■26俺は「どこかに避難しているはずの家族を探しに行く」と嘘を言って避難所を出ることにした。瀬田さんの設定をそのまんま使わせてもらったわけだが、本多さんは素直に信じてくれた。はじめは危険だと引き止められたが「愛する家族を守りたいんです!」という、まんま瀬田さんの名言をそのまま引用することで渋々諦めてくれた。避難民達は特に止めようともせず、物資を全て提供してしまった俺に興味を失っているようだったが、今度来ることがあればまた物資を持ってくる旨を話すと手の平を返したように丁寧に見送ってくれた。海堂に関してはずっと用具室に閉じこもっていたので最後まで顔を合わせることはなかった、俺としてはムカつく奴の顔を見ずに済んで安心していたが。非常時とはいえ人間の汚い部分を見せ付けられたような気分になり俺は疲れていた。これからも情報収集のために定期的にこの避難所には来る事になるだろうが、あまり積極的に関わりをもちたいとも思えなくなっていた。できれば外から様子見だけして終わらせるだけにとどめようと思う、今後は直接接触を取るのはできるだけ避けよう。今回の件で自分自身の見通しの甘さもわかったことだし、慎重すぎて困ることはないだろう。それにしても、こういう考えが浮かぶってことはやはり俺は集団生活にはとことん向いていないようだ、隠れ家を確保しておいて良かったと心底そう感じた。■避難所を出て、マンションに帰還する頃には既に明け方近くになっていた。校舎内のゾンビ掃討、その後に避難所での一騒動、情報収集、結構時間がかかってしまったみたいだ。俺は車を地下駐車場に入れると、ラッキーと共に疲れた身体でマンションへ戻った。こんな時間帯だ、由衣ちゃんもぐっすり眠っていることだろう、今から起こすのは流石に可哀想だ。しばらく保護することに考え直した旨を話すのは後でも良いか、特に焦って報せなければいけないことでもないし。俺は欠伸をしながらこれから一眠りでもしようかと考えていたところで、ふと、大浴場の存在を思い出す。由衣ちゃんのために用意したものだけど、俺も入ろうかな。きっともう入った後だろうし、大丈夫だろう、それにこのままにしてお湯を流してしまうのも勿体無いし。そう考え俺は久々の温泉を楽しむべく足取りを軽くして大浴場へと向かって行った。脱衣所で汚れた服を脱ぎ去りウキウキしながら大浴場へと入る。ここの温泉はお金持ち仕様なためか無駄に設備が充実していて、サウナやジャグジーはもちろん、さまざまな種類の温泉も楽しめるようになっている。中にはラブホテルみたいな全面ガラス張りの個室温泉(?)まであるから驚きだ。ちなみにラッキーは一緒じゃない、彼女は多くの犬に良くあるように水に濡れるのがあまり好きではないようだ。俺が大浴場に向かうと逃げ出すように通路へ出て行ってしまった、今ごろ入り口付近で不貞寝でもしているに違いない。ラッキーには悪いが俺は温泉を思う存分楽しませてもらおう、なにしろ今日はいろいろ疲れたのだから。■まずかけ湯をして身体を軽く洗い流してから浴槽に浸かる。温泉の温度はちょっと熱めの42℃に設定されており俺には丁度良い。思わず鼻歌まで歌いそうになり、ご機嫌な自分を自覚する。だがそれも無理ない事なのかもしれない、由衣ちゃんを救出してからここ数日いろいろ悩んだり罪悪感を感じたり忙しかった。特に彼女を避難所に帰すと言った時の反応で、自分の命を守るためとはいえ容赦なく彼女の懇願を拒否したのだから。いくら割り切っているとはいえ、目の前で女の子に泣かれるのは流石にこたえた。だけどもうそんなことは気にしなくても良い、半年間の期間限定とはいえ一度保護すると決めたのだ。ならば後は迷う必要などなく実行するのみ、自分にふりかかるリスクを『命の危険性は低い』と考え、それを勘定に入れて決めたのだ。例えそのことで死ぬことになろうともあくまで自己責任、俺の危険予測が甘かっただけのこと。必要以上に自己保身に走るつもりもないが、必要以上に善人になるつもりもない。俺はただこんな狂った世界で一人の人間として生きていきたいだけだし、それ以上の望みは今のところない。■温泉に入って15分ほどしてからだろうか、ふと脱衣所の方で物音がした。ラッキーだろうか? もしかして気まぐれで一緒に入りたくなったのかもしれない。そうならば丁寧に身体を洗ってやるとするか、きっと今以上にサラサラの毛並みになるに違いない。俺はそんなことを考えながらラッキーが入ってくるのを待っていた。やがてカラカラと脱衣所の方から音がした、俺はようやく来たかと笑顔で振り向き……あらゆる意味で硬直した。「……あ、あの、わ、わ、私も一緒に、一緒に入らせてくださいっ!」目の前に立っていたのは身体にタオル一枚巻いただけの由衣ちゃん。雪のように白い肌とか、肉付きの良い太ももとか、膨らみかけの胸だとか、とにかく俺には目の毒となるであろう姿がそこに存在していた。「あ? え? あ? へ?」「なんでここにいるの?」とか、「一緒に入れてくださいって何考えてんの?」とか言うべきことはたくさんあったのだろうが俺の口からでた声は言葉になっていなかった。とにかくその中学生らしからぬ色気を放つ姿に見とれてしまい思考回路が焼き切れてしまっていた。俺が呆然としている間にも由衣ちゃんはこちらへ歩み寄ってきて、「し、失礼します」と言って勝手に湯船に入ってきてしまう。しかもなぜか俺の真横に陣取ってだ。チラチラと見える胸元や、太股の付け根から目が離せない、こ、これが女体の魔力というやつなのか?衰弱した彼女の身体を事務的に洗っていた時とは違い、なぜか今は無性に魅力的に見えてしまうから不思議だ。「あの……そんなに熱心に見つめられると、その、ちょっと恥ずかしいです」「はっ!!? ご、ごめん、じゃなくて、なんで勝手に入ってきてんの!? 俺いるのわかってたなら普通入ってこないでしょうが!?」「た、高田さんと一緒に入りたかったんです」「はぁ!?」彼女が何を言っているのかよく理解できない。どこの世界に見知らぬ男と一緒に温泉に入りたがる女の子がいるだろうか?仮に混浴マニア(?)だとしても不自然すぎるだろう。「と、とにかく俺はもうあがるからっ、由衣ちゃんはゆっくりしてってね!」「だ、だめですッ!!」俺はようやく呪縛から解放されると同時に温泉から何とか脱出しようとするが、背後から彼女に抱きつかれて身動きが取れなくなってしまう。いろいろ背中に柔らかいものがプニプニ当たってヤバイ、下半身的な意味でも身動きが取れなくなってしまう。動けばバレる、いろいろと。由衣ちゃんはそんな俺の葛藤を知ってか知らずか、抱きついたままの姿勢でいろいろ話し始める。「わ、私今朝からいろいろ考えたんです、高田さんに言われたように私このままじゃ役立たずだし迷惑にしかならないかもしれません、で、でもここにいたいんです! だから考えたんです、どうすればここにいられるのかなって……そして今朝高田さんが言った事を思い出しました、その、わ、私とえ、え、え、えっちしたいって」「ブッー!!?」「そ、そういう経験はありませんけど、一生懸命がんばります! だからここを追い出さないで下さい! 一緒にいさせてください! 何でもしますから!」とんでもないことを口走りながら必死にお願いしてくる由衣ちゃん。俺は思わずそのトンデモ発言に噴き出してしまった、この娘はなんつー台詞かましてんだ。そして先ほどの話の内容も理解した、俺は今朝説得できたものと思っていたが彼女はまだ諦めていなかったのだ。まさか身を差し出す覚悟をしてまでここに留まりたいと申し出てくるとは流石に予想外だったな。だが彼女の覚悟も無駄に終わる、なぜなら既に俺は彼女を保護することを決めているからだ。そのことを知らない彼女にここまで思いつめさせたという事実にちょっとビックリしながら、俺はとりあえず事情説明を行うことにした。「えーと、とりあえず落ち着いてきいて欲しいんだが、実は由衣ちゃんを避難所に送り帰すっていうあの話ね、止めることにしたんだわ」「え?」「今日例の避難所に行って様子見してきたんだけど、かなり酷い状況でね、とても由衣ちゃんを預けられる環境じゃなかったんだ、いろいろむこうの方が安全だとか言っちゃったけど期待を裏切って御免」「え、あの?」「だからとりあえず半年間は俺が責任持って面倒見るって決めちゃったんだけど、それでもいい?」「あの、それって、私ここにいても良いって事ですか?」「ま、まぁ、そうなるね、嫌ならやっぱり避難所へ送っていくけど、どうする?」「こ、ここにいたいです! 絶対ここがいいです!」 凄い勢いで肯く由衣ちゃん、驚いている様子だが嫌がられなくて良かったよ。俺が勝手に送り帰すとか、やっぱり保護するとか、コロコロ意見を変えるから怒るかとも思ったけど、そんなことはなかったようで一安心か。「じゃあもう由衣ちゃんが無理してこんなことする必要はないってわかってもらえただろ? だからそろそろ放してくれないかな?」「……だ、ダメです」「え? なんで? 別にエロイ事とかしなくてもちゃんと面倒見るから大丈夫だよ、約束する、女の子に状況を利用して身体を求めるなんて外道なこととかするつもりないし」「そ、その、そういう意味じゃなくても、私……が、したいんです」「えぇッ!?」「た、高田さんは、初めて私を助けてくれた人ですし、優しくしてくれた人なんです、義母やクラスメイトからいじめられてた私を初めて同じ人間として扱ってくれた人なんです、だから好きなんです! 大好きなんです!!」「うぇ!? ま、マジですか?」「マジです、だから好きな人だからエッチだってできます、私がしたいんです!」力強く宣言するものの、やはり恥ずかしいのか耳まで真っ赤にして俯いてしまう由衣ちゃん。さすがに好きになる段階まで飛躍しすぎじゃないかと思わないでもないが、これまでろくに恋愛をしたことのない童貞の俺にはそれが間違っているのか正しいのか良くわからなかった。ただ、こうして女の子から好きだと告白されて決して悪い気分ではなかった、むしろ有頂天。そこ、ロリコンとか言うな、年下でも女の子から好きと言われれば何だかすげぇ嬉しいもんなんだぜ?姉属性を持つ俺でさえもそう思えるのだから、世の中のロリコンどもは今ごろ涙目だろうな、サーセンwwwとはいえこの場でいきなり中学生に襲い掛かるのも人としてどうだろうか、本人の了承があれど気が引けるのもまた真実。と、とりあえずこの場は一時撤退して、体勢(?)を立て直した後で後日改めて気持ちを静めた環境でじっくり話し合うべきではなかろうか?うん、それが良い、きっとそれが最善だ、衝動的なセックルはきっとお互いに後悔を残してしまうだろうし、まして相手は中学生、倫理的にも早すぎるって、よくないよ、いや、別に俺へタレじゃないよ、紳士なだけさ。俺はなんとか賢者の心を取り戻し、まずはこの場から離脱すべく由衣ちゃんを落ち着かせ説得することにした。「由衣ちゃんの気持ちは良くわかった、俺もそんなこと言われたの生まれて初めてだから凄く嬉しいよ、でもいきなりこの場でそんなえっちな事は―――ゲッ!!?」「あ……」賢者の心を取り戻した俺であったが、下半身は相変わらずの独立愚連隊状態であった。そのことを忘れていた俺は由衣ちゃんを説得しようと彼女に振り向いた時、マヌケにも俺の暴れん棒が丁度彼女の眼前にさらされることになってしまった。一瞬、目の前に現れた凶悪なソレを目にして驚いた彼女だったが、その次に取った行動は完全に俺の予想外だった。「うれしい……私で興奮してこんなに立派になってくれたんですね、初めてで上手くできるかわからりませんけど、精一杯がんばってご奉仕しますね、チュッ♪」「え? ちょ、ま、ちょ、そんな、どこにキスして、アッーーー!!?」■……わけがわからないうちにわけがわからないことになって、俺は気が付けば彼女とベッドで二人横になるはめになっていた。キングクリムゾンとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ、もっと恐ろ(ry思わずポルナレフになりそうだったが、幸か不幸か自分の身に起こった出来事は全て記憶していたのでそれもできない。まさか初体験(?)が中学生相手とは、夢にも思わなかった。これで俺も性犯罪者の仲間入りか……。いや、まだだ、俺は頑張ったんだ、童貞は守りきったさ!やっぱり中学生はまだ早いと思った俺はギリギリ本番行為『だけ』はしなかったんだ!……それ以外のプレイはあらかたヤっちまったけど。大浴場で3回、自室に戻って4回、シャワーを浴びながら1回、一日でここまでがんばったお猿さんな俺を褒めてやりたい。お互い初めて同士だったのによくもまぁハッスルしたものだ。後半からは俺も吹っ切れてガンガン攻めるようになっていたが、調子にのって気絶するまで攻め立てたのは流石にやり過ぎだったか。手とか足とか口とか胸とか脇とかス○タとかア○ルとか、あれ? 本番よりスゴイことしてね?ま、まぁ、いいか、とにかく俺も彼女もまだ清い身体(?)だし問題ないだろう。今俺の隣で寝ている由衣ちゃん、いや、由衣(途中でそう呼んでくださいとお願いされた)の満足気な寝顔を見ながら考える。保護するのは半年の期間限定なんて言ったけど、これじゃあもう手放せないよな……。一度味わった女の味というか恋人の味というか、とにかく病み付きになりそうなものだった。自分自身の感情がこのたった数時間で劇的に変化してしまったのを自覚している。だから俺は怖かったんだ、こうして自分以外の他人の命を最優先に考えてしまうような感情を持ってしまうことに。だがいまさら手遅れだ、こうなってしまっては由衣の安全を最優先にしつつ俺の安全も確実に確保していかなければならない。手間はかかるだろうし、余計な時間も費やすことになるだろう、もちろん危険も増える。だが妙なことに俺はそれを嫌がる気持ちはほとんどなかった、こ、これがリア充というものか……。隣で眠る由衣の柔らかな肢体を抱きしめながら、俺は今の幸せを噛み締めた。ゾンビが地上に溢れ、世界が崩壊し、メチャクチャになってしまった世の中だけど、生まれて初めてこんな俺にも彼女ができました。いつまで続くかわからない生活だけど、これからの二人の時間が楽しみでしょうがない。願わくば神様、このゾンビ天国と化した世界で、俺と彼女の二人だけのサバイバル生活を何時までも見守っていてください。俺は彼女の体温を感じながら、これ以上ないほど幸せな気持ちで眠りに落ちていった。■ゾンビ天国でサバイバル【完】■