前回のあらすじ
・出陣準備
・不穏な動き
・転移者ばれ
<和樹視点>
うん、最近どうにも一部の街の人からも陰口というか避けられているというか。
以前は街に顔出しに行けば村のころからの仲じゃない人でも気軽に声をかけてくれたんだけど、なんだか最近は話しかけると困ったような顔をしたり落ち着きが無かったりなど……正直のけ者にされているというかハブられている気持ちになってしまう。
ああ、今の俺の気持ちはまるで『小学生の時にかくれんぼで女子トイレに隠れてそのことでクラス中からハブられた気持ち』とでもいうか。 いや、決して俺のことじゃないよ、ちがうよ、そんなことなかったよ。
「あ、隊長……」
「ん、やぁセイレーネ」
ぼーっとしながらどこの誰かかのトラウマになっているであろう事を考えながら、食堂で給食を受け取った俺に声をかけてきたのはちょうど俺の後ろで給食をもらったセイレーネだった。あ、もしかして俺ぼーっとしてたから後ろつっかえてたのかな。
「え、あ、いえ……その、なんでもないです」
「なんでもないと言うやつに限って何にもないことは無いんだぞ。まあ飯一緒に食べているうちに聞き出させてもらおうか、ということで一緒に食べない?」
「あ、うぅ……すみません部下たちとの先約があるので失礼します!」
「あ、ああなら仕方ないか……」
結局目線をこっちに合わせることなく足早にセイレーネは俺から離れていってしまった……まいったなぁ、俺は放置プレイされて喜ぶほどMじゃないんだけどなぁ。しょうがない、一人で食べよう。
ここ最近セニアの仕事が忙しいようでなかなかお昼を一緒に食べれない日が続いている、正直セニアと一緒に食べれないならわざわざ忙しい昼時の食堂の設備を借りてまで作るほどの気力も最近でなくなってきた。
「あ、隊長今日もお一人ですか?」
「今日もって……何時も一人じゃないよ……でもここ最近一人でばかり食べているからさみしいです、かまってください」
「あ、あはは……僕でいいならいいですけど」
俺がなぜかここ最近誰も座らない食堂の一番端のテーブルで給食を食べていると、おぼんに二人前くらいのっけてやってきたのはデニスでした。
うーんこの子もご飯をいっぱい食べるとなると大食い選手権inノヴォルディアの行方はわからなくなるやも知れぬ……って、なんでご飯に手をつけないでずっと周りをちらちら見たりしとるんだろう? たしかになんだがこっちに視線が集まってる気がしないでもないようなそうでもないような。
「なあデニス、どうしたさっきからきょろきょ───」
「きょ、今日も天気がよ、良かったですね!」
「え、ああうん、そうだね」
「ご、ご飯おいしいですね!」
「うん、確かにここの給食は世界一だね」
「えと、そ、それから───」
いやいやさすがに俺でもわかるぞ、どうしてまたデニスはそんなに無理に話題を作ろうとするのかな。まずご飯を食べてからでもぜんぜんいいんだし。ああ、もしかすると何かよからぬ俺の噂でも流れてるな。デニスが無理に話題作ろうとしてるんなら大抵はそういった事だし。
以前南領警備隊のやつが俺のことを「素性も知れぬ下賎なニンゲンがどうして偉そうにしているのだ」という話しを、そこらじゅうの酒屋で言いふらしていた時もこんなことになった記憶がするなあ。
「はい、一旦停止。それで? 今度はどんな俺に伝えにくい話を仕入れたのかな」
「え、あう、その……」
「さぁさぁ、あんまり頼りにならない隊長だけれども、すべてご飯が冷める前に喋ってしまおうか」
「うぅ……その、ごめんなさい。隊長には言っちゃだめだってセニアさんがってあわっ!?」
ん? セニアが口止めをしているのか……これは他の人に聞いても迷惑かけるだけかな。後でセニアに聞いてみるとしようか、ああでも最近忙しいらしくって朝会で顔をあわせることぐらいしかできていないから、セニアから聞くといってもどのタイミングで聞き出せばいいものか……
もしかするとデニスが口止めされていることと、ここ最近の俺に対する微妙なみんなの態度は同じことなんかもしれない。まあノヴォ村長の村に来たころからヒソヒソされるのは慣れてるし、仲間や部下達、そしてセニアが居れば別に俺はいいさ。
そうは思っていても、仲の良かった人たちからヒソヒソ言われればそれは傷つくけれども。
「わかった、じゃあ後でセニアに聞くさ。まあデニスが口を滑らしたという事はなかったということで」
「えと、その、き、気にしちゃだめですよ。僕たちは隊長のこと信じてますから!」
「え、あ、うん。ありがとう」
そんないきなり面と向かって言われると照れるじゃないか。それになんだかさっきの発言の後食堂の視線が少し和らいだような……気のせいか。
ちょいと恥ずかしくて今日の給食であるパスタをずるずるとつい音を立てて食べてしまう、うーん未だに音を立てないでうまく食べれないなぁ。えっと、こっちをずっと見つめながら食べないで欲しいなデニス。まいったなぁ、こう、ずっと見られているとその、視線がぁ、えっと……
<セイレーネ視点>
私はさっき隊長に会った時、何時も通りに会話しようと思ったのにできなかった。普通に会話しようと話しかけたのはいいのだけれど、隊長と目線が会うとどうしてもそちらを見ることができなくなってしまった。
こうなってしまった理由は、一週間前の食堂で聞いた一つの噂とこのあいだの朝会で聞いてしまったこと。
食堂で聞いたのは「カズキ隊長は異教徒達が召喚したこの世の『異端』だ」という噂。
カズキ隊が編成されて以来隊長に対するよくない噂話など何度も聞いてきたが、これはいつものやっかみの噂だと聞き流すわけには行かなかった。なぜならばこの世界において異教徒とは侵略者であり、やつらの崇める神は魔王でもあり悪魔でもあるからだ。この噂はまるで隊長がその悪魔だとでも言うかのような噂であったから。
最初は私も今までの僻みややっかみの噂よりもたちの悪いだけの噂だと思ってその話をしていた兵士を注意した、「隊長のどこが『異端』なのか」と。
返ってきた返事は「ではセイレーネ様はカズキ隊長が何人なのかご存知ですか? どこの出身かご存知なんですね」と聞き返してきた。
私は答えられなかった。あの森での戦いで命を助けられて以来共に戦い続けてきたし、一緒にこのノヴォルディアですごしてきた仲間なのに私はそんなことも知らなかった。
ゲデヒトニスは山脈を越えた向こうにある異民族の国家ヴェッカヴィア出身、レスリー隊長は海の向こうの大陸バークレー出身、カザネは北方のミストマウンテン族とレイヴンスタン人の混血でフィアーズベイン出身だったはず。セニアさんとイスルランディア殿はもちろんノルドール人でノヴォルディア出身だ。
でも……隊長はイスルランディア殿を兄と呼んでいるがノルドール人ではない。ではなぜ人間と敵対関係にあったノルドールに身を寄せて、しかも生き延びられたのか。わからない、自分の中で確かな形があった隊長という存在の輪郭がぼやけていく。
「ほら、セイレーネ様だってカズキ隊長が何者か知らないじゃないですか。異教徒の神だか使いと一緒に戦うなんて自分達はごめんですよ!」
私は結局その噂を言うのはとにかく士気にかかわるからやめろと言ってその場を後にすることしかできなかった。
そして、私はこのあいだの朝会にてこの噂の抑制について提案すべく会議室の扉を開けようとしたときに聞いてしまった。
「えっと、たしか『この世界が物語として存在する世界から来た』のような意味だったはずです」
物語……世界? セニアさんはいったい何を言っている?
これ以上聞いてはいけない、これ以上聞いたら私と隊長の関係がもう今のままではいられないと心のどこかではわかっているのに聞き耳を立てたまま私は扉の前から動くことができなかった。
そして、ノヴォ市長の言葉を聞いて、聞いてしまったことを心のそこから後悔する事になった。
「そうじゃ、奴らの召喚した『異端』とはカズキのことかもしれんでの」
隊長、あなたは、いったい……
<???視点>
「くっくっく、流言はずいぶんと良く広まってくれたな」
「それはそうだろう、ノルドールがこの大陸の歴史に名を残すほどの動きを見せるなど何千年ぶりか」
「やはり情報は本当だったか……」
「しかしこれでもうすぐで『異端』は世界の敵となる。これで事を起こす大義名分が出来るというものよ」
「長きに亘り耐えてきた我らの苦労が報われるときが来ましたな」
「我らは『異端』を使い一度この世界をやり直すのだよ」
「では今回はヤツの働きに期待しようか。ではな古き王家の末裔よ」
「それでは失礼しますぞ、神の地上の代行者……」