妖、対魔戦ではこの世界の方が、一歩も二歩も進んでいる。 神鳴流? 威力ありすぎで使えないでしょ? もっと相手の霊体だけに直接ダメージを与える技じゃないと。 あれは物理に偏り過ぎだね。 大体あの攻撃出力はどうみても、軍団規模への攻撃の様な気がするわ。 ようするに、戦争の為の技なんじゃないの? xx月xx日 戦い方に悩んでいたら、忠夫がサイキックソーサーや、サイキック猫だましを教えてくれた。 魔力や気ではなく、霊力を使えってことかな? 忠夫の、なんちゃって研究によると、霊力は反発しあう魔力と気の微妙な割合のブレンドした結果って言ってた。 適当な事を言ってるに違いないと思うんだけど…… 話を聞いてるだけなら、咸卦法に近い……と言うか、咸卦法? そういえば、この世界でも霊力使える人間って、あんまりいないのよね。 訓練さえすれば、誰でも使える魔力や気とは違うって事なのかな、やっぱ。 魔力はともかく、気はお義父さまが使ってたっけ。 気合でオラオラオラって悪霊しばき倒してたわ。 究極技法の上をいく難しさの、霊能力習得って事なのかもね。 xx月xx日 霊波砲の練習中、誤って見知らぬお爺さんにブチ当ててしまった。 不味いと思ったんだけど、雪じいちゃんが大丈夫って。 むしろボケが治ったって言ってたわ。 知り合いだったのかな? とは言え、今後は練習場所には気をつけなきゃ。 雪じいちゃんに任せとくと、いい加減で…… xx月xx日 令子おばあちゃんに神通棍の上手い使い方を学ぶ。 ついでに質問。 魔力について。 この世界では、魔力は魔族が使う力らしいわね。 私が生まれた世界の魔力とは別物みたい。 霊力の魔族版ってだけのようよ。 令子おばあちゃんは、たぶん精神力のことでしょ、だって。 令子おばあちゃんが言うには、お義母さまが昔、精神の力だけで令子おばあちゃんの霊力に対抗したらしい。 そういう事だと思う、って言われたわ。 あと最後に、霊力は魂の力だって。 でも忠夫は、魔力と霊力の力の質に大差は無い、って言ってる。 どうなんだろう…… それにしても、最近しょっちゅう家にいるけど、暇なのかな? 忠夫がいる時間には、あんまりいないみたいだけどね。 都内の一等地にある、とある除霊事務所。 そこでは春の陽光をたたえた青空なんて、知ったこっちゃないわ! とばかりに、二人の個性的で目を引く女性が、言葉のやり取りを交わして時間を潰していた。「今まで聞かなかったけどさ、どういうつもりだったの?」 金髪の髪を、後毛で九つ結わう個性的な女性、タマモがもう一人の女性に尋ねる。「簡単なことよ、あの馬鹿に重石をつけたってだけ。あんたらも分かるでしょ? アイツ、放っておいたらどっか行っちゃうわよ」 60過ぎにも関わらず、生涯現役と言わんばかりの女傑、美神令子はそう答える。 コーヒーを啜りながら、何でも無い風を装っている美神を見ながら、確かにね、っとタマモは思う。 あと何年かしたら、前いた世界に一度戻る、何て言ってる位だし。 人工幽霊一号という、帰る場所を用意しておけば、横島忠夫は必ずそこに戻ってくる。 そう信じてる訳だ。 西条と結婚してから、もう30年近く経つっていうのに、まだヨコシマの事が忘れられないなんて、ぷっ……。 クスクスとイヤらしく笑うタマモを見て、美神は頬をピクピクと痙攣させながら、青筋を立てる。「何が言いたいのよ」「さあね~」 おどけるタマモを見て、美神は怒り狂う……かと思いきや、今度は楽しそうに笑い出した。 一頻りアハハと笑うと、「そうかもね」っとぼそっと呟いた。「ホーント、アンタ丸くなったわね~」「いくつになったと思ってんのよ。もう60過ぎよ? そりゃあ、丸くもなるわ」 それを聞いて、タマモも面白そうに笑い出す。 タマモは思うのだ。 人は本当に駆け足で駆け抜けていく。 そして、あっという間に居なくなってしまうんだと。「それにね、タマモ。さっきの話だけど、重石つけとけばさ、今度また会うのが楽になるでしょ。 あー、今の旦那の事は愛してるわよ? でもね、今生はこれで満足しとくけど、次は次。 もう一度私が欲しけりゃ、それなりの根性見せて貰わないと。 それはともかく、横島クンったら死なない体になったみたいだしね。いる場所さえ分かっていれば、後は、ね?」 そう言って、タマモに向ってパチンとウインクする。「言っとくけどね、私達4人は、そう簡単にアイツを手放したりしないわよ?」「フフン。私を誰だと思っているのよ」「そん時は、誰になってるのかしらね?」 そのまま睨み合う二人。 部屋に霊気が満ち、放電してるみたいにバチバチと霊波がぶつかり合いながら、周囲の物を破壊し始める。 流石に不味いと思ったのか、傍観していた人工幽霊一号が口を挟んだ。「元オーナーもタマモさんもお止め下さい。このままでは事務所が破壊されてしまいます」 その言葉を聞くや、シューと放電の様なスパークが止まり、二人は静かにカップを持ち、冷めたコーヒーを啜り始めた。 ピピピと不意に鳴る美神の携帯。 美神は携帯に目をやる事無く一言、「コーヒーが不味いっ!」と言うと、勝手知ったる他人の家とばかりに洗い場に行き、コーヒーを入れ直し始めた。 自分の分と、ついでにタマモの分を入れ直すと、そのまま元の位置に戻り、コーヒーを啜る。 そして、思い出したかの様に「4人目って誰よ?」ボソッと一言。 美神が知る限り、今目の前にいるタマモに、現場に出ているシロ。 そして、現在横島と出ている愛子の3人のはず。 これだけでも十分、胸糞悪いってーのに、まだ他にもいるのっ!? 美神がそう思っても不思議では無いだろう。 そんな美神を見て、クックックッ、と笑うタマモ。 それを見て、少しだけ顔を赤らめる美神。 その反応だけで満足したタマモは、ボソリと爆弾を投下した。「アスナよ」 あれ、誰だっけ? どっかで聞いたような……、そう考え込む美神。 答えを出したくないのか、それとも本気で分かりたくないのか、いつまでも難しそうな顔をして悩みこむ美神に、タマモは止めを刺した。「だーかーらー、アスナだってば。私の可愛い義妹のアスナよ」 ブフゥーッ! と、口に含んでいたコーヒーを吹き出す。 そのままゲホッゲホッと咳き込む美神を見て、ケラケラとお腹を押さえて大笑いするタマモ。 そんなタマモを見て、往年の頃の気合十分なゴーストスイーパー時代に匹敵する、そんな睨みをタマモに浴びせる。 もっとも、タマモにはどこ吹く風だったが。「アスナって、明日菜ちゃんのことっ!? あの娘、まだ小学生でしょうがっ! あの変態っ! ついに堕ちるとこまで堕ちたかっ!!」 拳を握り締め、怒髪天を衝く勢いの彼女に、流石のタマモも恐怖で腰がひけてくる。 ガタガタと体が震えるのを必死で抑えながら、先程の言葉を訂正した。 タマモも横島を死なせたい訳ではないから。「い、一応言っとくけど、まだ手を出してないわよ?」「まだぁ~? って事は、手を出す気があるんかいっ!!」 必死で宥めたつもりが、逆に火に油を注いでしまったタマモは、最早恐怖のあまり、体が動かない。 ガタガタブルブル、体を震わせながら、気炎を上げる美神を見上げるタマモ。 ど、どうしよう…… と、そんな時、ちょうどというか、タイミング良く帰ってくる横島。 バタンとドアを開け、「たっだいまー。おっ、美神さーん、お久しぶりっす」と元気よく声をかけた。 ゴメン、ヨコシマ…… 当たり前の事だが、タマモの心の声は横島に届かず、横島は怒りでプルプルと震える美神を心配して近づいてしまう。「どーしたんすか、美神さん。どっか具合でも?」 もちろん横島は、100%善意からの言葉だ。 だが、今の美神にとって、それはまさに火に油どころか、ガソリンをぶっかけてリンボーダンスを踊る様なものだ。 当然、「きさまのせいじゃーーーっ! こんの性犯罪者がぁーーーーーーーーっ!!」 横島の顔面に、強烈な右ストレートを炸裂させた。「げふぉっ!」 なぜか血まみれになって床に転がる横島の頭を、美神は更にグリグリと踏んづける。「い、いたっ、なんでじゃ…、でも、懐かしくて、なんか開いてはいけない扉を開いてしまいそう……に。がくっ」 そのまま、どこか満足そうな表情で気絶してしまう。 少し遅れて帰って来た愛子が、「よ、横島くん!?」と驚いた声を上げる。「誰がこんな酷い事を……」 わかりきってるだろう、そんな疑問を口にしながら、彼を引き摺り連れて行ってしまった。 シーンと静まり返る。 美神は、コホンと誤魔化すように咳をし、「で、どういう事なの?」 と、詰問口調でタマモに問いかけた。「い、いろいろあんのよ、いろいろね」 今だ美神への恐怖が抜け切らないタマモは、コーヒーを一口飲むと、気を取り直したのか饒舌に語りだす。 とは言っても、コーヒーカップを持つ手は、プルプルと震えたままで、中身を零さないのが不思議な位ではあったが。「ヨコシマの体のこと、知ってるでしょ?」 タマモの問いかけに、美神は静かに頷く。 それを見て、タマモは話に戻る。「アイツさ、あの体維持すんの、すっごくキツイみたいなのよ。 ここに居るんならさ、私たちから力を吸収すればいいんだから、別に問題はないんだけど。 でもさ、他の世界に行くみたいじゃない? なんか遣り残した事があるみたいでさ、いくら反対しても聞かないのよ。 私達は仕事があるからついてけないしね。 アスナは連れてくみたいだからさ、他の女を抱く位ならアスナに任せよう、ってのが私達の総意よ」 横島くんの仕事はいいのかしら? そう思わんでもなかったが、美神はグッとその言葉を飲み込み、「性……魔術って言ったかしら。それを?」「そう、性魔術。スケベなアイツに相応しい魔術よね」「でも、明日菜ちゃんはまだ小学生よ?」「そうね、だからもう少し先の話。 何よりね、私達の中で一番ヨコシマを愛してるのが、あの娘よ。 そしてね、一番愛されてるのも、あの娘なのよ。 ちょっと、ううん、かなり悔しいんだけどね。 それにあの娘が抱かれる時さ、ついでにヨコシマの使徒になったらなー、って思ってるの」 タマモは言外に美神に、わかるでしょ? と言わんばかり。 ええ、わかるわよ。美神も無言のままタマモに答える。 彼女達は妖怪だ。 私達人間とは、生きる時間が違うから。 せっかく出来た可愛い妹を、手放したくないのだろう。 上手いことに横島くんが、人間辞めてたせいもあるんでしょうね。 普通はそんな簡単に、人外の存在になる事を奨めれないんだけど。 美神はそう思いながらも、彼女の企みを止める気にはなれなかった。 だって、自分が二十歳の頃なら、迷わず彼の使徒となって同じ時間を歩んだかもしれない。「妙神山に行きなさい。そこでヒャクメって神様に会って、横島クンの体を視て貰うのよ。 ついでに明日菜ちゃんもね。なんて言ったかしら、魔法……」「魔法無効化能力よ。アンタ、もう痴呆でも始まったの?」「失礼なこと抜かすなっ! 私はカオスのじーさんと違うわよっ! まったく……。そう、魔法無効化能力。それもキチンと視て貰いなさい。 色々と疑問が多い、レアな能力よ。 この際、キチンと調べてきなさい」 美神はそこまで言うと満足したのか、スタッと立ち上がると、そのまま玄関へと向う。「あら、もう帰んの?」「ええ、そろそろ旦那が帰ってくる時間だわ」 こちらを振り返らず、適当に手を振りながら事務所から出て行く。 そんな美神の背中を見ながら、「有閑マダムになっちゃって……」 タマモはそう呟くと、横島の所に向った。 美神に言われた事を実行に移す為に。 横島の事はともかく、アスナの事が心配だから。 タマモはアスナが可愛くて仕方ない。 だからこれから先も、ずっとあの娘と一緒にいたいのだ。 きつねヨーカイから始まり、タマモお姉さんになって、タマモお姉ちゃん。そして今はタマモ姉さん。 次はなんて呼ばれるのかしら。 そう思うと、ワクワクドキドキ。 それに、アスナが喘ぎアイツを求める声、それを想像するだけで……。 タマモは横島に内緒で、アスナにこっそりと性教育を施していた。 前世から続く知識を使い、様々な性技を仕込んだり、こっそり隠れて自分達の情事を見せたりもしている。 いつか、二人一緒にヨコシマに犯されたい、そう思っていたり。 抵抗する私たちを乱暴に犯しつくすヨコシマ……、想像するだけで、何度も絶頂しそうになる。 ベットでは乱暴にされるのが好きな私、特に何も考えていないシロ、ロマンチックに抱かれたい愛子。 アスナはどんな風に抱かれるのが好きなのかしらね。 可愛いアスナ、愛らしい私の妹のアスナ。 こんな事を考えるくらい彼女が大切なタマモは、アスナの能力をキチンと調べると言う事に、当たり前の様に賛成だ。 だからタマモは考える。 一刻も速く、妙神山とやらに二人を向わせようと。 xx月xx日 今度のお休みに、妙神山って所に行く事になった。 令子おばあちゃんに、行った方が良いって言われたそうだ。 忠夫の事が心配なんだね。 私もついでに見て貰えって。 確か、伝説の修行場って言ったわよね。 ちょっと不安。 後書き アスナは斬魔剣や弐の太刀を知りません。 神鳴流については、多分にアスナの偏見です。