荒涼とした大地に、血塗れで這い蹲り、死線を彷徨い苦しみの声を上げる者達を、一人づつ、確実に止めを刺していく。 一人逃せば、次は何倍にもなって戻ってくる。 そうやって、少しづつ苦戦する様になっている今を鑑みて、確かに逃がす訳にはいかないのだ。 だから心を凍らせ、顔から表情を失くし、一人、また一人と殺していく。 手に残る肉を切り裂く感触、耳に残る断末魔の叫び、網膜に残る怨嗟の表情、いつまで経っても慣れる気がしない。 殺すたびに全身を巡る魔力に、幾ばくかの安心と諦念を感じつつ殺していると、最後の一人に目がいった。 俺の命を狙う戦神に仕える修道女。 長い髪を地面に扇状に広げ、自らと、そして同僚の血で真っ赤に染め上げた、今だ幼さが抜けきらない可愛らしい顔。 魔力と精気に溢れる肢体、戦神の紋章の入ったスリットのある修道服から覗く生足が艶かしい。 そんな彼女が、死の恐怖で震え、だが今だ捨てぬ神への信仰心からか、それでも俺を睨みつけてくる。 淡く膨らんだ胸が、鼓動と激しい息遣いの所為か、ドクン、ドクン、と大きく上下に揺れていた。 ゴクッ、咽が鳴る。 戦いで魔力と体力を使い切った今の俺には、彼女の持っている魔力が咽から手が出るほどに欲しい。 だが、それだけはしたくない。 例え人殺しになっても、それだけはしたくない。 でも、どうせ殺すのだから、少しでも自分の糧とするのは間違いじゃない。 いいや、むしろそうするべきなのだ。 だが、でも、しかし…… グルグルと脳裏を巡る。 元の世界から持ってきた倫理観。 この世界に来てからの現状による言い訳。 横島忠夫として捨てられないモノ。 沢山、沢山、脳裏を巡る。 そんな中、最早懐かしいと言ってもいい女達の顔が過った。 その顔に、郷愁と、遣る瀬無さが胸を突く。 帰りたい、帰してくれ……、俺の世界に、あの、暖かかった世界に。 殺したくない、でも死にたくない。俺は死ぬ訳にはいかないから。 俺の子供として生まれ変わる筈のルシオラの為にも、余計な事だったが、俺に神核を押し付けて逝ってしまったイオの為にも。 だから死ぬ訳には……、いや、死ぬ……のはイヤだ……、おキヌちゃん、美神……さん……、たすけて…… 知らず、涙が頬を伝う。 気づけば眼前に倒れ伏す女の髪を掴み、衣服を剥ぎ取っていた。 悲鳴を上げる女。泣き叫びながら俺に罵倒をぶつけ、神の名を叫び、来るはずの無い助けを求める。 クックックッ……、咽からでる忍び嗤い。 昔の俺なら眉を顰め嫌悪する嗤い。まるで、性質の悪い魔族の様な嗤い。 俺は、嗤いながら潤みの一切ない女の身体の中心に、いきり立つ肉棒を突きたてた。「ひぎぃぃぃぃッッ!! あがっ……、身体が、さける……、やめて……壊れ、る……ううぅっ、あ、我が神、マーズ……テリ、ア……」 邪神の使徒と蔑んでいる者に陵辱されるのは、どれほどの苦痛なのだろうな。 暗く澱んだ愉悦が俺の全身を走り抜ける。 性的な快感など余り感じはしないが、確かに俺は悦んでいた。 ギチギチと硬い音を立てる女の膣壁が、性魔術から齎される強制的な快楽で、少しづつ潤んでくる。 涙を流しながら、処女だった少女が、一歩一歩女になっていくのを見るのは、とても快感だ。「ふぁああ! あ、ああっ……あ、こころが……からだ……が、おかされて……ああっ!」 だが、それももう終わり。この少女は、ここで俺に全てを喰われてしまうのだから。 だから、せめて最後くらいは、この少女の儚くも短い人生を彩る様に、性的に乱れながら死ぬがいい。 激しく腰を女の股間に叩きつける。 髪を振り乱しながら喘ぎ泣き叫び、それでも表情は牝の悦びに打ち震えていた。 最早神の名を口にする事さえなくなった女の甘い蜜の香が辺りに充満する。「ああっ、ふぁああ、あ、ああっ、お腹が、突きぬけ……、もう、耐えられ……ああっ!!」 子宮目掛け射精する。気が巡る。魔力が巡る。精気が巡る。「あ、熱い、わ、私が、邪神の使徒の、子を孕む……の……? い、いやぁああああああっ!?」 ビクン、ビクン、と何度も痙攣するように身体を震わせ、少女は恐怖の絶叫を放つ。 俺は彼女の胎内から肉棒を抜き出すと、放心したように虚空を見つめブツブツと呟く少女に、最後の言葉をかけてやる。「安心して良いぞ。君は、俺の子を孕む事はないからさ……」 俺はそう言うと、そのまま彼女から視線を外し、後ろを向いた。 背中から聞こえてくる安堵の溜息と、掠れた啜り泣きが耳を突く。 それを聞きながら身なりを整え、身体中を巡る精気に満足の笑みを浮かべた。 文珠に換算すると10個。それ程の魔力を回復する事が出来たから。 だから、ここで1個くらい彼女の為に使ってやっても問題はないさ。 そう思いながら『少女だったモノ』に目をやる。 既に少女は啜り泣きを止め、生命の輝きを失わせ、目の辺りが窪み、骨と皮だけになっていた。 痛みはなかったはず……、快楽と、そして安堵の中で死んだはず…… それでも、俺が強姦して殺した事に代わりなどある筈もなく。 だから、せめて、この死体を他者の目につかないよう…… 俺は『炎』の一文字の入った珠を少女だったモノの胸元に置くと、逃げるように、いいや、その場から逃げた。 炎の柱が天を焼くのを見ないように、決して背後を振り返らないで、自分の罪から目を逸す。 頬を伝う涙を拭う事など許されず、いいや、むしろ泣く事さえ俺には許されてなどいないのだから。 ネギま!のほほん記 第15巻 追憶 ハッと目を覚ました。 横島は荒く息を吐き出しながら、掛け布団を退け立ち上がる。 キョロキョロと忙しなく周囲を見、耳をすませた。 見知った場所。自宅のリビング。すぅー、すぅー、と少年と少女の穏やかな寝息。 一瞬の間を置き、フゥ~、と安堵の溜息を零すと、寝汗で濡れた頭をボリボリ掻いた。「夢……か……」 小さく震える様な声でポツリ。 最近はとんと見なくなった夢。 原因は解っている。 ちょっと前からネギと木乃香に話している昔話の所為だろう。 忘れたい、でも忘れてはいけない。 かつて自らの糧にした者達の事を。 犯し、殺し、奪い尽くした者達の事を。 その事に後悔は無い。アレは勝者の正当なる権利。 弱肉強食。弱ければ殺され、強くても油断すれば喰い尽くされる。 それがアノ世界の理だ。だから罪悪感はあっても、後悔は無い。 それでも、この子等がソレを知れば、俺の事を軽蔑するのだろうな…… 横島は、眠る木乃香とネギの顔を見ながら嘲りを自分に向けた。 それは正しい反応なのだろう。 それこそが正しい反応なのだろう。 でも、それをしなければ、今、俺は此処に居なかった。 野垂れ死に、俺の中で転生の時を待っていたルシオラごと消滅した可能性もあった。 命をくれたイオの想いを無下にする訳にもいかなかった。 知らずに見守っていてくれたリューシオンを裏切る事になった。 何より…… 見えぬ誰かに言い訳をしながら、横島は寝汗で濡れて不快なシャツを脱ぎ捨てる。 そこらにポイッと放り捨て、自分の部屋に戻り着替えを済ませると外に出た。 チラリと携帯の時計を見る。時刻は夜の11時過ぎ。 外は月明かりに輝き、雲ひとつ無い星空。 ヒンヤリとする夜の空気に肌がピリピリとする。 寝汗に濡れた身体に、冷たい夜風が心地よく感じた。 遠くに見える大きな木、神木を何となしに目指して歩き出す。 それは、横島の霊感による物だったのかもしれない。 神木、ここでは主に世界樹と呼ばれている大きな木の麓近くまで来た横島は、そこで見知った2人の少女を見つけた。 彼のファンで女でもある佐倉愛衣と、彼女が姉とも慕う高音・D・グッドマン。 高音は操影術の訓練を、愛衣はそんな高音の付き添いをしているようだ。 横島は、自分を嫌っている高音に出来るだけ気づかれぬよう愛衣の傍に行くと、「よっ! 精が出るな」と小さい声で挨拶をする。 愛衣は一瞬だけ驚いた表情を見せるも、すぐにパ~っと満面の笑み。 特徴的なツインテールの髪をピョコンピョコン揺らしながら、横島に駆け寄った。「お兄様! どうしたんです、こんな夜更けに?」 本当に嬉しそうに無邪気な笑みを向けてくる。 その陽性の笑みは、気分が落ち込み気味の横島にはとても眩しく。 落ち込んでいた心が晴れわたる様な気さえした。「ちっと夢見が悪くてさ。気分転換に散歩してんだよ」「どんな夢を見たんですか?」「ん、昔の……な」「そう……ですかぁ」 昔……、そう言った時、横島の顔が一瞬だけ歪んだのを、愛衣は見逃さなかった。 キュンと胸が苦しくなる。 彼に抱かれてからというもの、ただの憧れの対象でなく、男としても見ていた愛衣だったが、一瞬だけ見せた辛そうな横顔に、激しく母性を刺激された。 愛衣は横島の右手を両手で包み込むと、そのまま自分の左胸に押し付けた。 いつもの彼に戻って欲しい、そんな想いを込めて。 ふにゅん、柔らかい感触が横島の手に伝わる。 小さな乳首がツンと尖がり、手の平をコリコリくすぐる。「愛衣ちゃん……?」 エロな横島も、突然のこの行為に驚き、戸惑いを見せる。 愛衣はそんな横島にクスリと笑った。「元気、出して下さい。そんな暗い表情は、お兄様らしくないですよ」 少しだけ、本当に少しだけだが、横島はカチンと頭にきた。 何も知らない奴が、適当な事をぬかすな、と。 だが、すぐにそんなガキ臭い思いはふっ飛んだ。 愛衣の表情だ。慈愛に満ち、まるで母親のような顔じゃないか。 まだ10代前半の子供に、こんな顔で気遣われる自分って一体…… 先程までとはまた違った意味で、落ち込みを見せる横島。 カッコわりぃったらありゃしねー。 せめて自分を慕ってくれている女の前では、カッコよく道化でいよう。 道化がカッコいいかは兎も角、横島は精神的な立ち直りをはかると、今だ愛衣の胸を押し潰していた手を、ニギニギと動かし始める。 年相応に膨らんでいる胸が、ぐにゅぐにゅ形を変え、愛衣に官能的な快感を与えた。「やぁんっ」「ここか? ここがええのんかっ!」 愛衣の可愛い声に下半身が反応した。 沸々と湧き上がる煩悩。 横島は素早く愛衣の背中に回ると、後ろから抱きしめるように胸を揉みしだいた。 きゃー、きゃー、と嬌声を上げながらイチャつき戯れる2人。 既に2人の脳裏からは、傍で修行中の高音の事は忘却の彼方。 動きを止め、言葉無く真っ赤な顔で2人を凝視する高音に一切合切気づかない。 そんな高音を余所に、横島の指は布越しに愛衣の胸の先端をクリクリ刺激して止まない。「お、お兄さまぁ、ダメですよ~、ああんっ!? んぅ……んっ……あんっ……も、もうっ……いっ……!!」 愛衣の朗らかで陽性の声が、段々と艶めいた声に変わってくる。 くぐもった喘ぎに、横島の股間にぶら下がる分身が熱く滾り、彼女のお尻にツンツンとぶつかる。 もちろん愛衣は自分のお尻を突く硬いモノの正体を良く知っている。 自分を切り裂くセックスアピール。彼女もまた、下半身が熱くなりジュンと潤んできた。 口から漏らす吐息は熱く切なく、自らの唇を半開きのまま彼に近づける。 彼女の背中から乳首を刺激していた横島は、そんな愛衣の唇に釘付けになる。 先程まで彼の胸に澱んでいた黒い感情が、次第に桃色なエロ思考に塗って換わった。「お兄様……」「愛衣ちゃん……」 名前を呼び合う2人の唇が重なり合う寸前でピタリと止まり、舌を突き出し合いピチャピチャと絡め合う。 執拗なまでに舌を舐め合う2人。そんな2人の間からポタポタと地面に零れ落ちる唾液。 そうはさせじと、零れそうな唾液を啜り合う2人。 段々と絡み合う舌が2人の口中に吸い込まれ……「いっ、いい加減にしなさい!」 寸前で、影の剣が2人の間を切り裂いた。 横島は軽く愛衣を突き飛ばし、影の剣の攻撃を避ける。 口の中に残った愛衣の唾液を味わいながら、高音の存在を忘れていた自分に苦笑い。 それは愛衣も一緒だったようで、2人は目を合わせるとプッと吹き出した。「メメメメイ! いいいいいいいいつの間に彼とそんな関係にっ!?」「お姉さま、落ち着いて」 2人の間に流れていたエロスな空気は、愛衣が姉とも慕う高音によって崩された。 愛衣と横島の関係に困惑した高音は、目をグルグルと回しながら愛衣に詰め寄る。 そんな高音の反応は、初めて横島と身体を重ね合わせた時から分かり切っていたこと。 愛衣は穏やかに微笑みながら高音を宥める。「お兄様……、横島さんは、お姉様が考えてる様な邪悪な人じゃありませんよ。エッチでスケベな人ではありますけど……」「それは充分、邪悪ですっ!!」「お姉様? 本気ですか? エッチだから邪悪って、男の人はみーんなスケベなものなんですよ?」 横島しか男を知らないクセに、やたらと男について詳しそうに語る愛衣。 確かにまったく男を知らない高音と、一人とは言え男を知っている愛衣とでは、決して越える事のできない壁がある事は確かだが。 しかもやたらと説得力を感じてしまった高音には、反論する言葉など見つからず。 彼女は妹分として可愛がっていた愛衣が、自分が知らない間に大人の階段を昇ってしまった事に絶望する。 そして、その絶望を作り出した横島は、やはり邪悪な存在なんだと改めて認識した。「横島忠夫っ! 私と勝負しなさい!! そして私が勝ったら、もう2度とメイに手を出さないと約束しなさい!!」 それは余りに身勝手とも言える。 いつもの横島なら、色々と酸いも甘いも経験した横島なら、適当な理由をつけてこの場を逃げ出しただろう。 いや、昔の、ただの横島忠夫であってもそうしたに違いない。 だが、今ここにいる横島忠夫は、少し違った。違うのだ。 昔の夢に引き摺られ、我を失くしていた頃の横島が、ホンの少しだけ顔を見せている。 人として持っていたモラルを捨て去った横島忠夫。 邪神の使徒と呼ばれ、神々とその僕達から命を狙われ続けた男の苛立ちが、「ああ、いいぜ」 暗く冷たい言葉を吐き出した。「えっ? お兄様……!?」 初めて見る横島の姿に、驚きの声を上げる愛衣。 横島はそんな愛衣を横にどけると、高音の居る広場の中央に足を進める。 そして彼女の目の前に立つと、クイッと手を振り、彼女を挑発した。「なあ、実力差があるの解ってるよな? それでも戦るのか?」「フフフ、余り私をなめてもらっては困りますね」 彼女とて、初めて彼を敵として認識してから、苛め続けてきた身体と業は伊達じゃ無い。 ひたすらに極めんとした操影術にも自信がある。 彼には今だ及びはしないものの、やりようによっては今の自分でも勝てるはず。 操影術はそれを可能としているはず。「この影使い高音の近接戦闘最強モードで、アナタを蹂躙させて頂きます!」 高音の背後から……、いいや、恐らくは影の中から使い魔らしきモノが出現する。 人型で上半身だけの白い仮面を被った影の使い魔は、高音を懐の内に入れると、身体中に生えていた影で出来たムチを横島目掛けて槍の様に突き出した。 それは横島の全天周囲に万遍なく降り注ぎ、決して彼を自分のキリングフィールドから逃がさない。 その攻撃は、例えばアスナや刹那といったレベルならば、致命的……とまではいかないが、決して浅くは無いダメージを与える事が出来るほど。 だが、逃げに関しては全次元最高最強とも言える横島だ。あっさりとかわし切る事など容易いはずだった。 そう、容易い筈なのに、しかし横島は動かない。 目の前に迫る影の槍を、他人事の様に見ているだけ。「お兄様っ!?」 愛衣の焦燥の叫び。 このままでは槍に貫かれて大怪我をしてしまう。 高音も高音で、ピクリとも動かない横島に、訝しげな視線をむける。 彼女だって横島を傷つけたかった訳ではなかったのだ。 例え邪悪だと断じていても、そこは立派な魔法使いを目指す魔法生徒。 精々が、ボコボコに叩きのめして改心させる事が目的だったのだ。 だが、このままでは命に関わってしまうのでは? 高音の胸に不安が過る。でもその瞬間、横島の手が光輝く。 彼女はそれを霊力の光なのだと思った。彼の技の一つ、ハンズ・オブ・グローリーだと。 しかし、横島の手の輝きは、ハンズ・オブ・グローリーではなかったのだ。 ハンズ・オブ・グローリーはゴーストスイーパー横島忠夫の象徴と言ってもいい技。 そんな技を、今の横島が使う訳が無い。 今の彼の光り輝く手の中には、一個の文珠。刻まれた文字は『剣』 故に、その一瞬後に彼の手に納まった光の粒子を放つ霊力で出来た剣は、ハンズ・オブ・グローリーの出力を遥かに超えて。 迫り来る影の槍に込められた力など、それに比べれば塵芥に過ぎず。 唯の一振り。それだけで全ての影が吹き飛んだ。 大口を開けて呆然とする高音。 例え避けられても、例え防がれても、例え切り裂かれようとも、こんなに簡単に、こんなにあっさりと自分の技が破れるとは思わなかった。「どうした? もう終わりか?」 嘲るような言葉。 横島は、立派な魔法使いが、嫌いだ。 本当の立派な魔法使いではなく、魔法世界のプロパガンダに乗せられた者達が、どうしようもなく嫌いだ。 それは一種の宗教染みていて、横島をイラつかせる。特に目の前の女の様に、ソレを信じきってる奴は。 もちろん、それを目指す者達の多くが、本当に正義を目指している善良な人達なのだとは解っていた。 シャークティも、愛衣も、立派な魔法使いを志す者だから。 何より自分のダチのナギは『立派な魔法使い』だ。 でもだ、やはりそれでも嫌いなのだ。 自分の命を狙ってきたマーズテリアの狂信者どもを思い起こされるから。 何故貴様等はそんなにも神の言う事を信じられる。 最初の侵略者は貴様等だろうが。なのに、何故、彼女を邪神と断じるんだ。 何故、何故、何故!「これ程の力を持ちながら、アナタはっ! 何故、あの様な卑怯極まりない手段をっ!!」「……何のことだ?」「ラプシィア・ルンを殺した時の事です! 何故、不意打ちなどと言う手段を、アナタは!!」「バカか? アイツは、ラプシィア・ルンは、俺如きが正面切って戦っても勝てる相手じゃねーんだよ」「な!? た、例えそうでも、私達はっ!」「殺るべき時に殺らねば、次に殺られるのは……自分だ」 光り輝く剣先を高音に向けた。 それを見て、高音は初めて恐怖を覚えた。 彼の目が、あの時ラプシィアを殺した時の様に、酷く暗く澱んでいたから。 口元の歪みが、あの時の様な嘲笑だったから。 身体が恐ろしさで硬直する。だが、高音はすぐに気を取り直すと、自らを覆う影の鎧を硬くする。 次の瞬間、自分を襲うであろう衝撃から身を守るため。 この最強モードであれば、彼の攻撃など防げる筈だと強く信じて。 だが、次の横島の行動は、高音の予想の斜め上をいく。 彼の右の手に納まる光の剣が消えたのだ。「何のつもりですか! 私を倒すのに剣などいらないとでも言うつもりですかっ!!」「いんや。メンドイから簡単に終わらせようと思ってな」 それだけ言うと、横島は再び文珠を握り締める。 今度は2つ。刻まれた文字は『加』『速』 ブオン! 風を貫く轟音。超加速とは違い、真実速度を上げる。 音速の壁をぶち抜き、文字通り目にも止まらぬ速さで高音の目の前まで移動する。 そこでピタリと一瞬だけ動きを止めると、突然目の前に現れ驚く高音に、彼女が嫌っている軽薄で凄惨な笑みを見せた。 恐怖で身が縮こまる高音。でも、再び硬直で体が凍ると同時、初めて間近で見た横島の顔に、何故だか頬がポッと赤く染まった。 それは果たして恐怖から来る現実逃避だったのだろうか? それとも、初めて男を間近で見た所為なのだろうか? どちらにせよ、ここで初めて高音は、横島を明確な敵としてではなく意識した瞬間で有った事は確か。 だが次の瞬間、またもや彼の姿は消えた。 どこ? どこに消えたの? 高音が首を振り、彼の姿を捜そうとしたその時、ズガガガガッ!! 衝撃波が彼女を襲った。 それは横島がした音速での移動により生じた副産物。 だが、その破壊力は中々に凄まじいものがある。「ヒッ!?」 目の前に迫る圧力に、高音は息を吸い込み恐怖の悲鳴を上げた。 空気の壁が彼女の身体にぶつかり、女の柔な体が宙を舞う。 二転三転と体を舞わせながら天高く昇り、重力を思い出したかの様に地に落ちた。「カハッ!」 地面に叩きつけられた衝撃で、肺に吸い込んだ空気を吐き出す。 高音が謳う使い魔の絶対防御による恩恵か、彼女の身体に直接的なダメージは一切ない。 だが、天高く舞い、地面に叩きつけられる恐怖で意識が一瞬遠のく。 高音が操る人形の使い魔は、彼女が制御を手放した事により「オオオオオ……」断末魔の叫びを吠えながら、徐々に存在感が薄れていった。 同時に彼女が身に纏う黒い衣服も存在感が薄れていき…… その事に気づかぬ高音は、上半身を片手で支えながら起き上がると、片膝をくの字に曲げて横島の方に身体を向けた。「くっ……、これ程の力を持ちながら、アナタは、どうして……?」 悔しげにそう言う高音だったが、その相手、横島は片手で口元を押さえながら、ポタポタと血を零す。 私の攻撃が当っていたのかしら? そう思い、少しだけ勝ち誇る高音だったが、愛衣の「はわわわわ」と慌てふためいた声に、ようやく自分の状況に気づいた。 彼女の衣服は使い魔で出来ており、当然制御を手放せば消える訳で。 戦いの後で火照った身体に、汗の雫がとってもチャーミング。 ぷるんと揺れる釣鐘状に整った胸、ツンと尖った緋色の乳首。 片膝を上げている所為か、彼女の茂った先にある禁断の領域も、横島の位置からはバッチリ丸見え。 横島はダクダクと鼻血を流しながら、顔を俯かせてガクガク震える高音に自分のコートを掛けてあげると、「ワイの……負けやな……」 と負けを認めた。 怪我一つ無い高音と、今だ血が止まらず、ポタポタと地面を赤く濡らす横島では、勝者がドチラなのかは明白だろう。 しかし高音は勝利を驕らず、目に一杯の涙を溜めて横島を見上げると、「はう……、せ、責任、取ってくださーーーーーいっ!!」 と叫び、「ふぇ~ん」と泣きながら走り去ってしまった。 残ったのは、首の後ろをトントンして鼻血を止めている横島と、高音の去った方向と横島をキョロキョロ交互に見ながら迷っている愛衣。「愛衣ちゃん、行ってやって」 と横島が愛衣に促すと、彼女は彼の頬にチュッとキスをする。「はい。おやすみなさい、横島さん」「おやすみ、愛衣ちゃん」 今度は横島が愛衣の頬にチュッとキスをした。 嬉しそうに目を細める愛衣だったが、ふと何かを思い出したのか横島に抱きつくと、「さっきのお姉様との約束ですけど、お兄様が私に手を出せなくなっても、私がお兄様に手を出しますから……」 そう言って、唇を横島に押し付けた。 ちゅ~っと音がする程吸いつき、そして、ちゅぽんっと矢張り音を立てて離れる。 2人の間に架かる銀の橋がプツンと切れると、愛衣は名残惜しそうにしながら高音の後を追った。 ピョコン、ピョコンと揺れる『赤』い髪のツインテール。 似てはいないのに、何故だか『彼』を思い出した。 きっと、それは赤い髪の所為だ。 遠ざかる愛衣の背中を目で追いながら、横島はやたらと好戦的な気分になっていた自分を恥じた。 そうして思い出すのだ。あの30年に渡る旅路を…… 『あの』世界に落ちて、最初の半年は幸せだった。 好きな女と抱き合う日々。初めての女の味。愛した女との旅は、今思い出しても幸せだった。 でも、女が逝き、その後の神格者となっての10年は、邪神の使徒として追われる10年。 人としての大切な何かを捨てなければ生きてはいけない時代。 襲い掛かってくる戦の神の信徒達を殺し、奪い、支配し、犯し続けた。 良いことなど何一つ無かった。それまでが幸せだった分、苦しかった。帰りたかった。 次の10年は元の世界に帰る為の捜索の10年。 絶望と焦燥に心が磨り減っていく、諦念の時代。 元の世界へと帰る道筋すら見えず、全てを呪った。 最後の10年は全てを諦め惰性で生き続けた10年。 見るモノ全てを憎み、呪い、だけど、その最後の1年は、自分を取り戻す切欠の1年となった。 それは赤い髪の女との出会いから始まった。 自分を神格者にした愛する女、イオ。 そのイオの仲間であった古い神々の復活を聞いた彼は、何となしに彼女と出会ったあの場所へと向った。 そこへと向う途中、何かに導かれるよう行った封鎖地で、柱に封印されていた女を見つけた。 それはイオとリューシオンの導きだったのかもしれない。 美しく凛々しい横顔。紅く長い髪。たわわに実った胸。 彼は迷わず彼女を封印から解放した。 そして、続けざまに彼女を抱いた。 性魔術で死にかけている彼女に生命力を分け与えるためだったが、それ以上にその女を欲したのだ。 彼女の女を貫いた瞬間、まるでイオと睦み合った時の様な快感と安らぎを憶えた。 イオが逝ってからの苦しかった30年間、その長い旅路の中で、唯の一度も感じなかった安らぎを。 夢中で腰を振った。女の喘ぎ声に心が蕩けそうだった。 何度も女の子宮を突き上げ、心行くまで女の胸を弄び、口の周りがベトベトになるまで唇を貪った。 それは凄まじいまでの甘美な時間。 だが、その甘美な時間にも終わりが来る。 最後とばかりに思いっきり彼女の膣内を切り開き突き上げ、妊娠してしまえとばかりに、子宮目掛けてたっぷり精を放つ。 ビクビク痙攣して止まらない女の胎内から肉棒を抜き出し、名残り惜しげに最後のキスをした。 女に代えの服を渡し、後ろを向いて自分の着替えを済ませる。 そして、自分の着替えが終わるや否や、彼女の着替えシーンを拝ませて貰おうと女を見た。 …………女は居なかった。代わりに男が居た。 同じ赤く長い髪。まるで兄妹の様に似通った美しい横顔。平べったく筋肉質な胸。股間から生えるピー。 あれ程の絶望は、苦しみの30年間でも最大最悪だったと、胸を張って言える横島がいる。 だがその後、自分以上に感情を失わせていた彼と過ごした時間は、とても楽しく、自分を取り戻すに充分な時間。 最後は彼の為に自分を犠牲にしかけたのだから、どれだけ幸せだったのか解ると言うモノだ。 彼の、神殺しセリカ・シルフィルの周りに居る女性陣に手を出す気が起きない程に…… きっと、彼は神殺しの肉体、女神アストライアに一目惚れしたんだろう。 例え中身が男だと分かってからも、きっと好きなままだったのだ。 だから彼と彼女の物語を見て、激情が湧き、横島忠夫に戻れたのだ。 あの悲しい物語に、最後はハッピーエンドで終わって欲しかったのだ。 惚れた女の一杯の笑顔が見たかったのだ。 横島は否定するかもしれないが、例え中身が男でも…… ……今思い返してみれば、あの世界の30年は不幸な事ばかりでは無かった。 罪を犯し、罪悪に塗れ、辛いこと、悲しいこと、沢山あった。 でも、同時に人を好きになった。人を愛した。親友が出来た。仲間が出来た。 そんな沢山の幸せだったことも忘れて、イラつき、八つ当たりをしていたのだ。 愛衣のお陰で、その事を思い出せた。 最早見えなくなった愛衣に「あんがとな、愛衣ちゃん」と、小さくお礼の言葉を言う。 胸に澱んでいた暗く濁った何かがキレイさっぱりになった気がする。 横島は、「うおっしゃーっ!!」っと気合を上げると、我武者羅に走り出す。 無性に自分の使徒達に会いたくて仕方無い。 セリカと、その使徒達の様になりたい。 初めてそう思った。 そして、初めて愛する女達を、自分の使徒として迎え入れたい。そう強く思った。 孤独で長い時間を共に過ごす。それはきっと、とても楽しいに違いない。 脳裏に浮かび上がる大切な女達の顔。 冥菜の顔が浮かんだ。千鶴の顔が浮かんだ。夏美の顔が浮かんだ。 アキラの顔が、のどかの、夕映の、木乃香の、愛衣の…… 沢山の顔が浮かんでは消える。 悦びで下半身が熱く滾ってくる。 もちろん今すぐ如何こうしよう何て思ってない。 だが、彼女達が望むなら、何時の日か、必ず…… 横島は思う。 先ずは…… そう! 先ずは! この熱く滾った下半身を鎮めよう!! 帰ったら木乃香は居るが、同時にネギも居る。 今の自分の滾りを静めるには、ネギの存在は邪魔すぎた。 だったら、する事は一つ。 夜這い。 そう夜這いだ! 横島の足は自然と麻帆良女子寮に向って動き出した。 狙うは、愛しい使徒の一人、あやか。 しかも彼女の部屋には千鶴と夏美まで居る。 生まれ変わった横島ピーを思う存分喰らわせてヤル!!「ぐふっ、ぐふふふふふ……」 妖しい笑い声が、麻帆良の夜の空に響き渡った。 この世界の月は唯の天体。 でも、青い月が彼を見て微笑んだ……、かの様に見えた。 後書き 注! 横島の『アノ世界』に対する認識は歪んでいます。 戦女神世界での横島の物語彼是は、今までに書いていた筈なんで省きます。 時間軸は前話の夜です。 原作時間にして、4時間目と5時間目の間。