前回のあらすじ
・なんとか撃退
・被害甚大
・玉砕覚悟
<セイレーネ視点>
───狼煙
それは私にとって嫌な思い出しかない曰くつきのもの
それは私にとって別れの象徴
「……彼には悪いけれど現在の情報では撤退はしない。残念だけど、皆の命散らすことになるかもしれない」
隊長の言葉で思考が元に戻る、私はつらそうな顔をして目線をそらす隊長につかみかかっていることを思い出してすぐに手を離す。感情的になりすぎた……
私の横には隊商兵として助けられた時から共に闘ってきた古参兵の遺体。前の時とは違う、今度はちゃんと最期を看取れた。
「すぐにまた攻めてくるとは思えないから、夕方まで皆治療や物資の再確認を終えたら休んだり好きなことをしてください」
その一言を残して隊長は医療室から出て行き、だれも喋ることも動くこともできない空気が漂いただ負傷兵のうめき声だけが聞こえる……そんな状況を最初に破ったのはデニスだった。
「えと、まずさ……彼を運ぼう」
「うん……?」
「あ、そ、そうだな……」
三人で彼が寝ていた布の四隅をつかんでその布で彼を包む、あとは彼をすでに溢れかえっている死体安置所ではなく土に埋めるだけだ。
医療室から運び出して、戦死した兵士をまとめて埋める穴に彼をそっと横たえる。どうか安らかに眠ってくれと私は祈りをささげて隊長の後を追った。
───第三日目 午後4時
隊長が馬を隠してある蛸壺陣地に居ると伝令に聞いたので、私はおそらくは隊長のいるであろう隊長の愛馬マキバオーの居る蛸壺にやってきた。やはり隊長はそこに居て、一人でマキバオーの体をなでていた。
声をかけようと思ったけれど、なにやら隊長がマキバオーに話しかけていたので少し気になって悪いとは思いつつも立ち聞きをすることにした。
「なぁマキバオー、俺さ……何のためにこの世界に来たのかな?」
「ぶるるっ……」
「お前に言ってもどうしようもないのはわかってるんだけど、さ……気づいたらこの森に居て戦って村で生活して戦って戦って戦って。俺の来る前ノルドールは平和だったんだってさ。
大ババ様やノヴォ市長に聞いても人間と仲は悪いながらも特に戦争に発展するほどの出来事もなく、皆それなりに平和だったって。
でもさ、俺がこっちに来てからはどうだよ? 帝国が攻めてきて、ザルカーともこうやってやりあって反乱が起きてもっとノルドール人間問わずに死ぬ……そんでもって悪魔崇拝軍が俺のことなんかの使いと勘違いして狙ってんだってよ。
本当にさ、やっぱ俺この世界にとって『異端』だったんだよ。俺が居ると争いが起こってみんな、大切な人や仲間がみんな死んじまう……もう人が死ぬのを見たくないんだよ。ああもう……なんで、なんで俺は来ちまったんだよ……」
なんてことを聞いてしまったんだろうと思った。できるのならさっき好奇心で立ち聞きしようと思った私を殴ってやりたい気分だ。
私は隊長はいつも笑っていたりのんびりしていたりしている人だと思っていた、でもこの人はずっと我慢してたんだ。本当にこの人は強い、でも弱い部分だってある……彼だって人だから。
「誰か、誰か俺を消してくれ、居なかった方がよかった───」
「違いますっ!!」
は、反射的に大声を出してしまったっ!? 隊長も驚いたようにこちらを見ている……ど、どうしよう。そうだ言わなければ! 隊長のせいじゃない、隊長はここに居たっていいんだと!
「なぜ居ない方がいいなどとて言おうとするんですかっ! 隊長がいなければあの時私たち護衛兵は全滅していて、帝国との戦いに負けたかも知れなくってっ! なにより人間とノルドールが仲直りできて、それに、それに……」
「セイレーネ……」
「誰がなんて言おうと隊長が居てくれたから私は楽しくて、幸せでっ! 隊長の、貴方の側で戦えるだけでもよくってっ!! それから、その……」
まてまてまて落ち着いてセイレーネまだあわてるような時間じゃない、なにやら隊長に対して言ってはいけないというかなにやら恥ずかしい事を言ったようななんというか私は何を!?
「セイレーネ……俺は……」
や、やめてください隊長……そんな目で見ないでください、わかってます、わかってますから……隊長の一番はセニアさんで私たちは絶対に彼女を超えることなんてできないのはわかってます。だからそんな目で見ないでください……
「いいんです、私はただの剣なんです。誰かに振られるだけの……でもできるなら貴方の側に、貴方の剣で居させてください」
ずっと言えなかった事を言えたような、なんだか隊長が悩んでいたのに私の悩みが勝手に解決してしまった。でも……いつか言いたかった。なんだか胸につかえていた……あ、あの隊長なんでそんなに笑っていらっしゃるのでしょうか? な、なにか私が面白ことでも?
「隊長なんで笑ってるんですか」
「いや、なんだか告白みたいだなってね?」
「こ、告白だなんて……ぶふぅ!?」
「おーずいぶんと久しぶりに鼻血噴いたね……でもありがと、なんかよくわからないけど俺元気出たよ」
あふれ出る鼻血を両手で押さえながら、まぁ隊長の元気が出たならいいかなと自分を納得させる。でも告白だなんて、したかったけど別に今でなくてもじゃなくってああもう今日の私は一体どうしたっ!?
「どべばぼかっばべぶ(それはよかったです)」
「えっと本当に大丈夫? よし、じゃあこうしよう」
「ばびぼべぶか?(何をですか?)」
「セイレーネが剣なら俺が振るうよ、俺はへっぽこかもしれないけど『ノルドールの大剣』なんて通り名なんてセイレーネにあれば尚の事よし! なんてね?」
ノルドールの大剣……かっこいい、かっこいいですっ! ちょうど私の剣も大剣のツヴァイハンターですからぴったりですっ!!
それに、隊長に剣として振るわれるのなら……決めました、前々から考えていましたがちょうどいいので今一緒にしてしまいましょう。
───ガチャッ
「え、な、なんだいきなり膝をつくなんて?」
「カズキ隊長……いえ、我が主」
「えっ!?」
「これからは貴方の剣として生きるのだから主と呼ぶのは当然の事、なにをそんなにあわてているのですか?」
「いや、えぇと……あーうー」
「主様どうされたのですか急に? なにか私に至らぬ───」
「あー! だめだ違和感が半端ないっ!! セイレーネは今まで通りのセイレーネで居てくれ!」
「は、はぁ……そういうのならわかりました主様」
「様も禁止、主も禁止」
「そ、そんな困ります主」
「あ、でもご主人様とか呼ばれるよかましな気がしてきた。ん、まてそういう話ではなくてえっと」
どうやら主と呼ぶことに関しては許してもらえたようだ。これからはノルドール連合国イスルランディア軍和樹隊隊長としての『かとう・かずき』様ではなく『かとう・かずき』様という個人に私は忠誠を誓い、この身をささげる。うむ、もう私は決めたっ!
「主、我が身が朽ち果てるまで主と共に戦い、どんな敵からでも主を守ります。我が剣と誇りに誓って!」
「えと、うん……わかった。でも朽ち果てるまでとは言っても死に急いじゃだめだからな、お兄さんとの約束だぞっ」
「はい、我が主」
「つっこんでよそこは……」
「す、すみません……」
「「……」」
「ぷくくっ」
「ふふふっ」
「「あっはっはっ!」」
なんだろう、よくわからないけれどやっぱり隊長の側に居られるのは楽しい。たとえ今日この後死ぬとなっていたとしても……いややめよう、まだ狼煙があがるかもしれない。せめて最後まで希望を捨てないでいよう。
ところで戦場でのこういった話は……主が前何か言っていたような?
───第三日 午後9時
結局、狼煙は最期まであがることはなかった。主やラドゥ殿たち全員で話し合った結果、今夜来るであろう敵の夜襲があればこちらは朝まで持ちこたえるのは不可能。ならばこちらから逆に夜襲をかけてやろうということに決定した。
攻め込むのはけが人も含めて戦えるもの全て、もはや動けぬ者は駐屯地に敵が攻めて来次第駐屯地に放火するということにした。
思えばこの寡兵でよくもまあこれだけの戦果を出せたものだと感心する。ラドゥ殿の熟練弓騎兵が協力してくれたのが非常に大きな理由の一つだとは思うが、塹壕戦に火計など我が主の計略は見事だった……主の言っていた元の世界、か。私も無理だとはわかっているが行ってみたい。
「おーい、ぼーっとしてるけど大丈夫か?」
「え、はい大丈夫です我が主」
「ん、ならいいけど」
今は我々は駐屯地内での最後の準備中だ、片腕のない兵士や体中に包帯を巻いたままの兵士もいる。だが兵士たちの士気は見た限りでは高く思える……これから死ぬであろう夜襲をかけるとは思えない表情だ。
「なぁセイレーネ、ところでこの戦いが始まる前に狼煙の話が出たじゃないか。その時となりで何か言ってたみたいだけど。何かあったの?」
「あぁ狼煙の事ですね……昔私がまだレスリーさんに出会う前の事です」
「会う前? なんだか鬱な話の予感……よし、この戦いが終わったら聞かせてよ。俺も俺の世界の事とかでいろいろ話したいことあるしね」
「終わったら、ですか……わかりました、終わったらお話しましょう」
「隊長準備、よし?」
「出撃準備整いました」
「こちらもいつでもいいぞ、派手にやろうではないか!」
この戦いが終わったら……ですか、それは『死亡ふらぐ』では? でもその『ふらぐ』を何度も打ち破ってきた主ならきっと生き残りそうな気がします。では、行きましょうっ!
「さぁバァーンと行きましょうっ! 怪我してても気合で突撃ですっ!!」
<和樹視点>
ラドゥ殿やカルディナにデニスが各分隊の生き残りを駐屯地に整列させ、これで夜襲の準備は整った。だけど誰かに俺たちがちゃんと約束を守ったと兄上様たちに伝えてもらわないと。せめて誰かにこの戦いがあったことを伝えたい。なんというか自己満足かも
しれないけど、どうやって兵士たちが戦って、どうやって俺たちが死んだか。せめてそれだけでも伝えたくて。
「えっと、あぁそこの君、ちょっといいかな」
「ふぇ!? な、なんですかっ!?」
動けない負傷者の中に居て、まるで授業中寝ている時に背中をシャーペンでぷすりとやられたみたいに反応した兵士は、一日目の夜襲の時に泣いていたとカルディナから報告のあった兵士。ヘルメットから見えている耳から見てノルドールの子みたいだ……かわいいなじゃなくて落ち着け俺、俺はショタじゃないぞ。とりあえず彼の負傷具合なら馬にはまだなんとか乗れそうだ。
「伝令をお願いしたい、兄上様にこれを……あー血がついちゃったな、あはは……まあとにかく頼んだよ。馬は俺のマキバオーを使ってくれ、ここで死なせるには惜しい馬だからね」
「え、でもそれじゃ……」
「頼んだよ」
「や、やぼーる!」
伝令をまかせた兵士は血のにじむ右半身をかばうようにしながら、馬の待機している蛸壺へと向かって行った。これで後は……行くだけ。
重傷の負傷者から目の前に整列した兵士に視線を戻す。なにかかっこいい事を俺が言えればいいんだけど、まぁそんな柄じゃない。でも一応……かっこわるくても何か言っておくか、たぶんそういう場面だろう。
まったく、風呂上がりのココアの心配から始まったこの世界での人生でまさかこんなことになるなんてね……ずいぶんと日本から遠い所に来てしまったなぁ。
「よし、あーみんな聞いてくれ。えーこほん、この戦いで多くの仲間が死んだ。ラドゥ軍閥のみなさんも和樹隊も北領警備隊もサーレオン軍も……そしてたぶんこの攻撃でまた多くの仲間が死ぬことになると思う。
でも俺たちの背中には北領に住むすべての人はもちろん、ノルドール連合国の国民すべての明日と命がかかってる。俺たちが敵を通せば貴族の反乱とあわせてこの国は国土全てが戦乱と略奪により荒野と化すだろう……
俺たちはイスルランディア司令と約束したように何があっても撤退の合図である狼煙があがらない以上、3日は敵にここを通させるわけにはいかない。今夜敵はおそらくこちらを夜襲するつもりで準備しているはずだ、だからこれからこちらから逆に夜襲をかける。攻め込もうと準備している以上守る準備はしてないだろうからね?
今日で3日目の夜、ここで攻め込まれたらこっちはこの夜を守り通すことは恐らく無理だろう。引くのなら今しかもうないだろう、でも今もし最後の住民が避難していたら? ここで俺たちが下がれば彼らは目の前のザルカー軍閥によって皆殺しにされるだろう、だから死んでもこの夜はこの道を通させないっ! たとえ地に臥すとしても敵に背を向けてではなく、剣を持ったまま前のめりに倒れようじゃないかっ!!
……今まで貴方達と共に戦えた事を誇りに思います……では、行きましょう。精霊の加護があらんことを」
「「「精霊の加護があらんことを」」」
駐屯地の城門から光が消え、音を立てないようにゆっくりと開け放たれる城門。静かに、そして息をひそめて俺たちは突撃を開始した。
あとがき
面白くないとしても……ギャグが書きたいです。あと更新遅れてすみませんでした。