前回のあらすじ
・悪い噂
・はぶらないでー
・どう考えても怪しいやつら登場
<イスルランディア視点>
出撃前日のカズキが居ない朝会、いつもの和らいだ空気ではなくここ最近続く陰鬱な空気で会議は進行していた……まったく、これもすべて市内で広まっているあの噂のせいだ。
噂は俺の兵士だけでなくカズキ隊の隊員にまで広まっているらしく、最近護衛兵の四人もカズキとの関係がぎくしゃくしているようだ。この前の演習でもカズキ隊は俺の命令は迅速にかつ正確にこなすのに、カズキの命令では動きも正確性に欠ける上に動作に遅延が目立つ有様だった。
正直なところ戦う以前の問題だ、士気の低い軍を参加させたところで烏合の衆になるどころか足手まといになるだけだからな。
そう、カズキ隊がそんな様子だから俺は村長会議の結果に驚きを隠せなかった。
「カズキ隊を出撃させるとはどういうことか市長っ!?」
「……今回の討伐に出撃する部隊に変更はないでの、それが会議の結果じゃ」
「ならば軍司令官として進言する、訓練ですらまともに作戦行動が取れない部隊を戦場に連れて行けば足手まといになるだけだ」
「わしとて、わしとてカズキを出撃させたくないでのっ!」
なぜだ、なぜわざわざカズキ隊が出撃しなければならない? 俺のイスルランディア隊とレスリー隊、それに北領国境警備隊でサーレオン軍と連携すれば勝利は難しくないはずだ。
「内務大臣としては、賛成……です、けれども」
「セニア、お前までもかっ!?」
「兄上……おそらくカズキにかかっている「噂」の嫌疑を晴らすには出撃して戦果を挙げるしかないかと」
「ぐ、ぐぬぅ……」
わかっている、セニアとて死ぬ可能性の高い戦場へカズキを送り出すことがつらい事など。だが、そもそもなぜ村長会議でカズキ隊の出撃が強要されるのだ? やつらにいったいなんの思惑が───
「さっさと死んで欲しいからですよ司令、だって国民感情としては不安要素たるあのニンゲンが死ねば少しは安心するでしょうし」
「な、貴様っ……!」
「残念ですが村長会議の出席者の多くはその考えのようですね、なればやはりセニアの言う通りにカズキが自身で噂や嫌疑を晴らすべきです」
「レスリーとラトゥイリィの言うとおりでの……そういうことでのイスル、今回はカズキ隊を出撃させるしかないでの……だからこそ、絶対に死なせるでないぞ。生きて帰ってくるまでが討伐じゃ」
「南領警備隊隊長としてはカズキ隊の戦力低下はごめん被りたいので、せいぜい損害を出さないようにがんばってきてください。あんなニンゲンなんかでも口げんかの相手が居なくなると今日のようにこの朝会が暇で仕方がないですしね」
……ならば仕方がない、こうなった以上なんとしても俺がカズキを守らねばならないな。だが討伐において重要なのはザルカー本人の命であるからカズキ隊を本格的に参戦させずにこの目標を達成するには……明日までには新しい作戦の打ち合わせをしなければ、今日は俺の睡眠時間を削るとするか。
<レスリー視点>
「……では俺は作戦を練り直してくる」
「うむ、たのんだでのイスル」
ノヴォ市長の言葉に軽く会釈すると、イスル司令はそのまま肩を落として部屋から出て行きました……さて、まずはあの報告からいたしましょうか。
「市長、例の件についてご報告が」
「……うむ、頼むでの」
「ザルカー軍閥に現在所属している兵力は550で、そのうち100を離反させることに成功しました」
「む、ずいぶんと軍閥の戦力が減っているように感じるが?」
「ええ、どうやらヤツ族穏健派と交戦し引き分けたそうです。その結果が略奪を成功させ続けてきたことで維持させていた兵士の士気低下をもたらし、離反も予定より楽にこなせました」
この会議の3日前、離反した者達100人をノヴォルディアからそう遠くない森に集めて、ザルカー軍閥の現在の状況について詳しく聞く機会がありました。その時に手に入れた情報の一つがヤツ族の中でも略奪を良しとしない一派と、略奪肯定派だが草原の南を勢力下に治めるザルカーに反感を抱く一派が共同してザルカー軍閥と交戦状態になったことです。
このヤツ族内での戦いの結果は、両者痛み分け……というほど簡単には行かなかったようですね。
ザルカー軍閥は今まで連戦連勝、そして大量の略奪品がもたらす富によってかろうじて団結していました。もともと多くの軍閥員は、成り上がり者で残虐なザルカーを慕ってはいませんでしたし、無理やり参戦させられているものもいたからです。
ですがこのヤツの内戦によって引き分けた形のザルカー軍閥は、勝利も略奪品も得ることができずに草原の南に戻ったのです。戦えば勝ち、勝てば手に入れていた富が得られないとあれば、今までいい汁を吸っていた連中からすれば、それだけで離反する理由となったようでした。
「あなた方が離反者のなかでも我らノヴォルディアのために戦いたいと言う者たちですね」
「へ、へぇそうでやす。俺たちゃあんなザルカーの野朗と死ぬつもりはありゃしやせん。これでも弓騎兵として俺たちはなかなか使いどころがあるとおいまっせ?」
そしてこの目の前で気色が悪い笑みを浮かべるヤツ族のように、離反者のなかでもそのまま傭兵として戦いたいという人も出てきました……あからさまにその人の部下は全力で拒否しているようでしたが。こちらとしてもヤツ族などと共に戦うことはありえません、あれらは敵でしかないのですから。
まあ一応ここは本音は伏せた上で断っておきましょう、いきなり逆上して襲い掛かられても困りますし。
「ですが一度離反した者を信用することは難しいですね、残念ですがその提案は断るしかないようです」
「ま、まってくだせぇ! こ、こんなこともあろうかと手土産を持参いたしやしたっ!!」
手土産、ですか。正直なところ彼らの処遇については「信用できない」と「ヤツ族」というだけで決定しているのですが……まあいいでしょう、話だけは聞いてあげましょうか。
「それでは拝見させてもらいましょうか、それで手土産というのは?」
「へぃ、軍閥に残ってるやつらの一部の家族でごぜえます。脅しに使うなり奴隷として使うなりご自由にどうぞ」
「……」
この男……いえ、この薄汚いヤツ族はどうやらどうしようもないほどに愚かですね。このヤツ族がつれてきた『人質』は確かに脅しか奴隷に使うしかもうできないでしょう。
注意して見なければただの力なく座り込む両手を縄で縛られた人たちにしか見えないでしょうね、ですがこの人たちはただ捕まって人質にされただけというわけではないですね……
───なぜなら、すべての人質が女性で、目から生気を感じることができなかったから。
ああ、そうなのですね。やはりさすがはあの「ザルカー」の元にいたわけではありませんね……本当にまったくもって愚かです、こともあろうに私への手土産がこの人質達ですか。
まあいいでしょう、これで本当に微塵も情けをかける必要もありません。
「ど、どうでしょ───」
───ザシュッ! ゴトッ
「さて、この人々を壊したのは誰ですか?」
「「なっ!?」」
この塵のようなヤツ族の首を一閃で切り落とし、私は静かにこれの後ろに居たヤツ族に聞きます。だれがこのようなことをしたのかと……答えは全員で『ふぁいなるあんさー』でしょうが。
───ザワザワ
「ああそうです、素直に実行犯をさしださない場合は全員火あぶりですのでがんばって実行犯を突き出してください」
一瞬で離反した残りの99人から発せられていた戸惑いが消え、目が血走り、全員が一斉に自分の近くのヤツ族がやったと言い出し始めました。いいですね、それぞれが戦友を見捨てて自己保身に走る様子などまったくもって胸のすくような気分です。
せいぜい今まで楽しんだ分、苦しみのた打ち回るといいでしょう……壊された人質たちのためにも。
「さあどうしました、殺してでもかまいませんから実行犯を連れてきた者だけには恩赦を与えましょう。さて、誰でしょうか?」
「ま、待ってくれ! 私が命令したんだ、人質になるやつを連れて来いと! 私はどうなってもいい、だから部下の命だけはっ!!」
「そうですか、それであなたが命令してつれてこさせた人はその後どうしました?」
「べ、別になにもしてはいない! そ、こにいるはずだ。ナターシャ、こっちに来てく言ってやってくれ!」
この隊長格らしき男に呼ばれて一人の女性が人質の集団からこちらにふらふらと歩いてきました。年齢は30歳前後といったところでしょうか、髪や目の色で判断するにどうやらレイヴンスタン人のようです。
そして彼女は男の前まで来るとひざ立ちになり、男のズボンに手をかけました。
「な、おいナターシャ! どうしたんだいったいっ!?」
「はふぇ?」
「しっかりしろ! おい、どうしたん───」
「さて、これではっきりしましたね。ではヤツ族の蛆虫さん、さようなら……殺れ」
まったく、表情を見る限りではこの隊長格の男は知らないようですが、やはり他のヤツ族は所詮こんなものでしょう。まあそもそも略奪を繰り返す者に非人道的行為をすることをためらう者はいないですしね……略奪はしないにせよ、私もその一人ですが。
「ちょ、た、たすけてげはっ!」
「く、くるなぁ! ひゃがっ!?」
「あ、ああ……」
離反してきた99人を包囲していた私の部隊が次々と「処理」してゆきます……いい表情ですよ隊長さん。どうですか、目の前で部下を皆殺しにされる気分は。あなた方に略奪されてきた村の人も同じ気分になったと思いますよ?
「そ、そんな……なんで……」
「これで後はあなた一人、さてさてあなたの処分は被害者代表としてナターシャさんに決めてもらいましょうか」
「……?」
「ナターシャさん、この男はいい人ですか?」
「……(コクコク)」
「ほう? では先ほど殺したヤツ族はどうですか?」
「……(ブンブン)」
なるほど、どうやら本当にこの男は何も知らなかったようですね……おそらく引き分けた後に戦力の増強として雇った傭兵隊の隊長などそのようなものでしょうね。まあ100人分の武器や防具、それに新しいノヴォルディア市民も「保護」できたので良しとしましょうか。
「よかったですね隊長さん、どうやらあなたは何も知らなかったようなので先ほどの光景を見せ付けるだけで許してあげましょう」
「知らなかったんだ……」
「何がですか?」
「あいつらが、あんなことしてたのは……だが、俺の部下のした事だ。こんなことで済むとは思わないが、殺してくれ、頼む」
この男の装備を見るに、傭兵とするならばまだ経験が浅い……つまり元々はどこからか逃げてきた実力者といったところでしょうか。そうなると部下はどこで拾ってきたのでしょう、まあ別にどうでも良いですが。
一応責任感はあるようなのでせっかく殺さずにしておいたのです、この男の使い道がないか考えましょうか。
「まず名前と以前何をしていたか教えてもらいましょうか、もしかするとそのナターシャさんを食べさせることのできる仕事を斡旋できるかもしれませんよ?」
「俺は、俺はっ───」
「と、このようなことがありました」
「ふむ、そうなるとその男は登用できたのかの?」
「はい、私の隊でもっとも頼れる前線指揮官の一人です」
そう、実際に彼は今よく働いてくれている。彼さえ居れば隊の指揮を任せてザルカーの首を取りにいけるのですから、これ以上望むべきではないでしょう……さあ、楽しみで仕方がありませんね。
「それともう一つの方も順調です」
「……本当にいいんですか、カズキに伝えなくて」
「いいんじゃ、今伝えればカズキがどんな事になるか想像がつかんでの……少しでもカズキの生還を望むなら最後まで隠し通すべきでの」
そう、もう一つイスルランディア殿にも秘密裏に進めていた事は「カズキに異端の噂を知らせないこと」
ノヴォ市長の言うとおり、出陣は強制的に村長会議で決定されているのですから少しでも彼の生還率を上げるのは大事なことでしょう。今のところは彼に四六時中カザネかデニスがついているので、彼に知られてはいないようですね。
「あのニンゲンの指揮がおろそかになればそれだけ死ぬノルドールが増えるんです、セニアさんもご理解ください」
「でも、でも……やっぱりこんなのって───」
「今日のところはこの辺にしておこうかの、では解散じゃ。」
あとがき
うぅ、この先ずっとこういう展開になる予定です。最初のノリも大事にしたい(作者が楽しく書ける)のでまったりというかギャグ番外編を近日中に書きたいです。