ゾンビ天国でサバイバル■01ゾンビが世界中に溢れるようになって3日目。自宅のボロアパートに篭城していた俺は備蓄食料が心許無くなってきたのでついに脱出を決意した。いや、ぶっちゃけゾンビ大発生した当日は寝坊してお昼過ぎに目覚めたんだけどさ。もう皆あらかた逃げ出した後で俺はバッチリ逃げ遅れてました。幸い俺の部屋は二階にあったからか扉をぶち破ってゾンビが突入してくるなんてことは無かったけど、ベランダから見た風景は映画の『ゾンビ』そのまんま。そこら中を血塗れの連中がフラフラ歩いていて、腕が欠けてたり、内臓飛び出してたり。とあるエロゲでグロ耐性付けてなかったら危なかったね。さてここで問題です、銃社会なアメリカンならまだしもここは平和なニッポン、ゾンビ相手に戦える武器などあるでしょうか?答え:《ありません》HA HA HA! OWATA!法治国家日本の悲しさか、一般市民の持ってる武器なんて包丁や鉄バットが精々だし。俺も焦って家探ししてみたけど見つかったのは、フライパン、包丁、ダンベル、ドライバー。武器として使えそうなのはこれくらいしかありませんでした、俺オワタ。一匹・二匹ならまだしも外には何十・何百とゾンビが徘徊しているので勝ち目がありません。そんな感じで絶望した当日、俺はあっさり脱出を諦めて大人しく家に篭城することにしました。一応、携帯電話も試してみたけど何処にも繋がらなかったしね、テンプレというべきか。TVやラジオも「各地で大規模な混乱が起きています、原因はまだわかっていません!」しか言わないし。それに上手くいけば機動隊とか自衛隊がさっさとゾンビどもを掃討してくれるかもしれないし、最近の自衛隊は武装も充実しているしゾンビなんかにゃ負けないでしょうよ、多分。そんな淡い期待に胸を膨らませて大人しく積んであったエロゲをすることに、現実逃避ともいう。エロゲの内容は謎のウイルスで人々がエロゾンビになってしまうという某人気(?)シリーズ。外の連中もこんな感じのエロゾンビだったら良かったのにねぇ。そんな俺『高田了輔(タカダ リョウスケ)』、今年で24歳、いまだ童貞のオタです。■話は昨日にさかのぼる。ゾンビ大発生から2日目、買い置きのカップラーメンを朝食代わりに啜りながらTVを見ているとビックリするようなニュースが流れてた。『さ、先ほど入った情報によると、暴動鎮圧に向かった自衛隊が壊滅したもようです!!』ブーッ、とカレーヌードル噴いた。映像にはゾンビ集団に混じってフラフラ歩いている迷彩服の方々が、どう見てもゾンビです、本当にありがとうございました。続く報道ではアメリカを含む世界各国の状況も似たようなもので、どこもかしこも壊滅状態。そんなにゾンビって強かったけっけ?こうして二階のベランダから見る限り、フラフラしててあんま強そうには見えないけどなぁ。それともゾンビの強さには地方差でもあるんだろうか。都会のゾンビは強くて、田舎のゾンビは弱いとか? まさかね?試しに床に無造作に捨ててあるゴミを外をうろつくゾンビにむけて投げてみた。スコーン、とゾンビの頭部にゴミが上手く当たった、命中したゾンビは周囲を見渡すも特に目新しいものが見つからず再びうろつきだした。……自衛隊はこんなマヌケな連中に負けたのか、日本はもう終わりかもしれんな。■そう言えば、下の階にいる婆ちゃんはまだ生きてるんだろうか?俺の部屋真下の部屋には痴呆症の婆さんが住んでいて、たまに大声で何事か叫んだりする。時々迷惑代わりといってヘルパーさんが食べ物くれたりするので一人暮らしの俺的には大助かりだ。ちょっと気になったので様子見してみようか、このアパートはボロくて壁も薄い。床だって当然薄い、以前俺の本棚が床をぶち抜いて婆ちゃんの部屋に落っこちたことがあるくらいだ。今は板で補強してあるが、床板を外せばすぐに下の部屋を覗ける。「婆さん、生きてる~? って、ゾンビ入りまくりじゃんっ!?」「………………」下の部屋を覗き込んでビックリ、婆さんの部屋にゾンビが三体もうろついてるし!で、何故か婆ちゃんは無事、いつもどおり座椅子に腰掛けてモグモグみかん食ってた。どういうこっちゃ? 黙々とみかんを頬張る婆の周囲をうろつくゾンビども、シュールすぎる光景だ。ていうかなんで婆ちゃん襲われないんだ?「おーい、婆ちゃん大丈夫かよ!? 早く逃げた方がいいぞ、ゾンビに囲まれてるぞ!」「………………」返事がない、これは別に婆ちゃんがゾンビ化してるわけじゃなくていつものこと。末期の痴呆症だからろくに返事も返してくれないんだ、でも一部のモノにはよく反応してくれる。例えば金、特に小銭のジャラジャラ音が大好きなのだ。何でもこうなる前はかなりのケチケチ婆だったらしく、守銭奴と家族からも嫌われていたらしいとヘルパーさんが愚痴っていた。こうなったら小銭で婆ちゃんの意識を覚醒させてなんとか脱出するよう誘導するしかないな。こんな婆ちゃんでも見捨てるのはちょっと忍びないし。だったら俺が直接降りて助けに行ったらどうかって? それは御免被るね、さすがにそこまで危険を冒すほどお人好しじゃないんで。俺にできることは精々ここまで、それ以上何かしてあげる義理もないしね。「婆ちゃん、ホラ、お金だよ」「!!?」財布から取り出し、ジャラジャラと小銭を鳴らしてみる、案の定婆ちゃんは超反応し始めた。ガバッ、と立ち上がり天井から覗き込む俺に向けて大興奮しながら婆とは思えない動きでピョンピョン跳ねまくる。よし、元気になったな、ちょっとなりすぎたという感じもするが、ともかく後はできるだけ穏便に脱出するよう誘導して―――「あたしんだよ! あたしんだよ! あたしんだよ! アッーー!!」「ちょ、おまっ!?」婆ちゃんが元気になった瞬間、これまで大人しかったゾンビどもが一斉に婆ちゃんに齧り付いた。ものの数秒で婆ちゃんは屍と成り果て、小銭をジャラジャラ鳴らしていた俺はいろいろ気まずい状況になってしまった。……な、なんかごめんな婆ちゃん、俺が余計なことしたせいで死んじゃったみたいでさ。とりあえず両手を合わせて「南無~」とだけ言っておいた。だけどなんで婆ちゃんは最初襲われなかったんだろうか、大声を出さなかったから? 暴れなかったから?よくわからんがこれは考えてみる価値がありそうだ、婆ちゃんの犠牲は無駄にはしないよ。■