前回のあらすじ
・あ、昼なのにお星様が一つ見える
<和樹視点>
聖なる森の外円部まで兄上様と乗馬の訓練のためにきたらですね、えっとですね、そのですね
いやはや、出かける前にフラグ立てたせいか今目の前に死亡フラグが広がっています。やっぱりフラグって本当にあるんですね。
「ノ、ノルドール!こんな時にっ!!」
「ノルドール!? ……ここまでですか」
訓練のために聖なる森の外円部に到着するやいなや、戦闘が行われているような音が聞こえてきたので、兄上様と一緒に急行してみたところ今に至るのである。
……現状をよく確認しよう。目の前ではゲーム的に見るなら最低限の装備しか持たない難民崩れの匪賊さんご一行となにやら赤い服を着込んだ賊が、隊商を襲っている光景が広がっている。
というか匪賊さん、こんな時にって言われても困るんだけど……
「ニンゲン、せっかくの装備を試す機会だがいかんせん数が多い。どっちにつく?」
あれ? 人間皆死すべし党の兄上様が人間を助けるのだろうか?
これは……明日の天気は晴れ、所によりボム兵が降るでしょう。外出する際は赤い配管工と一緒に出ることをお勧めしますというわけですね。
「変な顔をして何を考えているかは知らんが……なに、援護したほうも後で始末すればいい。とりあえずはここから軽く射かけ、数が減ったら騎乗突撃すればいい。簡単だろう? なぁ?」
守りたくない、この笑顔。満面の笑みですよ。そしてどう考えても兄上様、ついでにきっと俺も戦死扱いで殺す気マンマンですよね、騎乗突撃って俺を先頭に突っ込む気ですよね!
「ノ、ノルドールが何だっ!俺がやってやる!!」
「ふん……弱いっ!」
───ブンッ
「がはっ!!」
諸君。兄上様は人間が嫌いだ、匪賊どもが雑多で貧相な武器で切りかかってくるのをノルドールルーンソードで一撃の下に切り伏せた時など……げふんげふん。
いや、実際にはノルドールの登場で混乱したのか、単身でボロボロのファルシオンをもって突っ込んできた追いはぎっぽいのが馬上でニコニコしている兄上様に馬上から切り伏せられただけなんだけどね。
アホだなぁ、どう考えてもノルドールに勝てるわけがない。まずこの森近くで略奪行為をするならノルドールの強さを知らないのは文字通り致命的だ。
そうそう、つい最近、村に上水道を引いてセニアさんたち女性陣が大喜びしている時に、村の大ババ様がよくわからない指輪みたいなペンダントをくれました(兄上様までセニアさんの笑顔を見てニコニコだったし)。指輪だったけれどとりあえずセニアさん発案の紐を通して
ネックレスとして首に吊るしていたのだが、さっきの皆さんは日本語(ノルドール語)しゃべってるように聞こえた。つまりどうやらこの指輪は翻訳こんにゃく的なマジックアイテムのようだ。これは片時も手放すことが出来なさそうだ。
ま、ともかくこれで追いはぎ側に味方することが出来なくなったわけで。でもまあここまで介入しちゃったんだからしょうがないし、そもそも個人的には隊商に味方したかったし、もうこうなったら勇気をもらうためにまたアレをやるか……
「まてぃっ!!」
<レイヴンスタン隊商の護衛兵>
それは突然でした。
我々はレイヴンスタン~エートス間の隊商を護衛するためにはるばる護衛してきました。ですがやっと目的地である帝国への国境に近づいたところで追いはぎに襲撃されたのです。
彼らも餓えていたのでしょう、装備も錬度も悪くない40名からなる我々隊商護衛兵相手に、劣悪な装備の20人で挑むのは自殺行為でしかかありません。追い剥ぎを撃退するのは簡単でした。ですがその後がなんとも我々はついていないとしか言いようがありませんでした。
まず我々の移動予定は以下の通りでした、帝国領に入るためにはレイヴンスタン王国の東から出発した場合、サーレオン王国を丸々横断することになります。現在レイヴンスタン王国とサーレオン王国は交戦状態にあり、さすがに隊商を攻撃するのは騎士道に反するということで表向きには攻撃されませんが、あくまで表向きな以上通るのは危険すぎます。
もっと東に迂回すれば今度はそこは残虐で名高いヤツ族の縄張りです、ここを通るのもとてもじゃないですが無理でしょう。そうなると考えられる最短かつ最良のコースは、一度サーレオン王国に入り、すぐさまサーレオン王国、ヤツ族、そしてノルドールの三つの勢力が存在する細い獣道に進路を変え全力で抜ける。我々はここを行くしかなかったのです。
ですが実際はどうでしょうか? 追いはぎに襲われ、その音に気がついたのか近くで野営していたと思われる赤い服の集団、この集団は悪党で名高いレッド兄弟の私兵『レッド兄弟団の殺し屋部隊』というのですが、彼らまでもが隊商に攻撃を仕掛けてきたのです。
レッド兄弟団は20名ほどなのですが騎乗した構成員がこれまた強く、残念ですが急いでこの勢力の緩衝地帯を抜ける必要があったため、強行軍さながらの移動をして疲労のたまった我々ではどうしようもなかったのです。
正面からは追い剥ぎが、背後からはレッド兄弟団が迫ります。
護衛兵の数も一人また一人と減ってゆき、残すところ私の後ろにある荷馬車の周りにいる7名だけとなりました。さきほどから10人以上がすでに逃げ出しています……こんなところで逃げてもどうせノルドールかヤツ族に殺されるだけだというのに。
私もあの時からさんざんいろんな目にあってまでなんとか生きてきましたが、どうやら私はここまでのようです。先に逝った兄弟たち……ごめんなさい。
ふと意識を戻すと、目の前には馬から右半身を傾け斧で私の首を刈り取ろうとするレッド団構成員がいました。もうすぐ私は自分の命が消えることを覚悟して、目を瞑ったのですが───
でも、その斧は永遠に私の首を刈り取ることはなかったのです。
「まてぃっ!!」
森から聞こえた声
湧き上がる悲鳴
私はこのとき初めて女神アストラエラに感謝しました
「日々の糧を得るためにただひたすら働く者を襲い私腹を満たすものどもよ。たとえそれが自身の不幸や餓えが原因であろうと断じて見過ごせんっ! 人それを……『正義感』と言うっ!!」
<和樹視点>
分かってる、分かってるよ。正義感なんて言ってるがあくまでこれは自分の自己満足でしかない。
そりゃあ追いはぎっぽい人の中には明らかに農具で武装してる人とかいるし、彼らもこの戦火の犠牲者なのはわかるんだよ。
でも、俺が、本当に、助けたいっ! 理由はっ! やつらをぶちのめす理由はっ!!
胸のでかい女性兵士(←ここ大事)に手を上げたことだぁあああああああああああああああっ!!
その罪、万死に値する。大丈夫、ポールハンマーは非殺傷武器(兄上様に脳天一撃食らってもなんでか気絶だけなのは身をもって確認済み)だからランス突撃しなければのーぷろぐれむ。
そりゃ……俺だってこの状況下でこんなことでも考えてなきゃ怖くて足がすくんで……だって1ヶ月前まではただの学生だったんだ。
それが、人の命を、奪うだなんて……そう簡単に割り切れるとか慣れるとかできるわけないし、そもそも実戦とか初めてだし。いくら非殺傷兵装とはいえ投げナイフやランス突撃でもすれば間違いなく人を殺す。
そう思うだけで、ロム兄さんからもらった気合と虚勢は一気に失われていく。歯がかみ合わない、ガチガチ鳴るし、体も震える。
「ニンゲン、お前は俺の後ろから離れるな」
「わ、わかってますよ」
「お前を死なせん、約束だからな」
「えっ?」
まてまて、兄上様はいったい何をおっしゃっておるのでごじゃりまするか?
約束って、なんのことでごじゃるおじゃる。
やばい混乱がおさまらないでごじゃるでじゃる。
「お前がここで死ぬと新しい『にほんしょく』が食えん。なにより……セニアが悲しむ、そ、それだけだっ!ついて来いっ!!」
「お、おおぉお!!!」
なんだかよく分からないが兄上様のデレ要素により色々と悩みとかが吹っ飛んだ気がする。
とにかくポールハンマー振り回しながらノルドール黒色馬の突撃で気絶させまくりましょう。震えたり後悔したり……それは生き残ってから。
早速俺たちは隊商を背後から襲う赤い服を着た10人ぐらいの集団に狙いを定める。すると集団から二人の騎乗兵が突出してきた、兄上様じゃなくても、これくらいまずできなきゃ、この世界で明日を見ることなんかできやしないっ!
「ノルドールがぁあああああ!くらえええええええええええ!!」
「っ!?でてこなければ……やられなかったのにっ!!」
「がぁあああああああ!?」
まずはすれ違いざまにポールハンマーでレッド兄弟団の赤シャツを一人馬から落馬させることに成功、赤いだけじゃ3倍にはなれないんだよ。
前を見れば兄上様が右手に剣を、左手に弓を持っている。射撃しながらあの人剣を振るってるよ、兄上様ってやっぱりこの世界基準でも相当強いんじゃないだろうか
瞬間、左腕に鈍い痛みがはしる。
ああ、俺の左腕から、血が……いっぱい……あ、槍が刺さったのか。そりゃ痛いって・・・あ、くそ、いてぇ。
「なっ!? カズキぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
あ、兄上様が初めて俺の名前、呼んで……やべぇいてえ、名前、呼んでくれ、てちょっとうれしいかも。
まじかよ、あの敵、まだ投げるのかよ、もう、ゲームじゃ投槍、なんて……産業廃棄物な、くせ……に。
あとがき
主人公の死亡フラグは108個あるぞ!