前回のあらすじ
・死亡フラグを背負って出撃準備
・海兵隊式新兵訓練
・ゲデヒトニスが用事があるようで
<和樹視点>
鍛錬場から離脱した俺は小腹がすいたので食堂に立ち寄ってみることに。鍛錬場のすぐ近くに銭湯と食堂があるのってすばらしいと思って兄上様と当時村長だったノヴォ市長に許可を貰って村人総出で作ったのです。
最初は学食式にいろいろメニューを選べたのだけど、兵士も増えてきたので今は仕官でもお昼休みは給食式になってます。一応おつまみとかお菓子コーナーが併設してあるのでつまむにはもってこいだ。
「どうもー誰か居ますか」
「……居ます」
入り口でとりあえず確認したところ、厨房ではカザネがなにやら小さい鍋でぐつぐつ煮込んでました、んー今日の献立に煮込み物あったかな?
今日はたしかジャムパンとこの前作成に成功したクリームシチュー。そっかということはカザネはクリームシチュー作ってるのか、でもなんでそんな小さな鍋で作っているのだろう。
「なあカザネ、なんでそんな小さい鍋で作っているんだ?」
「……材料を分けてもらって練習」
「おおカザネも料理に目覚めたかっ!?」
「……お昼ちょっと足りなかった」
ちょ、ちょっとねぇ……お昼はいつも二人前は食べてるはずなんだけど。
そうそう実はカザネが四人娘の中でいちばん食いしん坊だったりするのだ。村に来てすぐは自重してたらしいが、最近は食事の時普通に大盛りとかおかわりをするようになってもはやノヴォルディアや兵士達の間では有名な話になっている。
趣味の一環として朝昼晩と食堂で料理を作ることが多い俺としては、幸せそうにもきゅもきゅカザネが食べているところを見ると料理したかいがあったなぁといろいろ元気をもらえるのだが、でも物理的にカザネの体に昼食べた飯だけでもどうやって入ってるかわからんレベルなのにさらに間食ですか……大食いの人々の胃袋はばけものかっ!?
「そっか、俺もちょうど小腹がすいてた所だし一緒に食べようか。おばちゃん、このパンいくらです?」
「隊長さんもよく食うねぇー150デナラだよー」
「はい、どうもいただきます」
食堂の大きな鍋でおそらくシチューを煮込んでいる食堂のおばちゃんに許可を貰ったので、お金をお会計のところにおいていちばんおいしそうなパンをなんとなく選んでとる。こういうのは奥から二番目をとるのが俺の流儀。
この世界のお金の単位は「デナラ」「デナリ」「デナル」が一般的で、だいたいノヴォ村長の村時代の村民の月収が100デナリほど。1000デナラ=1デナリ=0.001デナルとなっている。
この時代のパンは戦乱真っ最中の他国では40個で30デナリとかかなり高いのだが、幸いにもここノルドールの街や村ではこれからどうなるかはわからないものの、今のところ戦乱で田畑があらされることがなかったおかげで食品の高騰は避けられている。
パン以外の野菜とかは自分で育ててるやつを食べればいいので収穫の時は農家は食費が少し減ったりもするが、基本結構食費はしんどいものがある。だから農民は飢えて夜盗になってしまうんだろうけど。
ちなみにこの世界のパンは基本フランスパン型です、食パン型もただいまチャレンジ中。
「……あげる」
「ん、いいの?」
「……味見を兼ねてる」
「ありがと、それじゃいただくね」
カザネが火を止めていたので、そろそろ出来上がるんだなと思い席に行こうかと思っていたらクリームシチューの入ったマグカップをくれた。カザネはどうやらシチューを煮込んでた鍋のままで食べるご様子、なんとなく面倒くさいからってことでチキン○ーメンを鍋で煮込んだま後容器に移し替えないでそのまま食べるのを思い出してしまった。
まあそんなことは置いといて、料理の先生として弟子の味は確かめておかねばなるまい……あ、うまいわ。
「んーこれはなかなか、おいしいよ」
「……よかった」
「はむ、んーパンにも合うな。あ、お礼ってほどでもないけれどパン半分あげるよ、ほい」
食べかけのパンを半分にして、かじっていない方をカザネに贈呈。こうして食べているところを見るとリスっぽく見えてくるから仕方がない、いやはや四人娘は本当にそれぞれ個性があって可愛いなあ……もちろんセニアには負けるけど。
そのままカザネと一緒食べて後片付けをした後、おそらく書類がてんこ盛りになっているだろう俺の部屋へ戻るのでした。いや、鍛錬場行ったり食堂行ったりしたのは現実逃避なんかじゃないんだよ、これは……そう、見回りなんだそうなんだっ!
「で、それが理由でこうなったのですか?」
「はい、ごめんなさい」
「もう、仕方ないんだから」
見回りという名のサボりから俺の部屋に戻ってくると机の上には書類の束が。ちょうど近くにセニアがいたので援護要請して手伝ってもらえることになったけれども……この量は徹夜一直線だ。積み上げた人の技量を尊敬できるレベルだし。
だが、今日の夜のため、2日ぶりにセニアといちゃつくために俺はこの圧倒的戦力差を覆さねばならんのであるっ!
って、自分に喝を入れないとこの量を前にすると心が折れそうだ……
「私は許可申請の書類などをやっておくので、あなたは報告書のまとめをお願いします……あ、えと、今日で2日目ですし」
「あはは、そうだね。そうと決まれば全力全開で!」
よーし、俺夜のためにがんばっちゃうぞーって、何か今日夜に予定があったような……気のせいか。
<ゲデヒトニス視点>
訓練も終わって今日の仕事の汗を流した後、夜になったので僕は隊長の部屋へと向うことにしました。
……隊長の部屋へ夜に行く。お、落ち着け僕。大丈夫、べ、別に告白するとかじゃなくて普通にすこし隊長と話したいことがあるだけだから別にやましいことが……よし、大丈夫。落ちついた。うーん、どうしても隊長のことを考えると僕だめになっちゃうなあ。
「ではイスルランディア司令に書類を提出してきます……それじゃあ後で、ね?」
「はい、了解しました……後で、ね」
うぅ……部屋にたどり着いたら隊長の部屋の前でいきなりセニアさんに見せ付けられてしまいました。でもいつかきっと僕だって、隊長と、その……ああいう会話ができるはず。
扉が閉まってセニアさんの足音が聞こえなくなったところで、周りを確認しつつ隊長の部屋の前へ移動します。さすがに他の人に見られたらその、隊長の世間体に悪いと思うし。でも僕は周りの人からそういう風には見られることもないか、自分で考えてちょっと悲しいなぁ。
よし、扉の前まで来たぞ。せ、背筋をのば、伸ばしてこんこんと、扉をたたくだけだ。よし。
───コンコン
「隊長、ゲデヒトニスですが今よろしいでしょうか」
「はい、どうぞ」
かちこちになりながらもなんとか隊長の部屋へ足を踏み入れる。噛まずに言えたしこのまま落ち着いていこう……
よし、今日はとにかくこれだけは隊長に聞かなきゃいけないんだ。
「失礼します、その今日はその……お聞きしたいことがありまして」
「言える範囲でならもちろん、どうしたんだい?」
「ええとですね、ラリアでの戦いの時僕のことを隊長は『とにー』と呼んだのを覚えていますか?」
そう、僕が今日までずっと気にしていたのは隊長が僕のことをあの時だけ『とにー』と呼んだこと。ゲデヒトニス以外で僕のことを呼んだのはあの時だけで、いったいどういう意味で言ったのかがずっと気になっていた。
も、もしそ、その『とにー』が隊長がつけてくれた愛称ならすごくうれしいんだけど、なんというかその……どういう意味かわからなくって。
「ああ、あの時ゲデヒトニスのことを呼んだらとっさにでてきたのがトニーだったんだよ。ごめんね」
「じゃ、じゃあその……『とにー』というのは僕の愛称、でいいんでしょうか」
「あっ……えっと、トニーは俺の世界じゃ男の子につける名前だからちょっと違うね、ごめん」
「そ、そんな別に……」
やっぱり、隊長は僕を女の子としては見てくれないのかな。僕の名前はこの大陸の人間じゃないシンガリアン族の名前だからたしかにわかりにくいとは思うし、僕自身昔から男の子って見られるけど。でも隊長には、その……女の子として僕を見てほしい、かな、なんて。
「よし、それじゃ今度からデニスって呼んでいいかな?」
「『でにす』、ですか?」
「こっちはちゃんと女の子の名前というか愛称だよ。えっと、嫌だったかな」
「と、ととととんでもないですっ! 光栄ですっ!!」
隊長に男の子として見られていると思って沈んでいたところに聞こえた『でにす』という言葉。つ、つまりその隊長はぼ、僕のこ、こことを女の子の名前で呼んでくれ、くれる。
これってつまり……よかった! 隊長は僕のこと女の子としてみてくれてたっ!! 愛称がもらえただけなのに飛び跳ねたくなるくらいうれしくって仕方がない。今日は部屋に帰って寝たらいい夢を見れそうっ!!
「ありがとうございます隊長! 僕幸せですっ!!」
「え、ちょっとデニス突然抱きついてきてどうした!?」
「愛称なんて家族にもつけてもらったこと無かったんですよっ! うぅ~うれしくってうれしくって!」
「え、か、家族……?」
───ガチャ
「あなた、兄上はすでにお休みになっていたので書類の提出と報告は明日にで……も……」
「「あっ」」
えと、えっと、その、僕はうれしさのあまり今に座った隊長に抱きついていて、隊長の顔が妙に近くって……これじゃあセニアさんからは僕と隊長がその、ええと……口付けしてるように見えたりするかも。どどどどうしよう!?
「お、お見苦しいところを見せて失礼しましたっ! それではおやすみなさい隊長、セニアさんっ!!」
「ちょ、デニスっ! いったいどうしたってんだよ」
こうなったらとにかく逃げるしかありません、以前レスリーとレッドさんと隊長が3人で家にいたときセニアさんはいろいろと勘違いして玄関の扉を吹き飛ばして突入したと聞いています。おそらくきっと今回もそうなるに違いありませんっ!!
───ドダンッ!
ふ、ふぅ……な、なんとか離脱できた。扉の前に居たセニアさんが何か言おうとしていたのはわかったけどとても怖くて聞けなかった……とりあえずなぜかこの短距離での疾走で息が上がってしまったので、そのまま隊長の部屋の扉によたれかかってしまおう。す、すごくどっと疲れたよ……
「カ・ズ・キ、先ほどいったいゲデヒトニスと何をしていたのでしょうか?」
「……ぞ……か」
「えっ?」
「あ、いやごめんなんでもないよ」
「……なんでもないように見える顔色じゃないですよ、さっきのことはとりあえず置いておいて、本当にどうしたんですか」
は、図らずも室内の声が聞こえてしまう……盗み聞きじゃないんだ、だ、だって不可抗力だもんね。でも隊長の声になんだか元気が無いような、えと、その……気になって耳を扉によたれかかったまま聞き耳をたててしまう。
そうして隊長の部屋の中に意識を集中していた僕は近づく足音と気配にさっぱり気付けなかった。
「夜遅くにゲデヒトニスは隊長の部屋の前で盗み、聞き?」
「か、カルディナ!?」
な、なんでこういうときにカルディナが隊長の部屋に来るのーーー!?
あとがき
※ゲーム内の通貨はデナリだけです。デナラ・デナルは作者が勝手に考えた物です。ゲーム内のデナリだけではどうにも小さなものの値段が小数点以下でないと表現できないためオリジナル単位を作らせていただきました。