■10新装備一式に身を包んでミリタリーショップを出る。ゾンビが侵入しないように裏口のドアをすぐに閉め鍵をしっかりとかけた。場合によっては今後何度もここに来ることになるかもしれない、安全のためにも必要な措置だ。肩にクロスボウを吊り下げ、腰には消防斧、二つともいつでも使用できるようにしつつ普段は両手はフリーにしておく。これなら両手を使えるので身動きを取るのに楽だ。以前は常に片手にシャベル(シャーリーン)を持ち歩いていたのでちょっと不便だった。ところでその肝心のシャベル(シャーリーン)であるが、実はまだ持っている。店を出る直前くらいまで置いていく気満々だったのだけれども、なぜか出発直前になって俺の本能が「持ってけぇ~」と騒ぎ出したのだ。接近戦用の武器は既に消防斧があったから必要ないんじゃないかなぁと思っていたが、一度考え直し愛着もあったのでやっぱり持っていくことにした。とはいえシャベル(シャーリーン)は重い、そのうえ持ち歩くのも一苦労だ。そこで俺は登山用のアタッチメントをリュックに取り付け、シャベルをそこにセットして持っていく用にした。鏡で見た俺の姿は『ヘルシ○グ』でみた吸血鬼兵みたいな様相になってしまい随分とゴツくなってしまった、重量もプラス4kgである。これじゃあまるで第二次世界大戦中のドイツ軍人だ。だが俺はこの姿を大いに気に入っていた。■ゾンビの徘徊する街中をラッキーと歩きながらS市グランドハイツを目指す。地図で確認すると結構距離がある、歩きで行くのはちと辛いかもしれない。あ、ちなみに俺はこれまでゾンビのマネをしてノロノロ歩いていたんだけど、実はこれ、普通に歩いても大丈夫ぽかった。ミリタリーショップを出た後、武器を得てちょっとだけ強気になった俺はゾンビのマネを止めて普通に歩いてみた。いや、正直に言うと装備が重すぎてゾンビのマネする余裕がなかっただけなんだけどね。まぁ、理由はともかく普通に歩いてみたわけだが、ゾンビは一向に関心を示さなかった。ちょっとだけ調子にのってみた俺は早歩きも試してみたが、それも辛うじて大丈夫だった。二・三匹こっちに振り向いた奴がいたが、早歩きを止めたらすぐに俺を無視してフラフラどこかへ行ってしまった。ここで俺はゾンビにぎりぎりバレない身動きの限度を『早歩き』までと定義して、それ以上の無茶はしないと決めた。■一時間ほど目的地を目指して歩いていると全面ガラス張りのカーショップを発見した。展示車が室内に並べられており、どれも一目で高級車とわかるほど豪華なフォルムだ。以前の俺だったら10年働いても買えないような車ばかりだ、正直憧れてもいた。丁度足となる車が欲しかったところだしここで何か頂いていこう、フヒヒ……。俺はおもちゃを選ぶ子供のようにワクワクしながら店内に入りすばやく中の様子を伺った。店員らしき制服を着たゾンビが二匹いる、こちらの存在に気が付いてはいないようだが、邪魔だな。俺はクロスボウの実戦慣れも兼ねてこいつらを始末することを決意した。ゾンビに見つからないよう忍び足で受け付けカウンターに隠れ、クロスボウを肩から外し手にとる。レッグポーチからアルミ矢を取り出し先端に4ブレードヘッドを取り付ける。その作業に意外と手間取ってしまい矢をセットするまでに数分かかってしまった。これじゃあ襲われたら一発アウトだな、これからはあらかじめ矢に4ブレードヘッドを取り付けておくことにしよう。少し嵩張るかもしれないが発射準備までにこんなに時間がかかってしまうのは致命的だ。俺は弦をコッキングメカでキリキリ引っ張り、アルミ矢をクロスボウにセットして狙いを近いほうのゾンビに定める。ドットサイトスコープを覗き込み中心に光る赤い点をゾンビの頭部にピッタリ合わせた。どうか当たってくれよ、南無三ッ!祈りを込めてトリガーを引く、シュパッ、という空気を切り裂くような短い音がして矢が放たれた。グジャアッ、という肉と骨を同時に叩き潰すような音がしてゾンビの側頭部に矢が命中、ゾンビはそのまま案山子のように床に倒れた。俺はすばやくカウンターの後ろに隠れながらガッツポーズを決めた。もう一匹のゾンビは仲間の倒れた音に一瞬だけ振り向くが、すぐに関心を失って再びフラフラ彷徨いはじめた。クロスボウを発射した時の音にも気がついていない様子だし、この武器は大当たりだな。銃とかだと発砲音とかで気付かれそうだがクロスボウならほぼ無音で発射できる、この利点は対ゾンビ戦においてはかなり大きいぞ。一撃必殺の威力、無音発射……連射できない不利を考慮してもクロスボウはゾンビに対して非常に有効な武器だと思う。再び矢をセットし、カウンター越しに残りのゾンビにも狙いを定める。最初よりも幾分落ち着いた気持ちでトリガーを引く、アルミ矢は吸い込まれるようにゾンビの眉間に命中した。ゾンビは一瞬だけビクリと体を痙攣させて、そのままあお向けになって倒れた。俺は倒れた二匹のゾンビから突き刺さったアルミ矢を回収し血脂を拭って再びポーチに収納した。24本しか持ち歩いていないのだ、消耗品とはいえ壊れるまではこうして再利用して大事に使っていこう。俺は倒したゾンビに手を合わせていつも通り「南無~」と冥福を祈った。■店内のゾンビを掃討し終わり、ようやくお楽しみの車選びをすることができる。一応念のためラッキーを店内に入れ、店の入り口はしっかりと閉めきりゾンビが入ってこないようにもしておいた。店内には5台の展示車がありどれも超高級車だ、きっとここは金持ち専用の車販売店だったんだろう。キャデラック、マイバッハ、ポルシェ、フェラーリ、どれも数千万円はする。だが俺の視線はそれらブランド系の高級車ではなく、もっとも厳ついフォルムをした最後の車に向けられていた。『ハマー』、軍用車ハンヴィー(高機動多目的装輪車両)の民生用車種で、これはそれのさらにカスタマイズ版、アウトドアや釣り好きの有名人なんかがよく好んで所有している車だ。ディーゼルエンジンと蓄電池によるモーターの回転動力の両方使えるハイブリッド車でもあり、このシリーズでは最新モデルだ。走行性能、静粛性能、居住性に優れ、頑丈で車高も高いので悪路も気にせずガンガン突き進める。説明用のカタログ片手に車内を軽くチェックしてみたところオプションパーツも取り付けられており、富裕層向けにカスタマイズもされているようだ。DVDプレーヤーやテレビ、飲み物のための冷蔵庫、エアコンもそれぞれの席に完備、シートは全席に上質な本革を仕様し、フロントとセカンドシートには背もたれとクッションに3段階温度調節式のヒーターも装備。サンルーフやクローム製のランプガードも付いており、少しくらいゾンビを跳ね飛ばしても平気だろう。それに6人乗車用とあるが、やろうと思えば10人くらい乗れそうなほど車内空間も広い、ちなみにコレは左ハンドルだ。……か、完璧だ、コレ欲しい、コレに決めた。俺はハマーに一目惚れし、さっそく鍵を置いてあるであろう奥の事務室へと向かった。事務室は階段を上って二階にあり、俺は念のため足音に気をつけながら階段を上った。事務室の扉をそっと開け一応ゾンビや人間の有無を確認するが人影はなし。キョロキョロ部屋周りを見渡し壁に鍵をいくつか引っ掛けてあるスペースを見つけた多分コレだろう、引っ掛けてある鍵を全部手にとって一階に戻る。鍵はリモコン式が主流なため、いくつか試して鍵の開閉が確認できれば本物だ。ポチ、ポチ、と何度か試し三回目でハマーの鍵が見つかった。残りの鍵は要らないのでカウンターの上に置いておこう、もしかしたら俺以外にもここに来て車を探す人がいるかもしれないし。俺は最高にご機嫌な気分で重たいリュックを車内に乗せ、ラッキーも後部座席に乗り込ませた、そしてさっそく出発しようとハマーに乗り込もうとした時だ。外から生存者、それも若い女の悲鳴が聞こえてきたので俺はビックリして動きを止めた。■