○月×日
今日セニアが森の外近くまで出かけたいというので剣を貸してやった。
本当は森の外は危険だからあまり行かせたくないのだが、ほかならぬセニアの頼みなら仕方がない。
それに今日は森にニンゲンが入ってしまったせいか精霊が怒って大地を揺らした。
そうだ、そもそもなんでニンゲンがセニアと親しく会話しているのだ、気に食わない。ニンゲンなんぞすべて我らノルドールの作る工芸品や武器のためだけに戦争を仕掛けてくるほど愚かな生き物なのに。
村に入れたもののノヴォ村長があのニンゲンをかばって、村のために働けば命だけは助けてやることになった。
俺は絶対に認めん、意地でもセニアに近づく害虫は俺が殲滅せねば……今日の夜にでも夜襲をかけてみるか。
○月△日
くそっ! 昨日の夜に行った夜襲はノヴォ村長にとってお見通しだったらしく、扉の開けようとしたら上からたらいが落ちてきて頭を打った、いたい。
あのニンゲンとセニアが楽しそうに今日も井戸のそばで話している。周りのノルドールも最初は訝しげに見ていたが、あのニンゲンが料理の話をし始めたところ次々に主婦が集まってきて見えなくなった。料理程度で懐柔されるとはノルドールとしての誇りはないのか?
○月□日
あのニンゲンが井戸を便利なものにした。なにやら『ぽんぷ』とか『あるきめですせんせい』、『みきさーしゃのげんり』など言っていたがニンゲンの言葉はよくわからない。そもそもやつらの言葉を理解する必要がないのだ、我らノルドールがニンゲンに教わることなど何一つない!
追記
夜に出た『ちーずふぉんでゅ』とかいう食べ物はおいしかった。
○月▽日
今度はあのニンゲンが『じょうすいどう』とやらを作ろうと言ってきた。なにやら各家庭で水を汲んでこなくてもいつでも使えるそうだ、ばかばかしい……そんなことができるはずがない。
だが村の生活が便利になるならばやってみようとノヴォ村長と大ババ様の発言で結局やってみることになった。今日は『じょうすいどう』のために竹を何本か精霊に断りを入れて切り倒した。これで失敗したなどと言ったら、精霊への生贄にしてやる。
○月Θ日
今日は切り倒した竹の中を上半分だけくり抜いてくれと言われた、何に使うかわからんがとりあえずしておいた。
竹と竹をつなぐ所を薄く剥いだ木の板で囲んで水漏れをなくしていた、どうしたらあれで水が漏れなくなるのか俺にわからん。セニアがとても感心していた、だから話をするんじゃない、あのニンゲンに近づきすぎだ。
○月〒日
昨日作った『すいどう』を森の水源に接続する。先が2つに分かれている木などを使ってどうやら斜めにして各家庭に水を送るようだ、冬は使えないだろうが、まあ便利にはなるだろう。台所の『じゃぐち』を開けると確かに水がでた、家の外にいちいち出る必要がないのは確かに便利だ。
ただ各家庭が一斉に『じゃぐち』を開けると少し経つと水の勢いと量が減ってしまうのは、今後このニンゲンに改良を……俺は何を考えているんだ、早くこいつはこの村から追い出さないと。
○月Γ日
『すいどう』が予想以上に村人から評価を得ている。今のところ壊れたら直せるのはこのニンゲンだけだから技師として残してもいいのではないかという声がちらほらと聞こえてきた。なにより主婦をあのニンゲンが味方につけたのが難点だ、あの人々の勢いは多分帝国軍の戦列歩兵と正面から押し合いができるほどだからな。
主婦の後押しも受けてあのニンゲンの書いた設計図を基に『ぽんぷ』がつくられて井戸につけられた。取っ手をぐるぐると回すだけで途切れることなく水が汲めるようになった。『すいどう』にくらべて早く大量に水を取れるので主婦たちは洗濯につかっているようだ。あのニンゲンが作った『ふろ』とやらも好評のようだ……誇りあるノルドールの文化を捨ててあのニンゲンの思うがままにされるとは嘆かわしい。
追記
今日の『さんどいっち』はおいしかった、『まよねーず』とやらはすばらしい
○月Λ日
きらい 言われた 俺は…… あのニンゲン すべて あの
○月Ξ日
あのニンゲンにごはんを差し入れされた、俺が昨日ずっと自室に引きこもっていたのを心配したらしい。何も食べていない俺の腹を考えて軽い流動食をくれた……うまかった。
別に……ごはんを作らせるくらいなら別に家に来ても文句は言わないようにする。以前は話し込むためによく俺の家に侵入してきたが、今はご飯のときだけ来るようになった。ごはん作るなら……べつに……悪いやつではないようだし、嫌いではない。
○月*日
ニンゲンが風邪をひいた。本人いわく季節の変わり目ということ、とこちらの世界に慣れていないのが原因だと言われた。
風邪が一日でいきなり出るはずがない、そういえば昨日もぼーっとしていたり人の話を聞いていなかったような気がした。なのに俺は無理に畑仕事を手伝わせた……俺のせいだな。
あのニンゲンを寝かせてごはんをセニアとふたりでたべた。ふたりで食べるとなんだかいつもよりおいしくなかった。心配であまり今日は眠れそうもない。
「……兄上様の日記、最初はほっとんどご飯と俺に対する恨みでできてるね」
「後半は見ているとちょっと笑ってしまいそうですけどね」
いやぁ、ご飯を作っているうちに最初は家に入れてくれなかった兄上様だが(もともとノヴォ村長の家で寝泊まりしている)、最近はご飯を作るからというと別にお昼前とかでも家に入れてくれるようになった。
まあセニアさんと喋ってたりするとすさまじい形相で睨んでくるけども。ちなみに今なんで兄上様の日記を見ているのかというと、セニアさんが「これ、どうやら兄上が書いている日記みたいです。兄上に許可貰ったから一緒にみません?」と言われたからなんだが……ぜったい俺の分の許可は取ってないでしょ、これ。
「ん、どうした二人で一体なに……セニアこれはいったいどういうことだっ!?」
「一緒に見てもいい? って聞いたじゃないですか。いいと言われたのでカズキと一緒に見ているだけですよ」
「そ、そうですヨ……」
ぜったいやばいでしょ、これはまずいだろ、ぜっっっったいこれはやばいだろ。兄上様の後ろからすさまじいオーラが───
「そぉこになおれえええニンゲンー!! 今日こそ切り殺してくれるわぁああああ!!」
「理不尽だー!?」
「……やっぱり仲がいいですね」
「「どこがっ!?」」
あとがき
ちょこっと描写不足のところを書き足してみました。蛇足だったり余計だったら後々削除するかもしれません、毎回削除しては書き足しを繰り返してすみません(汗)