前回のあらすじ
・まさかの駐留拒否
・第三勢力登場
・とりあえず様子見
<イスルランディア視点>
部隊を率いて戦場に近付くと、偵察隊から報告のあった場所をちょうど見下ろせる丘があったので、早速そこから戦場の様子を確認してみることにした。
そこから見えたのは総勢300ほどの部隊が入り混じって交戦中の草原。すでに多くの屍が転がっている……やはりザルカー軍閥と交戦中の部隊が掲げる紋章は俺もわからなかった。
ふと横を見るといつもは冷静沈着なレスリーが、先ほどからずっと会話に参加しようともせず苦虫をつぶしたような顔のまま「甘い」「殲滅」などと独り言を繰り返している……これは相当重症だな、彼女ならあのザルカー軍閥の部隊にザルカーが居ないのはわかるだろうに。
「……」
「レスリー、気持ちはわかるが今はまだ様子を見る」
「……了解っ! くっ」
一応声はかけてみたが……この様子では駄目だな。レスリーは次から俺の横にでも括り付けんと何をしでかすことやら。今も両目は血走り、手に持つ槍をそのままへし折るのではないかと思えるほどに握りしめている。
さて、この今にも臨界点を超えそうなお嬢さんを抱えて我が軍は一体どうすべきか。突っ込むにしてもこちらの被害を考えるとあまり乗り気にはなれんな、これが俺単騎ならば話は別だが今俺は軍の指揮官だ、部下を必要以上に危険にさらせん。
さて、俺一人で考えても思考が堂々巡りするのならば他の人に意見を聞けばいいだけだ。だがしかしいつもの参謀役であるレスリーは今回は冷静な判断が難しいだろうし、そうなると……だめだ、カザネは今ノヴォルディアに居る。
「よくわからないけどあの旗印見たこと、ある?」
「えっ、どうカルディナ、思い出せそう?」
「だいぶザルカー側が押してますね、損害としてはほとんどザルカー側とはいえ戦力差がかなりありますし」
うむ、ゲデヒトニスの言うとおり戦局は徐々にザルカー側に傾きつつあった。どちらも弓騎兵を中心とする部隊編成だが、どうやら交戦相手はだいぶ疲弊しているようだ……装備も見たところ長距離の行軍には適していないところを見るとこの近くのヤツ族だろうか?
「このまま手をこまねいているのも……兄上様、介入しますか?」
「すべきだろうな、だが兵をむやみに危険にさらすわけには……」
「隊長、私たちを助けてくれた時にやったあの作戦を試、す?」
「えっ、あ、あれをまたやるの……」
以前? むぅ、以前とはカズキが隊商を救援に向かって槍で負傷した時のことだろうか。だが俺は何かあの時作戦など言っただろうか……うーむ思い出せん。まあカズキに何か考えがあるのだろう、まずは聞いてみようか。
「悪いがさっぱり覚えてないな……でその作戦とはなんだ?」
「やらないといけないんですね……我々は今丘の上にいます、そしてこちらはほぼ弓騎兵と騎乗弓兵です。兵科的には軽騎兵に分類される我々では、この乱戦に突入するのは防御力的に不安が残ります」
「えと、お互いが消耗したら弱ったほうを、助ける? それとも撃ち、逃げ?」
「隊長よく言ってますからね、『撃ったら逃げる、引き撃ちができる限り弓騎兵に敗北はない』って。つまり射かけたら弓騎兵の機動力を生かしてすぐに引き上げるんですよね?」
「だが騎乗弓兵はどうする? 馬上からでは攻撃できんぞ」
「初撃を放ったら先に離脱させましょう。殿と最後の攻撃をノルドール
弓騎兵に任せれば安心できます」
なるほど、ここからなら混戦となっている戦場に向けてある程度射撃して撤退すれば被害はほとんどなしで一定の戦果をあげれるだろう。だがそれではこの距離からだと混戦中のあそこに射かければ、どちらかの軍勢にだけあてられるというわけではない。最悪どちらの軍も敵にまわ……いや、どちらもヤツ族なのだから仲間になるかもなどという期待は捨て置いたほうがよさそうだな。
それにしても戦う前から逃げることを考えるとは、まったくカズキの考えはよくわからん。まあ「逃げる」ときたら『てんぷれ』とやらを返しておくか。
「『知らなかったのかカズキ、ヤツ族からは逃げられない』だぞ」
「ええ、弓騎兵の熟練兵達相手に簡単に逃げられるとは思っていませんよ。というか兄上様、それ、覚えていたのですね」
「イスルランディア様も随分と隊長に染まりましたよね」
「デニスが言うことじゃ、ない?」
「……作戦を前にのんきなものですね」
「姉さんも、もう少し力をぬいた方が、いい?」
「余計なお世話です、カルディナは自分の心配をしていなさい」
「……はい」
やはりレスリーは危ういな。悪いが射掛ける場合でも、先頭にたたせるのは危険だ。命令無視の危険性を考えれば最後尾に回すか……
「さて、ではその作戦で行こう。各自攻撃準備。第一斑は下馬後立ち膝、第二班も同じく下馬後そのままで、第三班は騎乗したままで一斉に射撃する。できればザルカー軍閥を狙えよ!」
「和樹隊展開完了!」
「……レスリー隊準備よし」
今まさにこちらが射かけようとした時、急速に所属不明のヤツ族がこちらの射撃予定地点から遠ざかっていく。どうやってこちらの攻撃気づいたかは知らんが、この機動だけでも指揮官の優秀さと部下の錬度がわかるな。
現にザルカー側はいまだに追撃すべきかいったんその場から離れるべきかの判断がつかずにただうろたえるか兵士の間隔を詰めるだけだ。
射るのならば今が最良の時っ!
「よし、放てーっ!!」
<???>
全く……ここ最近てんでついてないな。今回の任務では「護衛の薄い隊商を襲撃するために40騎程度の部隊が移動中、これを撃破して敵の戦力を削げ」となっていたはずだ。この目の前の大部隊のいったいどこが40騎程度だというのか?
こちらは120騎を率いて出撃したもののすでに20騎近くを失っている、相手には60近い損害を与えているもののすでにこちらも限界だ。すでにこちらは包囲されかかっている、どうせ部族連合もそこまで戦果は期待していないだろうし、ここは俺の軍閥の損害をいかに減らすかを考える時だな。どこで軍を引かせるべきか───
そんなことを考えつつ馬上から部下へ指示を飛ばしていると、まるで目の前に剣を突き付けられたような感覚を覚えた……これは殺気だ。前方のザルカー軍からじゃない、方向的には左方向にある丘の上からだ。
今は何者の姿も見えないがあの殺気はただ事ではない、ちょうどいい機会だここは一旦逃げるとしよう……どうもいやな予感しかしないからな。
「おいっ! 退避の笛を鳴らせ、急げっ!!」
「りょ、了解っ!!」
───ブブオー ブオブオー
「退避ー退避ーっ!!」
「離脱だ、離脱しろー!」
よし、さすがは俺の部下たちだ。素早く部下をまとめて離脱を開始している。
そして、我らの部隊が離脱するのと同時にザルカー軍から悲鳴が上がった。
<レスリー視点>
……まったくもって生ぬるい攻撃ですね。こちらが丘の上から一方的に射かけているのは良いのですが、これでは目の前のヤツ族を殲滅することはできないでしょう。
できることならイスルランディア殿の弓騎兵隊を使って殴りこみたいところですがここは抑えましょう。私にはあそこにザルカーが居るとは思えませんし、ここで無理に押し込んで損害を出すよりはましだとここは自分に言い聞かせましょうか。
「クロスボウ持ちは発射した後装填したあと、騎乗し先んじて後退してください。弓持ちもノルドール馬でないものは同じように」
「了解っ! クロスボウ持ちは装填後俺のところに集まれ、いいな!」
「「了解っ!!」」
「彼」もこの部隊に入って初めての戦いですから気合いが入っていますね。私の部隊からは5人しか連れてきていませんが、彼らは騎乗しながら射撃できる数少ない兵士でもあります。将来は「彼」にサーレオン人の弓騎兵隊を作ってもらうのも悪くないかもしれませんね。
「装填完了っ!」
「よし、騎乗後離脱するっ! ではレスリー隊長お先にっ!!」
「確認しました、では後ほど……」
クロスボウ持ちの退却とともに徐々に撤退準備に入ります、私は今5射目で4っつほどヤツを仕留めたところです。少し数が多いですがほかの兵士が3射する時間で射ているので問題ないでしょう、少々射たりないですが。
「射撃終了っ! これより全軍退却するぞ!!」
「撃ち方やめーっ! 撃ち方やめーっ!」
「騎乗済みは援護でそのほかは急いで、騎乗?」
「隊長も早くマキバオーに乗ってください!」
「ああ、さっさと逃げるぞ!」
あちらはあちらで何時も通りの流れというか空気ですね、戦場においてもなぜか和んでしまいそうな空気を作れるのはカズキの才能の一つかもしれません。
見たところイスルランディア殿も騎乗して撤退を開始したようなので私も続くとしましょうか……次に見つけた時は皆殺しにしないとこれは気が済みませんね。
「ではこれにて失礼します、よっ!」
私はザルカー軍閥に向けて最後に一射した後離脱しました。
<和樹視点>
見事な射ち逃げを成功させた俺たちは、馬に乗るときに突き指した俺以外基本無傷で駐屯地まで帰還した……なんだかやっぱり締まらないなぁ。俺が馬にくくりつけていたクロスボウも当たったかどうか……
まぁ恥ずかしさでやかんを沸かせそうになっていると、目の前に見えてきた駐屯地になにやら動きが。駐屯地正門前にどう見ても守備隊の出迎えには多すぎる部隊が居る。騎乗している兵がほとんどおらず、しかし駐屯地部隊と戦闘しているわけでもないので敵対しているわけでもない。なんだろうこの兵士たちは?
「司令官自ら偵察ですか、お疲れ様です」
「うむ、ヘレワード男爵もここまでの道のりお疲れ様でしたな。それで連れてきた兵士は約束通りですかな?」
「いや、それが……」
駐屯地からこチラへ向かってきて、なにやらずいぶんと不穏な会話を始める腹黒男爵ことヘレワード男爵と兄上様。どうやらこの部隊はヘレワード男爵指揮の部隊のようだ。しかし少なくとも450は居るはずのザルカー軍閥と対抗するには、こちらの討伐軍200と駐屯軍50では全然足りないように見える。
この腹黒男爵様には、最終的な連絡では400を率いて出るということになっていたんだけど、どう見てもサーレオン軍は200ちょっと居るか居ないかといったところだろう。その割にはやたらと補給隊の数と物資の多さが目立つが。別動隊が強行軍で向かってきているとかだろうか?
「男爵、あまり言いたくはないがどういうことだこの人数は。軽く見ただけでも200すら怪しいが?」
「えーとですね、実はサーレオンも含めたこの大陸にある人間族国家すべてに『神の敵が現れた、出陣の準備をせよ』と教皇から命令がくだりまして。それで結局この出陣自体も取り消されかけたんですけど、自分が無理に出撃を押し通したため手勢だけということになったわけでして……」
教皇か……日本では話のタネにしても笑ってごまかせても、信仰熱心な国や人の前、しかも中世ヨーロッパやこの世界じゃシャレにならない。話を聞く限りだと十字軍に近い動員なのだろうか。そうなると宗教の旗の下に集う軍集団なんて、恐ろしい以外の何者でもないぞ……
「あと耳に入れておきたいのは、最近Dシャア朝とフィアーズベイン王国で勢力をのばしていた悪魔崇拝軍でも、大規模なあいつらなりの宗教的動員を始めたらしいです。ミストマウンテン族もなにやら軍を集めているらしいですし、かなり情勢はきな臭いですよ」
「そうだな……たしかにろくでもないことになりそうだ」
……ちょっとまて、それってもしかするとゲームで発生する大規模軍イベントじゃないか!
大規模軍イベントは、普通賊軍(ミストマウンテン族や悪魔崇拝軍にスネーク教徒などを含む)は兵力が多くても50ほどなのだが、突然名前ありの指導者が率いる500から時には1000になるほどの大群が出現する。
こいつらが出現すると、交易路は徹底的に荒らされ、パトロール部隊どころか、各諸侯の軍も撃破され捕らえられるわでろくなことがない。しかも数が数だから敵対する勢力の領内まで誘引しても、その国の軍が逃げて行ってしまうほどだ。
さらに名前ありキャラとその護衛兵が半端なく強いので死ねます、それはもう重装槍騎兵1000で交戦しても勝てるかどうか……正直そこそこのPCでもフリーズるほどの大規模会戦を起こさないと撃退は容易じゃない。
となるとそんな奴らが国境線沿いで活動を始めたとなるとサーレオン王国は気が気でないんだろう。なんといってもつい最近まで帝国と総力を挙げた戦争が終わったばかりだ、せっかく集めた兵士も戦後復興のために故郷に帰しただろうし、深刻な戦力不足なんだろうなぁ。
「男爵お久しぶりです、ノルドール連合イスルランディア「後背より先ほどの所属不明部隊急速接近っ!!」えーまずはそちらの対応が先ですね」
「所属不明? とりあえずこっちは先に駐屯地の防衛体制を整えてくる、さっさとカズキたちも逃げてくれよ」
───ドドドドドドドドドド
結構多いな……もしかするとあの戦場から離脱した後全軍でこっちを追っかけてきてたのか? というかなんで兄上様駐屯地に引き返そうとしないんですか!?
「全軍何もするなよ……戦いに来たという気配ではない、まずは話を聞くぞ」
「なっ!? イスルランディア殿、あれはヤツ族ですよっ!!」
「レスリーはだまっていろ。大丈夫だ、指揮官自ら先頭に立ってこちらに来ている。こういう手合いに話が通じなかったことはない……たとえそれがニンゲンだったとしても、な?」
「ま、まぁ兄上様がそういうのでしたら……」
まあ兄上様の野生の勘(?)はまずはずれないから大丈夫だろう……というか兄上様、こちらにウィンクされても困るんですが。お、いつの間にか前方のヤツ族の軍が停止して指揮官らしき人がこちらに来ている。
「さきほどの『援護射撃』感謝するよ誇り高きノルドールよ。俺の名はラドゥ、ヤツ族部族連合所属のまあ簡単に言えば穏健派だ。」
あとがき
書いていた一時データを保存しておかなかったせいで一度全部書き直すはめになって更新遅れました、ごめんなさい。