前回のあらすじ
・殲滅むずい
・歴史に学ぶ
・装備が行き届いているのはホルス隊だけ
遅延作戦4日目同日 昼、ここ反乱軍の主拠点ブローウィンキア近くの平原に二つの軍が展開していた。
一つはイスルランディア司令率いるノルドール連合国イスルランディア軍総勢550
一つはアエドゥイ率いるノルドール貴族連合軍総勢400
決戦の時は近かった───
<イスルランディア視点>
「総員配置完了しました、例の装備も設置完了です!」
「了解した、持ち場に戻れ」
「はっ!」
まもなく、まもなく決戦が始まるな……この戦いは負けなければいいという戦いではない、作戦通りに遂行し敵軍を殲滅し、味方の損害が皆無でなければこの国に未来はない。完全に、そしてただ一遍の面白味も感じさせぬほどの完璧な勝利でなくてはならない。
こちらの配置は、軍中央に大盾を構えたホルスの軍団兵100名。左翼に俺の弓騎兵50とレスリーのパイク兵と重歩兵100名。右翼にカザネの弓・クロスボウ・投槍の混成射撃部隊100名、それの前面に射撃の邪魔にならないようにしゃがんで待機する市民兵100名。そして最後の戦列予備として義勇兵と傭兵隊の50をホルスの後ろに待機させている。
カザネが作った柵は右翼の市民兵と混成射撃部隊との間に設置し、バリスタを右翼の両端に配置している。
一方敵軍は、こちらの編成を見てか(こちらから見て)右翼がノルドール貴族弓騎兵200名。中央がノルドール重歩兵100名、左翼が南領警備隊100名だ。南領警備隊の編成は弓騎兵50に軽歩兵50の編成で、錬度もなかなか高い。ラトゥイリィが本気で従っているとは考えにくいが油断は禁物だ。
おそらく敵はこちらの攻撃を一番損害を気にしなくて済む南領警備隊に引きつけて、貴族弓騎兵と指揮官アエドゥイの突破力をもって右翼の市民兵の戦列を蹴散らし、その背後で柵にかくれて戦う混成射撃部隊を狙うつもりだろう。射撃部隊さえ撃破してしまえば敵にとってこちらは後はただの的だ。
そうそう、引きこもりがちだった敵軍を誘き寄せるのは簡単だった、「臆病者共め、貴族の風上にもおけん」と書いた矢文を送りつけ、ブローウィンキアに軍を進めるだけでいいからな……それでアルウェルニ殿ですら抑えきれないほど、この国の貴族は腐っていたとも言えるのだがな。
そんなことを考えながら敵を睨みつけていると、慌ただしい様子でいつもならば冷静なレスリーが馬を俺の横に寄せてきた。
「司令! 伝令が来ましたっ!!」
「レスリーが伝令ぐらいでそんなに慌てるとはな、して内容は?」
「そ、それがカズキに関してとのことです!」
「何っ!? わかった、すぐ行くっ!」
レスリーと一緒に伝令を持ってきた伝令兵が治療を受けているという医療隊の所につくと、そこには半身を血に染まった包帯で巻いてレッドに治療されている兵士と……カズキの愛馬マキバオーが居た。
なぜ、なぜここにマキバオーがいる? カズキはどうした? その兵士の傷はなんだ!?
「イスルランディア様、でしょうか」
「……そうだ、何があった」
「カズキ様からこれを貴方様に、と」
伝令兵から手渡されたものは血のついた手紙、『にほんご』で兄上様へと書いてある。この血は怪我をしている兵士のものではない、ではこれは誰の血だ? 落ち着け、大丈夫だ、中身を読めば全てわかる。カズキが無事だという内容に決まっている。あ、あやつに何かあるものか……い、今まで幾度となく死線をくぐり抜けてきたお、男だぞ?
『遅延作戦の戦況に関して、この手紙によって緊急御通知申し上げる。
北領駐屯地遅延作戦において、敵攻撃を開始後、和樹隊およびラドゥ軍閥他義勇兵、防衛戦闘に専念し、使命を果たさんと最大限努力す。
然れども、自身の知れる範囲に於いては、すでに防衛は不可能と見ゆ。全参加将兵全てが死力を尽くし、圧倒的兵力差の中、現時点までの防衛を成功させるも、もはや今夜夜襲あればただ敗れるのみ。
遅延作戦の失敗は国土を焦土と化さん。よって今夜敵本陣へ夜襲を敢行し、我らに出来る最後の遅延を果たさんとす。
遅延作戦参加将兵斯く戦えり。将兵に対し、後世特別の御高配を賜らんことを。ノルドールとペンドール大陸の未来に、精霊の加護があらんことを。
北領遅延作戦総指揮官 加藤和樹』
「あの……馬鹿者がぁあ!!」
「し、司令!?」
「なぜだ、なぜ死に急いだっ! いや、俺のせいだ……俺が、俺がもっと早く伝令を出していればっ、俺がもっとうまくやっていればっ!!」
俺が遅延作戦のために駐屯地に残した、それはわかっているっ! だがなぜカズキばかりがこのような目に会うのだっ!! 親も兄弟も友達も何もかも失って、村で生活を初めてやっと村に慣れたと思えば賊との戦いで重傷を負い、今度こそ平和にと過ごし始めれば帝国との戦いが始まりっ! セニアと幸せな生活を送ろうとすれば『異端』などと言われ迫害されっ!! そして今度は迫害された挙句送り込まれた戦地で時間稼ぎのために命を散らす……あんまりだ、神よ、精霊よっ! なぜ我らが家族のカズキだけこのような目にあわされるのかっ!! なぜだ、なぜだっ!!
自分でもわかっている……切り替えろ、今の俺はイスルランディア「司令」だ。戦いを控えた今泣き散らしたり後悔する暇はない、後悔するのも泣き散らすのも戦いが終わって平和になった後いくらでもできるっ! 今俺に出来ることはカズキが命をもって得てくれた時間を最大限に生かす事のみ!!
「……レッド」
「あいよ……司令の反応で最悪だけど中身は察したよ」
「この戦いが終わるまで誰にも口外するな、士気の低下を招く」
「わかった、伝令の子はアタイの方で預からせてもらうよ」
「……頼む」
「レスリーも、わかったな」
「……了解いたしました」
「聞けっ! 平和を乱し無力な人々を差別し迫害するもの共よ! 種族が違うというだけで多くの人々を殺し、貴族の誇りという名の虚栄心を満たす……人それを、『下種』と言う」
「……キサマ、我らが誇りを馬鹿にするかっ!」
「ふん、我が軍を恐れぬのならばかかってこいっ!!」
「言わせておけば……弓騎兵隊突撃開始! 敵投射隊を殲滅せよ!!」
カズキからの手紙を懐に入れた後、俺は布陣を完了して一人自信満々に雄叫びを上げ続けるアエドゥイの前に進み出ると、カズキがやっていたように口上を述べた。
俺の口上が終わると敵軍は指揮官のアエドゥイを先頭に貴族弓騎兵ほぼ全軍をこちらの右翼へと差し向けた。敵は射撃をしつつこちらの右を回り側面か背後から投射混成部隊へと突撃をかけるようだ……だがそれは囮、こちらの右翼に展開する市民兵を右翼側面への防御をさせるための陽動。
だがあえて今回はその陽動に乗ることにする、なぜならば敵の陽動に乗ることがこちらの囮なのだから。
<アエドゥイ視点>
「馬鹿がっ! 引っかかったな!!」
こちらが敵軍の左を回り投射部隊を背後から攻撃すると見せかけて、投射部隊の前面を防御する市民兵共を側面へと誘導する。こうも素直に陽動に引っかかってくれるとは有り難い限りだ。
市民兵が移動すると同時、ノルドール馬の俊敏な機動性をもって進行方向を急速に変えて一気に前面の空いた投射部隊へと肉薄する。目の前には斜めった柵が見えるが、あの程度の高さではこのノルドール馬の脚力をもってすれば飛び越えることなど造作もない。悪いがこれで投射隊を撃破すれば後の残りはただの的だ、イスルランディア……覚悟はいいかぁ?
「よし、総員剣を抜け! 突貫する!!」
剣を抜き終えた弓騎兵が隊伍を整えて敵投射隊へと突貫する、あの程度の雑兵など騎射するまでもない。だが俺たちの剣は敵に届くことはなかった。
「……今ですっ!!」
───ギィ ドガッ! ヤァ!!
柵が、ただの柵だと思っていたものが突然逆茂木へと変わったのだ。中心に一本横に組まれた丸太を支点として回転し、突如地面に埋め込まれていた部分がこちらに向いたのだ。
───ヒヒーンッ!!
「お、お前落ち着け!」
「う、うわ振り落とすなうわあああ!?」
「ぐ、ぐっ! 馬の統率がっ!!」
柵のこちらに向けられた鋭い部分が馬の恐怖心をあおり、そしてさらに柵が回る時に発せられたどしんという音にと策に隠れていた敵兵の叫びに馬が驚いて部隊の突貫は完全に停止してしまった。突撃を強制的に止めさせられたこともあり、多くの兵士が馬から投げ出されても居た。それでもノルドール馬ならばまだ再度突貫する事もできなくはない。もっとも再度突貫しようにも目の前の柵、いや逆茂木に阻まれて進むことはできそうになかったが。
「は、反転しろ! 一旦後退だ!!」
「構え! 放てっ!!」
「ぐわっ!?」
「ぎゃぁああ!!」
「し、しまったっ!?」
足を止めていた我が軍の弓騎兵隊に対し、逆茂木の裏側に居た投射部隊が一斉に攻撃を攻撃を開始する。盾も持たずただ足を止めているだけの弓騎兵は次々と射すくめられ、瞬く間に数を減らしてゆく……このままではたとえ勝ったとしても損害が大きすぎる。だがなんとかして今は後退せねば!
───バシュン!
突然バリスタの音が聞こえたと思うと、敵のバリスタが弓騎兵隊の背後に縄を張って後退を阻止しようとしたようだ。馬を立て直した貴族の一人が縄を飛び越えようとすると、たちまち馬が悲鳴を上げ転倒してしまう。それを見た他の兵士は縄を剣で切ろうとするが金属音と共にただはじかれるだけだった。
剣でも切れない馬を転倒させる縄。それは正確には縄だけではなかった、縄の周りを金属のような棘で覆っていたのだ。転倒した馬を見ると足のあちこちから出血している、どうやらこれが原因で間違いない。
そして悟った、もはやこの200名のノルドール弓騎兵と貴族は逃げ道などないと。前には逆茂木と投射兵、背後は馬を転倒させる棘、そして側面にはいつの間にか先ほど移動していた市民兵が槍先を揃えていた……ならば死中に活を見出すのみっ!!
「我が名はアエドゥイ! イスルランディアよ、一騎打ちで勝負しろ!!」
<イスルランディア視点>
「我が名はアエドゥイ! イスルランディアよ、一騎打ちで勝負しろ!!」
次々と射殺されてゆく兵士の中から名乗り声が聞こえる、知っている、こいつは人間族を以前から虐げて見下していた敵指揮官かつ愚か者だ。ならば俺がこの手でその息の根を止めるというのもいいだろう。敵軍のほぼすべてが弓騎兵隊の救援のために行動を開始し始めている今、ここで敵の前でアエドゥイの首を飛ばせば一気にこの戦いを終結させる事も可能だ。敵軍の歩兵隊は多くがは貴族の部下や領民だからな。
「ここに居るぞっ! 来いアエドゥイ!」
「この聖なる森への裏切り者めっ! 覚悟しろ!!」
───キィンッ!
素早く馬を走らせて一気にアエドゥイに切りかかる、誤射される事など気にしている場合ではない。できるだけ射線から避けるようにやつは端に移動したためすぐに見つけることができた。やつが俺の剣をはじくとお互い馬に乗ったまま素早く距離をとる。さすが貴族の中でも腕の立つ男だと言われているだけはある。
「ぐっ……この裏切り者め、あんな『異端』とニンゲンに森が毒されているのがなぜわからん! あやつが来てから幾多の戦乱がノルドールを襲ったではないか!」
「だからなんだ?」
───キィン!
「なんだだと! あやつらが来てから全てが狂いだした、世界中で戦乱が起こりこの国はめちゃくちゃだ!!」
「それがカズキや人間族と何の関係がある?」
───キィン!
「あの『異端』とニンゲンがすべて悪いのだ! あやつの推し進める政策も我らノルドールを軽んじているではないか!!」
「まったく……そうやって全て人間族とカズキのせいにして、自分がどんどん惨めになっている事もわからんか」
───キィィイイン! ドサ
「なっ!?」
「惨めな男が剣を振るったところで俺には傷一つつけられん」
大振りで切りかかってきたやつの剣を弾き飛ばし、馬から突き落としてやつが立ち上がった所で剣をのど元に突き付ける。目はそらさず、ただ無表情に相手を馬上から見下ろす。
こいつは絶対に許さない、カズキやノヴォルディアの人々全てが今まで必死に築き上げてきた人間族とノルドールとの絆を傷つけた罪は重い。
「さて、とりあえずお前が殺した人々への謝罪と、人間族とノルドールの絆を傷つけた事への謝罪を兼ねて……まずはそこに跪け」
「ふん、誰がするか! 俺は誇りある───」
「跪け」
───バシュンッ!
「ぎ、ぎぃああああああ!?」
俺の合図と共にバリスタが発射され、やつの左足を吹き飛ばし強制的にアエドゥイは地に伏すことになった。いつの間にか敵味方問わず南領警備隊を除く全ての兵士が動くことをやめてただこちらを見ていた。南領警備隊だけはゆっくりと敵軍左翼から反乱軍の背後へと移動していているようだ……これでラトゥイリィが何をしようとしているかは大体わかった、ならば退路遮断はまかせようではないか。
「逆族アエドゥイが死ぬまでの間黙祷することで、今回の反乱における被害者への鎮魂とする。総員黙祷っ!」
「な、なにが黙へぶっ!」
「黙祷と言ったはずだ、喋るな」
ぎゃあぎゃあとわめき、這いつくばっていたアエドゥイの口に蹴りを入れて強制的に喋ることを中断させる、正直にいえば俺は今猛烈に怒っている。今すぐこの男にとどめを刺してやりたいくらいに。
「おへが、おへはほこりは……」
「───以上をもって黙祷を終える。さて……次に跪かせてほしい裏切り者の貴族は誰だ?」
「お、俺はに、逃げ「退路はすでにないぞ?」なっ!?」
まだ包囲されているわけではなかった敵の重歩兵隊から何人かの貴族が逃げ出そうとしたが、すでに敵軍の背後に展開を完了していたラトゥイリィの軍が完全に退路を遮断していた。貴族たちもやっと悟ったのだろう、そして次々と武器を捨てて跪き始めた。
本来ならば敵味方甚大な損害を出していたかもしれない戦いだった。だが奴らの主力とも言える弓騎兵隊はその数すでに50を下回り、指揮官も兵士の前で無残にも死んだ。これで戦意を持ち続けられる兵士などおらん。
ともかく、これで損害は両軍合わせて200名以下に抑えられた……元は反乱軍とてノルドールの兵士、無駄に死んでほしくはない。
「……さて、後はアルウェルニ様と馬鹿な村長達だけだな」
今回の反乱に参加した貴族のほとんどは今回の戦いで戦死したか捕虜となった、後は総指揮官であるアルウェルニ様と反乱に加担した村長共をひっとらえるだけ。
カズキ……俺は信じぬぞ、待ってろよ……これを終えたら絶対迎えに行くからなっ!!
あとがき
そろそろ用語も増えてきたので、いまさら感がぬぐえませんが用語集のページを近日中に作成予定です。
追記 最後名前間違ってましたね……誰か突っ込んでくださいorz
自分で気付かなかったら(汗)