前回のあらすじ
・共同戦線
・どう考えても主人公は兄上様
・悪いことは重なるもので……
<イスルランディア視点>
「偵察隊より報告っ!? ザルカー軍本隊と思われる400の部隊が接近中っ!?」
司令室に飛び込んできたカルディナの言葉は今俺が最も聞きたくなかった言葉だった。
現在我が軍はノヴォルディアまで一時撤退し、貴族のアホ共を成敗しなくてはならない。だが現有戦力のすべてで退却すればこの駐屯地が抜かれ、その後ろにある多くの村や町がザルカー軍閥の手によって灰燼に帰すだろう。それほどの損害を出すことは人口の少ないノルドール連合では何としても避けねばならない。
だがこの駐屯地の駐屯軍100を残していったところで、貴族軍の討伐後に我々がここに増援を送り込むまでは到底持つまい。町や村から住民を避難させるまでですら持つとはとても思えない。カルディナの偵察隊が確認したザルカー軍閥の本隊がもし、さきほどまでラドゥ軍閥と交戦していた部隊とは別だった場合……レスリーの離反工作をしてなおそれだけの兵力を保有しているのだ。駐屯地軍を足止めに使ったとしてもすぐに突破され、歩兵に避難民の足では簡単に弓騎兵を主力としたザルカー軍閥に追いつかれ殲滅される。
つまり、この駐屯地で最低でも避難が完了して追撃の危険がなくなるまで踏みとどまってもらわなければならない。また、拠点防衛戦ということを考えるとできるだけ弓兵の多い方がいい。だがそれに該当する部隊は……
───カズキ隊だ
あいつの部隊は基本的に全員が騎乗できるのは以前の訓練と入隊面接で確認済みだ、馬を全員分残してやればそれに乗って脱出できるかもしれない。 それに状況把握に優れるカルディナに、ヤツ族との戦いになれているデニス、そして接近戦では無類の強さを誇るセイレーネの居るカズキ隊なら間違いなく2、3日は総攻撃を受けても持ちこたえてくれると信じたい。
だが……俺は、カズキを死ぬかもしれない任務に就かせるわけには……いやだがこれしか、いやそれでもっ!
「兄上様、考えがあるのですが」
「……すまん、少し待ってくれ、状況が整理できていない」
「えっとですね。兄上様達は撤退して避難を優先してください。兄上様なら俺たちが全滅する前に避難させることができるって信じてますから」
<和樹視点>
いやはや、俺としたことがずいぶんと思い切ったこと言ったなあ。でも、これは俺たちがやるしかない。
おそらくこの拠点を放棄すれば間違いなく弓騎兵中心のザルカー軍閥に撤退中に追いつかれて部隊・後背の村落に多大な被害を出すことになる。ここの駐屯部隊だけではさっき戦ってたヤツ族が別の隊だった場合、兵力は5倍以上になる。駐屯地に城壁があるとは言え兵力差で間違いなく負ける。
それにここでザルカー軍閥をある程度の日数防がないと周辺の村落どころか北領すべての村や町が危険に晒されるわけで……せめてその人達の避難が終わるまで何とかここで食い留めなければいけない。
幸い塹壕を掘ったりして少なくとも南北戦争後期ごろ程度の塹壕陣地は構築できたと思う。第一次大戦みたいなのは無理だけどこれなら寡兵でもできるだけ損害を減らしながら戦える……はず。
待ち構えるだけなら歩兵や騎兵の機動性は必要ない。ゆえにライフルの出現より前でも塹壕の価値が十分発揮できる。
全員が騎乗戦闘ができるわけではないけども、騎乗可能というのも俺の部隊がとどまる必要性のある理由。弓騎兵相手に徒歩で追撃から逃げるのは無理だろうし。
「だ、だがそれでは……」
「死にませんよ、生きてセニアに会うって決めてますから」
「大丈、夫?」
「僕たち撤退の合図があれば逃げる訓練受けてますからっ!」
「それは威張る所じゃない気が……でもまあ、私たちなら覚悟はできています。後は気合で補えばいいんです」
なんというか……みんなの信頼がすごく嬉しい。こんな俺に最後まで付き合ってって落ち着こう、これじゃまるで俺が死ぬみたいじゃないか落ち着くんだ、きっとあっという間に兄上様が何とかしてくれると。よし、信じる信じる。
「……わかった、ではこの駐屯地でカズキ隊の騎乗可能な兵士はここで───」
「それとラドゥ軍閥だな」
「ら、ラドゥ殿っ!?」
話はきかせてもらったとばかりに扉に背を預けて腕組みするラドゥさん、男前すぎます。というかなんでラドゥさんもここに残るんですかっ!?
「カズキ殿、此方は全軍が弓騎兵だ。逃げるにはちょうどいいだろう? それに単独で目の前の軍の追撃を振り切って北方の宿営地に撤退できるとは思っていない」
ラドゥさんはどうやら本気で残ってくれるみたいだ。今回の防衛に回せる騎兵や騎乗可能な兵士が少ないの以上、正直心の底からありがたい増援である。
「わかった、サーレオンからも20騎程度だが兵士を回そう。カズキ、お前が死ぬと俺が困る。もちろん腹黒仲間としてな?」
「腹黒とはひどいですね……でもいいんですか? 兵士をこちらに回して」
「なーに、物資を捨てて急いで行くんだ。落伍者が出てもおかしくはないだろう?」
腹黒男爵には頭が上がらない。騎乗可能な兵力は落伍者で誤魔化せない貴重な戦力だろうに。これは何としても兄上様の合図まで守りらないと。
「まてまてイスルランディア殿! ここは俺たちの北領駐屯地だ、そこのニンゲンだけに任せておけるか!」
「……その反応だからお前たちに防衛は任せられんのだ。カズキ隊と協力して防衛に当たれるのか?」
「その言葉、結果で返させてもらいましょう。いいですか? ここを抜かれたらどれほどの被害が出るか……それを肝に銘じて戦ってるんです。だからこそニンゲン『だけ』に任せておけないんですよ!」
「わかった……カズキは俺の家族であり、机上演習ではあいつの防御は桁外れだ。拠点防衛なら俺以上だろう……共同指揮してもらえるか?」
「……イスルランディア殿の家族ですか。であれば、一日目は指揮を預けてみるとしましょう」
「……わかった。合図は狼煙だ、狼煙があがったら退却の合図だ。それまでは何としても持ちこたえてほしい。最悪3日は防いでもらわねばならん」
「了解しました、和樹隊は合図まで駐屯地を死守しますっ!」
「「ヤボールッ!」」
「北領駐屯地隊! よそ者に後れを取るなよ!!」
「「うぉー!!」」
和樹隊と北領警備隊全員で覚悟を込めて兄上様へと敬礼する。
初めて会ったときはやたらとニンゲンニンゲンと下に見てきた北領駐屯地隊隊長だが、なんだかんだ使命感のあるいい男のようだ。指揮も一日目は任せてくれるようだし。
だが順調のように見えてなんだかセイレーネは敬礼せずに目が泳いでいる。何かあったのだろうか。
「どうかしたセイレーネ?」
「……狼煙、か」
───次の日
「前方に敵軍視認っ!」
「第一種戦闘態勢っ! 頭上げるなよ、矢を持ち場に突き刺しておけっ!!」
「ゲデヒトニス分隊配置完了っ!」
「カルディナ分隊配置、完了?」
「こちらはいつでもいいぞ、ではお手並み拝見といこうか」
「隊長、カズキ隊含むすべての部隊配置完了しました」
「了解です。では各員の奮闘に期待します、死なない程度に必死になりましょう」
今回兵士たちもちょっとビビっている(兵力差と責任重大なので)ため、偉大なる人々の言葉を借りながら戦前の前口上をすることになった。
北領駐屯地部隊は露骨にもっとましな事言えんのかって顔しているし、ラドゥ軍閥はお手並み拝見って感じですましちゃってるし。でもうちの和樹隊はいつも通りだった。
クスクスゲラゲラと指をさして笑ってくれる。しかしながら誰だ今こっち見ながら「プークスクスwww」したやつ。後で訓練100倍だからな!
「ラドゥ軍閥さん、駐屯地部隊のみなさん、いやすいませんねぇうちの隊長はこんなん奴なんですわ」
「……住民を守る戦いなのだからもう少し真剣にしてほしいものだが」
「北領隊長さんも、ま、気楽にやりましょうや」
「イグン、お前もノリが軽すぎじゃないか。お前の村はあんなのに兵の命を預け続けているのか」
「……あんなんだからさ、守ってやらにゃいかんって気がしないか? あれで結構かわいいもんだぞ」
俺の横でヒソヒソ北領防衛隊隊長とイグンさんが話しているが、なんだか旧知の仲のようだ。これは北領警備隊への指示・連絡はイグンさんに任せた方がいいかもしれない。
「イグンさん、イグンさん」
「はいよはいよ隊長さん」
「北領駐屯地隊の連絡将校はイグンさんやってもらえませんか? どうも仲よさそうですし」
「あいよ、まーかしとけぃ 弱みも強みもばっちりさ。あれはあれでやる気は十分のようだしな」
イグンさんはニカっと歯を見せてサムズアップすると、そのまま北領駐屯地隊長と共に駐屯地部隊へと歩いていく。これで横のつながりは大丈夫そうだ。指揮・指示が適格に届く限り何とか
戦える可能性はどんどん上がる。ほうれん草はどんな組織でも大事なのだ。
さて、意識を目の前の迫る敵軍に向けると、どうやらこちらの防衛体制が整う前に弓騎兵で攻撃し戦線を崩し、そこに歩兵を突入させてくる戦法のようだ。
まずは矢戦で敵を圧倒しないことには始まらない。こちらは指揮系統を分散して臨機応変に対応する予定だ、一応作戦も考えてあるしね。
北領駐屯地防衛隊 220
和樹隊 50
ラドゥ軍閥 100
駐屯地隊 50
サーレオン軍 20
兵力割
ラドゥ軍閥 50
第一防衛隊 北領駐屯地隊 50(ラドゥ軍閥より兵力抽出)
第二防衛隊 セイレーネ分隊 40
第二防衛隊 カルディナ分隊 40
駐屯地守備 和樹隊本体 20
予備隊 ゲデヒトニス他交代要員 20
ザルカー軍閥 600(確認できる範囲で)
本隊 480
分隊 120
さて、こちらの防衛陣地は両側をノルドールの聖なる森にはさまれた位置に存在する。迂回すれば北領に進むための道はあるにはあるのだが、一旦サーレオン領内へとはいらないといけない。
ノルドールが今まで征服されずに済んできたのも、この森の力といっても過言ではない。精霊の加護がある者か、加護のある者と一緒に森に入らないと強制的に迷子になるまさに迷いの森だ。
まあもぐり隊商が入り込めないとか、人が入らないせいで危険な獣が多くいるとかいろんな副次的効果もあるんだけどもね。
ま、その迷いの森があるおかげで戦線は短く、なおかつ守備拠点や防衛陣地で待ち構えられるこのノルドール側の利点は大きい。だからチート装備のノルドール弓なんかができたんじゃないかと思うわけですよ。
塹壕は逆茂木に馬防柵を前面に配置し、しゃがめば体をすべて隠せるほどの深さ。第一塹壕には試験的な有刺鉄線も追加で設置されている。
V字型に作った第二塹壕にはバリスタにちょっとした秘策を置いてある。まあこれは第二塹壕が突破された時のお楽しみかな。
駐屯地を中心に横に伸びる最終防衛ラインにはカタパルトからバリスタにありとあらゆる移動不可な大型装備が設置してある。最終防衛ラインだから突破されないこと前提で考えないと。
駐屯地自体は典型的な中世の防衛要塞で、二つの塔の間に城門があって石作りのそこそこ立派な要塞だ。先史以前のノルドールが建設したといわれる遺跡を修復して使っているそうで、その修復した部分がそのほかの遺跡の部分に比べて弱いようだ……どこぞやの聖地の城壁みたいに
まさかそこにたまたま敵の攻城兵器の攻撃がクリーンヒットなんてことはないよね、そう思いたい。
セイレーネとラドゥさんには第一線で100でもって彼女と彼の得意である最初の矢戦を戦う。デニスは50で第二の左、カルディナは50で第二の右。そして俺が20で駐屯地の守りを固める。
第一線でできれば1、2回は敵の攻撃を撃退しておかないと後が続かない……別に丸々3日以上維持するとか、この拠点を死守するわけじゃないんだ。大丈夫、兄上様たちならうまくやってくれるはずだ。
<セイレーネ視点>
「射撃用意、よく狙えよノルドールさんたちよぉ」
「ああ、落ち着いて狙え。こっちは半分隠れているから安心しろ、敵の矢が刺さるわけがないぞ。」
「分隊長、自分はのっぽなので上半身がでてしまうのですが?」
「はっはっは、ならあぐらをかいて弓を射ればいいさ」
「いや、むしろニンゲン、お前はあえて上半身をさらして攻撃をすべて受け止めればいいんじゃないか?」
「ふんっ! かわいい幼女に涙目上目づかいでお願いされなきゃそんなことしないねっ!!」
「憲兵かセニアさんがいなくてよかったな、聞かれてたら間違いなく頭冷やされてたぞお前」
まったく、本当にカズキ隊の兵士はおもしろい。絶対的兵力差での防衛戦にこれから臨むというのに緊張感というものがあまり見られない。
基幹戦力であるラドゥ軍閥の兵士たちも巻き込んで周りから見れば随分と能天気な雰囲気だ。
かくいう私もそこまで緊張していないのはやはり隊長のおかげといったところか……私もずいぶんと隊長に染まったということだ。
ラドゥ軍閥の兵力も含めた部隊の再編成の時、私は隊長に異端の噂話を教えることにした。さすがに駐屯地警備隊の兵士がどうしてこうも自分を敵視するのかわからないまま指揮をとらせるわけにはいかなかったから。
最初は隊長がどういった反応をするかわからなかった、私ならここはお前の居て良い世界じゃないと言われたらひどく落ち込んで悩むと思う。でも隊長は違った。
「……うん、そっか。話してくれてありがとなセイレーネ。まぁ俺自身よく考えてみれば異端って言われるのも仕方ないね。ところでこの噂を聞いて俺のこと薄気味悪いとか思った?」
「そんなことありませんっ! 隊長は隊長ですっ!!」
「なら良かった。そう言ってくれる人が居る。それだけで俺には十分だよ」
そうだ、私はいままで何を戸惑っていたのだろう……隊長がもし噂通りこの世界を滅ぼす存在であろうとも、いやそんなことをできる人ではない。
ノルドール族と人間族の確執を取り除いたり、『にほん』の知識を使って人々の生活を良くしたり……いつも周りに笑顔をくれる彼が噂のようなことをする人ではないと私は断言できる。そして、今なら言える……貴方に出会えてよかったと。
「間もなく射程距離入りますっ! 今っ!!」
「よし、攻撃開始っ! 攻撃開始っ!!」
「ヤツ族の弓使いをノルドールに見せてつけてやれっ! ラドゥ軍閥攻撃開始っ!!」
もはや私に迷いはない、さあかかってこいっ! 相手になってやるぞザルカーっ!!
あとがき
今まで作者的に4人娘では一番影の薄かったセイレーネの活躍にご期待ください