前回のあらすじ
・年貢納めました
・ノヴォ村長の村は町に進化したっ!
・なんだろ、よーわからん気持ち
<カルディナ視点>
ラリアの戦いから一ヶ月、最近レスリー姉さんはよく盾と剣を眺めて一人で物思いにふけることが多くなりました。
そして昨日、鍛錬場でレスリー姉さんがどこかに行ってしまうと言っていたのでとっても心配でした。
血は繋がってないけど私の大切な姉さん、一人でどこかになんて行かせない。一緒じゃないといや……
私達姉妹の始まりは7年前、私がヤツ族にさらわれた事から始まりました。
Dシャア朝のある村で育った私は、とある事情で6年前ラリアに住んでいる親戚に会いに行きました。理由は食い扶持を減らすため、貧しい農村では悲しいですがよくあることです。
売春宿に売り飛ばさなかっただけでも両親は私を愛していたのだと今は思っています。
あとは典型的なお話です。私を預かった親戚は私を邪魔者扱いしていつも重労働させました、それでも寝るところと食事があったので街の孤児たちのように盗みをしたりすることもなくそこで必死に数ヶ月働きました。
そのころです、親戚が私を奴隷商人に売りさばこうとしていたのは。偶然にも親戚と奴隷商人が私の値段を相談していた所を盗み聞きしてしまい、売られるという恐怖感から私は寒い冬の街からひたすら裸足で逃げました。
どれほど走ったでしょうか、疲れてもう動けない私をヤツ族の一人が見つけたのです。
「おい、俺の言ってることがわかるか」
「は、はい……」
「ヤツの言葉を覚えさせれば通訳には使えるか……よし、お前は俺のものだ」
「え?」
そのまま私は布袋に入れられると、ヤツ族に担がれて見事親戚に奴隷として売られる所から逃げ出したのです。
ですが私にとってヤツ族での生活は素敵な思い出とはいえません。ただひたすら「通訳」するための道具として一日中ヤツ族の言葉を覚えさせられました。
授業中に間違えるものなら容赦なく殴られましたしご飯も減らされました。
「これは?」
「ヤツ語でシミ、ター?」
「で?」
「Dシャア語でサーベ、ル?」
「ペンドール語」
「えと、ソード?」
「まったく……ようやく使えるようになってきやがったか」
このころからです、私がみんなに喋り方が変だと言われる喋り方になったのは。私の先生となった人の顔色を伺って発言しているうちにこうなってしまいました。
先生の奥さんは先生と同じく厳しかったけど、それでも時々は哀れんではくれました。親戚に引き取られてからずいぶんと久しぶりに感じる蔑みや侮蔑、嫌悪以外の視線や態度を受けてずいぶんと喜んだものです。
それから1年がたったのでしょうか、私は人前では感情を一切出さずにただ「通訳」としての機能を果たす道具として多くの死を目にしてきました。秘密を喋れば助けてやると言われ、その秘密を私が聞いて訳して先生に伝えるとすぐに首を落とされることなどいつものことでした。
基本的にみんなは私を道具として扱ったけど、ヤツ族の人でもいい人は居ました。私に剣術と馬術を教えてくれた……だめ、名前がどうしても思い出せない。
でもその人は鍛錬の後は何時もご飯をくれたりボロボロになった服で居た私をみかねて服をくれたし、その人の奥さんはその後も服を私の成長に合わせて何時も作ってくれたし、寒い時にはテントに招いてくれて一緒に暖かい物も食べさせてもらった。
あの人とその奥さんが居なければ私はいったいどうなっていたんだろう?
そんな生活を続けていた時、私はレスリー姉さんに出会いました。姉さんが所属する部隊が私の居たヤツ族の宿営地を襲撃したのです。
あっという間に炎に包まれる宿営地、不思議と燃え盛る宿営地を見て悲しいと思いました。どんな環境でも少しは愛着を覚えるようです……悲しいと思ったのはあのやさしくしてくれたヤツの夫婦を思い出したからなのかもしれないけど。
「おいっ!逃げるぞついてこい!!」
「……は、い?」
燃える宿営地を呆然と眺めていたら、さらわれた時のように無理やり先生の馬の後ろに乗せられ、姉さん達が攻めて来た方向とは逆に逃げました。ですが姉さん達はただの一人も逃がす気がなかったので伏兵を置いて逃げるヤツ族を皆殺しにしていました。
ここですぐ殺されなかったのは先生が私を守ってくれたから、私が居ないとDシャア語やペンドール語がわからないのでそういう打算もあったと思います。
「子供と一緒に逝けるとは幸せですね?」
「なっ!?」
───ビシャッ
この逃走劇は逃げ始めてまだ夜が明ける前にレスリー姉さんの声と共に私の体中にあったかい液体が降り注ぐことで終わりました。ちょうど季節は私がさらわれた時と同じ冬、違うのは目の前の先生に首があるかないか。
騎手を失った馬から放り出されて私は赤い雪原をころがりました。
「ごめんなさい、子供でも容赦しないことにしています……恨むならヤツ族に生まれたことを恨むといいでしょう」
「……ヤツじゃ、ない?」
「え?」
「わ、わたしヤツじゃ、な、い?」
首筋には剣が触れる感触。周りには姉さんだけで他にはいまだに血を噴出しながら痙攣する先生だったものがあるだけでした。
「ではどこの子なのです、確かにペンドール語が喋れるようですが」
「D、シャア?」
「うまい嘘ですね、たしかにDシャア族とヤツ族は似ていますからわからないでしょう」
「信じなくてもいい……もう、疲れたから、家族いないから、殺してもい、い?」
正直なところ私は疲れていました、それこそ命がどうなってもいいくらいに。ヤツ族での生活も今夜で終わりました、もうつらい目にあうのは嫌だしいっそこのまま……そういう感情が私を支配していました。
「この男はあなたの家族なのですか?」
「ちが、う?」
「ではあなたの家族が居ないというのは?」
「いらないから捨てられ、た……?」
レスリー姉さんはとてもつらそうな顔をした後「ごめんなさいね」と言って剣を振り上げた……やっとこのつらかった日々から開放されると思うと死の恐怖よりうれしさがこみ上げてきました。
───ザンッ!
剣が何かに突き刺さった音と私の顔に風が当たるのが同時に感じました、目を開けるとそこには私の目の前に剣を突き刺したレスリー姉さんの姿が見えました。
「ヤツ族はこれですべて処理しました……さて、迷子のあなたはどうしますか?」
「ま、迷子?」
「そうです、寒くて怖かったでしょう」
「わ、わかんな、い?」
「なら私の妹になりませんか、私も家族が居なくて寂しかったんです」
こうして私はレスリー姉さんの妹になったのです。
「カルディナ、ちょっといいですか?」
「あぅ、なにか、用?」
「ええ、今後のことについてすこし……」
どうやら夢を見ていたようです。レスリー姉さんが部屋に来ているなんてぜんぜん気が付きませんでした。
「今後?」
「カルディナ、もしカズキが討伐のために出撃するノルドール軍を指揮しない場合、あなたはカズキと一緒に居なさい」
どうして、なんで私を置いていくの?どうして付いて行っちゃいけないの?
「どうして、一緒に行、く?」
「……これは、私の問題なんです。多分、私はあいつを目の前にしたらきっと自分を保てないでしょう」
「姉さんはどんな時でも姉さ、ん?」
「ありがとう、でもそんなやさしいカルディナにはだからこそ怒りに我を忘れた醜い私を見てほしくない……そんな勝手な理由です」
レスリー姉さんを一人でなんて行かせない……でも、隊長をどんな時でも守るってあの戦いで隊長の前で誓った。
どっちを選ぶかなんて私にはできない。でも、姉さんは一人で行かせちゃいけない気がする。
「隊長にたの、む?」
「何を頼むのですか?」
「一緒にきても、らう?」
「だめですよ、カズキにはカズキのすべきことがあります。私の復讐に付き合わせてはいけません……これは私の問題なのです」
姉さん意固地になってる、恨みで冷静さがなくなって回りが目に入らなくなってる。やっぱり一人じゃ行かせられない、私も……隊長も行かないといけない。そうじゃないと姉さん、きっと死んじゃう。
「……夜遅くに失礼しました、伝えたかったのはそれだけです。おやすみなさいカルディナ」
「あぅ……おやすみなさい、姉さ、ん?」
パタンという音と共に姉さんが見えなくなりました。また明日会えるはずなのに、昨日の姉さんの言葉を聞いてからずっと一度でも姉さんが見えなくなるとそのまま一生会えなくなる不安がしてきます。
今の私が姉さんにできること……わからない、だれか教えて。隊長、教えて……私どうすればいいの?