第17話 天使達の巣をつぶせ!
は~い!パパイアで~す。
前回は仕事が無いことに愚痴をこぼすマジックちゃんと千鶴子と会えなくて泣きついてきたアニスに現在、私がしている仕事を絡めてお話ししました。
今回はいよいよ行動編。
果たして私が二人に相談したいことって………なに?
なお、繰り返すようですが冒頭の私は本編の性格とは一切関係していません。
◇◇◇◇
「まぁ、事の起こりはラドン長官の私的なパーティー(娘の誕生会)に行ったことが始まりよ。」
「…え、え?えー!
なに?なにそれ、ラドンって長官派のトップメンバーじゃない!!」
……はぁー、やっぱり頭はよくてもまだお子さまね、マジックちゃん。
「あのですね、マジックさん。
現代の戦いでは、かならず戦争中でも交渉役はいるものなのですよ。」
そう、敵だから相手の話を一切聞かない、相手の一切を否定する。
なんて言うのは現在ではまずやらない。
まぁ、ムシ使い村の時のような一方的な戦いになるときは別として。
相手のことを受け入れられない。だから戦争になる、これは複数の価値観が有るかぎり仕方のないことだ。
しかし、相手の全部一切を否定してしまい、話もしなくなると、双方どちらかが滅びるまで突き進むことになってしまう。
一度滅びてしまえば、復興も復讐もできない、負けかけてから交渉役を出すのでは足元を見られる。
よって最初から、相手方の情報収集役を兼ねて交渉役を設定しておくのだ。
これは政争についても同じで、相手を否定するだけだと政治が止まり国が衰退し国民が迷惑をする。
そんなことになればどちらが勝っても国民が支持しなくなるかもしれない、最悪外圧で滅ぶ、だからあらかじめ完全な敵役と妥協点を話し合うパイプ役の二役を分けて決めておくのだ。
で私達の場合、王様派の敵役が千鶴子で交渉役が私だ。
私が交渉役に選ばれたのは完全に消去法で、やれそうなのが私しかいなかったせいだ。
将軍達は軍人で政治には口が出せない、王様、ナギ、マジックは論外、アニスは無役である。
ほら、私しかいない。
前にも説明したが、あの時フラン副官が将軍職を引き継ぎ、大貴族の一員であるサイアス将軍が四天王になっていたなら間違いなく彼が交渉役に選ばれていただろう。
まぁ、そんないきさつから敵情視察&情報収集もかねてパーティーに行ったのだけど、そこでラドン長官から思わぬ情報を得た。
………
……
…
「貴族達が通う、幼い少年少女達を愛でることができる店がある。」
最初この話を聞いたとき自分の耳を疑った。
だって、どう考えても通っているのは長官派の腐敗貴族なんだから。
けど、話しているうちに気づいた。
ラドン長官、この事を高尚な趣味なんて褒めたりしている割にはその目に嫌悪感があったことに。
でその後、その店について調べてみたら、まぁ、とんでもない店で、表向き普通の孤児院なんだけど、その裏ではロリコン専門の売春宿だったの。
詳しくは避けるけど、幼児のうちから性的サービスを行わせたり、どんな虐待行為もお金次第。
調査結果を見てここまで胸くそ悪くなったのは初めてよ。
趣味は仕方ないわよ、たとえそれがロリコンで有っても。
けどね、虐待は趣味じゃないわよ犯罪よ!
子供から笑顔を奪うなんて世界にケンカを売ってるくらいの重罪よ!
結局の所、ラドン長官は全くそんな趣味がない上に同じくらいの年齢の娘をもつ父親として嫌悪感から情報をリークしてきたと判断したわ。
もっとも、その後が困ったのだけど。
「ちょっと、パパイア、何も困る事なんて無いじゃない。
そんな店さっさとつぶしちゃえば……。」
これだからお子さまは。
…アニスの方はムシ使い村を経験しているだけに問題点がよく分かっている様ね。
「確かに、王様に知らせて成敗のミトに退治してもらうなり、何なら私達が出張って潰してもいいわ。
実際そんなに手間は掛からないと思うし。
けどね、その後どうするのよ。」
「え、その後って?」
「………マジックさん、子供達のことですよ。」
「あっ………。」
そう一番の被害者、子供達が問題なの。
単純に考えれば、他の孤児院へ行くことになるのだが、こう言ってはなんだけど他の孤児院もろくなもんじゃない。
下手すれば同じ事の繰り返し、よくても幼少期に大人の汚さを見せられ傷ついた子供達の心がほったらかしになってしまう。
ちなみに私達で保護するというのも却下だ、負担が掛かりすぎる上に、この子達だけ特別扱いはできない。
残念なことに、この国では育てられずに捨てられる2級市民の子供はたくさん居るのだから。
だから最初は、アニスや他の仲間に言うつもりはなかった、私の愛すべき馬鹿な友達は自分の体にどんなに無理をさせても助けると言うのが分かっていたから。
「けど、教えてくれたと言うことは何か問題解決の策があるということよね。」
流石、お子ちゃまでも四天王、頭の回転が速い。
「まぁ、今のうちに世の中にはできないことがあると教えるつもり。
………でもよかったんだけど。
今回はなんとか解決策を見つけたの。
それが、二番目の話題のペンタゴンよ。」
そう、潜入しているフランから、実に興味深い情報をもらった。
≪ウルザ・プラナアイス≫
私と同じ年齢でありながら既にペンタゴンでは最高幹部の『八騎士』であり、いくつもの襲撃作戦を成功させてきた実力者である。
しかし、ただの優秀な実力者だけでは、それほど興味の対象にはならない。
わたしの目を引きつけたのは潜入しているフランからの個人情報だった。
この子が1級市民と2級市民との融和を目標としている、いわゆる
『甘ちゃんな理想家』
ということだ。
実力の伴わない理想家は、単なる逃避行動の誤魔化しか、ただの馬鹿だ。
しかし実力の伴う理想家は違う、その理想の実現ため努力し自らの現実として突き進む、尊敬に値する人間だ。
ある意味このウルザという女性、アニスに似ているのかもしれない。
あの子もまたゼス、いやゼスの改革はその後の理想のための段階の一つだろう、おそらくあの子は世界の改革ために行動しているのだから。
ああ、思考がそれたわね。
このウルザの情報に興味深いことがあった、それが『弱者の保護』。
彼女は私財をなげうって、1級市民に傷つけられた子供や女性達を保護している。
これだけ見ても、今まで1級市民憎しでテロ行為しか眼中になかった他のペンタゴンとは違う事が分かる。
ただ、あまり感謝はされてないけどね。
確かに、2級市民に貧しい生活を強いてるのは貴族だけど、テロ行為で2級市民を大量に巻き添えにしてるのはペンタゴンなのだ。
そんな組織が救済活動しても自作自演にしか見られない。
てゆうか、私が四天王になったあたりから、とみにテロ行為が激しくなってるような気がするんだけど。
………娘が四天王になったことからくるストレス解消のためにやってるんじゃ無いでしょうね、お父様!
おっと、話がそれたわね。とにかく彼女はやっと現れた私達が交渉できそうな2級市民達のリーダーというわけよ。
「あまりにもまともなリーダーシップとれる人間がいないもんだから、ほんと冗談抜きでフランに組織乗っ取らせて無理矢理交渉の代表をでっち上げてやろうかと思ったわよ。」
「…それは、ちょっと。」
「パパイア、黒いわ。」
アニスとマジックちゃんの二人とも引いちゃったけど、要はそこまでどうしようもない状況だったと言う事よ。
で、話を戻すけど、少し前、このウルザのグループにこの店の情報を回したの、そしたら見事に思った通りに動いてくれた。
ただ、計算外だったのは子供達を救出に向かった者達の戦闘力だ。
はっきり言って、とことん弱かった。
ウルザ側は50人位対して相手側は10人ちょっと、にもかかわらず、まともに戦えたのはウルザ以下2,3人で後はボロボロ。
まぁ考えてみれば、これまでペンタゴンの戦い方は爆弾や毒ガス攻撃などの間接攻撃がメインで、直接戦うのも闇討ち、不意打ち、圧倒的数による飽和戦だから個人個人の技量が上がるわけがない。
今回のような救出作戦は、狭い場所での個人戦か少数のチーム戦がメインになるためどうしても個人の力が必要になってくる。
その上、この国の2級市民は魔法に対して恐怖や苦手意識を持っているため、どうしても不利になるのだ。
結果、売春組織トップの園長は逃走、子供達もほとんど助けられないどころか、何人かはこの騒ぎのどさくさで犠牲になるという最悪の事態になってしまった。
「なによそれっ!」
「ほぼ、考える中で最悪の結果ですね。」
うん、私もそう思う。
それどころかあの園長すぐに違う場所で、店、開きやがったし。
何が、孤児院『天使達の巣』よ、完全になめてるわね。
「と、言うわけで今度は失敗しないように私が出ようと思うの。
まぁ、私一人でもつぶせるとは思うんだけど、一人でもノウハウ持った奴が逃げちゃうと元の木阿弥だから、あなた達にも手伝ってほしいの。」
「もちろんよ、そんなゲス共、全員潰してやるわよ。」
何かしたくて仕方なかったマジックちゃんは私の助力要請にあっさり了解した。
で、アニスは……、
「パパイアさん、もちろん私も喜んでお手伝いさせていただきますが、………この作戦はウルザさん達と絶対に会わなければいけませんよね?」
……ああ、そうか、アニスはそのことを心配していたのか。
今回の作戦はどうしてもウルザ達と会わなければいけない。
なぜなら、組織を全滅させても子供達をウルザ達の組織に保護してもらわなければいけないからだ。
組織を全滅させた場所に保護してもらうはずの子供達を置き去りにしているだけなら、間違いなく警戒される、下手すると保護してもらえないかもしれないからだ。
ただ直接会う、ということはこちらの姿を見られるということ。
この年でペンタゴンの最高幹部にまで上り詰めている程の人材だ、直接会えばどこで私達が四天王とばれてもおかしくない。
将来はともかく、今は正体がばれるのはまずい。
だけど、そこはそこで考えている。
私もそこまで抜けてない。
「ぱんぱかぱ~ん、……仮面舞踏会用仮面!」
取り出したのは白い目の部分だけを覆う仮面。
これを被れば大丈夫!
………どうしたのアニスちゃん?ずっこけて。
「…ば、ば、馬鹿にしてるのですか!
そんな物で目の部分を隠したくらいで正体がばれない訳無いでしょう!!」
え、え、WHY、なぜ?
「………パパイア、私もいいかげん世間知らずだと思うけど、あなたも大概ね。」
「そうですよパパイアさん………。」
「普通の家の出で、政府の役職にも就いていないアニスが、そんなアイテムのこと知ってる訳無いじゃない。」
「え?
物を知らないのは私?私なんですか?!」
ああ、そっか、貴族のパーティーに出たことのないアニスは知らないんだ。
どうも最近、貴族達との付き合いが多いもんだからすっかり忘れてたわ。
「これはねマジックアイテムなの。」
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・仮面舞踏会用仮面
主にゼス王国の貴族達の間で使用される。
仮面には認識撹乱用の魔法が掛けてあり、話をしているときは違和感は無いが着装している相手と別れてしばらくすると着装者の顔、服装、体格など特徴を記憶していないことに気づく。
認識しているのはせいぜい性別くらい。
一般に出回っている物はそれほど強力な物ではなく、ディスペル、幻覚破りのアイテム、魔法使いの貴族の家に掛けられている防御魔法で簡単に阻害される。
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「はぁ~、随分とご都合主義というか、便利な物があるのですねぇ。」
「まぁ、これはパーティーなんかで酒に酔って大事な情報を漏らしても誰が漏らしたか判らなくしたり、貴族達が一夜のお相手を漁るときの後腐れを無くすために作られた物なんだけどね。」
「けど、こんな物一般に出回ったら大変じゃ無いですか?」
「このアイテム自体それほど強力な物じゃないから、魔法使い相手にはまず通用しないし。
それに、アニスが知らなかった様に、元々の数が少ないから一般に出回ることもまず無いわ。
もっとも、これのオリジナルは、かなり強力だそうだけど。」
今回行く場所は非合法の売春宿、顔を隠して行く類の場所なのでまず防御魔法は掛けられてはないだろう。
ウルザ達についても、彼女たちのメンバーに魔法使いなぞ居るはずもないから、まず大丈夫でしょう。
≪三日後、『天使達の巣』前≫
元々、一人でも行くつもりだったため、この店の情報は既にフランを通じてリークしてあった。
そこから、本日がウルザ達の強襲日という情報が入ったため、計画を実行することにした。
彼女たちが来る少し前に、私達がここを強襲するのだ。
………しかし。
「ねえ、ここのどこが『孤児院』なの。」
「よくて大きな宿屋………。」
「どう見ても売春宿にしかみえないわよねぇ。」
私達がたどり着いた場所は裏町の一角、…まぁ建ってる場所はいいわよ。
けどね、そこにあった建物はどう見ても大きな屋敷、もしくは宿屋、いわゆる多階層タイプの建物でいわゆる個室が多い作りの建物だ。
誰がどう見たって『孤児院』には見えない。
正式に孤児院として登録されているはずなのに………。
これは登録する役人も一枚噛んでるわね。
出入り口の前には門番までいるし。
どこの世界に門番の居る孤児院があるのよ!
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「失礼ですが初めてのお客様ですね?
どなた様からのご紹介ですか?」
出入り口に近づいた私達に門番が話しかけてくる。
どう見ても金持ちの魔法使い(お互いが認識できなくなると困るのでまだ仮面は付けてません)の姿をした私達を見て客だと判断したようだが、………どこの世界にこんなうら若き少女がロリコン専門店なんかに来るかー!
「…これが紹介状よ(にっこり))
黒色破壊光線!!」
私は来るまでに溜めていた魔法を門番と門扉にぶつけた。
・・・ズガーン!!
魔法は門番を消し飛ばしそのまま門扉を破壊した。
……やりすぎた?
「…やりすぎよ。」
「門番なんて人間の形が残ってませんよ。」
「……いいのよ、これは宣戦布告の号令なんだから。
それに今回は殲滅戦よ、一人も生かしちゃだめ。
話して情が移る前に殺しなさい。」
「………判っています。
今回の作戦は甘いことを言ってられないくらい。」
アニスは覚悟を決めた顔で私の言葉に応えた。
この子は優しい。
そう、敵にすら情を掛けてしまうくらいに。
しかし、それと共に強力な厳しさを持っていることも知っている。
この子は例え後で後悔しようとも決して判断すべき時に迷わない、だから戦場であっても誰よりも信じられる。
「ああ、これ以上使うと建物自体が崩れちゃうかもしれないから、無差別破壊しちゃう『破壊光線系』は使用禁止ね。」
「…あんたがいうか。」
マジックちゃんから突っ込みが入ったけど、ここは華麗にスルーさせてもらう。
さて、建物に突入よ!
崩れた入り口から入ると中には3人ほど男が倒れていた。
客の案内係兼警備員といったところだろう。
もっとも、さっきの私の魔法に巻き込まれたようでまともな形をしている者は居なかったが。
この建物は以前のものと違い、急遽使用された建物のため以前あった抜け穴等が無いのは確認済みだ。
1階を押さえたから勝手口から抜け出すこともできない。
…さあ、外道ども裁きの時間だ!
建物には奥に行くためと思われる3つの階段があった。
この建物の人間を虱潰しにするには分散しなければいけないみたいね。
「じゃあ、私は中央の階段を行くわ。
ミスA(アニス)は右を、ミスM(マジック)は左をお願い。
何かあったら携帯で連絡をちょうだい。」
「わかったわ。」
「了解です。」
**********
・携帯伝話(通称、携帯)
通話用のマジックアイテム。
固定型と携帯型の2種類あるが携帯型は登録した所にしか掛けられず通話用念波は持ち主の魔法力で上下する。
一般販売用に魔池を使用している物もあるがこちらは念波が弱いため同じ一般用に掛けるとトランシーバー並の距離しか通話できない。
**********
二人と別れ通路を突き進む 。
通路に扉は少なく、偶にあってもそこは客室ではなく従業員の待機室のようだ。
そのため戦闘を繰り返すことなり、既に10人以上の関係者を葬っている。
……どうやら私が当たりみたいね。
いま私の目の前には『園長室』と書かれたプレートが飾られている大きな扉がある。
さて………、
……プルルルル!
携帯が………マジックちゃんね。
「はい、どうしたの?」
「こどもが、こどもが!!」
携帯から聞こえたのは涙声が混じったパニック寸前の声。
「落ち着いて!ちゃんと話しなさい!!」
内容は想像通りだった。
マジックちゃんのルートは客室だったようで、戦闘自体は見張りの2人しか居なかったそうだが、助け出した子供達の方が問題だった。
大人達の理不尽な暴力に晒され、性的虐待を受ける地獄の日々、そのため子供達の心は………。
年齢の近いマジックちゃんにはつらい現実だったようね。
本来、今回のようにいわゆる『汚い任務』は子供のうちは避けるべき任務だ。
しかし、私は今回の件にあえてマジックちゃんを加えた。
なぜなら彼女は次代のゼスを背負う王族であり、現在の四天王だからだ。
たとえそれが押しつけられた地位だとしても、なったからには最もこの国の汚い部分を直に見てほしかった。
冷たいようだが、もしこれで潰れるようなら彼女の四天王離脱を進言するつもりだ。
いまこの国はまだ11歳のプリンセスにそこまで要求するほど病んでいるのだから。
大丈夫、まだ彼女と話すようになってそれほどたってないが、彼女ならきっとこの苦しみを背負ってなお前に進んでくれるはず。
私はこれまでの付き合いでマジックちゃんに千鶴子やアニスと同じ光を見たのだから。
………これでも期待しているのよ、マジックちゃん!
マジックちゃんには子供達をまとめて私の所へ来るよう指示した。
その後、アニスからもマジックちゃんと同じような内容の報告が入ったが、流石に幾つもの場数を踏んできているだけあって割と落ち着いている感じだった。
だけど、………きっと心の中ではすごく泣いてるんだろうな。
さて、子供達が来る前に頭を潰しておきますか。
「黒の波動!」
私の魔法の一撃であっさり扉が吹き飛ぶ。
日頃、ガチガチに魔法が掛かってる建物に住んでるから一般の建造物がすごく脆く感じるわね。
部屋の中には部屋の隅でふるえている老人の男性が一人居た。
「わ、わしが悪かった。
命だけは、命だけは赦してくれぃ。
すまんかった、すまんかった………。」
ふるえながら、私の方を拝むように命乞いをする。
ふ~ん、そうくるか~。
けどね、あんたの目、ちっとも怯えてないのよ!
「チョウアンコク!」
ためらいもなく老人に攻撃魔法をぶち込む。
「なにをする!」
老人はとっさに防御態勢をとり私の魔法に耐えた。
へ~ほとんどダメージが通ってない、結構やるようね。
「あなた、目が全然怯えてないわ。
そんな演技で騙されるのはよっぽどのお人好しだけよ。」
その言葉に老人はもう演技で自分の本性を隠そうとせず、笑い出した。
「くくくく、少しはやるようだな小娘。
だが儂も
『煉獄のヨーゼフ』
と呼ばれた男。
見るがいい、儂の秘術を!」
そう言うと老人の姿は見る見る変わっていった。
身長は2倍ほどになり、躰つきはムキムキのマッチョ。
そしてその体からは溢れんばかりに魔力に満ちている。
「……強化魔法か、しかもこのタイプは禁呪っぽい。」
「知っていたのか小娘。
これはあまりに強力すぎるため封印された魔法じゃ。
肉体は一流の戦士ですら凌駕し、魔力も10倍以上に強化される。
まさに無敵の呪文なのじゃ!」
「ふ~ん、じゃあ知ってると思うけどその手の魔法って、使った後、スカスカになって死んじゃうんじゃ無かったっけ。」
「…物知りだな小娘。
だが、自滅を待っても無駄だぞ。
儂はもう一つの禁呪を使うことによってこの欠点を補えることに気づいた。
………ライフドレインじゃ。」
「ライフドレイン?」
「若く生命力の溢れた対象者から生命力を奪い術者のものにする。
戦闘時には使えず、使った対象者は死んでしまうが、この呪文で消費されたエネルギー分は十分まかなえる。
それに対象となるガキはここにいくらでもいるからなぁ。」
………最低!
元より生かす気は無かったけど更に無くなったわ。
絶望を見て死になさい、ゲスが!
「死ね!」
私に殴りかかってくるヨーゼフ。
確かに一流の戦士以上の肉体になったかもしれないが所詮魔法使い、縮地を使える私から見ればまだまだ遅い。
決して広いとはいえない室内での追い駆けっこが始まる。
「えい、くそ!
まて!
チョロチョロしおって。」
私は室内を縦横無尽に走り回る。
ちなみにヨーゼフが魔法を使わないのは強化魔法の使用時間が短くなるせいだろう。
さて、そろそろかな。
部屋の中心で止まるとヨーゼフもまた目の前で止まった。
「とうとう観念したか。」
ばかね、それが狙いよ!
「封印結界!」
私がただ逃げているだけと思ったか?
逃げていたのは細工をするため。
ただ逃げてるように見せかけて室内にばらまいておいた結界石から光がのび、その中央にいたヨーゼフを呪縛する。
これは元々、神魔法の『魔封印結界』を参考にした魔法だ。
相手の動きを止める魔法は『ストップ』、『スリープ』などがあるが、いかんせんある一定以上の実力を持つ相手にはすこぶる効きにくい。
そこで魔人をもくい止めるこの魔法を魔力でコピーし強力な拘束力を持つ魔法を作り上げた。
ただ、確かに強力な魔法なのだが、欠点が一つ。
あらかじめ対象者を囲むように結界石を配置しておかなければならず、少々使いずらい。
「か、体がうごかん!」
何とか抜け出そうともがいたり、魔法を放出したりしているが、無駄よ。
拘束時間こそ短いけれどその拘束力は筋金入り。
で、これがあなたを滅ぼす呪文!
「右手にデビルビーム、
左手に黒色破壊光線、
……融合!
物質化!!
発動!『巨神殺し』!!」
そう、私の手にはかつて千鶴子がチェネザリとの戦いで使用した
『巨神殺し(闇バージョン)』
の長大な槍が握られていた。
私にはブースト能力は無いため千鶴子ほどの威力はないが、私の持つ最強の攻撃魔法だ。
「な、なななな、なんなんだ!
その魔法は?!
そんな魔法しらんぞぉ!!」
私の持つ魔法の槍に内包された魔力に恐怖するヨーゼフ。
「覚悟しなさい、あなたを確実に葬るため、私の持つ最強の攻撃魔法を使ってあげます。」
「シュート!!」
私の手から放たれた魔法の槍は狙い違わずヨーゼフに吸い込まれる。
・・・シュガーン!!
そしてヨーゼフは首だけ残して消滅した。
ついでに余波で後ろの壁がきれいに消えた。
………ちょっと強力すぎたみたいね。
・
・
・
・
・
それからすぐにアニスとマジックちゃんが子供達を連れてやってきた。
子供達には私が今まで虐待していた大人はすべて倒し、その元締めのヨーゼフもこの通り倒したと転がっていたヨーゼフの首を見せて説明した。
すると、始めは無反応だった子供達が段々表情を崩し………一斉に泣き出した。
ちょっとグロかったけど、うまくショック療法となり心が壊れた子供達の感情をうまく引き出せたようだ。
………部屋の外に複数の人の気配がする。
やっと来たようね。
「部屋の外にいる人、入ってきたらどう?」