第20話 失ったもの
・・・死亡フラグが・・・
死亡フラグが・・・
死亡フラグが建っちゃいましたよ!!!!(魂の叫び)
byとあるへっぽこ魔法使い
◇◇◇◇◇◇◇◇
≪sideパパイア≫
魔力の残滓が無くなり私たちの前に現れたその姿は私たちがよく知っている姿だった。
「アニス!」
私たちの前に現れたもの、それは私たちにとって最も大切な仲間だった。
その姿は、
私たちの攻撃魔法を引き裂くために突き出された高密度に魔力が集中されている右手。
涙でぐちゃぐちゃになった顔。
大きな本を胸に抱いた左手。
・・・ん?
「千鶴子!サポート!!
呆けてないで、時間を稼いで。今この状況をどうするか考えるのよ!!!」
私の怒声に、この異常な状況に呆けていた千鶴子の顔が瞬時に戦闘モードに変わる。
伊達に四天王はしていない。
これまでだって仲間が死にかけたことも何度もあった、あの苦い『ムシ使い村の虐殺』以来、二度と失敗を繰り返さないため、経験を積んできたのだ。
今回のような異常事態になったとしても、お互いが何かを命令すれば身体が自動的に戦闘態勢を作りだすまでになっている。
私たちの冒険時の役割はある意味複雑といえる。
私たち三人はパーティー内でだれもが頭の役割ができる。
まぁ、全員が魔法使いであるのだから頭がいいのは当然であるが。
それでも基本的には私が参謀、メインはアニス、そしてその意見を総合し判断を下すのが千鶴子だ。
冒険者という職業は非常事態のオンパレードだ。
一つのことが終わって直ぐに次の厄介事の来る連戦だけでなく、一つの厄介事にかかわっている間に次の厄介事がかぶさってくる重複戦まである。
そんな時、リーダーの判断を待っていたら間に合わなくなるなどよくあることだ。
ゆえに私たちはそれぞれが緊急時には独自に判断して動くことができ、そのうえにそれぞれが連携してお互いをサポートしあい、それぞれの指示に体が勝手に反応するまでに訓練した。
正直、冒険者という職業をなめてたわ。
ごろつきか、社会不適応者が成るものとばかり。
(注)普通の冒険者の冒険はここまで酷くありません。
というかそうなる前に逃げます。
通常の手段ではなかなかレベルの上がらないアニスがいるため、かなり無茶な冒険をしています。
そしてこの緊急事態。
アニスの原因不明な行動。
そのため千鶴子は正常な判断ができない。
なら、私がこのパーティーの頭になるしかない。
そう、私のやるべきことは、現状の分析と、その打開方法。
といっても、今回の分析わかりやすいといえばわかりやすい。
・・・あからさまに怪しすぎるのよ、その本!!
「その本が原因と言うことはわかるのだけど、なんなのその本?」
「いやぁー、あっさりばれてしまいましたか、なかなか素晴らしい観察力ですね。」
なんか、馬鹿にされてる気がするぞ。
「この本、本当はパパイアさんあなたにプレゼントしようと思っていた魔道書なのですよ。
名を『ノミコン』と言います。」
ぶっ!!
な、な、
「「なんですってー!!」」
あまりの事実に思わずハモッて叫ぶ、私と千鶴子。
「なんで、そんな伝説級の狂気の魔道書がこんなところに。」
「いやぁー、以前ひょんな事から手に入れまして、そのうち役に立つかもと思いまして保管していました。」
は、は、はっ!
その言葉に呼吸が乱れ顔が引きつる。
『ノミコン』
狂気の魔道書、悪魔の魔道書と呼ばれる伝説級の魔道書。
その魔道書には幾つもの魔道の奥義が記され、更にその魔道書を所持しているだけで魔力が数十倍になるとされている。
だが、『ノミコン』が有名になっているのはそんなところではない。
かって、その魔道書を所持したほとんどのものが、突然狂気に捕らわれ発狂もしくは残虐行為にはしったからだ。
そのため千人単位の死者を出したことも何度かあり、現在では
≪第一級危険魔道具≫
に認定されている。
発見されれば問答無用で破壊、それが不可能なら厳重に封印した後、廃棄迷宮への廃棄が義務付けられている。
むろん所有者に対する生死は考慮されていない。
素直に渡すならよし、抵抗するなら殺してしまっても罪にはならないということだ。
そんな悪魔の魔道書がアニスの手に・・・。
「・・・パパイア、あれは?」
「まだ手に入ってないわ。」
いくら魔道研究が専門の私といっても、研究すべき課題は山とあり、
≪第一級危険魔道具≫
といえどもここまで詳しいのには訳がある。
ぶっちゃけ、アニスが異常に気にしていたからだ。
アニスは隠そうとしているみたいなので、しゃべっていないが、私たち仲間内ではアニスは何らかの先読みができると確信している。
異常なまでに的確な数々の助言、洞察力が鋭いというには限度があるこれまでの行動、私と千鶴子は常々違和感を感じていた。
だけどアニスはそれとなく聞いてもごまかすし、この話題に触れることを嫌がっているようなので、私たちの間ではこの話題はタブーになっている。
これについてはガンジー王も感じたようなので、以前話し合ってみたことがあった。
するとガンジー王いわく、
「アニスには軽い予知の力があるのでは?」
とのことだった。
世界には脅威とも呼べる占いや知識を持つ者もいるらしく、その人たちにかかれば、ほぼ100%の読みを発揮するらしい。
ゼス王家にも王のみに伝えられる知識として、命中率100%の占い師が王室顧問としているそうで、嘗てガンジー王も興味に駆られ会いに行ったところ、その命中率に恐怖したそうだ。
少し考えれば解ることだが未来がわかるということは一種の劇薬だ、強力な薬にもなる代わりに麻薬のように依存して身を滅ぼす可能性が高い。
未来を知るということはその未来に縛られるということ、その占い以外のことが怖くなり最後には新しいことをしようとしなくなる。
その先に待っているのは緩やかな死だ。
あのアニスのことだからその可能性は十分解っているのだろう。
だから内緒にしていると私たちは考えている。
そして、そのアニスのこれまでの言動から幾つか推測できることがあった。
そのうちの一つが、
『将来私かアニスが何者かに操られ、みんなと敵対する可能性がある』
ということ。
これについては、アニスが洗脳に関する知識を集めていたことが私にそう考えさせた。
洗脳をする知識ではなく、洗脳に対する対抗方法や解き方を集めていたし、その知識を私に対してしつこいまでに説明していたからだ。
そしてそれらの知識の中でアニスが気にしていた物の1つが
『魔道書ノミコン』。
まさか、こんなところで出てくるとは。
で、千鶴子の言っていた『あれ』とは、ノミコンの洗脳を解くことができる魔道具
『スーパー消しゴム』
のこと。
ゼスの博物館にあることは判明してるんだけど、今の館長がいい加減なやつで、展示品以外は整理もせず倉庫に放り込まれていたのよねぇ。
初めて倉庫を見た私たちの感想。
「なに、この混沌は・・・。」
さすがにこの忙しい時期に、あの倉庫を整理しながら探す気力はなかったわ。
とりあえず今の館長は長官派の貴族だから直ぐに首のすげ替えは無理だけど何人か見どころある人物を博物館に入れて整理させている。
だが、そのおかげで現在、アニスを救うすべが無くなってしまった。
ちくしょう、いつかあの館長、北のヘルマン国境豪雪地帯か南の未開原生林地帯に飛ばしてやる。
おぼえてなさい。
「しかしノミコン、何時ものあなたらしくもなく静かですね?」
仮面の人物がアニスに向かって話しかける。
するといきなり、アニスの手に持っている魔道書がしゃべりだした。
「ケェッケケ!このアマ、トンでもねえキャパの持ってやがる。操るだけで、一苦労だ。」
なっ、何なのこの非常識な魔道書は。
「操る?洗脳したのではないのですか?」
「このアマ、俺様が入り込んだとたん、精神を切り替えやがった。」
「切り替える?」
「こいつ俺様よりクレージーだぜ。対洗脳用に心を二つ作ってやがった。
一つ間違えば精神崩壊を起こすってのによお。ケーケケケ、イッア、クレージー。」
ぶっ!
なにを、なにをやってるのアニスは、軽くて二重人格、悪けりゃ分裂症になるわよ。
「そこまでして?
・・・・少し、不可解ですね。
ノミコン、今の心は操れないのですか?」
「だーめだ、駄目だ駄目だ、だめだめだ。
こいつ、予備の心だけあってトンdもなくシンプルに出来てやがる。
どこを見ても千鶴子さま千鶴子さまだ、しまいには
『私は千鶴子さまがいるから生きている。』
なんてセリフまででてきやがる。
浸透する切っ掛けにもなりゃしねえ。」
「ほぉ、そうですか。
・・・
・・
・
なら、そこまで大事にしている、
『千鶴子さま』
を自分の手で殺してしまったら・・・。」
「ケケケ、ナイスアイディーア。」
その言葉とともにアニスの両手が上がる。
ノミコンを持った両手が。
「千鶴子!くるわよ!!」
「わかってる!」
その言葉とともに千鶴子の両手が光りだす。
「術式起動!マルチタスク!!」
そして千鶴子の周りには10近い魔法陣が現れる。
千鶴子の切り札の一つ情報魔法を利用したマルチタスクだ。
これにより千鶴子は本来個人では使用できないはずの大魔法を扱える。
むろん今回使用するのは、
「術式解凍!敵弾吸収陣!!」
千鶴子の魔法が起動すると同時に私たちに白い光が迫ってきた。
白色破壊光線!
なら、防げる。
千鶴子がこのままアニスの魔力を吸収、そしてその魔力を使いそのまま拘束する。
アニスの魔法力で作り上げた拘束魔法ならいかにアニスでも通用するはず。
千鶴子が作り上げた魔法陣に白い光がぶつかった。
グワッブヲン!!!
千鶴子の魔法陣は白い光がぶつかるとともに・・・・・はじけ飛んだ。
「え、え、え、~!!
なんで、どうして、どういうことなの?」
アニスの魔法を吸収しきれなかった?
ばかな、あの魔法は軍団殲滅用の戦術級合体魔法ですら防いだはず、いくらアニスの魔力が大きいからって、まだ許容範囲内のはず。
「・・・未完成なのよ。」
「えっ?」
「この魔法はまだ未完成なのよ。」
「どういうこと?」
「本来、この魔法は、一人では使用不可能なのは知ってるわね。
それを、無理やりわたしの魔法陣を利用することで作動させているの。
けど、それが通用するのはあくまで常人レベルの話。
軍団殲滅用の戦術級合体魔法クラスを吸収しようと思うなら、どうしてもそれなりの前準備が必要になってくるわ。
今回は慌ててたし、まさかアニスと戦う羽目になると思ってなかったものだから、まったくそういう前準備していなかったのよ。」
「ちょっと、そんな魔法じゃ、今回の件を別としても、これからの戦いに使えないじゃない。」
「この魔法を完成させる目安は付いていたわ。
いずれある戦いまでには完成させるつもりだったの。
・・・ただね、ちょっと最近忙しくてそっちのほうに回せる時間がなかっただけで。」
「あちゃ~、こんなときにデスマーチワークの影響が来るなんて。」
私は額に手を当てつつアニスのほうを見た。
・・・ノミコンは大喜びだ。
「ケッ、ケケケケ、ケェッケケケ。
すげえ、すげえぜ、てめえら。
ケッケケケ。」
「こいつの魔力もトンでもねえが、そいつを防いじまうなんて・・・ケエッケケケ、聞いたこともねえぜ。」
「まったくです、あのレベルの魔法を緊急起動の魔法しかも1人で防いでしまうとは。
いやいや、なかなか多芸でらっしゃる。
・・・
・・
・
ノミコン、どうしますか?」
「ケッケッケケケ。
オーケイ。
嬢ちゃんたち、よく頑張ったな、敢闘賞をあげましょう。なーんてなケケケ。
そんな頑張るお嬢ちゃんたちにプレゼントだ。
さっきの、10倍の魔法をくれてやるぜ。
ただ、うけとっちまったら跡形も残んねえかもしれねえなぁ~。」
その言葉に私たちの顔面が蒼白になる。
「なっ、10倍ですって。」
「おいおい、お嬢ちゃんたち、俺様が誰だか忘れちまったか~あ。
世界最強の魔道書、ノミコンさまだぜぇ~。
このアニスちゃんが普段セーブしているもんなんかとっぱらって、100%の力を出させることもできるし、俺様がブーストしてやる事もできるんだ。
ケッケケケ、10倍なんか軽いもんだ。」
そういうと、再びアニスの両腕が上がり始めた。
「パパイア!」
「わかってる、・・・とりあえず2人の魔力を合わせて障壁を作るのよ。
魔力を受け止めるんじゃない、そらすのよ。」
正直、こんなもので防げるとは私も千鶴子も思っていない。けど、少しでも時間を稼がなきゃ。
私の、私達の親友を救いださなきゃいけないのよ。
「おおっと、今回はやけに素直だな、諦めたか?
それとも心が壊れちまったかな、ケエッケケケ。」
ノミコンが発した何気ない一言。
だがそれは私達に衝撃を与えた。
え?・・・すなお?
アニスが抵抗していない?
ばかな!
アニスはそんな簡単に諦めるようなヘタレでも、こんな短時間で心が壊れるほど弱くもない。
なら、なんで・・・?
私が考えに入ったとたん、横から千鶴子の叫び声が上がった。
「やめて!!
アニス止めるのよ。
かならず私が何とかするから、やめてー!!!」
千鶴子の悲痛なまでの叫びが室内に響き渡る。
「嬢ちゃん、命乞いか。
ケエッケケ、けどやぁ~めない。
絶望が気持ちいいぜケエッケケケ。」
ちがう、今の叫びは命乞いなんかじゃない。
もっと悲痛な・・・。
あっ!
まさかアニスは!!
私がアニスに目を戻したその先には、両手に高密度の魔法陣を展開させたアニスがいた。
「やめっ・・・」
「さ~て、お嬢ちゃんたち、さよならだ。な~かなか頑張ったほうだ。
忘れねえぜ、お前たちのことは・・・・十秒位はな!ケエッケケケ。」
「さよならは、あなたの方です。ノミコン。」
「ケエッケケケ。・・・えっ?」
私の目の前にいるアニス。
その顔にはさっきまでの涙まみれの泣き顔はなく、確かにうっすらと笑っていた。
「この時を待っていたのですよ。」
その瞬間、アニスの両腕にあった光は爆発した。
ゴオオーンン!!!
・・・・・・・・・・・アニスの両腕は吹き飛んだ。
≪あとがき≫
みなさんお待たせしました。
20話を送らせていただきます。
長期の執筆停止に皆さんには見捨てられているかと思っていましたが、たくさんのご感想ありがとうございました。
遅筆な私ですが、なんとか続けていきたいと思っておりますので、長い目で見ていただければ幸いです。
追記
しかし、我ながら進まない小説です。
いつになったら、原作に行けるのやら。
この場面が終わってもまだ2つ位話があるのですよねぇ。
・・・私の駄文のせいなんですけど。シクシク。
ルアベさま
私の設定とかなり近いところまで予想されてびっくりしました。
『アニスは自分の魔法に耐えられない。』
この設定を覚えていただいていたとは、とてもうれしいです。
まほかにさま
ネルソンの設定をそこまで詳しくとは・・・脱帽です。
この物語はランスシリーズ独自ルートということでご勘弁を。
実際、パパイアあたりはかなり設定変えていますので。