どうしてジオンは敗北したのか、敗北を避けるにはどうすればよかったのか、について書いてみたくなったもので。
とてもありがちな設定ですが、創作は初めてなので勘弁してやってください。
よろしくお願いいたします。
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宇宙世紀0078。月の裏側に位置するグラナダ市。
中流家庭が軒を並べる住宅街の一角、平々凡々なマンションの一室で、私は放心したまま壁をみつめていた。
目の前にあるのは、半分ほどの長さになった線香と母の遺影。女手ひとつで一人娘を育ててくれた母は、数日前に心臓麻痺であっけなく死んでしまった。
なんとか葬儀を済ませ、やっと一息つくことができたが、まだ母を失った実感は湧いてこない。
母の他に親族はいない。これで天涯孤独の身だ。財産は、私が産まれた直後に死んだ父が残してくれたというわずかばかりの貯金だけ。残された10才の娘ひとり、これからどうやって生きていけばいいのか。
「どうしてこんなことになっちゃたのかな?」
そう、こんなはずではなかったのだ。
誰も信じてくれないかもしれないが、実はこの私の人生は二度目だったりする。今でこそ身寄りのない10才の美少女(私のことだ)になってしまったが、一度目の人生は男だったのだ。それも、むさ苦しい軍人。しかも、聴いて驚け、今より未来の時代でモビルスーツのパイロットをしていたのだ。
前世の私の最後の日、悪運つきてさあ死ぬぞというその瞬間、目の前にあらわれたのは自らを神を名乗る男だった。
「なんだおまえは? 死に神か? それとも閻魔大王か? ということは、俺は死んだのか?」
「俺は神だ。俺の創り出した世界の中でも、おまえはかなり面白い男だ。見ていて飽きないほどにな。おまえにもう一度人生をやり直す権利をやる」
「はぁ? 神というのは、黄色いカチューシャの美少女と決まってるだろうが。どうしてハゲ親父がでてくるんだよ」
「うるさい、宇宙世紀じゃおれが神なんだよ。いいから、次はどんな人間に転生したいかリクエストを言え」
「ふん。転生か……そうだな、こんどは美少女にうまれたいな。ついでに金持ちで権力も欲しい」
もちろん、神なんてものを信じたわけじゃない。だが、死を目前にして自分の人生をふり返ると、エリートパイロットと言えば聞こえはいいが、つまるところただの人殺しを連続のつまらない人生だった。もしもう一度人生をやり直せるのなら、次は戦いとは無縁の平和な人生をおくりたい、などとなぜか突然センチな気分になってしまったのだ。
「おまえが美少女だぁ? ……まぁそんな世界もおもしろそうだ。リメイクの参考になるかもしらん。よかろう、ひきうけた」
と、目の前が真っ白になり、自称神の姿が視界から消えた。次の瞬間、あっという間もなく、私は過去に戻り、女の赤ん坊になっていたのだ。信じられないことに、本当に転生してしまったらしい。
こうして、私の第二の人生がはじまったわけだ。前世の記憶をもったまま赤ん坊からやり直すの正直言って退屈だったが、必死で育ててくれたこの世界の母には感謝している。母一人娘一人の生活は決して裕福ではなかったものの、平和な毎日はそれなりに楽しかった。驚いたのは、かつて野獣とよばれたこの俺、いや私が、いつのまにか身も心もすっかり乙女として育ってしまったこと。人間というのは、育てられた環境によってどうにでも変化するものらしい。
ふと現実に帰り、母の遺影を眺める。
生前の母は、父のことは詳しく話してはくれなかった。お父さんは立派な人だった。あなたが大人になったらどんな人だったか教えてあげる、の繰り返しだった。この世界の私の父がどんな人間なのかは、あの禿げた神の気まぐれで決まっているのだろうが、母の態度から判断する限り、子どもには説明できないロクでもない親父だったのだろう。
せめて、多少なりとも遺産を残してくれたら、生前の母ももう少し楽ができただろうし、今現在の私も途方にくれることはなかったのに。くそったれの禿げ親父の神は、金持ちになりたいという私の望みは無視したらしい。まことに困ったことに、宇宙世紀の月面都市は、身寄りのない10才の少女が一人で生きて行くには、ちょっとばかり過酷な環境だ。
「前世の記憶を活かして、ジャンク屋でもやろうかな」
どんな過酷な環境でもなんとか生きていけそうな気がするのは、前世からうけついだ天性の生存本能のおかげかもしれない。頭の中を、10才の乙女モードから前世の野獣モードに切り替え、ひとりで生きていく決意を固めたとき、ふと部屋の外がやかましいのに気付いた。母の弔問客かと思い顔をあげたとたん、ドアが乱暴にあけられ、数人の男が部屋に乱入してきた。
「間に合わなかったか!」
母の遺影を見て大声で叫んだのは、男達の中でももっとも大柄な男。顔には大きな傷がいくつもあり、一応スーツは着ているものの、体格も顔もあきらかに人間よりもゴリラに近い。突然現れたゴリラの巨体を目前にして、さすがの私もあっけにとられた。なんだこいつは?
「おお、驚かせてすまなかった。君が、その、……彼女の娘さんだね?」
大男が、母の写真と私の顔を見比べて尋ねる。意外と優しい声だ。頷きながら、私はやっと気づいた。この男、見たことがある。いまや風雲急を告げる月面やコロニー社会では超有名人の一人だ。そう、サイド3の……
「私はジオン公国軍のドズル・ザビ少将。この10数年、君と君のお母さんをずっと捜していたのだ」
世間を騒がせているサイド3の独裁者の三男が、私と母を捜していた? なぜ?
「君たち親子を見つけたと報告を受けて、急いで駆けつけたのが……。間に合わなかった。お母さんは残念だった。しかし、君だけでも出会うことが本当に出来てよかった」
ゴリラがしゃがみ込み、唖然としている私と目線の高さを合わせる。
「君のお父さんは、サスロ・ザビ。私の兄だ」
なんですと?
「君が産まれる前、サスロ兄と君のお母さんのお付き合いを、父……デギン・ザビは反対していた。当時ザビ家はテロの標的だったからな。だが、君が産まれたと知り、父はついに結婚を許してくれたのだ」
あの母が、ザビ家の息子とお付き合い?
「…… しかし、その途端にサスロ兄はダイクン派の爆弾テロでやられてしまった。そして、君のお母さんはサイド3から姿を消してしまった。父は、俺たちザビ家のみんなは、二人の仲を裂いてしまったことをひどく後悔し、君たち親子を必死に探したのだ。家族として迎えるためな」
私は、口をあんぐり開けながら、目の前のゴリラ顔を眺めていた。私はこのゴリラの姪ってこと……?
「迎えに来るのがおそくなってすまなかった。ヤザンナ・ゲーブル……。いや、今日からはヤザンナ・ザビと名乗ってくれ。ザビ家の一員として、一緒にジオン公国にきてくれるな?」
こうして私は、ジオン公国公王の孫娘になったのだ。
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2009.10.18 おことわり
一応、TV版、劇場版、富野小説版、およびORIGINを基にしていますが、いろいろと矛盾があるかもしれません。なにとぞご容赦ください。
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2009.09.26 「チラシの裏」から「その他」に移動してみました。
2009.11.23 元ネタがわかるよう、タイトルに「機動戦士ガンダム」と入れてみました。
2010.10.31 ほんのちょっとだけ修正