前回のあらすじ
・帝国と戦争が始まりました
・何とか勝ちました
・和樹たちの戦いは始まったばかりだ!
<和樹視点>
開戦から1週間、帝国との戦争は新たな局面に向かっていた。
こちらは先日の戦闘で、ノルドールへの牽制と予備兵力であった帝国軍500のうち300ほどを撃破し、聖なる森に攻め込むのであれば断固たる措置をとる事を証明した。これにより帝国軍は予備兵力を失い、残余の200をすべてこちらに対する防衛兵力として展開することとなった。つまり、現在帝国軍ラリア攻撃部隊を含めた帝国軍への補給線は護衛なしの丸裸なのである。
サーレオン側の前線基地であったバーローシールド城を陥落させた帝国軍は、その勢いでサーレオン東部の地域首都であるラリアを陥落さえできれば現地で補給や徴兵が可能となり、補給線にこだわる必要が無いと判断したようだ。
確かに、後方防衛用兵力をすべて引き抜いてラリアを陥落させ、ノルドールさえ押さえ込めれば(基本的にノルドールは森から出てこないので)サーレオンに対する講和交渉で優位に立てると判断したのだろう。ところが現実はそう甘くない。丸裸の補給部隊が次々と襲われたのだ。
俺が兄上様と聖なる森外縁部にてレッド兄弟団や野盗と遭遇したように、いたるところでレッド兄弟団や野盗、はてまた背教騎士団と呼ばれる各種野良騎士団の連中までその丸裸の補給部隊を襲い略奪し放題だ。その結果は火を見るより明らかで、帝国の兵站は完全に破綻した。今回の勝利の後、直ちに襲撃が始まったところから、おそらくはサーレオン側で敗残兵などを見つけた誰かが工作でもしてるんだろう。帝国軍と犯罪者集団がぶつかり消耗しあえば一石二鳥というわけだ。
捕虜からの情報によると、帝国にとっては長期的包囲による兵糧攻めではなく、電撃的奇襲により一週間以内のサーレオン側重要拠点の陥落を狙った侵攻だったようだ。しかしラリア周辺の偵察兵からのの情報によれば、補給なしで攻め立て続けるのは不可能で、サーレオン王国の主要都市で今回の侵攻作戦の目標だったラリアを強行・強襲で陥落させることはできずに包囲もできずに後退したようだ。
バーローシールド城の帝国軍の300は守備隊50を残してラリアへ250の援軍を向かわせたもののラリア早期攻略を失敗した知らせを受けむなしく軍を返したようだ。
このラリア攻撃により800の攻撃を継続していた帝国軍はその数を600にまで減らしているという。サーレオンの予備兵力と新規編成された軍あわせて400が現在ラリア守備隊350の救援に向かっていて、このままの戦闘状況であればおそらく守備隊とあわせて650程度で600の帝国軍と決戦に臨むようだ。
物資が欠乏し攻囲に失敗して士気が低下した帝国軍と、新兵が戦力の中心の兵力で連携に欠けるサーレオン軍。正直なところどちらが勝つかはわからない、もちろん帝国が勝てば北をバーローシールド城にラリアでふたを閉められ、南は帝国軍のシールドストーム城に押さえられてしまい敵中に孤立する……こうなれば絶対数で劣るノルドールの敗北は必定だ、これだけは避けなければならない。
だから俺達がすべきことはただ一つ
「兄上様、提案があります」
<イスルランディア視点>
今俺達はノヴォ村長の家を臨時司令部として今後の作戦について話し合っている。
集まっているのは俺とカズキにセニア、ノヴォ村長にレスリー。そしてさらなる援軍として来たノルドール軍の各村代表者。そして今まで幾多の戦いをくぐり抜けてきたノルドールの指揮官、アルウェルニ殿だ。
本来であれば、アルウェルニ殿が指揮をとり、この会議でも音頭を取るべきお方だが、閣下はすでにノルドールとしてもご高齢で、最後の指揮をとった戦いで脚を負傷して以来、前線を退いている。
そのため今回は戦場に一番近いこのノヴォルディアに指揮権があるということで、俺の助言役として来てくださっている。
さて、状況をまとめると緒戦を勝利で飾ったものの、現状はあまりよくはない。
敵軍の残存兵力140のうちバーローシールド城に逃げ込み再編成したのはどうやら100程度のようだ。つまり現在俺達の軍が相手取るのは最大400の帝国軍、相手にとって不足はないが正面きっても野戦を挑んでただで済む数ではない。
こちらもカズキの部隊を中心に負傷者が勝っても出ているのだ。レッドを中心とした衛生兵と医療班が懸命の治療を行った結果、5~6人は戦列に復帰できるものの実質カズキ隊を抜いた140程度で戦わなくてはならない。
帝国のやつらの大盾が憎い……あれさえなければこちらの射撃で今頃敵に復帰するニンゲンなど一人も居なかったであろうに。
こちらはノルドールの誇る弓騎兵など弓による攻撃が主であるからして、あの大盾を使われると非常に厄介なのだ。
大盾で防御を固めていた敵は射撃で行動が阻害されただけでそれほどの損害は出していなかったようだ。レスリー隊が歩兵にもかかわらず敵を追撃したため弓兵隊による撤退中の敵に対する射撃が誤射を恐れてほとんど行われなかったことも原因の一つだろう。
その上敵左翼はほとんど丸々撤退したようなものだから俺の追撃もうまくできなかった。やはり連携力不足がここまで足を引っ張るか……
「これが現在我らがおかれている状況だ、何か意見があるものはいるか」
「このまま敵の補給部隊の襲撃を続けてニンゲン同士殺しあった後皆殺しにすればいい」
「んだ、やつらでかってに殺し合いしてくれりゃもんでーはねぇ」
ふむ、確かにほかの村の士官の意見は最もだ。だが俺達がここで待機しているだけだと、サーレオンと帝国が決戦を行いどちらが勝っても、対峙する400の敵軍が守っているバーローシールド城~シールドストーム城の道を使って帝国はほぼ無傷で撤退することができることになる、むしろ帝国のノルドールのみに対する再侵攻の可能性は捨てきれない。再侵攻の不安を抱えていては居られぬ以上、ここで帝国には大規模な損害を出してもらわなければならない。つまり帝国に主力を無事撤退される。これだけは今後を考えると絶対に阻止すべきことだ。
サーレオンには最低でも勝ってもらう必要がある。だがニンゲンに期待するのは……いや、今はノルドールすべての未来がかかっている。余計な感情は不要だ。
「兄上、現在わが軍がとりうる選択肢は3つではないでしょうか。
1つは現状維持。これはサーレオンと帝国との決戦の如何によって今後の方針を決定するものですが、現状のまま手をこまねいていれば帝国が勝利した場合我々ノルドール社会が完全に敵中に孤立することになります。」
「それは絶対に避けなければならないですね」
「ふん、ニンゲンのメスでもその程度はわかるか」
「だまるんじゃ、わしの村の住人をわるくいうことは禁じたはずじゃ」
「ふんっ、ノヴォルデット、貴様も随分とニンゲンに甘くなったなぁええ?」
「……やめぬか、我らは協力してこの困難に立ち向かわねばならない」
「は、はい……」
さすがはアルウェルニ閣下だ、あんな頭の固い他の村のやつなんぞ一喝で黙らせるか。昔は俺もああ頭ごなしにニンゲンを否定していたのであったな……
「続けます。2つめは我々と対峙する帝国軍に野戦を仕掛け勝利後敵の退路を遮断する事。この場合帝国が勝利した場合でも敵の補給を完全に絶つという点について決戦がどちらに転んでも限定的ながらも戦局に影響を与えることができます。帝国もさすがに占領直後の地域から大規模な兵力を養うだけの物資を徴発するのは難しいでしょう」
「じゃがそれじゃとわしらがまず140の兵力で300の敵を撃破できるかという前提条件を考えねばならんのぅ。あくまでわしらノルドールは野戦において敵がこちらに攻撃を仕掛けてくることを前提とした編成じゃ。今回の挑発によって行われた戦で敵もそうやすやすと挑発には乗ってこんじゃろ」
「森から遠く離れて攻撃に出るのは承服せぬ者を大勢居るだろう。それに帝国軍と何度か戦ってきた経験上、やつらは兵士一人ひとりが農民であり、兵士であり、技術者だ。むしろラリアで長期持久の可能性もあるぞ」
確かにノヴォ村長やアルェルニ殿の言う通り、我らの軍においてこちらから攻撃を仕掛けるのに適しているのはサーレオン義勇兵を中心としたレスリー隊48名だ。これだけで攻撃を仕掛けたところで返り討ちにあうのがやらずともわかる。
これだけ弓兵偏重の編成だとこうも戦術面での柔軟性に欠けることを再認識させられる。
ところで先ほどからカズキはぶつぶつと「退路が遮断さえできれば『あむりっつぁ』なんだけどな」とか「専守防衛とかまさに『じえいたい』」とか何を言っているんだ?
「3つ目は対峙する敵に対し小規模な押さえを置いてサーレオンと帝国との決戦において帝国の背後から射撃中心による攻撃でサーレオン軍の勝利を援護すること。この場合サーレオン側からの攻撃を受ける危険性がありますが弓騎兵での一撃離脱を心がければこちらの損害をおさえ、サーレオンの勝利を援護することが可能です」
「んだがニンゲンにてーかすっちゅーのも」
「ああ、ニンゲンを援護するなどもってのほかっ!」
あの威勢のいいだけの貴族どもが……あからさまにレスリーとカズキを見おってからに。そういえば先ほどからカズキはずっとうつむいたまま発言していないな、何か考えるところでもあるのか。
「カズキ、お前はどの案が適当だと思う?」
「兄上様、提案があります……4つ目です」
「カズキ、私の案のほかに何かあるのですか?」
「ふむ、きかせてもらおうかの」
「カズキはなにを考えていらっしゃるのです?」
作戦会議に参加していた者すべての視線が座っているカズキに集中する。
カズキの言う4つ目とはなんだ……俺ではとてもではないがセニアの案以外は思いつかん。
「兄上様、自分は全兵力をもって敵帝国軍本体をサーレオン軍と協力し挟撃することを提案します」
他村のノルドールが立ち上がって「不可能だ!」「全兵力だと!? 森の防衛はどうするのだ!」「長年争ってきたニンゲンのサーレオンが話を聞くものか!」と野次を飛ばす……俺もさすがにそれは無理があると思うのだが、カズキのことだ何か訳があるのだろう。
「まぁ待たぬか、まずは理由を聞こうではないか。ニンゲンの若者の面白い話が聞けるかもしれん」
「くっ……」
「アルウェルニ殿がそう仰せならば。ではカズキ、理由を頼む」
「はい、先ほどの会話で出た通り現在帝国軍の押さえはこちらの挑発に乗って攻撃しないように厳重な防御にて待ち構えているでしょう。こちらが全軍で移動したという情報があっても策略として動かない可能性は十分です。さらにこのノルドールの森は、人間族が村まで侵入できない結界があるわけですし、危険はないと判断していいでしょう。それに間接的な支援のみでサーレオンが勝利できるとは思えません」
「なぜです、帝国軍は物資は欠乏し都市攻めで疲弊しているはずでは?」
「セニアさん、こちらの射撃が帝国軍の軍団兵に足止めにしかならなかったのを覚えていますか。ノルドールの誇る弓の威力は城攻用重クロスボウに匹敵します、それで貫通できない大盾で防御した帝国軍が『テストゥード』で都市に攻め寄せたとすればサーレオン都市側のロングボウ部隊の射撃による射撃ですらほとんど効果が期待できません」
「確かに、あのニンゲンの大盾は忌々しいものがある」
「私も以前帝国と何度も戦ったが、奴らの大盾の防御力、甘く見るでないぞ」
「なるほど……つまり報告の600は攻撃に参加しなかったほぼ無傷の部隊で、死傷者と思われている200のうち半数とは言わないまでも戦列に復帰すると?」
「そうなると無傷の600を中核とした帝国に対して新兵と経験不足の予備軍のサーレオンは圧倒的不利じゃな」
「……それを挟撃により撤退路を維持する帝国軍を攻撃し撤退路を遮断するまでもなく野戦で敵本隊を殲滅するというわけか」
たしかに我ら140が全軍をもって戦端が開かれた戦場において帝国の背後に布陣し、射撃を浴びせることができれば前方のサーレオン軍に盾を向けている軍団兵にかなりの出血を強いることが可能だろう。
布陣さえしてしまえば戦力の半数程度を逆茂木で射撃安全地帯を確保することによって敵の反撃による損害も最低限に抑えることも可能だ。
だがカズキ……我らがニンゲンを忌み嫌うようにニンゲンも我らを忌み嫌うのだぞ?
「おそらくサーレオン側に挟撃を納得させ、今回限りでも友軍として認識してもらうことは皆さんが考えている通りかなり難しいでしょう。ですがサーレオンの司令官がよほどのバカでない限り提案を「今回限り」で了承するでしょう……それ以外、確立の高い勝つ方法がないのですから」
うーむ、確かに相手の司令官がよほどのバカでなければ話はつきそうだが、しかしサーレオン側の司令官がバカか貴族だった場合はそうそう簡単なことにはならないだろうな……
「だ、誰が説得に行くんだ!」
「んだ、行った所で話しを通す前に殺されるのが関の山だ。そこのメスが行ってもあいてにされないべ」
確かに話を通すにはそれ相応の者が赴かなければ少なくともまともに取り合わないだろう。俺やセニアが行ってもノルドールということで話しにならない。だがレスリーでもノルドールと一緒に戦う傭兵隊といっても信用されないだろう。
ふと目線がアルウェルニ殿と合う、閣下は少し嬉しそうな目でカズキを見ていた。
「自分が行きますよ、『ノルドールのイスルランディア軍司令官イスルランディアの弟である人間族の男』なら、ぱっと見て切り殺されることもないでしょうし話も信用してくれるでしょう」
うぅむとうなりつつも、他の村の者も納得したようだ。ニンゲンが一人犠牲になる程度ならば痛くはないということだろう。
カズキを危険にさらすのは気が進まないが、これしかないか……
「では私も一緒に行かせてください。戦場に私が居ても役にはたちませんがノルドールである私がカズキを家族といえばそれだけで十分な証拠となるでしょう」
「殺されるかもしれんぞ……いいのか」
「大丈夫ですよ、兄上こそちゃんと勝ってくださいよ?」
ふむ、そうだな、かわいい妹にここまで言われては圧倒的勝利を贈るしかないだろう。
「面白い、ならばニンゲン族のカズキとやら、やり遂げることを期待しているぞ」
「はっ!」
「では反対意見がなければカズキの案を採用するでの……ないようじゃな。では、これより各員準備にかかってくれでの」
さて、さっさと平和な日常に戻るためにも帝国を殲滅せんとな。うまくいけばこの協力と交易の許可によってサーレオンとは平和的関係を保てるかもしれん。
そうして考えていると、周囲の村長たちから色々と話しかけられていたアルウェルニ殿がこちらに向かってやってきた。なにか俺はまずいことをしただろうか。もう少し閣下に配慮すべきだったか……
「これは面白いニンゲンを拾ったなぁイスル、こちらからも身分の証明となる文を一枚したためておこう。そういえばあのニンゲン……たしかお前の義理の弟と申しておったな」
「はい、カズキが閣下になにか失礼なことでも……」
「いや、ただ……良いな、実に良いことだ。ニンゲンとノルドールが共に兄と弟の関係を築ける。この戦時がひと段落したらぜひともノヴォルディアでの共存関係を研究したいものだ」
そうか、閣下はニンゲンとノルドールが手を取り合うことに理解を示してくださるのか……よかった。
「ええ、こたびの戦役が終わったら是非とも」
「うむ、それまであの頭の固い村長たちの相手は任せてくれたまえ」
サーレオンへの工作はカズキ達にまかせ、俺たちは出撃の準備だ!
あとがき
やっぱり最後はフラグ