前回のあらすじ
・交戦
・兄上様無双
・もうすぐ反乱鎮圧?
<アルウェルニ視点>
目の前で繰り広げられる生産性のない会議はいつも通り、だがいつもと違うところもあった……ほとんど人がいないのだ。
今回の出陣に参加した貴族達は司令官のアエドゥイも含めて誰も帰還しなかった、そうあの腐っても精強なノルドール貴族兵が誰も帰還しなかったのだ。
ある居残り貴族は周りに対して「お前らの誰かが内通した」と言い、別な居残り貴族は「ニンゲンなんぞに負けるはずがない、誤報だ」と叫び、挙句の果てには「敵司令のイスルランディアはノルドールだからニンゲンに負けたことにはならない」などと言い出す始末……正直何を考えているのかと言いたくなるほどだ。
どちらにせよ反乱軍に残ったのは出陣する事を怖がったり貴族のくせに馬に乗れないような肉だるま、そして私だけだ。この拠点の守備隊などをかき集めたところで50にもなるまい。もはや抗戦するだけ無駄だということはさすがの馬鹿共でもわかるのだろう、話は一つの所へと集約してった。
───どうやったら自分たちが助かるか
そう、その結論に行きついた馬鹿共は一斉にぎらついた目でこちらを見る。まあ恐らくはそうなるであろうと思っても居たし、そうなるように願っていた。これでイスルも心おきなく彼らを殺れるはずだな。
「……そもそもこたびの反乱は貴殿が起こしたようなもの、どうなされるおつもりかっ!」
「左様、貴殿にたぶらかされたおかげで我は破滅ぞ!? どうしてくれるのか!!」
「こ、このままでは死罪だぞ!」
「かくなるうえは土産を持参して助命を乞えば……あるいは」
「むしろ手柄としてくれるやもしれんぞ」
「……ふん、手柄か」
なんと愚かなことか……こやつらの処断は反乱に参加した時点で決まっているのに、本当に馬鹿としか言いようがない。
私が出していた斥候からの情報によれば、ラトゥイリィは無事イスル達と合流し囚われている人々を救出に向かったようだ。イスルにはちと難しいかも知れんがカザネやレスリーなど頭の回る者もいる、南領警備隊の処遇は安心してもいいだろう……さて、後はこれ以上犠牲を出さないようにこの反乱を収束させるのみ、もう死ぬのは年寄りだけで十分であろう……
「で、ではアルウェルニ殿……その首頂戴いたしますぞっ!」
「こ、この扇動者めっ!!」
「て、手柄だっ!」
「……この馬鹿どもめ」
ふん、本来であれば私がこやつら全員を切り殺してもいいのだが……このまま私が切って捨てるよりも、生かして捕らえ公開処刑でもなんでもした方が少しは役に立つであろう。
さあ来るがいい、これで……これで私の長い長い戦いがやっと終わる……先に散って逝った友よ、今往くぞっ!
「やれるものならさあ首を刎ねよっ! 手土産にできる首はこの一つぞっ!!」
───ザシュッ!
<レスリー視点>
ブローウィンキア近郊での戦いの後、負傷者を後送したり降伏したものを戦列に加えたりと再編成を行い残すところの問題は後一つでした。
「さて、南領警備隊の処遇についてですが……反乱軍にやむにやまれぬ事情があったとはいえ与したことは変わらぬ事実。イスル司令、どうされるのですか?」
「レスリー隊長、お言葉ながら最後は南領警備隊の活躍により敵部隊を包囲の後確保できたので、処分なしとはいかないのですか?」
「そうだな……ホルスの言いたいことはわかる。だが反乱軍に与したものを処罰なしで組み込むのは問題があるのだろう?」
「ええ、こうする事が初めからわかっていた事とだったとしても、何らかの対応を取らねば示しがつきませんね」
そう、南領警備隊の処遇問題です。反乱発生直後こそ中立の立場をとって時間を稼いだものの最後にはこうして戦いの場まで反乱軍として参加したのです、もともと反乱軍の退路を断つために参加していた……そうだとしても一度は反乱に参加したと国民には思われています。残念なことですが何らかの対応をしなければ。ホルスの意見はこの場に居合わせた者の考えとしては間違っていませんが、対外的に見てあまり得策ではないように思えます。
「示しか……カザネは何か案はあるか?」
「……本来ならば隊長であるラトゥイリィを処断、でも今回は不適切」
私もラトゥイリィの処断には反対です。今回の戦いで確かに重要な役割を果たしているのです。処断したとあれば兵士からの求心力は一気に失われるでしょう。それに個人的にも、ラトゥイリィには助かって欲しいですしね。
さて、ではどうしましょうか……そうです、ちょっと強引ですがこれでなんとかなるかもしれません。
「そうですね……でしたらばそもそも示しをつける必要をなくせば良いのではありませんか?」
「ふむ、というとどういうことだ?」
「ええ、まずはかくかくしかじかということでですね」
「ふむふむ、まるまるうまうまということか」
私がイスル殿に提案したのは「南領警備隊はある任務のために敵軍に潜入していた」と国民に説明する事です。南領警備隊の皆さんも最後までできれば反乱軍に身を置きたいとは思わなかったでしょうし、それに退路を遮断し反乱軍の降伏に一役かったという功績を誇るわけでもなくただただ処遇を静かに待っているところを見れば、今後も十分信頼できる部隊と言ってもいいはずですね。
今回南領警備隊はラトゥイリィの指示で人間狩りの先頭に立ち、貴族達に捕まる前に速やかに避難させて命を守ったり、捕まってしまった人間族の人々をこちらで処断すると言って連れ出し別な場所で匿ったりなど多くの功績をあげています。この事を発表すれば国民にとって南領警備隊は処罰すべき対象ではなく、むしろ英雄として認識されてもおかしくないでしょうね。
「わかった、今回はレスリーの案を採用しよう。そうと決まればラトゥイリィを呼んできてくれ、恐らく部下たちがどうなるかやきもきしてそうだからな」
「では呼んで来ましょうか。……レスリー隊長、そういった考えがあるなら先に言ってくださればやきもきせずに済んだのですが」
「自分で言っておいてなんだかすみませんね」
「だがレスリーが最初に言った事も一軍の指揮官としては考え方としては正しい事だと思う。だが生憎俺はどうにも甘くてな」
「基本的にこの国はお人好しで成り立っていますからね。それもまたいいと思いますよ」
「確かに、違いないですな」
「南領警備隊隊長、ラトゥイリィ参りました……」
「今回の潜入作戦、およびブローウィンキア近郊での戦い、よくやってくれた。警備隊が敵の退路を遮断してくれたおかげで敵もすぐ降伏してくれた上、虐殺されかかっていた民間人の避難も見事だ」
「え、あの……処罰などはないのですか? 一度は反乱に与したのですよ?」
「もう潜入作戦は終わったのだ、別にもうその事については問題ないだろう?」
「作戦……なるほど、そうですね。ですが助けられなかった人もおります、私はそれらの責任をとって隊長職を辞任させていただきたいのですが……」
「そうか、そう言うならばわかった。南領警備隊は一度解散して再編成する事にしよう。今回の件については以上だ、では───」
先ほどは居なかったレッドも含めた、今回の戦いに参加した将やイスル司令達が集う野戦天幕に現れたラトゥイリィはとても沈んだ表情をしていました。
後に聞いたところによるとどうやら彼女の部下の貴族兵は貴族であるがために自分も含めて処断されるのではないかと恐れていたそうです。どこかの身内に甘い隊長さんのようですね?
部下への処罰がないとわかると一瞬嬉しそうな表情を見せたのですが、すぐさま神妙な顔になり辞任すると言いました。こういう生真面目なところもどこかの隊長さんに……似て……落ち着きましょう、まだ、まだ死んだとは限りません。
そう不思議と彼が死んだと信じることができないのです……あの人や家族を失った時は実際に目の前で見たからでしょうか。とにかく彼の死体を見るまで私は信じないことにしました……ずいぶんと私も弱くなりましたね。
「し、司令! 敵反乱軍の貴族達が司令にお会いしたいとのことです!」
「……今さら何の用かはしらんが会うだけは会ってやる、通せ」
「了解しました!」
反乱軍の貴族が本当にいまさら何の用なのでしょうか? 生きて会いに来るということは前回の戦いに参加しなかった臆病者か、ベルギカの攻略に向かっていた貴族のどちらかでしょう。
残念ながらすでに喜び勇んで反乱に参加した者の未来は決まっているのですが……まあ降伏してくれた方が攻める手間も省けるので一応会ってみるということなのでしょう。
少し思考の海に浸っていると、なにやら箱一つ抱えた貴族を筆頭に10人程度の貴族がイスル司令の前で平伏していました。まさかとは思いますがその箱は……
「表を上げろとは言わん、いまさら何用があって俺に会いに来た」
「こ、こたびの反乱に参加したことを深く、深く謝罪いたします。それで今回はこちらをイスルランディア司令にお持ちいたしました、どうぞ」
「見る気もせんな……レスリー、見てくれるか」
「わかりました、よろしいですね?」
「……好きにするといいでしょう」
私に箱を手渡す時の貴族の顔は本当に渋々といった顔とでも言うのでしょうか、人間族の私が司令の代理に受け取るということ自体がすでに嫌悪の対象なのでしょう……本当にこのノルドール達はどうしようもないほど凝り固まっていますね。
前回の戦いで降伏した貴族も、大半は彼らと同じようなものでした。本当に一握りだけは脅迫されていたり周りが全て反乱軍に参加したため仕方なくという者もいました。
そういう人は領地縮小などの軽い処罰や形式上の処罰のみ、もしくはラトゥイリィと同じような対処となりました。他の貴族は……彼ら領地の平民の皆さんに任せたり、曲がりなりにも貴族兵ですから爵位や領地を没収し一兵士となるのであれば助命ということになりました。領民に任せた貴族の殆どはむごたらしく殺されたようですが……まあ日頃の行いがわかるというものですね。
そんなことを考えつつ手渡された箱を開けてみると、そこにはアルウェルニ様の……首がありました。
本当に、本当に愚かなのですねっ!
「イスルランディア司令、中身を確認いたしました……中身は反乱軍の指導者であるアルウェルニ様の首にございます」
「……そうか、して諸君らは何か言いたいことはあるか? せめて遺言くらいは聞いてやろう」
「なっ!?」
アルウェルニ様はたとえ今回の反乱の指導者であるとしても、多くの人々から尊敬され慕われているお人です。そのようなお人の首を持参したということの重大さがこの貴族達にはわからないのですね……本当に愚かとしか言いようがありません。
もともと死ぬか一兵卒として彼らにとっての恥辱にまみれた余生を過ごすしかない選択が、今ここで死以外あり得なくなりましたね。
「何ということをおっしゃるのですか! 我らは敵の総大将の首を取ってきたのですぞ!!」
「左様、手柄を立てた我らを殺すというのか!」
「この───阿呆共がっ!!」
───ドンッ!
命乞いのために土産を持ってきたのに死ねと言われたのがよっぽど彼らを怒らせたのか、ただの『ぎゃくぎれ』なのかはわかりませんが、先ほどまでの態度からうってかわってぎゃあぎゃあとわめき散らした貴族に対し、イスル司令は作戦地図などが乗っている机を思い切りたたくと剣を抜いてあっという間に貴族の一人の首を飛ばしました。
私としては後でこの野戦天幕に飛び散った血を洗い流すのが面倒なので、ここで切り殺すのはやめていただきたいと思うのですが……今は違います、できることならさっさとこの畜生以下の者共をくびり殺したいですね。ここまで深い怒りを覚えたのはザルカーの時くらいでしょう。
「ま、まってくだされ! そ、そこに居る南領警備隊長の平民も元は我らと同じ陣営に居た者。我らだけ処断してなぜやつは処断せんのですか!!」
「そ、それは……「いやーさすがラトゥイリィだね~、完全にこいつらだまされてやんの」え?」
首を飛ばされた貴族の真横に居た貴族が腰を抜かしながらラトゥイリィの事を自分たちと同じだというと、彼女は表情を暗くしてうつむいてしまいました。そして何か彼女が言おうとした時、割って入るようにレッドが笑いながら彼女の肩をばんばんと叩いています……レッドなりの励ましとラトゥイリィへの矛先をかわすにはいい考えですね。
「だまされただと?」
「だってよ、くっくっく……そもそもラトゥイリィはお前らに殺されかけてた人達を助けるためにこっちが送り込んだんだっつーの。それを今の今まであんたらのわけわかんねー同志とやらだと思ってたわけ? こりゃアタイは笑うしかないさーね」
「なっ!?」
「この平民がっ!!」
───ザシュザシュ! ドサッ!
レッドの話を聞いて激昂し剣を抜いた残りの貴族達を、すでに背後に回っていた私とカザネで切り殺して今回の話し合いは完了でしょうか……なるほど、これがカズキの言っていた「おはなし」というやつなのですね。まさか実践する事になるとは思いもしませんでしたが。
「さて、このゴミの始末は元部下や領民に引き渡しておいてくれ。では諸君、これより我々はブローウィンキアへ向かうぞ……アルウェルニ殿の亡骸を確保して残りの貴族をとらえればこれで今回の反乱は完全に鎮圧する事になる、全軍進軍準備っ!」
「「「了解っ!」」」
会議に参加していた人たちが慌ただしく準備を始めていると、今度は別な伝令が野戦天幕へと入ってきました……今度は何でしょうか?
「どうされたのですか?」
「はっ! アルウェルニ様の伝令兵と申す者が司令に遺言を届けに来たとっ」
「なんだとっ!?」
ふぅ、どうやら今日はいろいろな出来事や問題ごとを抱えた来客ばかりが来る日なのでしょうか?
それにしても一つ疑問が残ります、なぜアルウェルニ様ほどのお方があんな貴族共に首を取られたのでしょうか……少し気になりますね。
あとがき
ふと気になって調べてみると、この作品って首が飛ぶ描写がやたらと多い事に気がつきました……なんででしょう?