前回のあらすじ
・ぼくのかんがえたひっしょうのさくせん
・人質となったセニアさんを助けに行くのは俺ではなく兄上様しか想像できない
・今度こそ俺は安全なはず……?
<ヘレワード男爵視点>
「司令、さきほどおっしゃっていた秘策とは……?」
「そうだな……敵の司令官はたしかジャスタス総督だったかな」
参謀に秘策とか聞かれましたが、正直あのジャスタス総督なら釣るのはもう余裕ですね。あの武人っつらしてるヤツには「ヤツ族の部隊がラリアを攻撃中、サーレオン軍は少数の兵力を森の出口に残し撤退準備中」ってね。
ちなみにおそらくあっちの参謀とか副官は罠だとかいろいろ言うだろうけど、ジャスタスは「いかなる奇計奇策があろうとも軍団兵の中央突破によって打ち砕いてくれるっ!!」とかいって突っ込んでくること間違いなし。もうあいつとは西部戦線で3回戦ってるからわかるよ。
今回の迂回攻撃の鍵は早さだったからあいつが司令官になったんだろうけど……もう少しまともな人事もあったんじゃないかと、司令官なら。
「さて、じゃあこの手紙をジャスタス総督へ送ってくれ。そこらへんの難民に任せれば切られても大丈夫だろう」
「了解しました、では今後のわが軍の行動は?」
「そうだな、とりあえずノルドールの言う『たこつぼ』というものをあらかじめ掘っておくか」
「司令……兵士に土木作業を行わせるのですか?」
うーん、どうもうちの副官は頭が固いなぁ。近くの村から労働者を徴用したら計画ばれるかもしれないし、兵士にやらせるしかないでしょう。ま、当然兵士にも監視はつけるけどね。
「それしかないだろう、新兵達に「土木作業を行えば訓練は無し」とでも言えばやる気にもなってくれるだろう」
「それでは新兵達がまともに戦えませんよ?」
「いいんだよ、もともとそのための新兵だ」
ま、雄叫び上げて突撃するための新兵だ。一人3発以上の矢を受けない限り死ぬ権利すら与えないけどな。
<和樹視点>
───ワァアア!
───ガキンッ!アィイイイッ!!
遠くから戦場の音が聞こえる……ただいまノルドールと人間が手を組んで戦う後の世界戦史に乗りそうな大戦に参加しています。偵察が得意なカルディナさんの報告によるとヘレワード男爵の挑発作戦は完璧に成功中らしい。ほんとにあれで引っかかったのかよ!もうビッテン○ェルトじゃないんだから……それともあれか、フハハどこを狙っても敵軍にあたるぞっ、放て放てっーー!!ってそれだと死亡フラグか。
「隊長、現在の状況を報告しま、す?」
「ん、報告お願いします」
「現在ロングボウ隊は所定の位置へ移動……中? ただ予定と違って最初の射撃戦でサーレオンのクロスボウ隊が敗走?」
「それはひどい……士気低いとは聞いていたけれどここまでとはなぁ」
「そのため突撃したサーレオンの新兵ばっかり軽装歩兵隊を中心に被害……甚大?」
まいったなぁ、これだとせっかくの作戦『ドキッ!パクリだらけのカンナエ(嘘)。殲滅もあるよっ☆』が失敗してしまう。このまま行けば帝国軍は軽装歩兵隊を突破してそのまま各個撃破の予感、何とかしなければ。
「まいったなぁ、近接格闘戦に持ち込む前に削られたか。カザネさん、こちらには敵が来そうですか?」
「……私ならそのまま騎兵を突撃させて突破路を開く」
「僕も同じだと思います、正直なところ僕らとレスリー隊長の部隊で森を突っ切っても間に合うかどうか……」
「私は森を回って敵の背後からの突撃を提案します。サーレオン側も気合のある熟練兵がぎりぎり持ちこたえてくれるでしょう」
さてどうしようか、兄上様の弓騎兵隊はすでに移動中だ。もうまもなく敵の後背にでて退路をふさぐだろう。奇襲射撃もすぐなはず……。併せて100に満たない俺達ができることか、やっぱりサーレオンの戦線補強ぐらいだろうか?
「あ、隊長……そういえばサーレオン戦列はもう湾曲、してた?」
「なっ!? それを早く言って!!」
それってもう突破される寸前じゃないか! まずいぞ、今気づいたけれど突破されたら男爵のところで人質になっているセニアさんが危ない、俺の命も危ない、助けなければ……いつも助けてもらってばかりだけれども、こんな時ぐらい役に立たないと!!
「隊長、いきましょうっ!」
「私も同感です……惚れた女一人守らないで何が男ですか!気合でこうかっこよく救出してください!!」
「みんな……」
誰がセニアさんに惚れた好いたと言った、生まれる前から好きでしたわ。
まぁ冗談はさておき、ここで俺の部隊が離脱すれば40人のレスリー隊だけでこの道を封鎖しないといけない、ここで帝国軍の予備戦力がこっちに来たらかなりやばいことに……行きたいけれども、ここの戦線を放棄するわけにもいかない。
「セニアさんを迎えにいってやってくださいカズキ、きっと彼女もあなたを待っていますよ」
「れ、レスリーさんいつの間にっ!?」
「ふふふ、いつの間にでしょう?」
レスリーさんまで……しかもいつの間にかレスリー隊が両翼を伸ばして和樹隊が抜けても大丈夫なように戦列を組みなおしている。よしっ、ならばこっちは行くだけ!!
「カズキ隊、これよりサーレオン軍中央の援護に向かう! レスリーさん、こちらを頼みます!」
「囚われの乙女を助けに、行く?」
「「「うぉおおおおおおお!!!」」」
「って、カルディナさんその突っ込みはちょっと……」
せっかく部隊のみんなのテンションが上がったものの、そういう恥ずかしいことを言われるとどうもなんというか、うん、恥ずかしい。
「隊長、私のことは呼び捨てで、いい?」
「あ、なら僕も」
「命をかける仲なんですから、遠慮はいりませんよ隊長!」
「……同じく」
……みんな、ありがとう。こう言われたらこっちも最善を尽くすしかないね。いっちょやりますか! 部下頼りの救出作戦だ!
「ありがとう、では和樹隊! 続けーー!!」
「「「おおーっ!!」」」
<セニア視点>
ヘレワード男爵の配慮なのかどうかはわかりませんが私は今彼と一緒に陣地に居ます……正直ここから見えるだけでも戦況はよくありません。
まず第一の失敗は最初の両軍クロスボウ隊の撃ち合いにおいて、サーレオン側のクロスボウ隊が早々に敗走したことでしょう。本来ならば撃ち合ったクロスボウ隊は両軍の歩兵がお互いに距離を詰めた時点で後方に下がるか、側面へ移動して射撃を継続するため自然と配置転換の間は撃ちとめになるはずです。
ですがこちらのクロスボウ部隊が敗走したために、帝国のクロスボウ隊は退却も配置転換もしようとせずに射撃を続けています。このまま敵の軍団兵が投槍攻撃可能位置まで接近するまでに受ける損害は到底許容できるものではないでしょう。
かといってこちらが突撃すれば敵クロスボウ隊の一斉射で突撃の威力は大幅に落ちるでしょう、それもまた損害も馬鹿にはできません……正直にこの時点で勝利はおぼつかない状態です。
「撃ち合いに負けただけだっ!軽装歩兵隊つっこめっーーーー!!」
「「「うおおおおおお!!」」」
サーレオン軍の新兵から編成された軽装歩兵隊が突撃していきます、やはり敵クロスボウの一斉射で突撃した200以上の歩兵隊のうち20~30はなぎ倒されました。ですが男爵は顔色一つ変えていません……すでに軽装歩兵隊は突撃を中止し敵軍団兵の突撃により防戦一方なのですが。
「男爵、人質の私が言うのもおかしいことかもしれませんが───」
「いいんだよ、そのための新兵だ」
「えっ?」
「敵の突撃はもう終わって近接白兵戦に移行した。これで損害なく薙ぎ払える」
新兵を盾にしてクロスボウの一斉射と歩兵の突撃による被害を熟練兵部隊から守ったということですか!?
確かに兄上も言っていたように兵法では当たり前なのかもしれませんが……それに薙ぎ払うとは?
「投射隊に連絡、攻撃を開始せよと」
「了解!」
伝令の兵士が走っていく……投射隊とはいったいどういうことでしょうか。前の作戦打ち合わせにはなかったはずです!
「男爵、投射隊とはいったいどういうことです!事前の作戦はいったいっ!」
───バシュンッ!
「えっ?」
こ、これは……以前カズキが作っていた攻城兵器の、確か『バリスタ』っ!
バリスタは本来攻城戦や重装甲の敵相手に使う兵器のはずです。なぜこんなにたくさんの、しかも野戦に持ってきているのですか!
「ば、バリスタを乱戦中の戦場に撃ち込むとはどういうつもりですかっ!」
「へぇ、バリスタを知っているんだ。あぁ、団子になってくれたおかげで、味方一人につき3人、いや5人は敵を巻き込んで死んでくれる。これで敵の軍団兵は終わりだよ」
「こ、こんな戦い方って……」
目の前に発射音の数から推測して約20機のバリスタによる地獄が広がり始めていました。バリスタから放たれた大きな矢は鎧を着た人間を簡単に貫いてしまう代物です、そんなものを軽装歩兵隊の戦列を突破しようと集中した帝国軍軍団兵に放てば……一撃で5人6人があっというまに吹き飛ばされます。もちろん戦列をかろうじて維持していた軽装歩兵隊も少なくない数が巻き込まれています。味方をも巻き込むことを前提とした作戦なんて……
「これが本来の作戦さ、まぁ仲間を大事にする気持ちはわかるよ。でも勝たなきゃ誰も守れないんだ、この大陸ではね……命は平等じゃないんだ」
「……それが、それがあなたの答えですか。確かに私も村の人々と知らないニンゲンの命を比べればそれは……いえ、なんでもありません」
仕方がないのかもしれないけど仕方がないと思いたくない。そう思えるのも人種も身分も関係なく人はみんな平等と言っていたカズキの影響なのですね。
なぜでしょう……カズキの事を思い出しただけで無性に彼に会いたい、会って顔を見たい、声を聞きたい、大丈夫だよって抱きしめてほしい。
やっぱり私はカズキのことが───
「敵騎兵こちらに突っ込んできますっ!!」
「弓兵の射撃はどうしたっ!!」
「行われていますが10騎近い騎兵がぁっ!!」
目の前で伝令がクロスボウによって胸を貫かれ絶命しました、なんで、どうしてここまで敵の騎兵が!
「護衛兵!」
「味方ごと撃ち殺して、貴様らそれでも人間かっ!!」
「この外道めがぁあ!!」
「男爵をお守りしろっ!」
め、目の前で男爵の護衛兵と突破してきた敵騎兵が戦闘を開始しました。やっぱり、私には……だめだ、怖い、戦うなんて無理だ!
悔しい、どうして、どうしてここで私は剣を振り上げられないのですか!!
「セニアさん、下がってっ!!く、くそうっ!!」
「もらったあああああああ!!」
男爵が2騎の帝国騎兵と切り結んで、周りの護衛も男爵の護衛で手いっぱいで
私の視線には馬上から剣を抜き放ち突撃してくる敵騎兵が───
あとがき
死亡フラグは感染症なのかもしれません(汗)