<和樹視点>
さて、そろそろ厚着じゃないと外を出歩くのが寒くなってきた季節です。帝国との戦争で医師不足を改めて痛感したノヴォルディアでは、現在新米の医者や衛生兵の中でも適性がありそうな人を選抜してレッドさん率いる「戦場の医師団」に加えるため、俺はその医者の卵たちの前で講演会をするはめになりました。
いやレッドさんすればいいじゃんと思うんだけどさ、結局「本当の意味での現代医療とか衛生概念把握してるのはカズキだけじゃん」とレッドさんに押し切られましてですね、はい。どう考えても面倒くさいから俺に押し付けたんですねわかります……
それにしてもこちらの医療とか衛生は半端なかったですよ、まずは衛生についてかな。衛生概念についてはローマを元にしたっぽい帝国を除く人間族の都市はほぼすべて糞尿垂れ流し、もしくはそれに属す程度の汚さらしいですよ奥さん。帝国では税金を払う代わりに公衆浴場と公衆トイレを使えて(帝国臣民の義務らしい)、うちらノルドールの村々は各家庭ででたものを集めて一か所にまとめてポイでござい。ノヴォルディアは村のころから俺が上水道にこえだめとかいろいろした結果当時世界最高の衛生水準にあったはずっ! とか思いたい。
医療に関してはもうね、ひどいよ。この世界には医療系統は二つに分かれていて、ひとつは古来から伝わる漢方のような考え方をもつ『ガレニア派』、そしてもう一つが……名前がね、ないのよこれが。言うなれば常識とでも言えばいいのか、ようするに医療=彼らの常識的な医療とでも言うべきか……赤くて甘くてしゃりしゃりしてるもの=りんご といったたとえでいいのだろうか? まあ「(彼らにとって)当たり前の医療知識>古臭い考え方のガレニア派」ということらしい。
実際にレッドさんに聞いてみたところレッドさんは今や珍しいガレニア派の人間で、やっぱり漢方みたいな考え方をしていた。例をあげると
Q:戦場で血を流しました、なんだかふらふらします。どうしましょう?
A(ガレニア派):血液を失うと体液の調和が崩れる、だからある特定の根を煎じたものを飲ませれば良い。できればその後は安静にすること。
A (常識) :生命力が流れ出てしまったのでまた満たさねばなりません、さぁ共に神に祈り教会で休みましょう。できれば安静に。
とのこと、漢方っぽい薬はいろいろあってなにやら現代日本ではアウトっぽいものまでありましたよ……痛み止めらしいけど。
でもどちらの考え方でも細菌とかそういった考え方はさっぱりなかった(そりゃそうだろうけどね)ので、まずはそこからレッドさんと話し合ったのもいい思い出。とりあえずこの目の前の医者の卵たちにも説明してあげないとね。
「さて、みなさんはじめまして。ノルドール連合イスルランディア軍所属、加藤和樹です。今日はレッド医療班長の代わりに私が講義する事になりました、どうぞよろしくお願いしますね」
一応昔は現代医学知識でチートできるわけねーよ、知識ったって最低限度の事が役立つわけねーよ。と考えていたものの、アルコールによる消毒とか止血方法やゴム手袋のかわりの皮手袋とか、煮沸消毒とかまぁいろいろ役に立つこと役に立つこと……いかに現代日本人の知識がどの方面においてもチートかわかりました。まちがってる知識も相当あるかもしれないから注意が必要だけど。
そう考えるとファンタジー物のRPGとかって大抵魔法とかそれに準ずるなにかあるじゃないですか、実際この世界に来てみると治療魔法でもないとやってられませんよ。
主人公パーティーのレベルが99でも切り傷ひとつで感染症→死亡とかだったらゲームの面白さ0の予感、M&Bはコンパニオンは死なないもののそのほかの兵士たちはあっという間に戦死していくところがリアルといえばリアルなんだけどね……一日かけて最高位まで育て上げたペンドール近衛騎兵が戦死した時の悲しみといったらっ! もう、言葉に、できない。
「では今日は感染症とは何かについてご説明いたします、それでは配布した資料の2枚目をご覧ください」
ふっふっふ、ビジネス検定の勉強で鍛えたプレゼンテーション技能が火を吹くぜっ!
───講義終了
「きりーつ、礼っ!」
「「「「ありがとうございましたー!」」」」
「はい、今日はお疲れさまでした」
うん、風邪ひいた人のくしゃみから飛び出たばい菌君が手やケーキなどを介して健康な人の体に入ってその人を病気にさせるという壮大なストーリー(嘘)は予想外に好評だった。
残念だけど実際に細菌をこの世界で証明して見せろと言われても俺の知識じゃ無理です、高校は生物じゃなくて物理取ってたんです。
医者の卵の皆さんは未だ興奮冷めやらぬご様子、選抜したカザネとレッドさんいわく「あふれ出る好奇心と探究心を持ち、社会の常識にとらわれない柔軟な発想力と理解力を持つ人物達」とのことだが、ぶっちゃけこの様子だとみんなマッド……おっと、これは失礼口が滑りかけた。ではおそらく俺に今日の講義任せて遊んでいるであろうレッドさんの所にでも行きますか。
「レッドさーん、講義終わりましたよー」
「Zzz」
「もしもーし?」
「Zzz」
食堂か医療準備室にでもいるだろうと思ったら案の定食堂でレッドさんは爆睡してました、いやーつつきたい衝動に駆られる……くっ、し、沈まれ俺の右腕っ!?
「……また『ちゅうにびょう』ごっこですかカズキ?」
「うぇ、あ、あはは別になんでもないですよなんでも……」
「そうですか、ところで見たところレッドを起こしに来たようですね」
「ええ、でも起こすのもなんですし……どうしましょう」
食堂でエイリアンハンドシンドロームごっこをしていた俺を憐れむというか蔑むような視線で見ていたのはレスリーさん、今日もいい視線でした、我々の業界ではその視線は苦痛です。
「そうですね……でしたら昔のいやなあだ名でもお教えしましょうか、実は小さい頃レッドは男の子とよく間違えられていましてレッ君と───」
「だぁれがレッ君だぁあああ!!」
───ブンッ! バシッ!
「おはようございますレッド、とりあえず起きたそばから人を殴ろうとするのはやめてもらえませんか?」
「あぁん? いきなりアタイのアレをカズキに話そうとしたじゃないかっ!」
「むしろアレを聞いたとたん眠りから覚めるというのは興味深いですね、今度レッドが死んだり仮死状態になったら試してみましょう」
「試すなっ! アタイのその話は忘れろっ!!」
「まぁ落ち着いてよレッ君……あ」
───ダダンダッダダッ! ダダンダッダダッ!
あ、あはははは……たうみねぇたぁのBGMが脳内再生される。レッドさんがゆっくりと椅子から立ち上がり目がキュピーンという効果音が似合うほど怒りに輝き手をコキコキとさせて……すいません、先ほどの発言は事故です。事故だったんですっ!!
「ちょま、レッドさんさっきの間違い間違いっ! ごめんぽろっと言っちゃった許して!」
「目をつぶって歯ぁくいしばれぇ!!」
「ぼ、暴力はんたーい、平和的にいkひでぶっ!?」
「……隊長起きた?」
「ぐ、ぐおおお頭痛い……あれ、カザネ、ところで俺どのくらいこうしてた?」
「……私が食べてる間」
「いや、それってどれくらい? 外はまだ明るいけど。というかレッドさん俺ぶん殴ってさっさと行ったんかい、それとレスリーさんも放置ですか」
「……レッドはすぐに出て行った、レスリーにはここまで連れてきて「起きるまで見ていてあげてください」とお願いされた」
「あーうん、ごめんね」
「……別にいい」
まだ太陽の位置を見るにそこまで時間はたっていないご様子、これ以上どこかで時間をつぶせば俺の執務室には部屋の天井にとどかんばかりの書類が積み上がることになるので、さっさと帰ることにしましょう。
「あーじゃあ俺は政務に戻るとするよ、カザネはどうする?」
「……いっしょに行く」
もぐもぐと食べていたパンを一気に頬張ると、俺の服の裾をつかんで一緒にトテトテと歩くカザネ。まさに歩く萌え兵器です、ほっぺいっぱいにパンを頬張ってもぐもぐしている所はもはや鼻血噴出レベル。だが落ち着け……YesロリコンNOタッチだ、紳士たるものそこは忘れてはいけない。くっ、やめろ、ほっぺをぷにぷにしようとするな! ぐぅ静まれ、静まれ俺の右腕っ!!
「……『ちゅうにびょう』でもやっているのですかニンゲン」
「のわっ!? なんだ南領警備隊隊長じゃないか」
「なんだとは失礼ですねニンゲン」
「あーごめん、なんだと言ったのは謝る。そんで急にどうしたの?」
「いえ、兵士の訓練中にふと視線にニンゲンが見えたもので」
「ふーん、ちなみに何度も言ってるけどニンゲンって呼ぶのやめてくれ。俺たちだって名前がそれぞれある個体ですよ」
「それは失礼しましたニンゲン……おっと、これは失礼」
「ぐぬぬ」
本日二度目の発作を抑え込んでいると、訓練場の方から南領警備隊隊長さんが憐れみと侮蔑の目を向けながらやってきましたとさ。ちなみに俺とよくしゃべるノルドールのなかでは未だに俺の事をニンゲンと呼ぶのはこいつくらい、そんな嫌われるようなことしたっけかね。
彼が訓練していた兵士の方を見ると人間族とノルドールの混成部隊の訓練をしていたようだ、今日のメニューは走りこみだったのか皆ひぃひぃ息を切らせながら走っている。
「ちょっと失礼、この豚共が! ミストマウンテン族のウジ虫共の方がまだ体力があるぞ!! キサマっ! ノルドールとしてそんな体力で恥ずかしくないのか!! そこのお前もだ、ニンゲンのくせしてそんな体力でこの部隊で戦えるとでも思っているのか!!」
「「「さーいえっさーっ!」」」
「ふざけるな! もっと腹から大声だせっ!!」
「「「さーいえっっさーっ!!」」」
俺がデニスに教えた海兵隊式の訓練方法のおかげで新兵の多くはガッツを手に入れた! うん、どこぞやの軍曹ほど厳しくして人格破壊させるわけじゃないからいまのところ微笑む太っちょみたいな事件は発生していない。
そういえば彼は俺の事ニンゲンニンゲン言うわりには、訓練の時は人間族やノルドールを差別しないでやってるんですね。つまり……俺が嫌いというわけね。
「ま、訓練邪魔するのも悪いから俺は執務室に戻るわ。じゃあね」
「では私も訓練に戻ります、仕事をさぼらないでくださいよニンゲン」
───クイクイ
「どうかしたんですかカザネさん」
「……ラトゥイリィ、言わなくていいの?」
「何がです?」
「……ニンゲンてわざと言う理由」
「ええ、いつまでも人の事を南領警備隊隊長と肩書でしか呼ばないからです。それと人の性別勘違いしているところですかね」
「……『つんでれ』」
「誰がですかっ!」
いま何か聞こえたような……気のせいか。
あとがき
時間が、時間がない。ガレニア派についてはゲームで説明されているのですが、コンパニオンのジェレムスの所属する医療派閥の名前がわからないです、ゲームをプレイしたことのある人で知っている方がいたら教えてください。