前回のあらすじ
・ヤバイマジヤバイ
・数の暴力
・城壁どかーん
<ラドゥ視点>
「踏みとどまれっ! ここより後ろはないぞっ!!」
「ヤツの誇りを守り抜けっ!」
「俺だって、やってやるやってやるっ!」
俺の守備担当になった第三塹壕左翼陣地、どうやらここが俺の墓になるようだ。
次々とこちらの射撃をくぐり抜けて塹壕へ到達する敵軍、一度白兵戦に持ち込まれてしまえば60しか居ない寡兵のこちらが瞬く間にすりつぶされるのは目に見えて分かっている。
だが止められない、すでにもう100近い敵兵が塹壕に到達し始めている。後ろを振り返る余裕すらないがおそらく撤退合図の狼煙はまだなのだろうな……
「その首もらいうけるっ!」
「失せろ雑兵っ!」
───ヒュン ズバッ!
そのまま切りかかればいい物をわざわざ話しかけてきた雑兵の首を飛ばす。うむ、やはりこの塹壕内では槍より剣の方がいいな。
俺個人の武はそれなりに自信を持っている、よほどの人数が同時にかかってこない限り……くっくっく、そうだな。目の前の30人はさすがに無理と見えるのだが?
「たぶんこいつが軍閥の大将だ! やっちめぇ!!」
「「「うおおおお!!!」」」
「大将を守れっ!」
「「うおおお!!」」
近くにいたわずかな味方が加勢にくるも戦局は絶望的、だが指揮官たるもの最後まで動じてはならないし逃げるなどもってのほか。ならばせめて最期は誇り高く、ヤツ族としての意地というもの見せつけて散るのみっ!
「我が名はラドゥ軍閥の大将ラドゥ! 我を恐れぬものはかかってこいっ!!」
近くの死体から剣を引き抜き、次の瞬間斧を振りかざした敵兵に右手の剣を突き刺し左手の剣で槍を構えた兵士の槍を叩き切る。
悲鳴のような声をあげてさらにこちらに突撃してくる敵兵5人に対して、先ほど突き刺した敵兵を投げつける。これでこの5人の動きは抑えた。
再び聞こえる悲鳴、今度は味方の兵士が4人の敵兵に槍で貫かれる。その兵士に一瞬視線を向けた隙に今度は別の5人が槍先を構えて突っ込んでくる。
胴体への致命傷となる3本の槍は両手の剣で薙ぎ払い、残り2本が首をかすり脛を貫く。だが槍は短槍なのですでに敵は俺の剣の間合いに入っている。
「刺したのにっ!? ば、化け物っ!!」
「なっ!?」
右手と左手で合わせて2人の首を飛ばし、足に刺さった槍をへし折ってさらに肉薄。再び剣を振るって2人の首を飛ばす。最期の一人は俺の足元でへたりこんでいた。
「た、助けてくれ……」
「……言うことはそれだけか?」
最初に死体を投げつけた5人が体制を立て直して再びこちらに向かってくるのまでにこの男のとどめをさそうとした時、耳をつんざくような音が鳴り響いた。
───ドゴーンッ!!
「な、なんだ今の音はっ!?」
「じょ、城壁が吹っ飛んだぞ!」
「今度はなんだよ畜生っ!?」
突然の轟音と音と共にあっというまに吹き飛んだ城壁。敵味方問わずその音と光景に混乱している。俺も正直何が起きたのかわからないが敵も混乱している以上……もしかするとこれは好機なのでは?
「さて、ザルカー軍閥の諸君。できれば使いたくなかったのだが……ここであれと同じことをしてもよろしいかな?」
「ひっ!?」
「なに痛いと感じる前に死ねる、ここで我らと共に吹き飛ぼうではないかっ! くくく、はっはっはっあ!!」
恐らく俺は敵から見れば右脛に槍が突き刺さり、首から血を流し全身先ほど首を飛ばした敵兵士の返り血で真っ赤に染まりながら狂ったように笑う化け物に見えることだろう。できればこのはったりに恐れをなして引いてくれるとありがたいのが。
どうやら俺は運が良かったようだ。目の前の敵兵たちから「し、死にたくねぇえ……」という声が出ると、生き残っていた味方も俺の意図を察したのか「さぁ共に吹き飛ぼう」「一緒に死のうではないかっ!」と声があがった。
圧倒的に兵数で上回っていた敵軍は起こるはずもない城壁を吹き飛ばすほどのなにかに恐れをなしてもはや戦意を失い次々と逃げ出し始めた……どうやら俺がこの第三塹壕で死ぬことになるのは多少先に延期されたようだ。
「さて、兵士諸君よく戦ったな! 勝鬨をあげろっ!」
「「「うおおおお!!」」」
血まみれになりながらも笑い、我らの誇り高き勝鬨が戦場に響く。悲しいことに聞こえた勝鬨の声の数はあまりにも少なかったのだが。
・第三塹壕左翼 防衛成功
ラドゥ隊 兵力60 残存兵力 15
ザルカー軍閥 兵力 200 残存兵力 およそ100
<和樹視点>
爆発
普通現代人なら爆発といえば火薬をつかって起こすもの、と考える。でもこの世界には火薬はなかった。なら他に爆発っていったら?
すぐ思いつくのは水蒸気爆発、あとは芸術……これはネタか。
今回みたいに城壁の一部を吹っ飛ばすような爆発、あまり馴染みはないかもしれないが粉じん爆発というものがある。
理論上は密閉された空間に粉を撒いて火をつけるとドカンといくってわけなんだけど、密閉するのと爆発が発生するほどの粉じんを充満させないといけないわけで、簡単に使えるわけではないし、不発に終わる場合が多い。
幸いにも今回の城壁爆破には遺跡に継ぎ足しされた新しい部分のみを狙えばよかったので密閉する範囲は城門裏の小規模ですんだ。ただ使った小麦粉はそんな局部的に吹き飛ばすだけで、兵士達に何回パンを焼いてやれるかわからないほどの量になったけどね……帰ったら会計担当のカザネに冷ややかな目で見られることを覚悟しよう。
さらに幸運なことに敵が密集していた城壁がちょうどその弱い所で一緒に崩落に巻き込めたのはかなり大成功。もしこれで不発だったら後は中央の拠点に引きこもるくらいしかなかったんだ、いやー爆発してよかったよかった。
「た、隊長今のはっ!?」
「セイレーネ今は後で……ザルカー軍閥の諸君っ!!」
拠点にあった書類とかで簡易のメガホンを作って(丸めただけとも言う)できるだけ大声で敵軍に話しかける。さっきのにはびびってくれたよね、よね!?
「今のを見ただろうっ! 次は右の城壁を、その次は城門ごとお前たちを吹き飛ばすっ!! 死にたい奴だけかかってこいっ!!」
「ちょ、拠点みんな吹き飛ばすんですかっ!?」
「まぁまぁ待て待て、ハッタリだから」
「え、あ……はぁ」
「ハッタリに関しては隊長の右に出るものはいないからなぁ」
そういえばセイレーネには見せたことなかったか。ニグンとか村の人々には昔見せたことがあるんだけど、そのほかの兵士からすれば一撃で城壁ごと吹き飛ばされるとわかったら相当な恐怖なんじゃないかね? 実際に今攻めよせていた敵軍はすべての行動を停止してただ崩れ去った城壁と転がる無数の死体を見つめるだけだ……頼む、お願いだから撤退してくれっ!
あんまり信じてないけどお願いします神様仏様T-72神様! どうか敵軍が撤退してくれますようにっ!!
そして願いが通じたのか、兵士の中からこんな声が聞こえた。
「味方が逃げ出してるぞ!?」
その声の主が指さす方向に敵味方問わずすべての視線が向く、視線の先ではラドゥさんが防衛する第三塹壕左翼から敵軍が敗走していた。
「て、撤退っ! てったーいっ!!」
「に、逃げろっ!?」
「あんなので死にたくねぇ!」
彼らの撤退がキーになったのか我先にと敵は撤退を開始した……とりあえずはなんとか、守りきった?
戦果としては敵にはかなりの損害を与えたもののこちらも損害は甚大だ。こちとら負傷兵まで戦闘に投入したおかげで無傷な人を探すほうが難しいありさまで、まぁなんとか俺は鎧に傷がついた程度で済んでるけどね。
俺に近寄る敵兵をセイレーネがそりゃもうばったばったと……やっぱり未だに人がふっとぶっていうのは信じられない。まぁ丸々じゃなくて上半分とか下……あーやめよう、考えただけで吐き気がしてくる。
視線をちょっと城壁側に向ければ目に入る色は赤に赤に赤にピンクにと、もう吐き気がどちらにせよ急にこみ上げてくるわけでして。
まずいなぁ、レスリーさんは慣れなくてもいいとは言ってくれたけど慣れるしかないんだよな、俺が命令した結果がこの死体の山なんだから……
でもとにかく勝ったんだ、勝ったんだから。今は込み上がってくるものを無理やり飲み込みなおしてできるだけ兵士の前ではキリっとしていなくてはいけない。指揮官って本当に大変だね、やっぱ兄上様はすごいよ。
「よし、兵士諸君勝鬨をあげろおおっ!!」
「「おおおおっ!!」」
頼もしい兵士たちの勝鬨……だけどその声を満足にあげれたのは俺の周りではわずかに8人だったのだけれど。
・駐屯地 防衛成功
和樹隊 50 残存兵力11
ザルカー軍閥 300 残存兵力100
「隊長っ! さっきの音は一体っ!?」
「城壁が、粉々?」
「あれには驚いたな、今度仕掛けでも教えてもらおうか」
「お二人とも右翼防衛お疲れ様。そしてラドゥさんも助かりました、あの左翼の敗走で一気に全軍潰走にまで持ちこめたようなものです。というか止血も終わってないのに歩き回らないでくださいっ!」
死傷者の運搬を始めようとした時、全身返り血に染まったデニスや血まみれで兵士に支えられながらふらふらとラドゥさんが司令室に入ってきた。カルディナも目立った外傷はないものの全身ぼろぼろだ……
「ラドゥ殿、その傷で動いては……」
「ふむ、そういうあなたこそ治療が必要ではないか?」
「そうだよセイレーネ、僕のこれは返り血だけどセイレーネのは自分のでしょっ! 出血多量で死んじゃうよっ!!」
「ほらな、血が抜けすぎると命にかかわることぐらいわかるぞ」
「ラドゥさん人のこと、言えない?」
「娘っ子達はどうしてこうなんというか、ニンゲンはやっぱりわからねぇ……」
生き残った衛生兵(とは言っても全軍で2人だけ)はすべて医療室に居るので、俺が無理やりアルコールで消毒してセイレーネとラドゥさんの簡単な止血だけ行う。というかラドゥさんどう考えても脛に槍が突き刺さったまま歩いてくるって何を考えていらっしゃるのでしょうかね?
セイレーネも返り血を抜いてもどう考えてもその出血量はやばい、なに、大丈夫いけるいける? ばかもん、さっきからふらふらして壁にもたれかかってるくせに大丈夫なわけないでしょうがっ!!
まぁ二人の治療をしながらお互い何とか生き残ったことに感謝しつつ損害と戦果の報告を聞く。いやぁ聞けば聞くほど本当に紙一重の勝利だった。
「右翼は残存兵力30、敵軍は総数およそ200で60は倒したと思います。右翼の敵は走って突撃してくるんじゃなくて、盾を構えてじりじりときましたから白兵戦の時間はそう長くなかったですよ」
「そうか、となるとこっちの残存兵力は……56人。しかも皆戦えるってだけで無傷は俺ぐらいか」
敵軍残存兵力は逃げ帰った敵だけでも350人くらいか……装備を見るからに奴隷兵っぽかったから督戦隊みたいのはまだ残っているはず。そうなると50VS400以上、こっちはほぼ負傷兵でしかも防衛陣地は半壊。だめだね、もうこれ以上は持ちこたえられそうにない。
「隊長っ! 負傷兵が隊長に話があるとっ!」
「え、うんわかった今行く!」
「ほら、セイレーネも一緒に医務室へ行くんだよ!」
負傷兵が俺に話……人としてどうかと自分でも思うけれども、どうか俺と付き合いの長い兵士じゃないように。まあ俺に話があるんだからそんなことはありえないんだろうけどね、ふぅ……
セイレーネを休ませるために3人娘と共に医療室につくと、そこは医療室とは名ばかりのもはや死体置き場となっていた。そんな部屋の中で俺を呼んだ彼は静かにその中で横たわっていた。
その彼は村の時から一緒に戦い続けた古参兵だった。
わき腹に巻かれた包帯はすでに真っ赤にそまっており、位置的にたぶん肝臓をやられたんだろう。肝臓は現代でも交通事故とかで損傷すると止血するのが難しく非常に死亡率の高い部位だ。実際それで俺の……いや思い出すのはやめよう、今は彼だ。
「お疲れ様です、調子はどうだい」
「あぁ、カズキ隊長……城門は守りぬきましたぜ」
「あなたのおかげです。村に来てからずっとあなたには迷惑かけてばかりでした。今回も城壁では危ないところを助けてもらった」
「へへっ……今でもかけ、られてますよ……それより隊長には……見えましたか?」
できるだけ彼には優しく話しかける。すこし話しただけでもだんだん彼の息が粗くなってくる、先ほどまで居た衛生兵は首を横に振ると他の負傷者の所へ行ってしまった……思い出せば彼の事を名前で呼んだ記憶がない、付き合いが長いのに悪いことしたなぁ……
そうだその見えたとはなんのことだろう? 敵が敗走するところ? それとも彼が城門を守り抜いたところ?
「見えなかったんで、すか……城壁が吹き飛ぶ前……狼煙が、見えたじゃ、ないですか……」
「「「!?」」」
どういうことだ!? 狼煙があがったって報告は受けてないっ! でもたしかにあの厳しい防衛戦中に背後を顧みる余裕は誰にもなかったとも言える。でも本当に狼煙があがっていたら、いやでもそう決めつけるのは早計かもしれない。
彼が嘘を言うはずはないのだけれど、出血で幻覚を見たのか本当に見たのかがわからん、皆に聞いてみよう。
「デニス、狼煙を見たか?」
「えと、僕は……見てません。部下からの報告も今のところ、ないです」
「カルディナは?」
「私も、残念だけど……?」
「そんなっ!? 彼は見たと!!」
気まずそうに顔をそむけるデニスとカルディナ、そして俺に涙目でつかみかかるセイレーネ。
わかってるさ、俺だってほぼ負傷兵で陣地もぼろぼろ、敵はこっちの8倍近くな今この状況を考えれば撤退すべきなのはわかってる。そしてそれができる最期のチャンスだということも。
でも兄上様との約束では狼煙があがらない限り3日はなにがあっても守り抜くと決めた、途中退却の合図であるその狼煙があがっていない以上撤退はできない。残念だけど……腹をくくるしかない。
「ごめん、俺たちはその狼煙を見ていない」
「見えたじゃないですか……撤退しないと、みんな、みんな……」
「ごめん、ごめんなさい、でも俺は撤退の命令を下せない」
「みん、な……生きて……」
ぽとり、と最期の瞬間彼が俺に伸ばした手が床へと落ちた。村のころから一緒に戦ってきた仲間が今目の前で死んだ、期間はどうであれこの3日で仲間が65人死んだ。
なぜだかわからないけれど悲しいのに、涙がでない。とても悲しいはずなのに、こんなに大切な仲間だった人が死んだってのに。あぁ俺もだいぶ人として壊れてるのかなぁ……
「……彼には悪いけれど現在の情報では撤退はしない。残念だけど、皆の命散らすことになるかもしれない」
玉砕という言葉が頭をよぎる。死にたくない、もう一度セニアに会うまでは死ねない。そう思う心とたとえ死んでも3日は絶対死守するという思いが両方浮かんでは消えてゆく。
でも、狼煙があがっていないということは北領の住民の撤退が完了していないということだ。ここで俺たちが撤退すれば何百人何千人の住民が死ぬかもしれないし、ザルカー軍閥が防衛準備の整っていないノヴォルディアに押し寄せるかもしれない。
今日の日が暮れるまでに狼煙があがらなければ……おそらく今日の夜が人生最後の時になると思う。
思い出してみるとこの世界に来ていろんなことがあったなぁ……あれ、走馬灯だよこれ。ははは……やっぱ笑えないわ。
「どうせすぐにまた攻めてくるとは思えないから夕方まで皆治療や物資の再確認を終えたら休んだり好きなことをしてくれていいよ」
ここで死んだら元の世界に帰れたりして……ははは、そりゃないか?
あとがき
個人戦の描写が難しいです……もっと精進しないとorz