前回のあらすじ
・乙女心
・カルディナのお悩み相談はまた今度
・いまさらなホームシック?
<和樹視点>
さて、今日の朝会の始まり始まり。ノヴォルディアとノルドール連合軍の関係者が参加するこの会議に参加しているのは俺、兄上様、ノヴォ市長、南領国境警備隊隊長、ホルスさん、レスリーさん、セニア、そして財務というかセニアの内政面での補佐を勤めているカザネだ。
基本的にこの朝会は現状の確認や関係部署の連携のために情報交換を行う場となっていて、南領国境警備隊みたいな部隊はほとんどが南領の貴族で編成されてるおかげで独立軍みたいなものだ。
まあそんな部隊が居るように指揮系統が一つじゃないのがノルドール「連合」としての弱点なところ、軍備の面だって徴兵をどっかの村長に拒否されたら強制するにはいちいち会議を開かないといけない。
「さて、まずはイスルから聞こうかの」
「はい、現在討伐軍はあと一週間ほどで出撃可能です。やはり補充の兵士達との錬度の差が激しいのが原因です」
「うむ、では警備隊はどうか?」
「南領国境警備隊の警備において現在特に帝国側やサーレオン側に変わった動きはありません。ただ背教騎士団とレッド兄弟団の活動が活発化してきているのが気がかりです……それとスネーク教徒と悪魔崇拝軍も」
……この警備隊長とはやっていける気がしない。直接顔をあわせて話しをするのは今回が初めてだけども、かなり俺のこと睨んでいる……いわゆるツンデレとかであれば……いや、現実逃避はやめよう、虚しいだけだ。
しかし見た目はノルドールのわりに小さな体格。首後ろで金髪の髪をまとめているほどの男としては長い髪や中性的な外見や体格のおかげかいわゆる男の娘疑惑が俺の中で勝手に湧き上がっていた。
まあそんなことは置いといて、レッド兄弟団と背教騎士団の活動が活発化しているというのも無視できない問題だ。ラリア~ノヴォルディア間の護衛はホルスさんたちだけだから、この二つの勢力が連携して襲ってきたりしたらかなりこの交易路も危なくなる。
レッド兄弟団はショ○カーと同じような組織構成になっていて、まず幹部団員が各地のレッド兄弟団を総括している。そして実際に略奪や戦闘において指揮するのは赤いシャツを着た赤戦闘員。そのほかのやつらは食い扶持稼ぎやレッド団に組した元夜盗とかがその赤戦闘員に指揮されて戦う、まさしく黒戦闘員。
戦力としては赤戦闘員1人が指揮するのが黒戦闘員10人ぐらい。襲撃してくる時は赤戦闘員3人ぐらいのグループが多いので30人に襲われると隊商護衛兵の平均的な人数である40人なら撃退は可能だが、予算を切り詰めて数が少なかったり規模が小さい隊商とかだと危険だ。
背教騎士団はさらにたちが悪く、没落した貴族や騎士団の掟や規則を破ったものが寄り集まってできている。騎士団がそのまま夜盗化した物もあれば、ただのチンピラ同然な奴が騎士団名乗ってる場合もある。装備も手入れがかけていたりするものの優秀な騎士団のプレートメイルを着込んでいたりするのでかなりタフだ。正直移動速度を稼ぐために軽装備の隊商護衛兵で護衛された隊商なんかが襲われると40対14でも危ない時があるらしい、だいたい襲撃は20人未満が多いそうだ。
「そうなるとザルカー討伐が終わったら、そちらにも対処しないといけないですね」
「そうですね、他にも対処しなきゃいけないことがあるようですが……」
「できればこちらを見て言わないで欲しいのですが」
「自意識過剰ですねニンゲン」
「……」
いや、本当に心当たりがないのだけれども、相当目をつけられているような。なんだかなぁ、この人と居るだけで俺もこいつから発せられている『死ね死ねオーラ』に感化されて、こう、不穏なことを考えてしまいそうだ。
イヤミなやつというだけならこんな気持ちにはならないと思うが、なんなんだろうこの南領国境警備隊隊長は。
「まああれはほおって置いてカザネ、財政について報告を頼むでの」
「……国庫は交易路の整備と商人の誘致、討伐軍の編成で残り少ない。無駄遣いはできないから討伐軍にはヤツ族の装備も含めて戦利品を持ち帰ることを期待します」
「そうなると武器や防具も含めた戦利品を売って金にしないといけませんね、あのヤツ族の物が売れればいいですが」
「ま、そこはこの広い大陸ですし物好きは居ますよ。帝国でも結構な値段でヤツやノルドール関係のものは売られているわけですから。どう思いますレスリーさん?」
「そうですね……」
先ほどまでは何時も通りだったレスリーさんの表情が、ホルスさんが言ったヤツ族の名前が出たとたんに険しい物に変わる。ここのところレスリーさんはずっとこの調子で、レッドさんも「ここんとこ食欲ねーみてーだし、こんなんが続くと正直医者としても友達としても心配なんだわ」とのことで完全にお手上げ状態の御様子。うーん……討伐が終わったら元のやさしいレスリーさんに戻ってくれるといいんだけれども。
「ほかに特に何かある者はおるかの?」
「……特に無いようですね」
「では解散での。ああカズキ、先に食堂に行って今日の分の漬物の確保を頼むでの~」
「了解っ! では自分はここで失礼しますよ!」
よーし、朝会もこれにて完了。ノヴォ市長からの大人気メニューである漬物の奪取任務をこれより開始としましょう!
<ノヴォ市長視点>
───キィ、バタン
「行ったかの……」
「さて市長、ニンゲンだけをのけ者にしていったいどういったお話で?」
むーん、まったくこの警備隊長もなかなか堅物での……まぁ今はいい。それよりもわしが皆に言わねばならんこと言うのが大事での。
「まずは会議『もーど』でなく何時も通りで今はかまわんでの。さて皆知っておるか、最近フィアーズベイン領を侵攻中の悪魔崇拝軍と帝国領のスネーク教徒が言っておる事を」
「むぅ、俺は聞いたことは無いな。そもそもあいつらの言っていることは常に支離滅裂だしな」
「いえ、わかりません」
「……知らない」
「カズキもおそらく知らないと思います、私も全然です」
ふむ、まだこのノヴォルディアではそこまで噂にはなっていないという事か……だがあまり楽観視もできんでの、悪い噂というものはいい噂よりも良く広まるからの。
「一応心当たりがあります、もしかしたら市長の聞いてる事は『異端』のことですい?」
「そうじゃホルス、その話しをどこで聞いたんじゃ」
「ああ……この前捕まえた背教騎士団に悪魔崇拝軍崩れがいたのでそこから少し」
ふーむ、ホルスの言う『異端』という言葉だけではないんじゃが、今そのことはいろいろな言葉でいわれておる。
悪魔崇拝軍は文字通り悪魔を崇拝し、この世の破滅を至上目的とするまあ宗教的な軍団じゃ。ペンドール大陸の主にフィアーズベイン王国とDシャア朝の国境あたりを縄張りとし、一部地域では実効支配している所もあるとの話しがあるほどの規模をほこっとるそうじゃ。
スネーク教徒軍は前述の悪魔崇拝軍と同じく教徒が武装化した集団で、指導者の名前はK・ユダと言うことと、もともとペンドール大陸には存在しなかった宗教をあがめているということしかわかっておらん。
子供をさらっては洗脳し精強な騎士として育てているという話しも聞いたことがあるでの。まったく宗教が絡むとろくな事が……いやはやわしらも精霊を信仰する宗教的国家と言えなくもないかのぅ。
「市長、その『異端』と言うのはいったいどういうものなのですか?」
「わしが独自に調べたところによると、悪魔崇拝軍とスネーク教徒軍の言う『異端』というものはどちらの勢力も『自分達がこの世界に召喚した存在で、自分達と共に世界を変える、滅ぼす存在』だそうでの」
レスリーはもうわしの言わんとするところがわかったようでの、じゃがそんなに顔を青ざめさせることもなかろ……む、もしやあのことを知っておるのはわしの時代の村民とイスルにセニアだけだったかの!?
「それでその『異端』とやらがあのニンゲンと関係があるとでも?」
「む、そうじゃ……イスルたちは覚えておるはずでの、カズキが初めてこの村に来た時に言った言葉を」
「……言葉?」
「むぅ……俺にはわからん」
「えっと、たしか『この世界が物語として存在する世界から来た』のような意味だったはずです」
まったくイスルはこういうことはすぐ妹任せか……まあこれも今はいい、だいたいセニアの言った意味で間違ってはいないはずじゃ。
別な世界、物語、この世界に存在しない技術、知識。やはりカズキは別世界から来たということは今では疑いようのない事実じゃ。
そしてこの『異端』という言葉。わしとしては繋がって欲しくは無かったんじゃがのぅ
「待ってください、それはつまり───」
「そうじゃ、奴らの召喚した『異端』とはカズキのことかもしれんでの」