前回のあらすじ
・俺たちの戦いはこれからだっ!
・ご主人様はかんべんなっ!?
・第三部完(嘘)
<イスルランディア視点>
北領駐屯地から撤退して早二日、俺たちはまだ北領の人口の半数も避難させることができないでいた。
理由はさまざまなものがあるが一番大きいのは賊の攻撃だ。村から最低限の荷物を荷馬車につんで避難する人々を賊共は襲うため、遠い村には騎兵を送り近くは歩兵と護衛の兵力がいくらあっても足りないほどだ。
だが避難を完了させない限りカズキには厳しい遅延作戦を継続させることになる、何としても早く撤退を完了させねばと焦ればまた避難民に被害が出る、それはわかっているのだが……
「北西部の避難完了しました、北東部は残念ながらまだ半数ほどです」
「うむ、ではレスリーは騎兵20騎を連れて南東部を頼む」
「……了解しました、ではこれで失礼します」
今軍を指揮できるのは俺とレスリー、それにレスリー隊の副官とこの前加わった元傭兵隊長で、各自北西、北東南西、南東の四つに分けて避難を担当している。現在南領中央部は現在反乱軍が占拠しているため、避難民は北領南西部を経由してノヴォルディアへと向かうしかない。
一応南領東部のベルギカは反乱に加わらず抵抗中とのことだが、人口のもともと少ない山岳地帯の村にあまり多くの避難民を行かせるわけにはいかん。長距離の移動に耐えない老人やけが人を送るだけで、そのほかの避難民はすべて北領を横断してノヴォルディア付近まで送らねばならない。
荷馬車の速度に合わせて全人口の約30『ぱーせんと』もの人々を移動させるのだ、予想していたよりもこれは相当時間がかかる事は間違いない。2日目には撤退の狼煙をあげることができると踏んでいたが、これでは3日の夜までは……カズキには悪いが耐えてもらうより他はない。
「司令、南領中央部から避難した人間族からの情報が入りました」
「うむ、それで?」
「『この森に居るすべてのニンゲンを殺せ、奴らはこの森に穢れをもたらす』というアルウェルニ殿の命令により人間族の虐殺が行われたとのことです」
「虐殺……だと?」
「……ええ、なんでも人間族は一か所に集められて彼らを南領国境警備隊が森の外へ連れ出して殺した……という噂が流れております。そのため人間族はすでに南領国境警備隊はすでに反乱軍に加担していると思っているそうです。情報提供者は自分は逃げてきたから殺される現場は見てはいないとのことです」
「わかった、引き続き情報収集を頼む」
「はっ!」
人間族への虐殺、まさかカズキが懸念していた『じぇのさいど』が現実となってしまったか……これでまたノルドールと人間族の壁がまた厚くなってしまったな。
アルウェルニ殿はもともとこの森に攻め入ってきた人間族を撃退した英雄だ、俺が生まれるずっとずっと前から幾多の戦場で勝利を重ねている。それでいて誰にでも平等で優しく、平和を愛する理想的な貴族であったはずだ。どうして彼が今回の反乱の大将となっているかが未だに俺にはわからん。
そして人間族であっても平等に接してきた彼が虐殺を命令するとはとても思えない、何か理由でもあるのか? だがあれほどの人がこのような事を起こす理由とは何だ……だめだ、俺にはわからん。まぁこういうことはカズキやカザネにでも任せておけばいいのだと思考を放棄する。
それと中立を宣言していた南領国境警備隊が反乱軍の命令で動いていたとなると……彼らも正式に反乱軍に加担したと見ざるをえないな。だが南領国境警備隊隊長……たしか名前はラトゥイリィだったな。
あいつは日頃からニンゲンニンゲンと差別的な態度をとっているように見えて、処罰や報酬待遇などは人間族もノルドールも平等に扱っていたはずだ。なのに今回の虐殺に加担しただと……いやもしかすると一か所に集めて連れて、どこに連れて行った? まだこの話も噂だ……もしかすると、いやできることならそうであってほしいものだ。
「司令、避難民の移送についてなのですが……」
「うむ、わかった今行く」
今は悩むより行動あるのみ、だな。避難が完了するのは残念だが3日目の夜近くになりそうだ……カズキ、それまで耐えてくれよ。
<反乱軍大将アルウェルニ視点>
誇り、貴族にとって誇りとは何か?
私にとって誇りというものは安くはないが高くもない、なぜならば誇りを捨ててでも生き延びねばならない時があるからだ。事実私はそうして何度か絶体絶命の場面をくぐり抜けてきた。
この国の貴族にとって誇りとは何か?
昔の貴族たちであればこの聖なる森を守り抜き、決して敵に後ろを見せない事だと言ったであろう。だがこの国の貴族は長く特権の中で生き過ぎた……今や彼らが常日頃から誇り誇りと叫ぶ物とはただの見栄をはること、ただそれだけだ。貴族だから偉い、貴族だから平民を蔑にしてもいい、貴族だから貴族だから……彼らはなぜ自分たちが貴族足り得ているのかを長い時間の中で見失ったのだ。
ノルドールは人間の何倍も何十倍も生きる、そして彼ら貴族は人間の何倍も何十倍も堕落し果てた。もはやこの国の未来にとって彼らはただの害でしかないだろう。
かく言う私も老いた……軍の先頭で剣を振るい仲間と武勇を競っていた時代は歴史となり、私自身の命ももはや長くはあるまい、だがこの老体がノルドールと人間の作るこの国の未来に少しでも役に立てるのであれば……この身投げだす事など容易い事。それだけの可能性を「異端」の彼は私に教えてくれた。
人間との共存、今まで下等種族とあざけ笑っていた人間とノルドールの民への平等と教育、中央集権。見栄しかもはや持たぬ貴族たちにとってこれら貴族の権利を縮小し立場を低下させるこれらの政策は耐えられるものではなかった。私とてこれら早急な改革には反対だ、だが人間の寿命は短い……彼らが彼らの時間で事を進めれば我らにとって急であり、我らの時間で進めれば彼らにとってあまりにも遅すぎる。
日に日に現体制に不満を持つ貴族が次々と増えてゆき、ついには村の長まで巻き込んで反体制派は急速に拡大してゆく。優秀な指揮官の居ない彼らはこのまま無視し続ければ人間を根絶やしにすべく行動を始めるだろう。それに対して私ができることと言えば一人づつ諭してゆくことだけだった。そして、ついに来るべくして来たとでも言うべき声が私にかかった。
「我らノルドールの聖なる森を守護する貴族は、穢れを持ち込むニンゲンを粛清すべく軍を起こす。ついては貴公に大将となってもらいたい。拒否するのならば……残念ですが後はおわかりですな?」
貴族の中でもっとも人間嫌いを公言していたアエドゥイがそう私を誘ったのだ。
誇りとは何か、私は国家への忠誠心を曲げず正義を貫くことと考える。この老体がその誇りを守るのならばこの話は断りここで殺されるべきであろう、だが私は真に国家にとっての利益のため、誇りを捨ててでもこの国に繁栄をもたらす……そう決めた。
扇動し、誘導し、阻止し、妨害する。反乱軍の大将として貴族の暴走を阻止し、反乱を一手に集結させるためにあえて汚名を被る。これが私がもはや共に戦った友すら忘れるほど長く生きた意味、そう信じて。
「よかろう、ではこの反乱に参加する貴族を集めてくれたまえ」
───遅延作戦2日目同日 反乱軍本拠地ブローウィンキア
「なぜだっ! なぜベルギカや他の村はこの誇りある戦いに参加しようとしないっ!?」
「ニンゲン共に飼いならされおって……今に後悔するがいい、誇り高き我らが軍勢が精霊の裁きをやつらに下すであろうぞ」
「すぐにでもノヴォルディアを攻め落とし聖なる森への裏切り者共を即刻処断すべしっ!」
「まずは我らの領土を先に浄化せねばなるまい、ニンゲン狩りはまだ終わらんのかっ!」
ブローウィンキアにあるアルウェルニの館では連日まったく生産性のない会議が繰り返されていた。すでに反乱を起こしてはや3日がたとうとしているのに、彼らが決めて実行したことと言えば人間狩りと事前に連携を取っていたザルカー軍閥に反乱を起こしたという使者を出すということだけ。そのほかの事は何一つ決まらずこうしてただひたすらどなり声をあげるだけであった。
「おいラトゥイリィ、ニンゲン狩りのほうはどうなっている?」
「……はい、すでに支配地域の大半は捕らえました。あとは殺すだけです」
「では我らの前で順々に首を刎ねようぞ!」
「それはよいですな、できれば女子供を先に殺して絶望を男に与えてやってからというのもどうですかな?」
「はははっそれはいい!」
「お、お待ちください。我らは森から出ることはないとアルウェルニ様はおっしゃられました、つまりここで首を刎ねればこの森にけがらわしいニンゲンの血がしみわたることになりきゃっ!?」
突如会議の場で報告をしていた南領国境警備隊隊長ラトゥイリィが一瞬で立ち上がったアエドゥイに頭を鷲掴みにされる、この男が機嫌が悪い時によく他人にすることだ。平均的なニンゲンの2倍はあろうかという身長を持ち、その怪力で敵兵を薙ぎ払う男。
だが今その大きな手に握られているのは剣ではなく同胞のノルドールの頭だ、彼が本気を少しでも出せばたちまちラトゥイリィの頭はつぶされてしまうだろう。
おそらくは平民出身のラトゥイリィが「我ら」と自分とアエドゥイをひとくくりにしたことにでも腹をたてたのだろう、これでは戦いの時まともに指揮を聞く所が想像もできん。
「さて、『我ら』だと……平民出のお前と一緒にしないでもらおうか?」
「やめぬかアエドゥイ、内輪で争う必要もあるまい。後で私からこやつには言っておく。ラトゥイリィは部隊に戻れ」
「ふん、よかったな隊長さん?」
「……先ほどは失礼しました、今後発言には注意します。では、これで」
アエドゥイは悪びれる様子もなく深く椅子に座りなおすと、興味をなくしたかのようにあくびする。だが彼からは深く頭を下げ部屋から出て行こうとしたラトゥイリィにぼそりと、しかし明確な殺意と敵意をこめた声が投げかれられた。
「そうそう隊長さん……ちゃんと『きれいに』殺しといてくれよ?」
「……はい」
そしてまた何事もなかったかのように生産性のない会議が今日も繰り返された。
あとがき
キャラクター名などの再確認などでPoPをプレイしなおしたら止まらなくなったでござるの巻。
最近遅筆ですみません、頑張って完結目指します。