番外編1「不幸自慢は嫌いではありませんよ?」(多少暗い内容ですので注意)
<レスリー視点>
……夢を見ていました
私たちがペンドール大陸に来る前の生活、あの頃は幸せでした。少し後先考えない性格でも頼もしい兄がいて、よく気が利く弟がいて、大切な時間があって……
バークレーで兄弟と一緒にすごしていた日々。そんな平穏な日々を壊したきっかけはこのペンドール大陸に住むエルフの話。
ノルドールと呼ばれるそのエルフが作る装備・工芸品は、人間の作るものとはまったく別次元の性能・美術的価値があり、ノルドールの古びた剣一本で城と領地が手に入るとまでバークレーでは言われていました。
もちろんそれほどの価値があるのは理由があって、ノルドールは基本人間を嫌い交易することができないのです。
つまりノルドールの装備・工芸品は攻め込んで奪うしかないのです。しかしその圧倒的な性能を誇る装備に身を固めた弓騎兵や弓兵相手に勝利することはほとんど無く、よって手に入れることは事実上不可能なのです。
しかし、実際には手に入らないはずにもかかわらず少数の品物は確かに王侯貴族の収集物として人間側の手元にあるのです。
そんなある日、エルフの住む北に位置する平原に住む「ヤツ族」に大金を払って依頼することにより手に入れられることを兄は酒場で聞いてきたのです。
「みんなで金持ちになるんだっ!」
その兄の一言で所持金のすべてを持ってペンドール大陸に私達はやってきたのです。
結果はよく考えれば十分予測のついていたことでした、兄が酒場で聞いてきた情報はヤツ族が得物を自らの縄張りに誘いこむための餌だったのです。ヤツ族との交易のために編成した私達の隊商は壊滅、大盤振る舞いで雇った護衛兵達は瞬く間に皆殺しにされ、私と大切な兄弟、そしてわずかな護衛兵の生き残りがヤツ族の頭領の前につれてこられました。
「おぅ、なかなかいい女が居るじゃねぇか」
「頭領、では男はどうします?」
「殺せ、男に価値はない」
「了解しやしたっ!」
その一言で始まった殺戮。生き残ったのはまだ若い女性の護衛兵と私だけ、私達は目の前で家族と仲間を皆殺しにされました。
大切な家族が、目の前でむごたらしく殺されたのです。最後に見た家族の表情は……絶望、後悔、懺悔、憎しみ、不条理、怒り───
「そっちの女はちぃと筋がはりすぎてんなぁ、お前らの好きにしろ……お前は俺と来い」
「ほら、さっさと歩けっ!」
「ぐっ!?げほげほっ!!」
「い、いや、はなしてっ!いやぁああああああああああああ!!」
護衛兵の子はニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべた男達に連れて行かれ、私は私が殺戮から目をそらさないようにと首をつかんでいた男に催促としてお腹に蹴りを入れられました。こらえようのない嘔吐感、もう涙も吐くものも兄弟の死を見たときに枯れ果てていました。
「てめぇ……誰が傷つけていいってったぁ!?」
「ぎゃぁあ!」
蹴りを入れた男が頭領に切り殺される、首だけで転がっている男と目が合う。もうどうでもいい……何も考えたくない……
「へっへっへ……じゃぁおじょうちゃん、俺と楽しいことしようかぃ」
「……」
ただ男に抱えられ移動式の家の中に運び込まれ、寝床に転がされる。外から聞こえるのはあの護衛兵の子の悲鳴と男達の歓喜の声。いやだっ、聞きたくない、聞きたくないっ!!
「耳塞いだって無駄だぜじょうちゃん、おとなしく俺を楽しませりゃわりぃことはしねえよ?」
「あ……あぅ」
「そうそう、いい子だ」
男のなすがままに服を脱がされてゆく、私の心に残った最後の意識が男の顔から目線をそらす。偶然にもその先にあった物は先のとがったノルドールの工芸品。それを見た瞬間、目の前で殺される家族を思い出しました。
もうすべてがどうでもいいと思っていた気持ちの中に湧き上がる一つの感情、これは……憎しみ。
こいつだ、目の前のこいつがすべて悪い、こいつが兄弟を殺した、こいつが……こいつがっ!
男の口が近づいてくる、機会は一度だけ。私はどうなってもかまわない、ただ……こいつだけは……絶対に殺すっ!
「へっへっへ、久しぶりの上玉だぁ……」
想像通り舌を伸ばして私の口をむしゃぶりつくそうとしてくる、狙うのは伸ばされた舌。そして男のわき腹。
ーーーグチャリ
「ぎ、ぎがぁあああああああああ!!」
舌を追いきり噛み付けると同時に男のわき腹に蹴りを入れて覆いかぶさられた状態から離脱します。男が口から血を流しながらこちらを睨みました。
私の横には悪趣味な骸骨がついた槍、私は迷うことなく切っ先を男に向けます。
「いてぇ……いっきしょうこのアマぶっころしてやるっ!!」
「お前がぁあああああああああ!!」
舌を噛み千切るのには失敗しましたが、まだうまくしゃべれない頭領は腰に挿していた短刀を腰だめに構えて私に向けて踏み込んできました。私も無我夢中で両手で槍を握り締めて全力で突き出しました。
「ぐぎぃ!」
「あぐっ!?」
私の槍が男の右肩に深く深く突き刺さり、男の短刀が私の右腕の肉をえぐります。
怯んだ男、後ろは鍵のない皮でできた扉。迷うことなく飛び出して私は家の前にあった馬にまたがりただひたすら駈けました。
「っは!?」
気がつくと視界には一面の星空。私は……そうです、あの宴会でお酒に酔ってそのまま寝たのですね……
夢の中の感覚が今でも残っています、口の中には何もないはずなのにあの男の血の味がする気がします。
「ぐが~~~~」
私に寄りかかっていびきをかいていたのはカズキでした。この人も私には想像もつかないつらいことを体験したのでしょうか。
(初めて兄上様にいただいたコートなので、大事にしたいんですよ)
ノルドールのものとはいえ、ボロボロのコートを大事にするカズキ。人間でありながらノルドール人のイスルランディアさんを兄と呼び、ノルドール人であるセニアさんやイスルランディアさん、ノヴォルデット村長に家族と言われる人間。
あの言葉を言った時の彼の乾いた笑みにはどれほどの思いがあったのでしょう。
(す、すみません。なんだか……涙が……)
震える手を必死に握り締めて、立ち尽くしていた彼。なぜか私はどうしても彼を抱きしめなければならないと感じていました。
なぜそう思ったかはわかりません、でも……彼は私に似ている気がしました。何か大切な……大切な何かを無くしてしまったような雰囲気でしょうか。
出会ってまだ少ししかたっていませんが、その中でもどんな時でも笑って、どんな時でも明るく、どんな時でも前向きで……そんな彼の存在は私にはどうしても儚く見えてしまいます。そう、この世界ではあまりに儚い。それでももう少し彼のそばであの笑顔を見ていたいと思うのは彼の魅力なのでしょうか……
───ガシャン
音がした方向を向けばそこにあったのは私が「はじめてもらったモノ」。
「初めて貰った物……ですか、兄上、家族に防具をあげるのはあなただけではないようです」
音はきちんと木に立てかけておいた盾が倒れた音、そしてその横にある物は……私の大切な人からもらった剣。
「また、隊商を失ってしまいましたね……」
ヤツ族の宿営地から脱出し、裸でサーレオン王国のとある村に逃げ込んだ私は、ただ復讐の為だけに3年間その村で自分を鍛え続けました。
村の人々はヤツ族の使う馬に裸でまたがっていた私を見て事情を察して匿ってくれました。ヤツ族の平原に近いこの村ではよく見る光景だったのかもしれません。
3年の間色恋沙汰だってなかったわけではありません、それよりも優先すべきことが私を戦いに駆り立てました。家族を殺されてから3年後、生き残った後初めて参加した戦いは「ヤツ族討伐」隊への参加。
そしてそれから2年、私はヤツ族を殺しに殺しました。集落もためらわずに焼きました、情けなんて言葉は私の頭の中にはありませんでした。
何回目の討伐だったでしょうか、ある集落を焼き討ちしていた時、ある男が見覚えのある盾を持っていました。
「兄上が……私にくれた盾っ!!」
私は一撃で盾を持っていた男の腕を切り落とし、盾を取り返しました。
「ま、まってくれっ! た、盾がほしいならくれてやる!」
「……どこで手に入れました?」
「へ、ひへっ?」
「どこで手に入れたのかと私は聞いているのですが?」
「ざ、ザルカーってやつが率いてる軍閥との交易の時にこっちのブツと交換したんだよ!」
ザルカー……そいつが、私の家族を殺した仇?
「ザルカーというのは右肩を怪我していませんでしたか?」
「し、してた! 右腕を動かすのをいつもおっくうだって言ってたっ!!」
「そうですか、情報提供ありがとうございました。それでは」
「ぎゃぁああ!」
最後まで命乞いをしていたゴミを切り捨て、男の服で剣についた血をぬぐった後、あらかた掃討が終わっていたので、私は討伐隊の隊長のもとに向かい隊長に言いました。 「ザルカーの率いる軍閥を討伐しよう」と。
結果は実行不可能との事でした。私はヤツ族を殺せればそれでよかったのですが、隊長は戦利品で私腹を肥やすことが優先だったようで500人を誇るザルカー軍閥と戦うことは命の危険があるとして頑なに拒否したのです。レイヴンスタン王国とサーレオン王国が討伐の機会をうかがっている今、ヤツ族の戦い方、知識をふんだんに持っている私達が兵を挙げれば両国の支援を得ることはたやすいでしょう。
私は結局現隊長に不満を持つ討伐隊の人間と一緒に隊を離脱し、ザルカー軍閥を殲滅しあの男を今度こそ殺すための軍閥を作り始めました。
お金がなければ兵を養えないのは当たり前で、私達はヤツ族の勢力圏を通る隊商を専門とした護衛隊としてレイヴンスタンとサーレオン、帝国を結ぶ交易路の護衛を続けました。そのおかげもあり、最近は40人の優秀な護衛兵を傘下に持つ軍閥として立派に成長していました。
なにより私にとって大きかったのは……愛する人ができたこと。
私が愛した人はレイヴンスタン王国のある村で第三次義勇兵応募を行った時に参加した人。彼もまたヤツ族に父を殺され復讐に燃えていました。
最初は傷のなめ合いだったかもしれません、それでも彼と共に過ごすうちに私の復讐で塗り固められていた心は少しずつ幸せで満たされていきました。
そんなやさしい彼は兄から盾を貰った話をすると「じゃあ僕は父から受け継いだ双剣を君に一振りあげるよ」といってその形見の剣を私にくれました。
部隊のみんなと彼と笑いあう厳しくも楽しい居場所。それがこの護衛兵軍閥だったのです。
そんな夢のような時間も今日終わりました。
今回請け負った任務、確かに難しい護衛内容でしたが隊商が10人ほどで荷馬車も10台以下の身軽な隊商の護衛ということもあり、依頼を受けたのが最大の失敗だったのかもしれません。結果は一緒に一つの焚き火の前で眠る4人の部下。
そこに愛しい彼の姿はありません。私の育てた部隊のほとんどは今日の戦いで愛しい人と共に消え去ったのです。
「みんな私をおいて逝ってしまうのですね……」
私はカズキを起こさないように声を押し殺して泣きました。彼から貰った剣と兄から貰った盾を抱きしめて……
あとがき
いろいろとあってうつな気分真っ盛りの作者です。気分が欝な時にSSを書くと欝展開になるんですね。
今回はいろいろとチラ裏の規約に引っかかりそうな気がするのと、なんだか番外編としてもレスリーさんの過去の独白だけなので後で消すかもしれません。
う~ん、本編を進めないと……
推奨BGM「防人の歌」