前回のあらすじ
・中央で反乱
・根こそぎ徴兵されると人口ヤバイ
・こちとら平穏に暮らしたいだけです
<和樹視点>
───1日目
「損害報告っ!」
「死者18、負傷31ですが大半は軽傷で継戦可能っ!」
「第二塹壕はっ!?」
「現在ゲデヒトニス分隊がセイレーネ分隊とラドゥ軍の撤退を支援中っ! カタパルト準備よしっ!!」
「よし、煙幕弾発射っ! 煙幕弾発射だっ!!」
先ほどの開戦から2時間はたっただろうか、現在第一塹壕を残念ながら早期に放棄するしかないようだ。
まず開戦してすぐに突出してきた弓騎兵隊との射撃戦に勝利し、弓兵の援護の元突撃してきた敵歩兵隊第一波は第一塹壕前の罠や有刺鉄線で突撃の勢いをそがれて大半を弓によって粉砕できた。
ここまではいい、でもその後が続かなかった。こっちは100の兵力を横に広げてとうせんぼしているわけだが、ザルカー軍閥は一点に繰り返し歩兵隊の突撃を仕掛けてきておりまさしく落とし穴を兵士で埋めて、塹壕を死体で埋めて突撃してきたのだ。泣き叫びながら突撃してくる敵兵士がほとんどだったことを考えると、背後の督戦隊に徴発された哀れな人々だったのだろう。
なんにせよ、結局第一塹壕の中央が突破されたのだがそのまま第二塹壕にまで突撃してきたのが不幸中の幸いで、下手にそのまま第一塹壕を包囲されたりしたらそこでこちらは終了のお知らせだった。まぁ突撃しかしかできない奴隷兵(らしき)にはそういった機転は利かなかったようで、丁重に突出した部隊を十字砲火で撃破した。
どちらにせよもう第一塹壕で防衛するのは不可能になったのでさっそく第二塹壕へ撤退させることに。塹壕間の移動の時に身を敵にさらすことになるのでカタパルトで煙幕弾を投射して撤退を援護する。
撤退が完了し煙幕が晴れたころには、第一塹壕前と第二塹壕前が無数の死体で埋め尽くされていた。正確な数は測れないが100近い戦果じゃないだろうか?
「観測兵より、報告? 戦果100、確実?」
「こちらの損害49名で、負傷者の中ですぐにでも継戦可能なのは10名です」
「普通なら手放しで喜びたいところなんだけど……予定より少し第一塹壕の放棄が早すぎたかなぁ、こうなったら意地でも第二塹壕で粘らないと」
……まだ一日目の午前中を防衛しきった所で第一塹壕を敵に渡すことになってしまった。それに突破されたためこっちの損害も予定より多めだ。うん、やっぱり予定通りにはいかない。
「隊長、午後に攻撃はあると思いますか?」
「それはないんじゃないかな。デニスだっていくら奴隷兵とか消耗しても気にしない兵士が死んだといってもさ、他の正規兵のやる気はどうなる?」
「あぅ……僕なら部下を突撃させるのはためらいますね。それに突撃したら最後、ほぼ戦死確実となれば略奪を中心とした個人の利益を追求する部隊じゃちょっと」
「そういうこと、まずは正規兵の士気を鼓舞したり塹壕の突破方法の再検討するよね。本当は第一塹壕の時点でそれくらい考えてほしかったんだけどね……まさかゴリ押しで来るとは」
さすがに奴隷兵の肉の盾がなければザルカー軍閥の正規兵だって突撃したくないだろう。時間稼ぎという意味で成功したと考えてもいいのかな?
「まあいつ来るかなんて相手の都合次第だからさ、当直の兵士だけ残して一時半数休憩に入らせてあげて。負傷者は駐屯地へ運んで……戦死者は遺品を個人別に分けてから埋葬しよう。俺もそっちに行く」
「了解です、では僕とカルディナは戻りますね」
「じゃあまた、後で?」
「ん、じゃあまた後で。行くついでにセイレーネとラドゥさん呼んで来てね」
「「了解(?)」」
はてさて、それじゃ防衛計画の修正案を考えないと。最大の3日守りきるためには少なくとも丸々1日かそれ以上この第二塹壕でしのぎ切らないといけないしなぁ。
負傷者もできるだけ最後の予備戦力として残しておきたいし……あ、今日の夜に夜襲があるかもしれないから備えないと。
<ザルカー軍閥視点>
───1日目の深夜
───ソロリソロリ
月がちょうど雲に隠れている時、彼ら夜襲隊200は足音を立てないよう静かに第二塹壕へと進んでいた。ザルカー軍閥の中でも精鋭といえる部隊を中心としたこの夜襲隊は、敵に発見されることなく第二塹壕にあと10mほどの距離まで接近していた。
先頭に立っていた指揮官が突撃の合図を指笛を鳴らしできるだけ静かに夜襲隊は第二塹壕へと突撃する。だが、そこに和樹隊はおろか人の居た痕跡すらなく、ただいやな臭いだけがたちこめていた。
「誰もいない、だと?」
「な、なんだこの変な臭いは?」
「こいつは罠なんじゃ……一旦ばれないうちに退却した方が───」
誰も居ない第二塹壕に戸惑うザルカー軍閥の夜襲隊は結局陣地をそのまま確保し続けることにした。もしこのまま罠の「可能性」というだけで退却しようものなら激昂したザルカーに自分以下指揮官の首が切り落とされることが目に見えていたからだ。
だが、その判断が間違っていたことに自分たちの少し先にに小さな光がぽつぽつとでき始めてようやく彼らは気がついた。やはりこれは罠だったのだと。
「放てっーーー!!」
ほんのわずか先から聞こえた声に合わせて小さな光、火矢とカタパルトから発射された火炎弾が塹壕とその後ろに降り注いだ。
───ブワッ!!
火矢が第二塹壕に突き刺さると同時に勢いよく塹壕にそって火が燃え上がり始める。塹壕に立ち込めていた匂いは油をしみこませて塹壕の底に敷きつめていた藁からだった。火はとどまることを知らずにすでに塹壕に身をひそめていた50近い夜襲隊ごと激しく燃え上がる。
塹壕後ろに着弾していた火炎弾は第二塹壕と第一塹壕の間に炎の壁を作りだし、部隊最後方に居た数十名を除いて完全に夜襲隊を包囲していた。すでに火は鎮火不能なほどに燃え盛り、塹壕に留まることも退却することもできずただただ夜襲隊の大半は焼き尽くされるだけとなっていたのだ。
そこかしこから聞こえる燃え死ぬ兵士の悲鳴、この声がザルカー軍閥の精鋭としてヤツの草原を支配していた者たちの断末魔だった。わずかに生き残っていた兵士たちは炎から逃れるためもはや前に進むしかなかった。どう考えても万全の準備で構えている敵軍へ。
「うわあああああああ!!」
「ザルカー軍閥万歳っ!!」
「熱い、熱いちくしょう、畜生っ!!」
雄たけびを上げながらの決死の突撃、まさに精鋭の名に恥じない素早い動きで突撃する彼らの視界に入ってきたのは、今まさに自分をこれから射すくめるであろう矢を番えたノルドール弓兵だった。
<カルディナ視点>
隊長が言うには今夜敵軍が夜襲しにくる可能性が非常に高いということで、私の部隊とデニスの部隊で迎撃を行うことになった。作戦通りにすれば十分撃退できる予定……だけど。
それにしてももうすぐ一日が終わって新しい日がはじまりそうな時間になっても特に何も起きてない。今夜は夜襲なしなのかな?
「よっカルディナ……定時連絡だ。北領の連中はすっかり疲れて寝込んじまって訓練不足ってやつだ。でもどうやら夜襲はこっちに来そうだぜ」
ニグンさんはたぶん北領の人たちからくすねてきた携帯食料と矢束を私たちに配ると、その場で臭いを嗅ぎ始めた。夜襲と臭いになんの関係があるんだろう?
「気の、せい? 死体の、臭い?」
「違うね……敵の臭いでよ、よく目を凝らしてみてろ。ほれ、あそこ」
示された方向を見てみてもぜんぜんわからない。臭いを嗅ごうとしても感じるのは死体の臭いしかしないと思う……もう私の鼻はこの臭いを臭いとも思わなくなってるからわからないけど、ニグンさんがそういうのならたぶん間違いないはず。
───ピィッ
「今の、指笛?」
「やっぱりな、俺の言うとおりだろう?」
───カサカサカサ
──カサカサ
─カサ
少しだけしていた物音が消えた。うん、間違いない。部隊規模の数が「仮装第二塹壕」に引っかかったんだ。
仮装第二塹壕は隊長が夜襲対策にと第二塹壕前に掘らせた近寄らないと気がつけないように、塹壕の正面をわざと若干高めにもってある塹壕のこと。視界の悪い夜に近付いたらまず本当の第二塹壕との区別はつかないはず。そして事前に油を染み込ませた藁を底に引いて引火しやすいようにしてある。
「音が消えたな」
「火矢の、準備? デニスにも、連絡?」
「よっしゃ、連絡は任しとけ」
ニグンさんがデニスへ連絡に向かうのと合わせてカズキ隊とラドゥ軍閥の兵士さんが火矢の準備を始める……たぶんこれから私が目にするのは今まで見てきた中でも最もひどい物の一つになると思う。でも、こうしないと守れない。許してほしいとも思わない、だって、これが私の本当の戦い方。レスリー姉さんと私はずっとこうやってヤツ族と戦ってきたのだから。
「放てっーーー!!」
デニスの声が聞こえる、デニス分隊の塹壕から光る火矢が飛んで行くのと同時に隊長たちのいる駐屯地と第三塹壕から火炎弾がカタパルトで投射される。私たちも攻撃しなきゃ。
「攻撃、開始……」
「放てっ!」
火矢が仮装第二塹壕に突き刺さると瞬く間に火が塹壕にそって広がっていく。火炎弾も塹壕の後方に着弾して炎の壁を作り出している……もうあの人たちにはこれで前に進むしかない。
「ぎやぁあああああああああああ!!」
「あづいあづいいいいぎぃいい!?」
「誰か、誰か助けでくれぇ!?」
「あぁあああああああ!!」
聞こえてくる敵兵の悲鳴、私の横に居た入隊したての志願兵の子は両耳をふさいで泣いていた。でも聞かなきゃいけない、だって彼らを火あぶりにしたのは私たちなんだから。
「い、いやだ、聞きたくない……聞きたくない」
「慣れろなんて、言わない? でも……目をそむけちゃ、だめ……」
火あぶりを始めてすぐにこちらに向かって泣き叫んだり火だるまになりながらあの地獄から生き残った兵士たちが、まとまりもなくただすさまじい速度で突撃するも、一人ひとり確実にノルドール弓兵が射ぬいていくことによってその兵士たちも次々と倒れ伏すことになった。
次の日の朝、第二塹壕と今だ火のくすぶる所がある仮装第二塹壕までの間に100近い焦げたり射殺された死体が散在していた。
「昨日は最悪の、一日?」
「分隊長、朝食はどうします?」
「ニンゲン、こんな死体だらけの場所でよく朝ごはんが───」
「カズキ隊のノルドールさんは死体を見たら朝食が食べられないと、ほーほー」
「言ったな、分隊長、我々も朝食にしましょう!」
いまだくすぶっている死体だらけの場所で、みんなが干し肉をかじり始めた。隣にいた志願兵の子はまだ心の整理がついていないのか、死体を見ては目を背けて震えている。
この底抜けの仲の良さと楽天さがこの子にももう少しあればきっと大丈夫。あと一回戦えば大丈夫かな?
「なぁちみっ子、その腕章、ノルドール志願兵なんだろ? だったらそろそろ慣れとかないときついぜ。だろう分隊長?」
「ガキンチョが志願兵なんて良い度胸だ。大人のノルドールの手本を見せてあげよう」
「まだまだ、戦える?」
「「もちろん!」」
最悪な昨日は終わったけど、今日はもっとひどいだろうから。
だからみんな、がんばろう。生き残ろうね。
北領駐屯地遅延作戦
一日目防衛成功
損害
和樹隊・駐屯地部隊・ラドゥ軍閥軍 戦死者:18名 負傷者:31名 計:49名
ザルカー軍閥 戦死者:推定200 負傷者:不明(ほぼ戦死とみられる)
残存兵力
和樹隊・駐屯地部隊・ラドゥ軍閥軍 171名
ザルカー軍閥 推定400名以上
現在の戦線:第二防衛ライン
残り期限 :あと二日
あとがき
グロ注意には……まだ引っかかりませんよね?