力が欲しいなんて思ったことはない。なんてことは絶対にない。 現実的に力がなかったら困ることは幾らでもある。 彼女にとって特別な存在、横島忠夫は何度もその思いを味わったそうだ。 大切な人の隣に立って戦う戦士になるため。 自分なんかに恋してくれた女性のために、超上級魔族を倒そうと決意した時。 この2回。彼は心から力が欲しいと願った。 その願いはどちらの時も叶えられ、だけども結局一番大切な存在は失われてしまった。 こんな話を、とてもほろ苦い表情で語ってくれたのを、今でも鮮明に覚えている。 普段の彼はおバカでお調子者で臆病者で…… 真面目にことに当たるなんて、まずありえない。 怖いことや痛いことがあったなら、脇目も振らずさっさと逃げるダメな人。 そんな彼が力を欲するのは、いつも誰かの為だった。 普段の彼の行状もあってか、きっとそうしてくれた女性の方は、とても嬉しかったのだろうと私は思う。 いわゆる、ギャップ萌えってヤツだろうか? 実際、そうされた片方の人に話を聞いてみた。 胸がきゅんって高鳴ったわね。 その時の私は素直じゃなくって、ついついぶん殴っちゃったけど…… 苦笑いしながらそう語ってくれた人は、今では別の男性に嫁いで子供どころか孫までいた。 旦那のことは愛してる。 でも、横島忠夫は、私【たち】にとっては【特別】なのよ。 そう笑う彼女は、年にも関わら……何かしら?ゾクッとしたわ。 ……とにかく、とてもキレイで可愛らしかった。 だから私たちが力を求めるのは自然の流れ。 戦士になりたい訳じゃないけど、大切なあの人の隣に居るには、力があるに越したことはない。 特に私は、それ以外にも目的があるし。 私には勝ちたい人がいる。 人を捨て、魔族へと堕ちた怨霊。 彼に勝ちたい。雪じいちゃんを殺した彼に! 復讐心がまったくないとは言わないけれど、私は純粋に彼に勝ちたいと思うのだ。 それが死んだ雪じいちゃんへの、何よりのはなむけだからと信じてる。 で? アンタはどうなの? ケンカが嫌いなアナタ。人を傷つけるのが嫌なアナタ。 でも、誰よりも積極的に学園長の依頼を受けていたアナタ。 そして今は、私と戦い、そして勝ちたいのだと言うアナタ。 ねえ、矛盾してない? それとも、エヴァンジェリンに操られてるからとでも言うつもり? 確かに、【その】影響は受けてるみたいだけどさ、アンタ、自我を取り戻してるでしょ? 「うん。横島さんの顔を見たときからね。でも、心の奥から湧いてくるドス黒い何かを抑えられそうにないんだ」 そう……でもさ、その状態で勝っても、ホントのアンタの力じゃないわよ? 「分かってる。でも、この力はいつか必ず届く場所にある力に私は思えるんだ。だから……」 ふーん。ま、いいけど。どの道、勝つのは私だからね。 「そうかな。今の私、けっこう強いよ?」 知ってる。 身体能力の大幅な上昇。そして気の膨大なアップ。 経験と技を除外すれば、今の私と同等ってとこかしらね? そう言って、私は凶暴な笑みを浮かべた。 それはいつも優しげに笑うアキラもいっしょ。 ただ、その凶暴な笑みは、互いにだけ向けられた訳じゃなくって、 「あーん、もう! ダメだって横島さん!」 「う、ウチのえっちぃトコ、触ったらダメや!」 「わははは、よいではないか、よいではないか」 文珠【覚/醒】で正気を取り戻した2人の身体を、弄り放題な忠夫に向けられた。 「いいか、よく聞け。こうしてるんは、全部治療のためなんだ。決して美少女なメイドさんとエッチがしたいわけじゃないんだーっ!」 「ほんま~?」 「うっそくさーいっ」 「ホントだって! 性魔術っていってだな……」 裕奈は笑いながらあっさり忠夫を受け入れて、あっと言う間に喘ぎだす。 亜子さんは、ちょっと戸惑いながらも、どことなく嬉しそうに頬を染めて忠夫のアレに舌を這わし始めた。 ってか亜子さん、いつの間に忠夫のことを? ……とりあえず、視界に入れないようにするのが、精神衛生上不可欠ね。 私がそう思ってると、アキラも同じように思っただろう。 コクコク何度も頷いて私に同意した。 はぁ、さっさと、始めましょうか? 「いいよ、アスナ。始めよう……」 忠夫が裕奈、亜子さんの2人と致してるのを必死に視界に入れないようにしながら、私とアキラは拳を交わす。 よくよく考えてみれば、彼女とこうして手合わせするのは初めてだ。 心が湧き立つのが分かる。 こんな時、私はやっぱり雪じいちゃんの弟子なんだと思うのだ。 忠夫が嫌がるバトルジャンキー的な何かを、自分はしっかり受け継いでしまったのだと…… 俺が為に鐘よ鳴れ 第7話 みっつの想い 「ああああああっ!」 「せぇあっ!」 まずは挨拶変わりと、2人は気合の声とともに拳を激突しあう。 考えてみれば、素手での格闘タイプとこうやって戦り合うのも初めてだと、アスナは少しだけ心が躍った。 先日、忍者……もとい長瀬楓と戦り合った時もそうだ。 戦うのが、ちょっと面白く感じてきているのだ。 もしも横島がそれを知れば、とてもイヤ~な顔をしてみせただろう。 アスナ自身、そんな自分にビックリだし。 彼女が戦う術を手にしようとしたのは、決して戦う行為が楽しそうって思った訳ではないのだし。 単に、仲間はずれが嫌だっただけなのだ。 最近のほほんとしてるから忘れてしまってるかもしれないけれど、彼、横島忠夫は【戦う】人だ。 痛いのや辛いのが嫌いなくせに、そんな彼の職業は、悪霊や妖怪をしばき倒すゴーストスイーパーなんてヤクザな仕事である。 そして、幼いアスナの周囲に居た者達もそうであった。 アスナの姉であるタマモは金毛白面九尾の狐にして、横島除霊事務所の副所長(現・所長代理)である。 前世の往時では、単体で日の本の精鋭一万人と互する力を持っていた。 今がどうなのかいまいち不明ではあるけれど、少なくても現在のアスナよりは断然強いだろう。 横島の一番弟子を自称するシロは、強力な人狼である。 単純な接近戦でいえば、横島なんざ相手にもならない。 唯一戦闘職でない愛子とて、その固有能力はとても恐ろしいものだ。 自らのインナースペースに誘い(いざない)、洗脳して己の思うがままに出来るのだから。 何より彼女こそが、『あの』世界における横島家最強である。 彼女に逆らえる者は、横島を含めて誰もいない。 強さとかそんなちっぽけな理由じゃなくて、純粋な恐怖……もとい、食事とかメシとか食い物的な意味で。 元々料理は得意じゃなかったはずなのに、気がついたらあの不味いメシが麻薬の様に蝕むだ。 なんで? どうして!? 俺は、私は、マリアの作ったメシが食いたいのにっ! それはともかく、こんな家族に囲まれて、力を欲っせずにいられようか? 事実、他にも理由は色々あれど、アスナが横島の使徒となった理由のひとつでもあるのだ。 家族に置いて行かれたくない。家族の足でまといになりたくない。彼のそばにずっといたい。 大好きだから。愛してるから。彼が、彼らを、愛しているから。 今になって思う。 あの頃の感情は、恋愛感情ではなく家族愛だった。 でも、今は違う。 恋してる。彼に、横島忠夫に、恋してるのだ。 アスナは、アキラの感情がよく分かる。 横島の家族である自分に、心から嫉妬してるのだ。 だって、 「アンタだけじゃない! 私だって、嫉妬してんのよっ!!」 アキラの激しい攻撃を逸らしながら、アスナは思いの丈を込めて叫ぶ。 最初から恋人であるアナタ達に! ドライブに連れてってもらったりするアナタ達がっ!! 私は妹で!家族で!だから恋人みたいな時間が全然なくって!! それを不満に思ったことはなかった。だって、家族だったんだもん。 でも、今は!! 溢れ出す悔しい思いを霊力に変え、右手に集中させる。 腕が赤い霊力にまとわれ、次第に何かを形成していく。 「うるさい! アスナには解らない! 怖いんだ! あの日、横島さんが救ってくれなきゃ、私は……私は化け物に犯されたんだっ」 彼がいなければ、私はここにはいなかった。 犯されるだけではすまなかったかもしれないんだ。 殺された可能性だって高いんだ! 目の前で夏美の腕が斬り落されて、食べられて。 すえた様な酸っぱい臭いのする醜悪な化け物どもが、私達にいやらしい視線をむけてくる。 服を裂かれ、胸を嬲られ、汚い一物を押し付けられて、腐臭のする精液を浴びせられた。 怖かった、苦しかった。なのに、何も出来ない自分に絶望した。 そんなあの日の恐怖を、今でも忘れられないっていうのにッ!! 最初は感謝の気持ちだけだったかもしれない。 でも、やっぱりそれでも特別だったんだ! そうじゃなかったら、例え流されてだって身体を許すもんか! だから!彼の特別であるアスナが、羨ましい!憎いんだ!! アキラは、アスナが魔装拳を形成するまでの時間を与えるつもりはない。 半吸血鬼化に伴う膨大な身体能力の向上は、間違いなくアスナに匹敵……いいや、超える力を手にしていた。 しかも借り物の力だけじゃない。彼女の生来の力。生命力解放(オーラバースト)が、目を覚ましかけている。 特殊な訓練をつんでいないにも関わらず、時に楓や刹那、真名と言った面々を感嘆させる身体能力を見せていたアキラのレアスキル。 それが半吸血鬼化で無理矢理引き出された力を基に目覚めさせ、なおかつアキラは自分の意志で使いこなし始めているのだ。 だからって、ここでアスナが戦闘能力を上げられては困る。 アキラはイイ試合がしたいんじゃない。 アスナに勝ちたいんだ! 自分の力は確かに上がってる。 でも、相手が強くなるのを待つなんて、ありえない!! 「やあああああっ!」 全身のバネを使って地面を蹴り、一気のアスナの懐近くまで潜って渾身のオーラをまとった片手突きを放つ! エヴァンジェリンから与えられた魔力のせいか? それとも、この輝きこそがアキラの生命解放の力なのか? アスナの魔装拳の如く、蒼く輝く拳がアスナの紅い魔装の拳を刺し貫いて、霧散させ、彼女の側頭部をとらえた。 「ぐぅっ!?」予想を遙かに超える強烈な一撃に、アスナの身体は弾け飛んだ。 どうにか空中で体勢を立て直し倒れるのは防いだが、あまりの衝撃と痛みにアスナは頭がクラクラする。 何より、 魔装がアキラの気に貫かれた!? 完全魔法無効化能力を持つ、自分の魔装が……ッ!! もしかして、魔装に無効化能力は付与されない? 今まで当たり前に思ってた力の発動が無かった。 あれほど忌み嫌っていた力だというのに、いざ無いとこうして動揺するなんて、我ながら情けない。 遠のく意識を必死に繋ぎ止めながら、アスナは悔しさに顔を歪ませる。 そんな彼女を狂気混じりの視線で見下しながら、アキラは更に気を高めていくのだ。 これでアスナが終わるはずがない。 それを、良く知っている。 知っているから手を止めない。 どこまでも自分の気持ちをぶつけるのみ! 「化け物に犯されて、ぐちゃぐちゃにされて、そしたら、もう、横島さんは私なんか見てくれない……だからっ! 使徒であるアスナが羨ましいんだ!」 使徒になれば、もう怖がらずにすむ。 だって、永遠に彼のモノとなる契約でしょ? 敵に破れ、犯され、汚れてしまっても、彼のモノであれば、捨てられはしない。 ……違う。そんなのにならなくっても、私は捨てられなんかしない。 わかってる。分かってる。解ってる。判ってる!! でも、ダメなんだ! 怖い、怖い、怖いぃ!! 口に出せない恐怖に、アキラの身体はブルブル震えた。 寒い、寒いよ、横島さん。だから、助けてよ、横島さん…… 恐怖を湛えた瞳で彼を見る。 すると彼は私を見て、優しく微笑んでくれるのだ。 「使徒になったら、もう怖くないんか?」 静かな声が、アキラの胸にしみわたる。 エヴァンジェリンの洗脳が解けても尚残った狂気。 その狂気を完全に晴らす、優しい穏やかな声だ。 アキラは泣きそうな目で彼を見る。声を聞くだけで、何をそんなに恐れていたのか、わからなくなってしまう。 「……わからない。でも! 今よりずっと幸せになれるって、私は思ってしまう! 思っちゃうんだッ!!」 「そんなイイもんじゃないんだぞ?」 「うん、知ってるよ。だって、家族と別れなきゃならなくなるんでしょ?」 「ああ、そうだな」 「いいんだ。悲しいけど、それ以上に、アナタのそばにいたいから。って言うかさ、こんな真面目な話してる時くらい、エッチなことやめてよっ!」 ちょっとだけ怒って言うアキラの瞳には、もう狂気は残されていなかった。 むしろ、横島にしなだれて気絶してる裕奈や、夢中になって横島の股間に顔を埋める亜子の方に問題がある。 うつろな瞳は快感に惚けて、性魔術の支配下に完全にあるのだと一目でわかった。 横島の声で完全に自我を取り戻したアキラと違い、ようするに、正気ではないのだ。アキラと反対に、その横島の邪な行為によって。 粘膜接触するためとの言い訳で、亜子は横島の肉棒を口内に沈めて激しく前後に動かしていた。 ────んっ、んんぅぅ……じゅる、ぢゅるるぅ……ぐぷっ、んぐ、んぐ、んぐぅ…… 唾液と先走りが混じり合う味に恍惚となりながら、亜子は身体の奥が熱くてたまらない。 何かがこみ上げてくるのだ。 それは性感ではあるのだが、それだけじゃないのだと、亜子は無意識にわかってた。 これが、魔力なんや…… 潤んだ瞳を横島にむけて、もう、我慢でけへん……そう哀願する。 すると分かったとばかりに髪を思い切り掴まれ、乱暴に、そして激しく喉奥をゴンゴンと何度も突かれる。 その衝撃に「うぐっ!?」吐き気がこみ上げ、でも彼は気付かないフリ。 亜子も鼻で大きく息を吐き出し吐き気を堪えつつ、何かに後押しされるように舌を蠢かせ彼を悦ばせようと必死だ。 その甲斐あってか、ドビュルルルルッ! 唐突に放たれる熱い精の塊。 彼の精液を喉奥に感じ嚥下しながら、亜子は今までにないほどの絶頂感に身体が震えた。 「ンンンぅ……んぐぅううううううううううううううっ!!」 止まらない痙攣の中、亜子は先ほど感じた魔力が全身をめぐり、そして枷となっていた何かがキレイに取り除かれるのが解った。 すご、い…… この快感、癖になりそうや…… 全身から力が抜け落ち、ずり落ちるように彼の肉棒が口中から出ていくと、亜子は腰が抜けたように倒れこんだ。 その倒れこんだ亜子の顔めがけて、まだ出し足りなかったのか、もう一度、ビュクビュクビュクビュルルルルル、大量の精が放たれる。 「あ、ああ、熱い……」 惚けた口調でそう呟きながら、亜子はその精を自分の顔に塗りたくる。 そうして最後に唇に塗りこみ、れろぉっと舌で舐めまわした。 「にが……」 そう言いながら、意識が遠のいていく。 奇しくも隣には気絶した裕奈が横たわっており、亜子はクスリと笑いながら身体から力を抜いた。 そして最後の力で、横島の顔を下から覗き込むようして、 「こんなんしてもうたら、もう、お嫁いかれへん。責任、とって……よこし、ま……さ、ん」 亜子は、可愛く笑って言えたと満足そうに気を失った。 前回、亜子が部活の先輩にフラレタ時の方が、よほど大胆でえっちぃかったろうにと、横島はチラリと思う。 どの道、魔法の世界の事情を僅かなりとも知ってしまった亜子と裕奈を、そのまま放置は出来ないのだから、当面は木乃香と同じ扱いでいこうと考えてはいたのだが。 そして、亜子は夢を見る。 何度か見てしまった、彼とエッチなことをする夢……ではない。 彼と手をつなぎ、公園の並木道を歩く夢だ。 沢山の女の子に手を出す、最低最悪な男だと思ってた。 それでも、彼女の友人達の多くが心を奪われてるだけあって、まあ、優しい人なんだろうとは思ってた。 突拍子もないことで、良く笑わせてくれる人だとも思ってた。 でも、恋愛感情はないはずだ。 でもでも、こうやって手をつないで歩くのは、とても楽しい。 亜子は自然と頬がほころぶ自分に気づいてた。 ──── 横島さん。目が覚めたら、アナタのことを教えて欲しい。そうやないと、アナタのこと、キチンと好きになれへんから…… もっと、アナタのことを、教えて、ください。 そう、何度も、夢のアナタに問いかける。 アキラの目の前で、親友の亜子がビクンと身体を痙攣させたと思うと、そのまま腰を抜かして崩れ落ちた。 そんな彼女に苦笑いしながら、今の自分が嫉妬や嫉みをあまり感じていないのに驚いた。 いや、違う。これがいつもの私だ。 今更なのだ、彼の女癖の悪さなんて。 あれ? だったら何でわたし……? 自意識を取り戻してはいたけれど、自分を取り戻してはいなかった。 自分を取り戻すと、不思議に嫉妬や嫉みはすぅーと胸から消えていく。 完全に無くなった訳じゃない。 それはいつも胸の奥にあるものだ。 でも、それで怒りを感じたりはしない。 そうじゃなきゃ、彼の傍になんていられないから…… 握った拳を見る。 さっきアスナを殴り、彼女の血で濡れた手を。 血だ。彼女を怪我させたのだ。 罪悪感が胸を焦がし……はしなかった。 どうしてだろう? 自然と顔がほころぶのだ。 嬉しいのか? 私は…… 彼女を怪我させて? 違う、彼女に怪我を負わせれる自分が嬉しかった。 それは、可能性の証明。 私でも、アスナに勝てる可能性があるのだという、証明だ。 友人を怪我させて喜ぶなんて、我ながら最低だと思うけどね。 そう思いながらも、アキラは再び拳を強く握り締めた。 すでにエヴァンジェリンの影響から完全に脱し、混ざり気のない純粋な自分の力、蒼い気を高めていく。 何故なら、目の前の、額から血を流している少女の霊力が、爆発的に高まってきてるから。 「ありがと」 アスナがポツリと呟く。 何が?とはアキラは問いかけたりしなかった。 「私さ、甘えてたみたい」 誰にも見せられない力。でも、どんな力でも無効化できる便利な力。 忌み嫌い、この世界の誰にも知られるワケにはいかない力。 そんな力なのに、あるのが当たり前みたいに思ってた。 霊力と反発したのか、それとも魔装拳と反発したのか…… それはまだ分からない。でも……! 爆発的に高まるアスナの霊力……違う? それは微妙な違い。霊力だけど、霊力じゃない。 それは【魔力】 この世界で使われる魔力とは違う、真正の魔族の力の源である【魔力】 アスナが知らない内に、雪之丞の手により魔族ジークフリードと契約し手にしていた力だ。 完全魔法無効化能力。 アスナに害ある不可思議な力を無かったことにする不思議な力が、今までこの力の完全な発動を許しはしなかったのだ。 使い方を一歩誤れば、途端に魔族へと堕ちる危険な力なのだから、これはかえって良かったのだろう。 そんな危険な力がアスナの全身を覆い、凝縮し、固体化し、一個の魔力で編まれた鎧と成す。 同時に攻撃力と防御力が凄まじいレベルまで上昇する。 そう、魔の力を用いて、自らの潜在能力を引き出し物質化させる。 これこそが、魔装術! 今までアスナが使ってた、魔装拳。 雪之丞のそれと比べ、いっそまったく別物といった方が納得できるソレなんかと比べ、圧倒的な力がアキラを退かせる。 それを見ていた横島も、二人の保護対象の少女のことも忘れ、あんぐりと大口を開けていた。 まるで、雪之丞の魔装術を思い起こされるその勇姿に…… ただ違うのは、髪まで覆う魔装術で出来た鎧の色が、色鮮やかな紅だというぐらいか? 「続き、する?」 アスナのいっそ傲慢といってもいい程の言葉。 それは、もうアキラに勝ち目はないのだと、見下しているとしか思えない。 でも、それは事実なのだろう。 アキラの目覚めたばかりの、それでも強大な力のはずの蒼い気が、まるでみすぼらしく見えるのだから。 ここは引くべきだ。 さっきまでの自分は自我はあっても正気じゃなかったと。 でもアキラは首をふった。 「うん、するよ。ここで逃げたら、一生後悔するから」 言うなりアキラは前に出る。 彼女にとって、最高の一撃をアスナにみまうために。 だけど、ゾクッ、背筋が凍った。 瞬時に前に出るのを止め、感の赴くままにアキラは後ろに跳び退る。 たった今までアキラの居た場所が、ダン!ダンダンダンッ!! ズザッッ!! 打撃音と共に土埃をあげてクレーターを作った。 いや、それだけじゃない。 最後の一撃。それは拳撃じゃない…… 剣撃だ! アキラは、いや、横島こそが目を大きく見開く。 魔装術を使うアスナの右手に握られし紅の大剣。 「どこから、そんな物を……」 いや、取り出したのではない。 創ったのだ!アスナが!魔力でッ!! 雪之丞が横島と戦い勝利するために編み出した魔装拳。 それは雪之丞が、横島に勝つ為だけに編み出した、雪之丞にだけ許された必殺の業だった。 同時に自分が死んだ後、ただそれが失われるを惜しんだ彼が、アスナにも気づかぬように仕込んでいた技でもある。 アスナはその、自らの中に基礎を作られてた技を、もっとも自分が使いやすいものに変換したのだ。 今の彼女は拳で戦うのがもっとも強い。 だけども、本来の彼女の才能は、剣、いや、大剣にこそあったのだ。 どこまでも無意識でそれを創り出し、そうしてアスナは大きくその剣を構えた。 飛燕剣 身妖舞 横島が、自ら創り出した霊波刀で、幾度となく悪霊・妖怪を斬り捨てた必殺の剣技。 異世界の神殺しの業。 それをアスナが横島に教わることなく、使ってみせた。 高速の剣閃が、空気を斬り裂きながら纏うオーラを吹き飛ばし、凶暴な魔装のアギトが右袈裟に斬り上げられ、アキラは死を感じる。 エヴァンジェリンにより着せられたメイド服はズタズタに、ゴシック調の下着すらただの布切れ。 鍛えられた、だけど女の柔肌を守りぬいてるその肌から、血の滴が飛び散った。 防御しきれない。いや、しても腕ごと斬られるだけだ。 最後に、首筋に迫る剣閃に恐怖した。 かわせない、よけれない、逸らせない、防御もできない。 死、死、死……どう考えても助かりっこない。 やだ、死にたく、ない…… だけど、視界に影がかかった。 目の前を、自分よりも背が低いはずなのに、とても大きく見える背中で一面となった。 「よこし、ま、さん……」 ハンズ・オブ・グローリー 霊力で出来た小手と爪。 それでアスナの剣を鷲掴む。 「アホかーっ! いや、アホはワイかーっ!!」 アキラを殺しかけたアスナを怒鳴りつけると同時に、ここまで放置してしまった自分を責める。 そうして両手に霊力をためると、パンッ! 目映い光で目と脳を眩ませた。 サイキック猫だましである。 激しい閃光に網膜がやられ、意識が遠のく。 アスナはグラリと顎を上げ背を反らしバタンと地面に倒れこんだ。 魔装術が解ける…… アスナの意識が、完全に落ちたのだ。 そして、アキラも、 「生きてる、わたし……」 生きてる実感を感じるために、目の前の男に抱きつこうとするが、膝から崩れ落ちた。 アキラが魔の力に酔って戦いが始まり、酔いが冷めると今度はアスナが魔装に呑み込まれ、最後に横島が息を切らせて戦いを終わらせる。 この惨状。彼女達の内にたまった鬱憤を聞き出そうと傍観してたが、明らかに失敗だったぜ。 流れる汗がひとしずく。 横島は、アスナ、アキラ、裕奈、亜子。 4人の少女が気絶し倒れ伏す姿に、 「……反省はあとにしよ」 とりあえずはと、家の中から窓にへばりつく様にして、こちらを心配そうに見ている木乃香に声をかける。 「こーのかちゃーん、寝床の用意、頼むな~」 「あーい」 「おっと、せっかくだから、怪我したこの子ら使って、癒しの魔法の練習でもしてみっか?」 「ほんまっ!?」 「魔法は詳しくないから、結構適当になるけどな」 4人の少女を両腕で纏めて持ち上げると、さっきまでのシリアスな空気もなんのその、かる~い空気まとっておうちに帰る横島だった。 あとがき これでエヴァンジェリン編は終了です☆ 横島vsエヴァンジェリン? あるわきゃねーしw で、次話。 一話丸々使ったエロ書いたんだが…… 文字数ばっか増えて、なんかエロく書けなかった。 ちなみに次回はSPです。 俺が為に鐘よ鳴れ 第8話 (´・ω・`)だれかのSPイベント① 内容はともかく、容量は2話分超です☆きらっ☆