■08本屋を出て30分ほど歩き目的のミリタリーショップに到着した、本に紹介されていた店舗だ。ここはミリタリーショップというよりも、アウトドア用品やモデルガン、防犯・防災グッズなどを幅広く販売する総合店で、もちろんクロスボウも売っている。で、店舗前に辿り着いたは良いが、今ちょっと困ったことになっています。いやね、店閉まってるんですわ、シャッターまで下りてるし、そのうえ人為的に補強した後も見られる。間違いなく誰か篭城してるよね、さて、どうするべきか?いっそ避難民らしく保護を求めてみるか? うーん、でもこんな状況じゃあ平然とやって来た俺がゾンビじゃないのかと疑われそうだし、そうでなくても果たして素直に俺を受け入れてくれるだろうか?食料不足とかだったら間違いなく門前払いだろうな、食い扶持が増えても良い事なんか一つも無いし。そもそも警察や自衛隊が指揮していないんなら施設内の治安に期待するのもアホらしいし、どれほどの人数が篭城しているのかもわからん。最悪、この前のレイパー四人組みたいに犯罪天国になってるかもしれん。武装した暴徒なんて洒落にもならない、いっそこの店は諦めるべきだろうか?閉じられたシャッターを前に俺はしばらく思案に耽っていた。すると店内からいきなり激しく言い争う声が聞こえてきた。「お前のせいだ!」とか「もうこんなの嫌!」とか「どうせ皆死ぬんだ!」とか。喧嘩というよりも、これは罵り合いだな、内乱か?しばらくして、罵り合う声はやがて争いあう戦闘音へと変わっていった。何かが割れる音や金属同士がぶつかり合う音、破壊音がひっきりなしに響く。続けて「アッー!」と絹を引き裂くような悲鳴や絶叫がし、「ウボァー!」耳を塞ぎたくなるような断末魔までもが聞こえてきた。……これは、中で人間同士が殺しあってるのか。迂闊に接触しなくて良かったな、後ちょっと早く接触していたら俺も巻き込まれていたかもしれない。やはり気を付けるべきは人間か、極限状態だと何が起こるかわからんしな。■店内から全く音が聞こえなくなっても俺は様子見を続けた。さっきの殺し合いの生き残りがいるかもしれない、もし生きていたら間違いなくマトモな精神状態じゃないだろう。うっかり姿を晒せばいきなり撃ち殺される可能性すらある。シャベル(シャーリーン)しか武器を持たない俺が無防備に接触するのはあまりに危険だ、ここはしっかり安全を確認してから接触すべきだろう。たっぷり一時間ほど時間をかけて俺は店内の様子を伺った、物音は聞こえてこない。全員相打ちになって死んだのだろうか? 生きていても俺の害にしかならなさそうだし、そうしてくれるとありがたいのだが。俺は慎重に店の周囲を回りながらどこか侵入できそうな場所はないか探った。店の裏側に回った時、裏口の扉が見えたがしっかりした鉄製で、そのうえ鍵もかかっていたのでここからの侵入は諦めた。だが、ふと見上げた店の二階に窓が見え、それがガラス製であることも確認した。自動販売機を足場になんとか二階によじ登るとガムテープを利用して以前と同じ要領で窓ガラスを叩き割った。できるだけ音を立てないように店内に侵入し、周囲を警戒。人気がないのを確認してホッと一息つく。室内の様子を見るにこの部屋は在庫保管庫らしいな、ダンボールがそこかしこに積み上げられている。そっとダンボールの一つを開けてみれば卵型の携帯防犯ブザーがぎっしりと詰め込まれていた。この店は護身用品も扱うって紹介してあったからこういったモノも取り扱っているんだろう。部屋から出る、出入り口の扉を少しだけ開けて様子見。人気は無く相変わらず静かだ、部屋を出て階段を下りいよいよ店内へ。再び窓を少しだけ開けて様子見するも人の気配は無し、ただし濃密な血の臭いがした。いざと言う時に備えてシャベル(シャーリーン)を持ってくればよかったかもしれない。二階に上るときに邪魔だったんで置いてきてしまっていた、今の手持ちは金槌ひとつだけだ。今更ながらちょっと後悔……まぁ、仕方ない。より注意をしながらいくしかないか、神様、俺にご加護を、南無三ッ!覚悟を決め、そっとドアを開けて店内を見渡すが物音はしない。足音を立てないように進むと数人の男女が床に倒れていた、血溜まりの中で。急いで駆け寄るような真似はしない、どう見ても死んでいる。頭に矢が刺さった者、ナイフで心臓を突き刺された者、鈍器で骨を砕かれた者。死因はさまざまだが、全員に共通していることは夥しい血を流しながら床に骸を晒していると言うこと。転がっている死体をそのままに、俺は店内を一回りして他に誰かいないか見回った。結果、店中をくまなく探して合計5人の死体を発見した、男2人に女3人だ。何が原因で殺し合いに発展したのか今では知る由も無いが、きっとくだらない理由だろう。閉鎖空間で周囲をゾンビどもに囲まれ援軍も望めない状況下でのストレスは凄まじいと思う。ちょっとしたことで喧嘩になったり、口汚く言い争うことになるのは容易に想像がつく。それだけなら普通は致命的な結果にはならないが、彼等は武器を持っていた、それもすこぶる凶悪な。感情のまま『つい』撃ってしまうことだってあるだろう、それが破滅への第一歩だとしても。同情はすまい、全ては彼等の自業自得なのだから。仲間同士で話し合って融和をはかったり、脱出計画を立てたり、気分転換をしたり。殺し合いにまで発展する前に出来たことは幾らでもあったはずなのだ、それをしなかったのは彼等の責任だ。人の集団で一番恐ろしいのはこういった仲間割れだと思う。俺もどこかの集団に合流する時はそのことに十分気をつけておこう、場合によっては一人で離脱する必要性もあるだろう。ゾンビだけではない、人間同士の脅威にも注意を払わねば。俺は彼らの死体を一箇所に集め、手を合わせて「南無~」と彼らの冥福を祈った。さらに集めた彼らの死体がゾンビとして甦らないように金槌で頭部を念入りに破壊し二階から外に投げ捨てた。その際、一人の死体のポケットから『ミリタリーショップの鍵』が見つかったのでありがたく貰っておくことにした。その後、一階裏口の鍵を開けラッキーを招き入れゾンビが侵入してくる前にすぐ閉めて鍵をかけた。あとついでに置いてきていたシャベル(シャーリーン)もしっかり回収しておいた。ずっと持ってたせいか何気に愛着わいてきてんだよね。■