前回のあらすじ
・平和っていいね
・アニメとかで攻めてくるのって大抵帝国だよね
・部下女の子でうっはうは
<ゲデヒトニス視点>
僕はあの時は死を覚悟していた。
次々に倒れていく戦友たち。助けてくれと叫びながら逃げ惑う護衛すべき民間人。
隊商の人々を乗せた馬車を守っていたのは僕を含めてわずか数人、僕はここで死ぬのかと思っていた……でも
『まてぃっ!!』
そんな時に隊長は現れた。僕だって女の子だ、白馬の王子様に憧れたことだってある。馬は白くないしノルドールのコートを着ていたけど隊長は間違いなくその時僕の「王子様」になった。
「射撃開始っ!蜂の巣にしてやれ!」
隊長からの射撃開始指示が聞こえる。全軍の中央で戦列を支えることになった僕達重装歩兵隊は、作戦通りに盾で身を隠しながらしゃがんでいた。
頭上をカザネの弓兵隊から放たれた大量の矢が通り過ぎる音がした後、前方の敵から悲鳴と雄叫びが上がる。こちらの射撃距離に焦った敵がもうすぐこっちに突撃してくる……ここは通さない、誰一人として!
「歩兵隊シールドウォールっ!一兵も通さないでっ!!」
「「「「シールドウォーーーーールッ!!」」」」
2回目の弓の斉射音と共に立ち上がり自分の盾を右隣の味方の盾にかぶせるようにして守盾壁を形成する。今僕がいる場所は初めて経験する正規軍同士の衝突の最前線。
左翼では敵の軽騎兵が露出しているように見えた弓兵を攻撃しようと前進してきたものの、陣地全周囲に対して巧妙に艤装した坂茂木に行く手を阻まれ停止したところを弓兵隊に狙い撃ちにされている。僕達の目の前の敵は最初の一斉射で焦ったのか隊列を崩してばらばらに突撃してくる。
「わっ!?」
僕の横で盾を構えていた兵士が盾に大量に放たれた投槍によって盾ごと吹き飛ばされる。
幸いただはじかれただけのようで、すぐさま彼は盾を構えなおして戦列に戻った。
それを見ている間にも、僕の盾にも大量の矢や投槍が突き刺さるがまだ貫通されていない。開戦前にこのノルドールの盾をくれた隊長に感謝すると同時に僕は盾を再び構え直すのでした。
<和樹視点>
今回はこちらが迎撃の形をとることができたため、弓兵が初期配置地点から移動せずに射撃し続けることができるような少しこんもりとした場所があったのでそこに弓兵を配置している。先ほどの一斉射を見る限りカザネさんはちゃんと有効射程圏内まで敵をひきつけ一斉に矢を浴びせているようだ。
ノルドール弓兵隊にとって有効射程とはいえ帝国にとっては攻城用重クロスボウ並みの射程で攻撃されたこともあり、敵はすぐさま距離を詰めるべく横列での前進から散開してこちらに肉薄してくる。このまま隊列を整えたまま前進し続けた場合の損害を恐れたのか、それも隊列を整えたままでなくても数と勢いで突破できると考えたのだろうか?
どっちにせよこれで敵の最大の長所である突破力は一時的に封じた、あとはレスリーさんがどのタイミングで側面攻撃を仕掛けるかだ……うまく頼みますよ。
「うわあああ!!」
「ぎゃああああ!!」
敵味方問わずに聞こえ続ける悲鳴や断末魔……正直耳をふさいで、目をそむけてしまいたい。でもこの地獄は俺が自分の意思で選んだんだ、逃げちゃだめだ……逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだっ!!
「た、隊長、敵がこちらの戦列に近すぎて弓兵が射撃できないのでカザネが新たな射撃指示を要請して、る」
「カザネさんに連絡、射撃目標変更。敵戦列後方のクロスボウ部隊または突撃中の敵歩兵。以後はそちらにて任意に射撃目標の変更を許可すると重ねて連絡。」
「りょ、了解。伝令に行って、きます」
正直素人の俺が指示するより、敵のどこに射撃を集中すべきかなんて弓兵出身のカザネさんに任せたほうが効果が出るだろう。本来なら指揮できる位置から俺が指示を出すべきなんだが、今回はこちらの弓兵が周囲より若干高所に居るのでまかせようと思ってる次第。
今回俺の部隊が引き受ける敵の総数は200……そのうち敵歩兵は150、20の重歩兵による防衛ラインと30の弓兵射撃では正直あっという間に押し込まれる戦力だ。敵の騎兵をさっさと追い払った左翼からの援護射撃があるとはいえいまだ110近い軍団兵がこちらの重装歩兵を突破しようと殺到してくる。
今はまだこちらの戦列に到着した敵が40程度だからいいもののもうそろそろ突破されるのは眼に見えている。
「もう少し……もう少しだ」
こうしている間にも敵の歩兵は次々とこちらの戦列を突破しようと押し込んでくる。正直戦列はすでにこちら側に弧の形にまで押し込まれている、もはや乱戦に移行しかけている状態だ。あ、セイレーネさんが盾を投げつけてハルバートの一振りで敵が数人吹っ飛んだ……あそこだけ中世じゃなくて三国志の世界に見えてくるな。
「隊長、大丈夫ですよ。村のみんなを信じてくださいな」
「イグンさん……そうですね、みんなならまだ耐えてくれますよね」
「そうですそうです、そうやって部下を信頼すれば必ず部下はその信頼に答えてくれるさ」
「いやぁ部下というかなんというか」
かなり押し込まれているので不安になっていることがはたから見て分かってしまったのか、俺の部隊での村の兵士代表であるイグンさんに励まされてしまった。
イグンさんは村でも戦闘に長けた古参兵だ。川でおぼれた子供に人工呼吸をして蘇生させた事があったのだけれども、その時の子供のお父さんであり、それ以来こうして軍事に関する事ではいつもお世話になっている。今回護衛兵の4人娘以外に真っ先に志願してくれたのが彼だ。
『『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』』
突然右前方から聞こえる大音量の雄叫び、敵の動きが急に乱れはじめた。敵が驚いて動きを止めると同時に森から放たれる弓によって次々と殺されていく帝国軍兵。
2方向からの交差射撃によって敵軍団兵は装備するその大きな盾を使い身を守ることに精一杯になりこちらの歩兵への圧力がだいぶ減った。
盾を合わせるように密集し始める敵兵、今だ雄叫びと射撃だけで姿を現さない森の中の友軍。
右左正面からの射撃に対応するために盾をあわせて防御体制に入った敵の今一番無防備な背後から
「つっこめぇえええええ!!!」
レスリー隊歩兵部隊が敵歩兵へと突撃を敢行した。
今回の戦いは、最後のレスリー隊の背後からの突撃により敵の士気は崩壊。兄上様に足止めさせられていた敵右翼も味方の敗走を目撃した後撤退したそうだ。現在兄上様は騎兵を率いて追撃を行っている。
どうやらレスリー隊は敵側面に射撃部隊のみを残して雄たけびを上げて側面に敵の注意をそらした後、軽装歩兵を中心とした部隊の強行により敵の背後を取ったようだ。
あれは俺もてっきりレスリーさんたちは側面から攻撃をかけるのかなって思ったぐらいだし、そりゃ効果は絶大ですね。
そして視線を先ほどまで戦争が行われていた目の前に戻すと、前の賊との戦いとは比べ物にならないほどの死体がそこらじゅうに横たわっていた。
友軍の損害のほとんどは敵の主力を迎え撃った俺が預かっていた部隊だった……それなりに長く村で過ごした俺にとっては戦死したり負傷した村の人の姿を見るのは本当につらかった。
でも俺はまだ命が重いと感じて、人の死が悲しいと思える事ができる。感覚が麻痺しないように、この戦闘で失った村人や戦友たちを「ゲームの戦死者数」と割り切らないで彼らが死んだことを忘れないようにするのが俺なんかにできるせめてもの……
「隊長……勝ったんですから、もっとうれしそうな顔をして欲しいです」
「……指揮官が不安な顔をしていると兵士も不安」
「ほめてやってくれ隊長、隊長の部下は立派に戦ったよ」
「認めて……あげてほしい?」
「……そうですね、勝ったのだから」
「死んだみんなのためにも、一発頼みますよ?」
レッドさんたちの応急手当を受けた兵士や、無傷の兵士が俺の回りに集まってきた。ホント、俺なんかにはもったいないくらいすばらしい仲間だよ。やっぱり勝った後はアレをやるしかないかっ!!
「よし……勝鬨をあげよっ!!」
『『うぉおおおおお!!!』』
帝国との戦いはまだ始まったばかりだ
第一次帝国軍迎撃戦
ノルドール軍勝利
兵力
・帝国軍300
・ノルドール軍200
死傷者
・帝国軍110(追撃戦での死傷者と降伏者含む)
・ノルドール軍30
カズキ隊死傷者
歩兵15
弓兵5
あとがき
中央を受け持ったカズキ隊の損害ちょっと再編成必要なレベルかも。レッドさんの治療スキルでも戦線復帰できる人は何人になることか……