第六話 ガンジーの思い
ガンジーside
現在この国は病んでいる。
一部の権力者が好き勝手に暮らし、その事に誰も不平が言えない。
人の生き死にさえも………。
そしてその事に何も疑問を持たない者が数多くいる。
それは権力者だけでなく虐げられている民の中にもだ。
私も昔はその事に疑問を持たない者の1人だった。
権力を持って生まれた事を当然と思い、
気に入らなければ無軌道に力をふるう、
そんな子供だった。
それでも私をいさめる常識人が少しはいた。
だが、直ぐにかんしゃくを起こして魔法を打ち込む、そんな私の周りからからしだいに居なくなった。
そう、その時の私はただのひねくれたガキだった。
そんな時に彼女と出会った。
わがまま放題だった私の何人目かの遊び相手に選ばれたのは1人の少女…。
これまで出会った人間は、大人でも子供でも皆同じだった。
どんなに立派な事を言っていても、私が罵声を浴びせ魔法を打ち込むと恐怖に怯える目をするか恨みがましい目をするかこの二つだった。
しかし、彼女は違った。
どんなに罵声を浴びせても、何度魔法をぶつけてもその瞳には負の感情は映らず、優しくたしなめてくれるのだ。
人間、いきなりの暴力には素の感情が出てしまうもの。
生まれたときから10枚くらい仮面をかぶり20枚はあるだろう舌を使って接してくる人間を見てきたのだ(私が少年時代荒れていた原因と思う。)、演技をしているのなら見破る自信がある。
だが彼女の目にあったのは腕白小僧をほほえましく思い、心配する慈愛の瞳だったのだ。
その時私は、世の中には人の善を信じ、無条件で自分の愛を人に与えられる者がいる事を知り、恥を覚えた。
そして、その時から私は変わっていった。
人間不信に成り掛かっていた私の心は少女の無垢な瞳と言葉に癒され、少女は姉とも慕う存在になっていった。
このころは魑魅魍魎の住まう王宮生活なかで数少ない光が輝いていた時期だった。
12歳で魔法応用学校に入学したとき、彼女は15歳で生徒会長を務めていた。
彼女にとって私は弟の様な存在であったのだろうが、私にとっては初恋だったと思う。
彼女の気を引こうとしては無茶をしてよく説教されたものだ。
恥ずかし紛れに魔法を打ち込む癖は彼女に対してだけは直らなかった。
今思えば彼女だけはどんな無茶をしても分かってくれる、許してくれるという甘えもあったのだろう。
だがその恋は突然終わった。
幸せは長くは続かなかった。
その年の卒業試験、彼女は突然消えてしまった。
原因は不明。
彼女のチームが本来あるはずのない転移トラップにかかり、チームの3人がバラバラに飛ばされてしまった。
他の二人はすぐダンジョン内で見つかったが、彼女だけが卒業試験のダンジョンから消えてしまった。
ダンジョンの中は徹底的に調べられた(むろん私も無断で探し回った。)が一向に足取りが掴めず。
ひと月も経った頃、彼女は行方不明のまま捜索は打ち切られることとなった。
結局この騒ぎの責任をとって彼女の卒業試験を担当をしていた先生(若い先生で女生徒に人気があったらしい。)が辞任し、担任をしていた先生も失意の内に辞任した。
そしてこの事件は終わりとされた。
その後、私は一時期荒れた。
だが、
『彼女は死んだわけではない。』
と心を整理し、なんとか心の復活を果たした。
その時からだ、彼女が帰ってきたとき失望されない人間になろうと誓ったのは。
その後、今は亡き妻との出会いや、娘のマジックが生まれるなど喜びが増え、その突然終わってしまった初恋の傷もしだいに癒えていった。
しかし、こうして心を入れ替えた後にゼス王国を見たとき、思った以上の国の病み方に私は絶望に近い思いを抱いた。
王が政治を行おうと思っても、既に王からあらゆる権利がはぎ取られていた。
王とは殆ど象徴としてのみ存在している状況になっていたのだ。
政治、経済、治安を司る長官職は余程の失敗を犯さない限り罷免できず、任命権にあっては他の長官の賛成がなければできなくなっていた。
軍事方面にもその手は回っていた。
本軍6万、その他、地方に派遣している軍合わせて2万弱を統括する軍団長任命権も奪われていたのだ。
王国の象徴である『雷・炎・氷・光』の4軍だけは流石に手が出せなかったようだが任命権はともかく、作戦行動に対する命令権の一部が奪われており、王国の四方を守護するのが役目の4軍の内の2軍が国境に動かされていた。(流石に全軍を王都から動かす事はできなかったようだ。)
そんな中、名誉職になって久しい四天王の任命権位だけが残っていた。
確かに最強の魔法使いが就くとされる四天王は魔法至上主義を掲げる我が国の全ての役職の上に位置されている。
そのため各長官、将軍達を統括、指導するとなっているが…、
これには罰則規定がない、
例え指導を聞かなくても何らペナルティーはないのだ。
これが名誉職と言われるゆえんである。
それでも王は王である。
王だけが大貴族達が迂闊に手が出せない存在であり、唯一対抗できる存在なのだ。
だが現在、父王は病床にある。
表向きには私が政務を代行していることになっている。
しかし未だ私は『王子』の身、実権は何もなく長官職につく大貴族達が好き勝手にしている状態だ。
だが、今は無理は出来ない。
今、大貴族達に私の考えを知られてしまったら廃嫡されるかもしれない。
残念ながらそこまで奴らとは力の差があるのだ。
その気になれば私が父王に対して反乱を企てているというえん罪すらなすりつけることができるのだから。
奴らには私は政治に興味のない馬鹿王子と思わせておかなければ…。
そして私が王になったその時こそ……。
しかし、いざ王になった時この国の改革を進めるためにも人材を集めねばならん。
幸い軍の方は人材が整いつつある。
私の魔術の師であり現在は友でもある
○ 雷の将軍 ガバッハーン・ザ・ライトニング
人望、実力ともに申し分のない人材だ。
大貴族の一員でありながら気さくで下級兵士からの人望もあり実力も一級品の
○ 炎の将軍 サイアス・クラウン
初めは貴族の一員だったことから警戒していたがあれはなかなかの人格者だ、兵達にとって頼りになる兄貴といったところだろう。
下層階級出身であるが実力は文句なく、サイアスからの信頼も厚い
○ 氷の将軍 ウスピラ・真冬
忠誠心、実力共に問題はないのだが少々自分の命を軽く見ているところがある様に感じる。そこが心配なところか。
現在の光の将軍は大貴族の息が掛かっているうえ実力もそれほどでは無いためいずれ交替させねばならん。
候補としては現在私の娘マジックの家庭教師をしている
○ 光の魔法使い アレックス・ヴァルス
を考えている。実力、人格共に申し分ないのだが温厚なため今ひとつ押しが弱い、まぁこれも経験を積んでいけば良い事だ。
だが政治に関する人材がいない!。
現在我が国は政治、経済、治安と全て腐敗貴族に乗っ取られている。
もし全て巧くいって長官達を追放したとしても代わりを務められるものが居ないのだ。
いや、1人だけ心当たりがある。
しかし、そのものは魔法使いではない。
将来的にはともかく現時点では名前を出しただけで暗殺者が飛んで行きかねない。
王国のこれからについて色々考えていたそんな時、代々王家の諜報、護衛を務めているクインシー家から情報が届いた。
「10歳で応用学校を卒業予定の才媛で情報魔法も使える逸材がいる。」
との内容だった。
クインシー家からの情報であるからには、なかなかの人材なのであろう。
情報魔法を10歳にして扱えるということは文官としての才能も非凡なレベルで扱えると言う事か。
しかし問題は心なのだ、クインシー家の推薦なら問題は無いと思うが………。
山田千鶴子か、
…一度会ってみるか。
・
・
・
偶然を装い会ってみたがあれはなかなかの人物だ、あの知識と教養、恐らく今すぐでも長官職ぐらいなら任せられそうだ。
それにあの思い………。
「ガンジー王子、私は幼児の頃から異常ともいえる頭脳、いえ、力を持っていました。そのため周りから恐れられてきたのですが、その力を一番恐れていたのは私自身でした。
けど、今は違います。
私など及びも就かない力を持ちながら常にまっすぐ前を向いて歩いている友達がいますから、私程度の力で悩んでいてはその娘に笑われてしまいます。
私はその娘に依存しているのかも知れません、だからこそ少しでもあの娘の力になりたいと思っています。
あの娘は優しい娘です、何もしなくてもいずれ茨の道を進むでしょう。その時に少しでも力になりたくて今、努力しているのです。」
なぜそんなに急いで勉強しているのか尋ねたところ思わぬ話が聞けた。
気さくに話しかけたつもりであったが私の目に映る真剣さに気付いたようだ。
人は何かしらに依存しているものだ。だがそれは決して恥ずかしい事ではない、そこから飛躍することも出来るからだ。
そう、リズ姉に依存していた私が彼女に対して恥ずかしくない人間になろうと努力したように。
恥ずかしいのは依存したまま甘えて何もしないことだ。
さて、千鶴子がここまで依存する
『アニス・沢渡』
実に興味深い。
資料では魔力の制御も出来ないへっぽこ魔法使いとなっていたが……。
さてさて、会うのが楽しみになってきたぞ。