前回のあらすじ
・期限いっぱい
・反乱軍
・虐殺っ!?
<イスルランディア視点>
───遅延作戦3日目同日 朝
「ノヴォルディア軍がこちらと合流するために行動を開始した?」
朝会中に入ってきた伝令によると、ノヴォルディア駐屯軍を中核としてその他傭兵団や各国義勇兵から編成された300(守備兵50を残して)ほどの部隊が、こちらと合流するために出撃したとのことだ。
現在のところ撤退作戦は順調に進み、間もなく各地に派遣していた護衛兵と合流できる。合流した部隊からの完了報告があり次第、カズキたちに見える所で撤退合図の狼煙をあげれば今回の撤退作業は完了だ。
だが情報によると反乱軍が近々動くとのことだ、さすがにいくらアホの貴族共だといっても何もしないままただじっとしているわけもないな。こちらの兵力は出撃前からカズキ隊や若干の騎兵を除いた250人、反乱軍が連絡を受けた時点で200程度、だがそこに南領警備隊が参加したという情報が入っている.
だがそれでもノヴォルディア軍と合流すればこちらは数で有利だ。
しかし問題は残る。なぜならばおそらくノヴォルディア軍の大半は国内治安維持のための二線級部隊か、本来反乱軍の主力であろう弓騎兵と相性が悪いホルスの軍団兵だろうからだ。俺の指揮する本隊の弓騎兵隊は腕利きぞろいだがいかんせん数が違う、まともにやりあったらこちらがすり潰されるだけだろう。
弓騎兵を中心とした部隊を撃退するだけならば簡単だ、大盾の歩兵で即席の壁を作り、そこから射程の長い弓でもなんでも射撃系武器で狙い撃ちすればいい。
だがノルドール弓騎兵は違う。彼らは突撃騎馬の2倍近い速度で縦横無尽に動き回る機動力、クロスボウ並みの威力と射程を持ちそして弓の射撃速度を持つ攻撃力を兼ね備えている。射程外から狙い撃ちにしようとしたら逆に狙い撃ちされた人間族の部隊も多い事だろう。
我らノルドール弓騎兵と射撃戦がしたいのならそれこそ同数以上のサーレオンロングボウ兵を連れてこなければな……
しかしこれでは撃退するだけだ。こちらとしては一会戦で大将や貴族共を討ちとってこの反乱を一気に収束させたい、そしてその貴族や大将とはすべからくノルドール弓騎兵だ。だが前述の通りただの弓騎兵でない以上殲滅は困難というわけでこれが難しい。
なぜならばやられそうになったり包囲されそうになればその機動力を生かして戦場から離脱すればいいからな。
このペンドール大陸の長い歴史の中でノルドール軍を完膚なきまでに殲滅した話は俺は聞いたことがない。あったのかもしれないが市長に大ババ様からでさえそのような話を聞いたことがないのだ、それを完全に撃破するとなると簡単なことではない。
「はい、伝令の話によると主力はホルス殿の軍団兵でそのほかは市民兵だそうです。残念ですが反乱軍相手では……」
「そうだな……軍団兵を中核にして歩兵隊で方陣を組むか? だが殲滅するためには奴らを誘い込まんとな、とすると……うーむ」
「一騎打ちというのも悪くないかもしれませんが……次から次へと戦士が出てくるでしょうから効果はあまり……、それに連戦で誰かが討ちとられれば逆にこちらが士気崩壊するかもしれません。」
数で勝るとはいえ包囲できるほどの戦力差ではない、やはり罠をはってそこに誘い込むしかない。ノルドール弓騎兵を殲滅する方法……考えろ、なにか、なにかあるはずだ。今まで多くの戦いが歴史上あったが、無敵の兵科というものは存在しない。
「あーちっといいかい?」
「なんだレッド、今俺はどうやって敵を殲滅するか考えているんだが」
朝会中今日は一度も発言していなかったレッドが手を挙げて話しかけてくる。俺としては悪いが今は考え事をしているので後にしてほしいのだがな。
「それだよ、おそらくイスル司令はどうやって殲滅するか悩んでるけどさ、逆にどうして殲滅するのが難しいのか考えればいいんでないかい?」
「難しい理由など簡単だ。誘い込んでも状況が不利だとわかれば持ち前の機動力で逃げ、隙を見せれば圧倒的攻撃力で突き崩される……まてよ、殲滅するのであれば逃がさなければ……足を止める、足……馬……そうか、馬だっ! 馬だな!!」
「へ、あーまあなんか思いついたんならそいつはよかった。アタイでもちったぁ役に立つだろ?」
きしし、と満面の笑顔で笑うレッドとは対称にレスリーは不満そうだ。おそらくレスリーも馬という機動力を奪ってしまえばいかにノルドール弓騎兵といえども、ただの攻撃力の高い弓兵へとなり下がることは分かっているはずだ。だがその肝心の馬の機動力を奪うという事は普通に考えれば不可能だ……槍衾ではそもそも寄ってこない、火計でも強引に押しとおる可能性がある。
だが敵がこちらに自ら向かってきていたら? そうだ、あの弓騎兵隊を餌で誘い出して馬の機動力を奪う、そして立ち止まった弓騎兵を射撃と槍による包囲で一挙に殲滅する。いや槍兵での包囲では間に合わん……それ以外の、そうか物理的に退路を遮断すればいいのか!
「イスル司令、それでどうやって馬から機動力を奪うのですか? それに弓騎兵をどうやって一か所に集めたものでしょうか……」
「レスリー、答えはカズキの世界の歴史だ。村のころの世界史であっただろう、『わーてるろー』の戦いだ」
「ええ、その戦いの話はカズキから聞きましたが、たしか『なぽれおん』という一度は『よーろっぱ』を征服した男の最後の戦いですね」
「そうだ、そして『なぽれおん』が投入した騎兵隊はどうなった。そしてその騎兵隊と戦った『うぇりんとん』はどう戦った?」
「その話が馬とどのような……なるほど、誤認と尖った歩兵陣地ですね」
馬という生き物は本来尖ったものや火を恐れる。カズキの話によれば『うぇりんとん』は『じゅう』に尖った槍をつけた『じゅうけん』を装備した歩兵で方陣を組んで騎兵隊の突撃を阻止したとのこと、だがそれがわかっていれば『なぽれおん』とて騎兵隊を突撃させなかったであろう。
ではなぜあの騎兵隊は突撃したのか、カズキは『いぎりす』『おらんだ』連合軍が丘の向こうに引いたように見えたことから撤退の準備に入ったと考えたか、『たいほう』の損害ですでによわっている敵軍を一気に突き崩そうとしたかのどちらか、あるいは両方だと言っていた。つまりこれは騎兵隊を誘い込む『うぇりんとん』の罠だ。
カズキの世界では『うぃきぺでぃあ』や『でぃすかばりーちゃんねる』など数多くの検証がなされていて、それぞれ理由が違ったりするので本当のところはわからないとは言っていたが。そういえば主力の歩兵を伏せさせたとも言っていたな……
ノルドール弓騎兵は弓騎兵であると同時にその強力な突進力で重騎兵ともなりうる、わざと隙をみせて奴らにこちらの弱点と見える所へと突撃してもらい槍でもなんでも尖ったもので馬の足を止める。『わーてるろー』にあった丘がない以上槍衾や方陣で待ち構えるわけにはいかん、『うぇりんとん』は丘の反対側に隠れて方陣を組んでいたからだ。
つまり方陣のかわりに素早く展開でき敵騎兵を完全に止められる尖ったものさえあれば……まあそこは後々合流するカザネやホルスに任せよう。どうも俺にはそういったことに関して頭の回転は良くないからな。
───遅延作戦3日目同日 夜
「素早く展開できる尖ったもの、ですか。そうですな……組み立て式の長槍などはどうです? 帝国軍が昔使っていた物を書物で見たことがありますよ」
「……丸太を5本使えばいいのができる、まかせてほしい」
ノヴォルディアから出撃してきたカザネとホルスの部隊と合流した俺の軍は総勢550、久しぶりの大兵力だ。だが敵もこれと同じ程度の戦力をそろえてくることを考えるとどれほどの兵士がノヴォルディアへと帰れるものか……これは骨が折れるな。
カズキも遅延作戦で相当苦労しているだろうがそれも明日の朝には終わる。この戦いに勝利し、部隊をザルカー軍閥対策に北領南領の境で迎撃する準備さえ整えさせればいい。取らぬ狸のなんとやらと言われるかもしれないがこれ以上はさすがにカズキももたんだろう、今日の夜には狼煙をあげる兵士を送って明け方ごろに狼煙があがる予定だ……うむ、後は反乱軍に勝つだけだな!
「カザネ、イスル司令は考え事に集中しているようですので無視するとして、具体的にはどういったものにするのですか?」
「……先をとがらせた丸太を縦に4っつ、ただの丸太を横にひとつの柵を作る。地面に先が『わい』の形になった木を刺してそこに設置する」
「なるほど、ということは、おそらく尖った方は地面に埋没させて隠して……ただの柵として見せるわけか」
「ん、角度つけて配置……弓兵の前に」
「足を止めた後の背後遮断はどうするのですか? ああなるほど、そこでわざわざバリスタをまたわざわざノヴォルディアから持ち込んだのですね」
「なるほど、ならその辺の事については更に詳細を詰める必要が……あの、イスル司令? そろそろ議論に復帰してもらっても?」
「む、ああすまん。」
俺としたことが少し意識が別の方向に飛んでしまっていたな、なんにせよ明日に向けて準備せんとな……敵の現在位置も分かっているし、敵を決戦に持ち込ませるための布石はすでに打ってある。さあ歴史上初めてのノルドール弓騎兵殲滅を実現するとするか!
「またどこかに思考が飛んで行ってしまっていますね、ではバリスタの配置についてですが……」
「……こういう配置はどう?」
「あー、いや……イスル司令を無視して進めてもいいので?」
さて、反乱軍に与したアホ共を捕縛した場合はどうしてくれようか……ふっふっふ。
あとがき
スカパーで「伝説の戦い」シリーズ見ていたらやっていたワーテルローとウィキペディアの記述が結構違うことに焦りました。映画ワーテルローとも微妙に違うので、今回のたとえ話は後々別なものに変更するかもしれません。