第九話 友と呼んでくれた人のために
どうも、ガンさん相手に偉そうに色々難しい事を話した11歳の魔法少女アニスです。
私は何を考えているのでしょう?
一国の王子に何を偉そうな事を。
…… 11歳の少女が…。
穴があったら埋まりたいです。
まぁ、『つい、かっとなってやった、いまはこうかいしている。』というやつでしょうか。
………私は何を言っているのでしょうか。
王子に不審に思われていなければ良いのですが。
思われてますね。
まぁ、聡明な王子の事ですから、直ぐに私に対して某らの行動を起こすとは思えませんが今後は気を付けないといけません。
この、うっかりな性格、どうにかしないとその内自爆しそうです。
さぁ、朝になりました。
大脱出の時間です。
皆さん既に村の出入り口付近に集まっているそうです。
私も急がないと。
村の出入り口には村の皆さんが集まっているようです。
うーむ、村の方々300人いませんね…。
本当にギリギリの生活をしていたようで。
しかし、皆さん随分荷物が少ないような。
殆どの方が自分で持てるくらいの荷物でタンスなどの家財道具を持っている人が誰もいません。
それになぜか2グループに分かれているような。
「あら、おはようアニス。
不思議そうな顔をしているわね。
大方、これから夜逃げするにはみんな随分と軽装という事を不思議がっているんじゃない?」
私が不思議がっていると先に来ていた千鶴子さまが説明してくれました。
ちなみに千鶴子さま、朝なのに夜逃げとはこれいかに。
なんでも、荷物が少ないのは逃げるスピードを上げるためと逃げた痕跡を少なくするため。
そして2グループに分かれているのは、女子供を中心とした班が先行し目的地に向かい、男や老人のグループが逃走の痕跡を隠蔽しつつ後から来るためだそうです。
なるほど、確かに理に適っています。
本隊が女子供を守りつつ先行し、経験豊かな老人とそれをサポートする若者がコンビを組んで本隊の痕跡を消しながら追いかけてくる。
これは昨夜の村人達だけの会議で決まったそうです。
流石、これまで迫害を受けてきただけあって抜け目がないですね。
私なぞ、逃げる事にばかり気を取られていて後の事については頭から抜けていました。
ちなみに逃げる先も以前から用意してあった隠し村があるとか。
ただ、この隠し村については日常的に逃げ場が必要だったムシ使いさん達の生活を思うと少し悲しくなりました。
しかし何でしょう?
この何か忘れているような感覚は。
ちょっと気になるのですが…。
山越え谷越え森の中。
今、私達はムシ使い村から5日ほど進んだ森の中にいます。
はぁ~、大したものですねぇ。
規模こそ小さいものの、こんな森の中にしっかり村がありますよ。
なんでもあと3つ位隠れ家があるそうですが、ここが一番規模が大きいそうで。
と、いってもこの村、元々こんな大がかりな脱出劇を考えていなかったため収容可能数は50人ほど、少々手狭です。
そんな事を考えていますと村長さんが近づいてきました。
「なにももてなしも出来ずすみませんのう。
なにぶん村の拡張が急務なもので。
それで少々ほこりっぽいですがあちらの小屋で休んでいていただけないでしょうか。」
やはり、ムシ使いさん達はお人好しが多いですね。
村から無理矢理連れ出してきたのは私達なのにまだ気を使っていますよ。
ただ、こんなセリフを聞いた後に王子の言うセリフは決まっているのですけどね。
「なにを水くさい!我々が原因でここまで来たのだ我々も手伝うに決まっているではないか。
否、手伝わせてほしい。」
「ガンさん…、わかりやすすぎです。」
やっぱり、予想通りです。
「なんの、私はこう見えても力仕事も得意であるし、この娘達も幼いながらも魔法の腕はなかなかのもの決してじゃまにはならん。」
王子、王子、あなたはどう見ても体育会系です。
というかガテン系?
それに私達が手伝う事は決定事項ですか。
…いえ、元から手伝う気ではありましたけどね。
了解なしに決められると何というか反骨心がむらむらと……。
まぁ、そんな些細な事は置いておいてお手伝いしましょうか。
………使えん!
現在手持ちの魔法をアレンジしてお手伝いをしていますが魔法制御が繊細すぎます。
炎、氷、雷、闇系は現在の所使いどころが無くAカッターで木を切るか局地地震で地を耕すか、念動で荷物を運ぶかです。
千鶴子さまやパパイアさんは丁寧に1本1本手をあてて木を切っていますが……。
王子、木を引っこ抜くのは魔法使いとしてより人間としてどうかと思うのですが。
ちなみに私は制御に失敗して10本くらいまとめて切ってしまい危うく近くにいる人まで輪切りにしてしまうところでした。
千鶴子さまにイエローカードをもらいました。
シクシク(泣)
局地地震ではやっぱり制御しきれず………千鶴子さまに掘り起こしてもらわなければ危うく化石になるところでした。
千鶴子さまにレッドカードをもらいました………orz
いえね、言い訳をいわせてもらうなら決められた範囲に決められた力だけ込めると言う作業が私の魔法量の所為で随分難しいというかなんというか…。
戦闘なんかだとそのあたりは適当でいいのですが……。
結局私は念動で荷物運びです。
切った木を作業場に送り込み、加工した木を所定の場所に積んでおく。
気分はすっかりベルトコンベアです。
うっ、う、う、地味だ、果てしなく地味です。せっかくの魔法Lv3なのに。
そんなこんなで作業を進めていくと夕方頃にはかなりの土地が開け建築資材も集まりました。
本日は移住初日、これからの村の皆さんの志気を高めるためにもささやかですが宴が開かれました。
もっともそれほど物資に余分があるわけではないので本当にささやかですが。
宴も中頃、気づけば王子の周りには年頃の娘さん達が5,6人集まってお酌をしたり、楽しそうにお話ししています。
自分たちに偏見を持たない外の男の人が珍しいのでしょうか。
おや、村長さん、王子にお願いがあると?
「よろしければこの村に滞在している間、そこにいる娘達と契ってもらえませんか?」
ブッ!!
そそそそそ村長さん!いきなりなにを!!!
・
・
・
はぁ、以前にも少し説明しましたがなんでも今ムシ使い達は深刻な出産問題を抱えているそうで、何でも10歳以下の子供が5人しかおらず、しかもその内に生まれつき障害を持つ子が3人もいるそうです。
原因はムシ使いという特殊能力に加え度重なる近親婚だとか。
なら、部族以外に妻や夫を求めてはと思うかも知れませんがこれが難しいそうです。
男の場合偏見を乗り越えて外の女性と結ばれてもまず、周りが許さず無理矢理別れさせられるか、ムシ使いが女を襲ったと難癖をつけられて殺されてしまうなんて事が過去にあったそうで。
また、女性を連れて駆け落ちした場合は誘拐犯として手配されたうえ、更に女性の家族にもムシ使いと駆け落ちした女の家族として危害を受けるおそれがあるそうです。
女性の場合も似たようなもので立場が弱いだけに更にむごい仕打ちを受ける事が多々あったとか。
私が少女のため説明の言葉をかなり濁していましたがやはりかなり悲惨な歴史を歩んで来たようですね。
差別いくない。
ただ、流石に王子が種付けするのは問題があるような……。
ランスくんがいるなら喜んでやるんでしょうけど。
「うむ、私で役に立つのなら、いくらでも協力するぞ。」
ぶっ!
ちょと、王族がそんなに簡単に子供作っちゃだめでしょう!!
「何を言うアニス、その王族の私に嘆願せねばならないほど困っているのだここで立たねば王族としてより人として信頼を欠こう。」
「王子!跡継ぎにマジック様がいるとは言えむやみに庶子をお作りになる事はのちの後継者問題の種になります。今一度お考えを。」
千鶴子さまナイス説得です。
後継者問題は国を滅ぼすおそれのある大問題です、流石にこの説得なら……。
「それこそだ、将来マジックが女王になるか婿をとるかわからぬが、国が立ち直ればガンジー一族が王族の立場から退いても良いと考えている。
王族でなくなれば後継者問題もあるまい。」
それは屁理屈ですよ、ガンさん。
「何より庶子の10人や20人を懐に入れる甲斐性が男になくてどうする。」
あー、そういえばガンジー王ってゲームでもそんな感じな人だったような。
私より年下のカオル・クインシー・神楽さんにも手を出していましたね。
そう言って王子は女の子達を引き連れて家に入っていきました。
あっ、千鶴子さまが煤けてる。
「え~と、私達も寝ようか?」
そうですねパパイアさん。
ただ千鶴子さまがショックで固まっていますので運ぶの手伝ってもらえませんか。
そうして私達は宛われた王子の隣の家(小屋?)に入っていきました。
………隣から色っぽい女の子の声がして寝づらかったです。
次の日から、私達4人は村の方々と協力して村の周りのモンスター退治に出ました。
モンスター相手だと気にせず魔法を撃てるから気が楽です。
流石に女の子モンスターを殺すのは抵抗ありましたので村に近づかなくなるくらいの恐怖をあたえて追い払うだけにしましたが。
方法は簡単、非殺傷モードにした魔法を泣いて逃げ出すまでドバドバ打ち込み続けるのみ。
実はこの世界にも魔法に非殺傷モードがあります、最初はどこのリリカルな世界だよと思いましたが出来た切欠を聞いてどん引きしました。
拷問用だそうです、まぁ確かに殺しちゃいけませんけど…ねぇ。
そんな鬱な情報は置いておいて、幾つかの報告があります。
そのいち・・・実はガンジー王子、剣戦闘Lvを持っていました。
以外ですね……どう見ても格闘系ですが。
確かに剣は装備してましたけどね、ちょっとイメージが……。
ちなみにこの件が済んだら剣も魔法も修行に付き合ってくれるそうです。
ようやく私にも剣と魔法の先生ができました。
ラッキーです。
そのに・・・ムシ使いのお友達が出来ました、名前はカロリアちゃん。
セーーーフ、あまりにそれらしき女の子に会わないものですから、他にもムシ使い村があって場所を間違えたのかと思いましたよ。
カロリアちゃんは凄く可愛い子です。
どれくらい可愛いかというと、つい、『きゃうーん、かわいいー!おもちかえりー』と言って抱きしめてしまうくらい可愛い子です。
ちなみにその後、千鶴子さまにどつかれました。
…千鶴子さま、最近突っ込み厳しいです。
そんな修行混じりのモンスター退治をしつつカロリアちゃん達と楽しく過ごしていたら何時の間にか4日経っていました。
後続の方達がまだ来ません。
「流石に、遅すぎるんじゃないの?」
「はい、確かにそうですね。」
「私、ちょっと王子に聞いてみる。何か不測の事態が起きたのかも知れないし。」
そうして私達3人がガンジー王子の所へ来た所、そこには村長さんもいました。
「なんだと!!!」
なっ、何事です、ガンジー王子!
いきなり大声を出して。
すると王子は苦虫をかみつぶしたような顔をして手に持った1枚の手紙を私達に渡しました。
ナ ニ コ レ ・・・・・。
その手紙は後続として残った方々からのものでした。
内容は、
・国策として発動された作戦に誰もいないからといって素直に諦めるとは思えないこと。
・目標を失った国軍が他の目標を設定する恐れもあり、自分たちを見つけるために大捜索をする恐れのあること。
・目標については秘密作戦であったにもかかわらず秘密が漏れた事についての追求が始まりガンジー王子や私達に迷惑が掛かるかも知れないこと。
などが書かれてあり、国軍に疑われないようにする為に『擬態虫』で村人を作り出し、さらに残ったもの全員が『なれのはて』となり村に火を放った上で国軍に戦いを挑むそうです。
あ、あ、あ、あ、ああああああ………考えて置くべきでした。
この村の人のお人好し具合を考えればこうなることは十分考えられたことです。
私は何時もこうです。
少し考えれば防げたミスを繰り返し後悔ばかりしています。
こうかい・・・?
ばっ!!
「何処に行くの?アニス!」
私が踵を返して走り出そうとしたとき千鶴子さまが呼び止めました。
ええーい、時間がないのに。
「千鶴子さま、今すぐ村人達を助けに行きます。
私の瞬間移動を使えば直ぐです。
あれからまだ、9日、上手くすればまだ戦闘が始まってないかも。
もし始まっていても、非殺傷の白色破壊光線を目くらましにすれば………」
パシーン!!!
・・・あれ?千鶴子さまに叩かれた?
「何を駄々っ子みたいな事を言ってるの。」
「けど、千鶴子さま……」
「けどじゃない!!
あなたにも分かっているはずよ、もう打つ手はないって。
瞬間移動?Lv3のあなたなら使えるかも知れないけど何時の間に自由自在に使えるようになったの?まったく別の場所に出るか異空間に取り残されるのが落ちよ。
それに私達が村に着いた時、軍が1週間以内に攻めてくるのは確実だった、もう2日たってるのよ。
逃げるときに白色破壊光線を打ち込んで目くらましにするですって?そんなことをすれば私達が関わってますよって言ってるようなものじゃない。」
気づけば千鶴子さまの目からは涙が止めどなくあふれています。
「でも、でも……。」
更に言い募ろうとする私を千鶴子さまは優しく抱きしめてくれました。
「わかってる、悲しいのは悔しいのは十分分かってる。
けど、いま迂闊なことをすると残った人達の心を無駄にするだけじゃなく、ここにいる人達まで危険に晒してしまうことになるのよ。」
分かってました、分かってましたけど何かせずにはいられなかったのです。
それから私達2人は泣き合いました、お互いの躰をしっかりと抱きしめて、足りなくなった何かをお互いで埋めるように。
「千鶴子、アニス、この手紙の最後をお読みなさい、私達には読む義務があるわ。」
いまだ、泣いている私達にパパイアさんから手紙が渡されました。
そして、その手紙の最後には、
「あえて、危険を冒し我らのために動いてくれたあなた達を友と呼ぶことを許して欲しい。
そして、願わくばいずれムシ使い達が差別されない世の中になったとき友の手で我らを眠りに就かせて欲しい。
その日まで我らは故郷を守り続けよう。」
そう、記載されていました。
………あなた達は………。
『なれのはて』はムシの暴走によって起こる現象。
その中の再生虫が、致命傷を受けたとしても行動不能になっても生かし続ける。
故に確実な死をあたえる方法は少ない。
高レベルの殲滅魔法で再生不可能なまで塵にしてしまうか。
脳など重要器官を潰し行動不能にしてからムシ使いか薬品によって再生虫の行動を停止させるかです。
わかりました。
あなた達は皆さんを死に追いやった私を友と呼んでくれました。
なら、私はいつか必ず友の願いを適えて見せます。
ですから、待っていてください。
あなた達のことは決して忘れませんから。