無限に広がる大宇宙――――――っぽい世界に、気がつくと”彼”は存在していた。
無数の星、星、星……、そして煌めく銀河系が目に入る。
「ここは……?」
宇宙空間にしては息が苦しくない。無重力なのか、足場もなしに空中を漂っている――――
私は、何故ここに……?
「目が覚めましたか」
「うお!?」
目の前にドクロ面の死神が出現していた。
……”彼”にとってこの顔を見るのは何十年かぶりだった。
「ジェイル・スカリエッティ君、あるいは八神はやて君、もしくは○○○○君」
「……○○○○。その名前で呼ばれるのも随分久しぶりな、気がする……」
「前世のまた前世ですからねえ。そんな事より、私は命をまた一つ持ってきました」
”彼”の顔が歪む気配があった。
「またか……いい加減私を解放してくれ……」
転生させられ、死亡フラグをぶち折る為の苦闘の日々が頭の中に蘇る。
「そうはいきませんよスカリエッティ君」
「私はもう、スカリエッティじゃない」
「それなら八神はやて君」
パチン、と指を鳴らす死神。
すると形のない存在だった”彼”の姿が、若き日の八神はやてとして固定化された。
「○○○○君の姿でもいいですが、目的をはたすのならその姿の方が相応しいでしょう」
「目的……あんたを楽しませる目的か?」
「ま、ぶっちゃけその通りなんですが……」
「…………」
やさぐれた表情で半眼で死神をにらみ付ける八神はやて。
いくら根が小心者とはいえ、はやてとして数十年、スカリエッティとして数十年の人生経験を積んできたのだ。
以前よりは度胸がついている。……ちょっとだけど。
そんなはやてを見て死神は、ドクロ面を笑みの形に器用に歪ませながら、一冊の本を取り出した。
「まあまあ、とりあえずこれを読んでみてください」
「……これ、は?」
「世界を物語として表わした書、タイトルは……」
『ブリタニア帝国記』
…………。
……………………。
………………………………。
ぱたり、と本を閉じるはやて。眉間にしわを寄せて考え込む。
「…………んん」
「読みましたね?」
「読んだ、けど」
「なら判りましたね? はやて君には、ぜひがんばってシドゥリとブリタニア帝国を打倒していただきたい」
「無理です」
即答するはやて。
「自分には、シドゥリを倒すのは無理です……こんなチート、どうやって倒せっちゅーねん……」
「そこ! その小心者な所を乗り越えて勇気を出していただきたい」
「いや、無理やて」
思わず関西弁になる。はやてが知ったブリタニアの内情は強大すぎて、太刀打ちできるとはとても思えなかった。
「確かにシドゥリの考えていること、やっていることは酷すぎる。何とかしたいと思う。でも、こんな何百年も前から準備していた強力無比な軍事国家にどう立ち向かえばいいんや……!」
無理だ。絶対無理。
はやてとして、また生まれ直したとしても、自分が非力な5歳頃に奴が接触してくる。下手するとそこで殺される。
ではスカリエッティとして……?
これも駄目だ。色々な制限がきつすぎる。自分の自由になる戦力ができた頃には手遅れっぽい。
管理局はボドボドだ!
自分の謀略で管理局をより酷い組織にしておきながら、それを理由に弾劾するとはなんて酷い奴なんだ、シドゥリ!
「むっふっふっふっふ…………」
「……何が、おかしい?」
死神が可笑しな笑い声を上げる。
「帝国を倒せる材料はすでに作中に存在している。君がそれに気づいていれば、シドゥリに立ち向かう勇気があれば、帝国を倒すチャンスはあったのです……まあ、シドゥリのオリ主補正ひいき補正を先に何とかしなきゃいけませんが」
そこで死神は一旦言葉を区切り、ローブを翻して片手を天に突き上げた。
「死神心得! エンジョイアーンドエキサイティーング!」
「……結局それか」
自分が楽しみたくて私にやらせよう言うのは変わらないんやな……。
はやての小さな突っ込みを聞き流して、死神はなおも言葉をつむいだ。
「天寿を全うしたはやてをスカリエッティとして転生させたように、私ら死神にとっては時間も空間も関係ない。
帝国をつぶすのは簡単だ。例えば、こうだ!」
――――はやての視界の中の星々がいっせいに瞬いた――――
『ドラえもん のび太と吸血鬼帝国』
「ドラえもぉ~ん!」
「どうしたんだい、のび太くん」
それは、たまたまTV放映していた『リリカルなのは』の再放送。
女の子向けだと思って初めは流し見していたそれに、がっつりはまり込むのび太。
劇場公開記念『無印』『A’s』『Sts』短期集中放映。
それらを一気に頭の中に叩き込まれ、リリカル一色に染まってしまう。
「劇場版、楽しみだねえ」
「待ち切れないよ、ドラえもん!」
そして事件はいつものように、のび太のわがままから始まった。
「ぼくもリリカルなのはの世界に行ってみたい!」
――『もしもボックス』で『リリカルなのは』世界にやってきたはずなのに、何かがおかしい。
『観光ビジョン』で遠距離からジュエルシード事件を鑑賞しようとしたら、なのはとフェイトが共同で封印作業していた。
二人の強さが違う、バリアジャケットが違う、デバイスが違う。
「レイジングハートじゃない!?」
レイジングハート、バルディッシュとの作中での絆が好きだったのび太はショックを受ける。
そして原作で観たこともない謎の少女が二人の側に。
「おかしいよ、ドラえもん。ここは本当にリリカルなのはの世界なの?」
「うーん」
詳しい原理は知らないが、『もしもボックス』は「条件に合ったパラレルワールドを見つけ出して、そこへ連れて行く」 ものであると言われている。
確かに高町なのはがいる。フェイト・テスタロッサがいる。
だけどその二人が争いもせずに協力し合っているなんて。
「もしもボックスの故障かなあ」
あるいは次元移動する時に外部からの干渉があったのか……?
よく判らないまま、二人はこの世界の自宅に戻る。
――元の世界とこの世界の明らかな違い。
TVのニュースで地球連邦なんてものが出来ているのを知る。
この世界のスネ夫、ジャイアンから聞かされた管理局を敵視するセリフ。
「今度、管理局に殺されたアメリカの叔父さんの法事に行くんだ」
「俺も将来は地球軍にはいって管理局をやっつけるんだ!」
原作『リリカルなのは』と違いすぎる。
管理局戦争での地球人20億虐殺を知り、さらにショックを受けるのび太。
時空管理局はいつから悪の組織になっちゃったんだ?
なのはを導きサポートしてくれるはずのユーノも何故か警察に捕まってるし、変な所だらけだ。
そして謎の同盟国、ブリタニア帝国と、皇帝シドゥリ。
そのシドゥリ本人がなのはとフェイトの側にいる。
「このシドゥリって人が歴史が変わっている鍵なのかも」
とにかく原作主人公の周辺事情がよく判らないので、とりあえず『スパイ衛星』を高町なのはに投げつける。
『スパイ衛星』とは対人観察用のひみつ道具で、虫ほどに小さい監視衛星だ。
無事になのはを中心にした軌道にのった。モニターで観察を開始する。
――なのは、フェイトはシドゥリ皇帝の弟子になっていて、それで原作以上に強くなってるらしい。そして『覚醒者』なる謎の言葉。
「覚醒者になるってどういう意味だろ」
その時、『スパイ衛星』が打ち落とされた。
なのはの周辺軌道を回るそれに、シドゥリが気がついたのだ。
「のび太くん、もう帰ろう。いやな予感がする」
「そうだね……」
今度こそちゃんとした原作なのはの世界に行こう。そう思いつつ空き地においてある『もしもボックス』に向かうのび太。
――空き地でシドゥリが待ち構えていた。
「ふうん……これは珍しいものを見たわね。ここはリリカル世界だと思っていたけど、藤子ワールドともクロスしていたのかしら?」
「リリカル世界……だって!?」
顔色を変えるドラえもん。何故、この世界がリリカル世界だと知っている?
にやりと笑って刀型のアームドデバイスを構えるシドゥリ。
「大人しく捕まりなさい。話を聞かせてもらうわ」
――「これをあげるから見逃してください!」
「こ、これは……判ったわ。見逃してあげる」
「あと、ぼくらのことは忘れてください」
「ううん…………しょうがないわね」
『Yロウ』を渡して見逃してもらう。
「怖かった――!」
「なんとか助かったね、のび太くん。それにしても」
聞き捨てならないセリフを聞いた。このまま帰るわけにはいかない。シドゥリ皇帝はここがリリカル世界だと知っていた。
彼女は外部から来て、リリカル世界の歴史改変を図っているのだろうか?
「今度は捕まらないように、慎重に調べよう」
「ええ~~? 怖いよ、もう帰ろうよ~」
「のび太くん、次元犯罪者だったらほおって置けないよ」
念のために常時『やくよけシール 』を貼って行動することにする。
――原作と大きく違っていようと、ここが22世紀に観測された並行世界の一つであることに変わりはない。
『宇宙完全大百科端末機』はありとあらゆる情報を引き出すことが出来る、アカシックレコードともいえる情報端末機だ。
その情報量はおそらく無限書庫以上。
「よし、繋がった」
「……何を調べるの?」
「まず管理局戦争と、ブリタニア帝国の実態から調べてみようか」
惑星一個分の莫大な情報メモリーから、必要な情報が読み出されていく。
「管理局が地球に戦争しかけてきたのは、ブリタニアが魔法技術を地球にもたらしたから……で」
「ブリタニア帝国は完全な独裁国家だね。皇帝のいうことに誰も逆らえない」
「貴族、覚醒者は女性しかなれない……男性差別がはげしいなあ」
「覚醒者って吸血鬼のことだったのか」
「ええー! なのはちゃん吸血鬼になるの!?」
「しかも吸血鬼の中でももっともたちが悪い、石仮面吸血鬼だよ」
そして二人は、ブリタニアが管理局に仕掛けた謀略の数々を知ってしまった。
「ブリタニアが存在しなければ管理世界はもっと平和だった?」
『○』ピンポーン
「ブリタニアの破壊工作がなければ、管理局はもっとまともな組織になっていた?」
『○』ピンポーン
「シドゥリは、なのはとフェイトを洗脳している?」
『○』ピンポーン
――『○×占い』。未来の技術で作られたこの道具は、占いといいつつ的中率は100パーセントである。
「……最後の質問、ブリタニアがある世界は、原作なのは世界より幸福?」
『?』ブブー
「のび太くん、主語が抜けてる。もっと明確に」
「えーと、この世界の人々は原作より、不幸になった人より幸せになった人のほうが多い?」
『×』ブブー
「……ってことは、原作なのはより不幸になった人が多い?」
『○』ピンポーン
「そう……なんだ……」
「地球では20億人も亡くなってるし、管理世界はテロが横行してるからねえ」
――基本的に善良なのび太は、シドゥリとブリタニア帝国がそれ以外の国の人々に向ける悪意が信じられない思いだった。
「おかしいよ! こんなの、だって時空管理局は次元世界の警察で、正義の味方のはずでしょ? それをわざわざ悪いほうへ悪いほうへ誘導して、あげくの果てに滅ぼそうとするなんて」
「国を動かすのは、きれいごとだけじゃないっていうのは僕も知ってるけど……でもこれは」
ドラえもんが口ごもる。黒い、黒すぎる。
のび太は普段使わない頭をフル回転させて言葉を選ぶ。
「管理世界に吸血鬼が受け入れられないっていうなら、受け入れられるように、ええと、世論とか誘導すればいいじゃないか。何百年も前から備えていたんだから、それくらい出来るはずなのに」
「…………」
「何故……、シドゥリは何故こんなことを……」
――『アンケーター』は、髪の毛からその人の遺伝情報、記憶情報を読み取って擬似人格を作り上げ、本人同様の質疑応答ができる機械だ。
擬似人格は、嘘をついたり隠し事をすることは絶対にできない。
念には念を入れて『石ころぼうし』をかぶった上で『とりよせバッグ』を使用。
シドゥリの髪の毛の一部を入手した。
――前世は日本人の男、500年前のベルカ王国に転生して石仮面を入手した。
――現世の自分は絶世の美少女で、その若さを永遠に保つために吸血鬼化……覚醒者になった。
――覚醒者となった私が絶対支配者として君臨する、その為にブリタニア帝国を作った。
――この私に敵対する者は女も子供も関係ない。皆殺しにする。
――国家支配をやりやすくする方便として自分を神として崇める宗教を創った。それ以外の思想は排除する。
――なのはとフェイトを自分のものにする為に、地球に来た。管理局の悪い所をさんざん吹き込んでおく。
――グレアムは邪魔だから暗殺した。まだ何もしてないけど、将来敵対するだろうから殺す。
――管理局は敵だから滅ぼす。その後管理世界がどうなろうと知ったことではない。要は自分が楽しければいいんだ。
――なのは世界を征服した証、トロフィーとしてなのはとフェイトの二人をいつか自分のお嫁さんにする。性的欲望をみたすトロフィー。
シドゥリのどろどろの自己中心的な内面を垣間見て、呆然とするのび太。
たくさんの人を殺して、これからもたくさん殺すだろうシドゥリ。
なんでそんなに簡単に人を殺すとか言えるんだ?
ドラえもんも、これ以上はもう聞きたくないなと思いつつ、シドゥリの人間性を確かめるための質問をする。
「……20億人虐殺をどう思う?」
――別になんとも思わない。新しい時代の為に必要な犠牲だった。
「ひ、人の命を何だと思ってるんだっ! 殺された人をかわいそうだと思わないのかっ!?」
耐え切れずにのび太が叫ぶ。
――思わない。ブリタニア臣民は自分の所有物だから大事にしたいが、それ以外は関係ない。
「謀略をしかけて、テロを支援して管理世界を混乱させて、管理局を腐敗させて……後ろめたいとか思わない?」
――思わない。むしろ楽しい。敵を謀略で踊らせるのはとても楽しい娯楽だ。管理世界は基本的に敵だからどんどん混乱させ……
ぶちん。
『アンケーター』のスイッチを切るのび太。
「…………」
「…………」
二人の間を沈黙が包んだ。
これが、石仮面吸血鬼の心理なのか。
邪悪。外道。自己中。
人の姿を、美少女の姿をしていてもその内面は醜悪としか言いようがなかった。
「………………許せない……」
「のび太くん……?」
のび太が『アンケーター』から取り出したシドゥリの髪の毛を日差しにさらすと、たちまちチリと化して消滅する。
彼の目は義憤に燃えていた。
「自分の楽しみのために何十億もの人間を不幸にして、リリカル世界をめちゃくちゃにして平気なシドゥリ……許せないよ!」
管理局を滅ぼす謀略は着々と進行している。管理局が無くなったら、管理世界は今以上の混乱の渦に巻き込まれるのは間違いない。
「どうしたらいいのか判らないけど、このリリカル世界を見過ごすわけにはいかないよ」
「シドゥリと戦う?」
ゆっくりと頷くのび太。
――正面から戦うなら、『原子核破壊砲』、『ジャンボガン』に『地球はかいばくだん』がある。リモコン系のおもちゃ兵器を『ビッグライト』で巨大化させる方法も使える。
『タイムふろしき』をシドゥリにかぶせて吸血鬼になる前の人間に戻してしまうのも手だ。
……どうやって『タイムふろしき』をかぶせるんだ? という問題があるけど。
「安全策が一つあるよ。『アトカラホント』か『ソノウソホント』で『今日中にシドゥリとブリタニア帝国の吸血鬼は滅びる』とでも言えばいい」
「なるほど! それいいね!」
ぱあっとのび太の表情が明るくなるが、直後に首をかしげる。
「でも、それじゃあ、死んじゃった20億人は救われない……。管理局も敵視されたまんまだ」
――目指すは3年前。タイムマシンでこの世界の過去に戻る。
管理局戦争を止めるんだ!
――3年前のシドゥリを見かける。むかついたので『石ころぼうし』をかぶって接近、隙を見て『ジャストホンネ』の錠剤をシドゥリの口の中に放り込む。これを飲むと本音しかしゃべれなくなるのだ。
本音駄々漏れで、なのは、フェイトに嫌われるがいいよ!
――「時空管理局は、地球への干渉をやめる! 艦隊は何もせずに引き返す!」
――『ソノウソホント』で接近しつつあった管理局艦隊を追い払う。
強圧的な降伏勧告も、これでなかった事になる。
これで、地球側の管理局への悪感情は3年後より大分ましになるはずだ。
「のび太くん、まだブリタニアと管理局の対決を先延ばししただけだよ」
「判ってる……」
それより何より、優先して『ソノウソホント』で言っておくべき事があった。
「ブリタニア帝国の覚醒者、吸血鬼は今日中に全滅する!」
シドゥリの心を読んだのび太は、邪悪な覚醒者はこの世界からなくなった方がいい、と考えていた。
吸血鬼ってアンデッドで元々死んでるし。
……これで一安心だ。後は……なんだろう。
「のび太くん、貸して」
ドラえもんがのび太から『ソノウソホント』を取り上げて自分で装着する。
「時空管理局で穏健派、まともな人間が主流になる! 情報収集に力を入れるようになる!」
「……なんかまどろっこしいなあ……」
「吸血鬼がいなくなっても、ブリタニアと管理局は対立したままだろうからね」
ブリタニア艦隊のスペック、機動兵器の性能、重力波砲、マジック・キャンセラー、虚数空間航行艦、電磁投射砲、テレポートドライバー……。
ブリタニア帝国の兵器群のデータは『宇宙完全大百科端末機』から引き出してすべて判っている。
このデータを管理局に横流しして技術格差を埋めさせよう。
「あとは、なんとかブリタニア帝国を……」
「どうするのかしら?」
――閃光が走った。
中距離誘導射撃魔法、アクセルシューターの一撃。
それはドラえもんと彼が装着していた『ソノウソホント』を吹き飛ばした。
「ドラえもぉ――ん!?」
転がるドラえもん。
「いてて……」
「だ、大丈夫!?」
「うん、大したことは……のび太くん!?」
いつの間にか帝国騎士団ローゼンリッターに包囲されていた。
のび太達二人を囲む彼女らはみんな美少女揃いだった。だが、見かけで判断してはいけない。騎士団は全員覚醒者、血を吸う吸血鬼なのだ!
何百年も前に死んだはずの少女たちに囲まれて、その恐ろしさに身震いするのび太。
取り囲む美少女の群れの中から、シドゥリが現れた。
どうやら腹を立てているようだ。
かがんで『ソノウソホント』を拾い上げる。
「む……破けた。壊してしまったか……いやそんな事より」
目つきを鋭くしてドラえもんを睨むシドゥリ。
「私がうそをつけなくなったのはお前たちの仕業ね? おかげでなのは達に不審な目で見られたじゃないか!」
殺気を叩き付けられ、威圧される二人。
「どどど、ドラえもーん! 『Yロウ』は?」
「あれ一本きりだよ、未来デパートから取り寄せないと」
「間に合わないよ!」
「少し、痛い目にあってもらうよ」
シドゥリの周囲に無数の魔力弾が浮かび上がり、一斉にのび太たちに襲い掛かった。
――「全弾迎撃された、だと?」
そう、のび太はただの小学生ではなかった。射撃と、あやとりの腕だけは天下一品なのだ。
宇宙一のガンマンと決闘して勝った、実戦経験もある。
数十回の大冒険を潜り抜けた、度胸もある。
彼は「Fate」だったら英霊・ガンナーとして召喚されてもおかしくない程の少年……。
「くそっ、なんてチート……」
自分のことを棚に上げて舌打ちするシドゥリ。
数百発の魔弾を光線銃でねこそぎ撃ち落したあと、二人は『石ころぼうし』で姿を隠す。
――広域範囲攻撃でいぶり出そうとするシドゥリ。ここに熾烈な追いかけっこの幕が上がった。
――『石ころぼうし』にダメージ。
「しまった!?」
「そこだ!」
――『デンコーセッカ』『ウルトラリング』『ブラックベルト』『ひらりマント』『名刀“電光丸”』
接近戦用の道具を巧みに使い、逃げ回る二人。
『ラジコン太陽』『無敵砲台』を出したが即座に破壊された。
集団でよってたかって追い詰められる。
「ドラえもーん! ジリ貧だよう!」
「ああもう、数の暴力って……そうだ!」
――『味方指わ~!』
指輪から光線が放たれ、美少女騎士の数人に当たる。
この『味方指わ』は、その光線を浴びせた者を自分の味方につけることができる。
シドゥリに切りかかる騎士少女。
「貴様!? 気でも違ったか!?」
「申し訳ありません陛下、今の私はあの子らの味方ですので」
騎士団の混乱に乗じてさらに指輪を振り回し、味方を増やす。シドゥリ配下の騎士団は二派に分かれて戦い始めた。
指輪でシドゥリを狙うが、彼女はソレを察して、後方に大きく跳んで回避する。
「今だ! ドラえもん!」
『タンマウオッチ~!』
――かちり。
時間が停止し、のび太とドラえもんはその場から一瞬で消え去った。
「くっ……逃げられたっ! この、ばか者どもがあッ!!」
シドゥリは、二派に分かれて戦い続ける騎士団を、まとめて容赦なくなぎ払った。
美少女騎士たちの首が、手足が、血しぶきと共にちぎれ飛んだ。
「お、お許しを……、陛下……」
上半身と下半身が分かたれた美少女が、牙をむき出しにして許しを請う。
彼女達は覚醒者。多少身体がバラバラになろうとも再生できるのだ。
「ああん、あたしの左足どこー」
「首はここよ。身体早くぅ」
「陛下……ごぼごぼ……私たちは捨て置いて、少年達を、ごぼっ……」
アジの開きのように縦真っ二つになった美少女がシドゥリに進言した。
「……判ったわ」
シドゥリは身を翻して追跡を再開する。
――「すぐに追いかけてくるよ!? どうしよう?」
自宅に駆け込み一息つく二人。
「のび太くん落ち着いて……急ぎの時こそ落ち着かないと。はい、深呼吸」
「すー、はー、すー、はー……」
これからどうしよう?
あと5分もすれば吸血鬼のチートオリ主が殴りこんでくるだろう。
ドラえもんは敵の強大さを思って弱気になった。
「…………『もしもボックス』で帰ろうか。もう僕らの手には負えないよ」
「やだ! 帰るならドラえもんだけで帰れよぅ……」
意地を張るのび太。彼は追い詰められると、日ごろの臆病さをかなぐり捨てて勇気をひねり出すことが時々あった。
それは、かけがえのない、勇者の素質の発現。
「覚悟が、できてるんだね……」
何か手はないのか、一発大逆転の手は――――
――2階にあるのび太の部屋の窓に、一息で飛び移る。
シドゥリがたどり着いた時、部屋の中には既に誰も居なかった。
「む…………?」
机の引き出しが、半分開けっ放しになっている。
覗き込むと異様な空間が広がっていた。
「タイムマシンで逃げた……? いや、あいつら、まさか……」
――539年前のベルカ王国。
人気のないベルカの山奥にタイムマシンの出口を開く。
「これからどうするの? ドラえもん?」
「この時代はシドゥリが生まれたばかりのはずなんだ」
「赤ちゃんのシドゥリをやっつけるの!? まだ何もしてないのに、それはいくらなんでも……」
「違う違う。石仮面を破壊するんだ」
「あっ……」
そうか、石仮面をシドゥリの手に渡らないようにすれば、覚醒者は生まれない……!
石仮面は骨董品としてただ同然で売られていたという。
「探して買い取るの?」
「いいかげん面倒だから、これを使おう」
――『とりよせバッグ~!』
――今、のび太とドラえもんの目の前に、『とりよせバッグ』で取り寄せた不気味な石仮面がある。
何度も手を入れて確かめたから、これがこの世界にある唯一の石仮面なのは間違いない。
「のび太くん、さあ」
「うん」
地面に置いた石仮面に向かって、のび太はこぶしを振り上げた。腕にはめた『ウルトラリング』のパワーで破壊するのだ。
「…………ぇぇ…………」
「ん? ドラえもん、なにか言った?」
「いいや?」
「……まてぇぇぇ――……」
何気なくタイムマシンの出口を覗き込んだドラえもんは、信じられないものを見てしまった。
シドゥリがタイムトンネルを通って追いかけて来た!?
「げげー! 生身で超空間を渡ってきたのか!?」
あっという間にタイムマシンの出口から飛び出し、今まさに石仮面を壊す直前ののび太に襲い掛かる。
「シドゥリ!?」
「やらせん!」
シドゥリの、人間など容易く引き裂ける手が、のび太の身体に触れようとして――――
『ブラックベルト』で投げ飛ばされた。
「なにィィィィ――――!?」
即座に体勢を立て直すが、そのまま凍りついたように動けなくなる。
「『相手ストッパ~!』のび太くん、今のうちに!」
「や、やめろ――――――――ッ!!」
砕け散る石仮面。のび太は何度も何度も殴りつけ、細かく砕いた。
「そんな馬鹿な……」
オッドアイを大きく見開いて呆然とするシドゥリ。その身体が徐々に薄れ始めた。
歴史が変わり、存在できなくなったのだ。
「私が消える?……永遠に生きるはずの私が?……これからだったのに……なのはとフェイトを、嫁に……」
二人の目の前で、500年を生きた邪悪な吸血鬼、シドゥリは消滅した。
――現代のリリカル世界。
その頃、ブリタニア帝国全土で異変が発生していた。
人が、物が、建物が、次々と消えていく。
「総大司教さま!? これは一体……!」
「判らない、判らないけど、軍に連絡して市民を避難させて……」
「だめです! 軍の艦船も消えていってます!」
シドゥリに仕える総大司教、ミコトは混乱する中でシドゥリの無事を祈った。
そしてついにミコトの身体も薄れて消えていく。
「陛下…………!」
ブリタニア帝国の人間、吸血鬼、その全てが薄れて消えていく。
巨大帝国、ブリタニアはここに消滅した。
――元の世界に戻ったのび太。
やっぱり、変に改悪された世界より、原作まんまの方がいいよね、と原作ファンののび太は思った。
ブリタニア帝国がなかった事になったリリカル世界は、原作どおりに展開していくのだろう。
シドゥリに追い詰められて、やむなく歴史を変えてしまったけど、あれで良かったのだろうか?
ブリタニアが存在した事で救われた人間もいたかもしれない。
それでも、それ以上に無数の不幸な人間を量産していたシドゥリとブリタニアは無くなったほうが、あの世界にとってはきっと幸せなんだ……。
「どうしたの? のび太さん?」
「なんでもないよ。しずかちゃん」
学校の窓から青い空を見上げる。
ベルカの空も同じように青かった。
「しずかちゃん、面白いアニメがあるんだ」
「なんてタイトル?」
「『魔法少女リリカルなのは』っていうんだ――――」
――――――エンディング・テロップ――――――
――『劇場版ドラえもん補正』ってすごいよねー。これに匹敵するのは『劇場版野原一家補正』くらいしかないよ?
観客動員数からして違うから、二次のオリ主補正なんか比べ物にならん。無理やりのび太敗北ってやるとすごい不自然になるしね。
ちなみに「クレしん映画」バージョンだとお笑い一直線、シドゥリはオカマとして葬り去られます。
「……という訳で、お分かりですか? 今回はのび太君にまかせてしまいましたが、『石仮面をシドゥリの手に渡さない』だけで吸血鬼帝国は消滅してしまうのですよ。
一つの国家と住民をまとめて消滅させたのはひどい? 元々ブリタニアは本来の歴史では存在していなかったのです。
歴史が正されれば消えて当然です。こういうオチは歴史改変SFではありふれたものですよ?
のび太くんも「鉄人兵団」で歴史改変してメカトピア消滅!と同じようなことをやってますし。
……この後、人間のままのシドゥリはどうなったかって?
ベルカを出奔してブリタニアを建国するまでは同じですが、その後普通に天寿を全うして亡くなってます。吸血鬼化するより遥かに実り有る人生だったと思いますよ。よその世界に迷惑かけていませんし。
ブリタニア帝国も辺境の3流国家として細々と命脈を繋いでいきますが、管理世界の歴史に何ら関与しないどうでもいい存在です」
きらめく銀河宇宙の中で、とうとうと自説を述べる死神。
はやては目前で展開されたドラマに圧倒されていた。
「……石仮面が無くなっただけで、吸血鬼シドゥリが消えるのか……」
「そもそも一番最初に石仮面をこの世界に設置したのも私ですしね。死神に時間も空間も関係ない、石仮面を設置しなければよい……」
「だったら初めからそうしてくれよう……」
はやては苦言を呈した。
「それはそう、見ての通り石仮面消去は非常に有効な手段です。でもそれができない訳があるのですよ」
「なんでや? 今、あんたはやって見せたやないか」
「ここは理想郷の特異空間、ここで起きた事はもしも、IFの出来事にしかならないのです。そして現実の……本当は違うのですが便宜上こう呼びますが、現実のリリカルっぽい世界では私の行動には強固な制限がついてしまうのです。直接、シドゥリを滅ぼす行動を取れないという、ね」
「なんや、それ……」
眉をひそめて頭を抱えこむはやて。
「……そうだ。あんたが直接手出し出来ないなら、私を500年前のベルカの王族に転生させてくれ。私が石仮面をシドゥリの手に渡る前に破壊すればいいんや」
「そうですねえ」
死神の力を持ってすればそれは十分に可能…………その筈だったんですがね。それすら制限を掛けられる、アレの力は強大だ。
「おいおい、説明してあげますよ」
シドゥリという醜悪な操り人形をコントロールする存在の事を、ね。
――――続く――――
(後書き)
まずは小手調べ。死神がその気になれば、簡単にブリタニアを消滅させられる、という話。
ただ「石仮面を消去しました! 完!」で終わらせても面白くないので劇場版ダイジェスト風味にアレンジしました。
脳内劇場が鑑賞できるように書けているかどうか?
野比家のある東京と海鳴市との距離はスルーしてください。いちいち移動描写入れると冗長になるので意図的にカットしました。
ドラえもんというチートキャラ投入による力押しの蹂躙は今回限りのIFです。今まで蹂躙していた者が逆に蹂躙されるというのが今回のテーマの一つなので。
今後は、設定の穴を突っきつつ色々なIFを見せて、最終的にはやてにがんばらせる予定。
今回、三次創作を書くために正面からきっちり本編を読み込みました。色々ときつかったです。
加筆修正前のバージョンを比較したり(修正前の方が作者の本音が読み取れる)ネタ出ししてから再構成するのがかなり苦痛でした。
起承転結に気をつけるとか、設定の羅列にならないようにするとか、人間らしい生きた人間を描こうとか……。
最低限SSとして成り立つように、物語として一定以上の水準は保てていれば良いのですが……メタ的要素があるので作品構造的に難しいかも知れません。
そして、アンチ・アンチ物を書くには多量のエネルギーを必要とするのを、改めて思い知りましたですよ。
全6~7話くらいになる予定ですが……途中で力尽きない事を死神に祈ってください。
ところで私は感想への個別のレス返しは極力しないつもりです(作者の個別のレス返しを見るとむかつくので)。
感想には作品内容でもって答えるべきだと思うざます。一々反応しないで粛々と更新しよう。
前書きのシドゥリ紹介文後半「吐き気を……」以降は、本当にそう言われていたのを流用しただけで、嘘じゃないです。そう評する人が実際にいたので。