前回のあらすじ
・ま た や と う か !
・兄上様フラグ
・死亡フラグ
<兄上様視点>
目の前で何がおきたかわからなかった。
いや、わかっている。戦が始まりすぐ一人の騎乗したニンゲンを処理したとはいえ、やつはまだ初陣な上、戦を知らない世界から来たのだ。
すこし俺はやつの実力を過信していたのかもしれない。
結果、やつが赤服のニンゲンが放った投槍で左腕を負傷した。槍は刺さったままで出血は見てわかるほど酷い。我らノルドールのコートといえどやつに渡したものはすでに精霊の加護がかなり薄まったボロボロなコート、とてもではないが投槍などを防げるものではない。
くそっ、俺があの時ボロボロのコートを渡さなければ……もっと早くやつとニンゲンどもの区別をしていればっ
俺とてわかっていたはずだ、あいつが来てからセニアはよく笑うようになったと。村人たちに笑顔が増えたと。あいつが居て楽しかったと!
ニンゲンがあいつの馬に群がっていく、やめろ、そいつは……俺の、我らの……っ!
「我らの家族に近づくなぁああああああああああああああああああああああっ!!」
反射的に叫んだ後俺はただ全力で、馬上でぐったりとしている”カズキ”に群がるニンゲンを処理していった。
<隊商護衛兵視点>
最初は圧倒的でした。
ノルドールの守る森から現れた二つのノルドール。明らかに強者の空気をまとったノルドールは切りかかった追いはぎを剣の一振りで体を上と下に分離させました。もう一つのノルドールは新兵のような印象を受けましたが、そうなのかどうかはわかりません。それでも馬上から戦場を支配するような目で眺めていました。
口上を述べた後、二つのノルドールは我々護衛兵ではなくレッド団に向かって突進してゆきました。
新兵のようなノルドールは突出したレッド団騎兵をポールハンマーの一撃で打ちのめし、熟練兵のようなノルドールは弓と剣で瞬く間に歩兵を殲滅していきます。
我々と交戦していたとはいえまだ30人近い人数は残っていたはずだったのですが、今ではもう10人もいないことでしょう。
これが噂に聞くノルドールの戦い。たった二人で瞬く間に戦場の空気を支配する、これではいくらレッド兄弟団とはいえただの蹂躙戦ですね……
その時、レッド兄弟団歩兵が投げた投槍が新兵のようなノルドールの左腕に突き刺さり、彼はそのまま馬にもたれかかるように倒れてしまいました。
熟練兵のようなノルドールは大声で叫ぶと周りの歩兵を馬で吹き飛ばし一気に怪我をしたノルドールへと突き進むものの、それよりも早く次々と兵士が新兵らしきノルドールに群がってゆきます。
ノルドールの武器や装飾品は法外な値段で売れます、彼らにとってみれば一人分の装飾品や装備品だけで遊んで暮らせることでしょう。
群がる歩兵、必死の形相で仲間を救おうとするノルドール、騎手を守ろうと懸命に賊から逃げる黒いノルドールの馬。私たち護衛兵は助けられっぱなしでこのまま黙って見ていいのでしょうか……いえ、あのノルドール兵士は言いました、『正義感』と。
ノルドールに……ノルドールにああまで言われて我々人間が黙ってみていられるものですかっ!
「護衛兵各員っ!あのノルドールを救出します、動ける者だけついてきてください! 突撃っ!!」
「うぉおおおおおおおお!!」
雄叫びと共に護衛兵すべてが突撃を開始します。やはり皆も同じ気持ちでしたか……待っていてください、私は借りを早く返す主義ですから!
<和樹視点>
あ、あれ、目が見える……まだ死んでないのかな、確か、俺……腕に槍が……それで……
「心配しないでください、今止血しましたので大丈夫ですから」
あ、さっきの女性兵士じゃないか、良かった、たすけ、られたじゃないか。
遠くから叫び声と悲鳴が聞こえる。戦況はどうなっているんだろう……兄上様は無事だろうか、でも兄上様なら大丈夫だろう。
そんなことを考えていたら兄上様の馬の足音が聞こえてきた、足音が特殊なんだよねノルドールの馬って。
「貴様っ!そやつから離れろっ!!」
「まってください!あなたたちと戦うつもりはありません!!」
体から力が抜ける感覚もだいぶ弱まってきた……効果が弱まっているとはいえさすがのノルドール製、投槍は貫通はしていないようだ。いかんいかん、まずはおそらく俺を治療してくれたこの人を殺そうとしている兄上様をとめないと!
「兄……上様、大丈夫です。彼女、に治療を……してもらいました。だから、殺してはっ、殺さないで……」
畜生、まだうまく声が出せない。参ったな、お願いだから兄上様、殺すなんて早まった事しないでくださいよ。
この人、人間だけどノルドールの装備で固めた俺を助けてくれたんだし、いい人じゃないか。
「……っく! わかった、だが早くそやつの本格的な治療をしなければならん」
「それには賛成します、まだ止血しかしておりませんから」
「俺は借りは早めに返す主義でな……このままニンゲンの国に行ってもこいつの容態では近くの村にすら辿り着けんだろう。身内を救ったから特別だ、ついて来い」
「気が合いますね、私も借りは早めに返す主義なんですよ。では彼を」
「うむ」
なんとか殺し合いに発展しなくて済んだみたいだ。そういえばさっき兄上様、俺のこと身内って……あっ、思わず涙がでそうだ。
とにかく今は生きて帰れたことを感謝しないと……出かける時に見えた星も今は見えない、あれってやっぱり死兆───
「ではついてくるが良い。ニンゲン、名をなんと言う」
「私の名前はレスリーです、誇り高きノルドールよ」
「レスリーか、俺の名前はイスルランディア……その度胸、ニンゲンにしておくには惜しいメスだな」
「あらあら、人間の性別上ではメスではなくて女というのですよ?」
「ふん、知るか」
あ、あれ? さっきまですごい剣呑とした空気だったのにいつの間にかイイ雰囲気になる予感がしてきましたよ。そうかっ! この世界の主人公は兄上様なんだな!?
転移した世界で主人公になれるかと思ったらモブ決定でござるの巻き……いでででででっ!? 隊商の馬車に乗せてくれてるのはわかるけどもう少しやさしくあばbbbbbbb!!
そっか、今回の一件で命をかけたおかげでやっとわかった。
兄上様と俺
・剣を振るうと、敵を切り裂くのが兄上様。剣(包丁)を振るうとご飯ができるのが俺。
・女性と話をすると、あっという間に恋愛フラグをたてるのが兄上様。あっという間に胸に目が行くのが俺。
・暇になると鍛錬をしだすのが兄上様。暇になると寝てしまうのが俺。
・etc etc etc etc etc etc orz……
HAHAHA、どう考えても主人公は兄上様です本当にありがとうございました。ん、まてまて、そんなことより何かもっと大事なこと言ってた気がするぞ……
兄上様……名前……イスルランディア……!!
兄上様って、ノルドール貴族兵士500人を率いてプレイヤーと戦う敵側キャラクターじゃないか。こいつはお先真っ暗だ。
あとがき
ちょっと今回は短く。うーん、やっぱり毎日更新だと書きだめの在庫ががががが。
ちなみにノルドールと人間がお互いを物扱いしているのはオリジナル設定です