前回のあらすじ
・反乱終結
・実は生きてました
・全部異端が悪いらしい
<マリウス視点>
───帝国首都イスズ
「陛下っ! 海賊なぞに国土を割譲するとはどういうことですか!?」
「我らだけでも十分戦えます! なにとぞ御再考をお願いたします!!」
「……デオダトゥス、クィントゥス、そちたちもわかっておろう。これしかもはや帝国の臣民と未来を守る手段はないのだ」
「……くっ」
「……」
我の支配するこの帝国はもはや完全に詰んでいると言わざるを得ない状況に追い込まれておる。すでに国土の南半分近い地域をスネーク教徒に奪われ、Dシャア朝との停戦工作も進まず国内にはレッド兄弟団や背教騎士団をのさばらせる有様である。
長年続いた帝国の戦はこの国の国力と人心を完全に低下させておった……もはやこれ以上戦が長引けば国家としてどころか生きていくことさえできぬ不法地帯と化すであろう。それだけは施政者としての誇りと意地を持って阻止せねばなるまい。
だが我らには戦力がない。Dシャア朝との国境要塞線にクィントゥス率いる50、サーレオン・ノルドールとの長い国境線にリマスク率いる30、そして帝国国内の各拠点に最小限度の防衛隊、そして今デオダトゥス率いる800の詰める対スネーク教徒の最前線であるウォルヴェン城守備隊が帝国の全戦力である……そのほとんどがすでに少年兵や老兵、挙句の果てには病人でなんとか数を補てんしている始末であるが。
対する戦力はDシャア朝がおよそ100、レッド兄弟団が200、背教騎士団が150、破壊者ユダの率いるスネーク教徒軍が3000。数字を見るだけで戦力差は明らかであり、スネーク教徒軍は精鋭ぞろいの重騎兵隊まで揃えておる。我が軍の騎兵隊はもはやリマスクの率いる30騎のみであり、広大な国境線の守備と賊の討伐ですでに手一杯だ。
現に参加できうる全ての将を集めたはずのこの会議ですら参加できた将は10に満たぬ、他は戦死したか皆必死に戦っておるのだ……悲しきことだがこれがわが国の現状だ。詰んでおろう?
だからこそ我はフィアーズベインにて略奪をおこない勢力を拡大していたヴァンズケリー海賊団の海上兵力とその兵数に目を付けたのだ。
スネーク教徒は船でいずこからか次々と援軍をペンドール大陸に送り込み兵力差を拡大させておる、この敵の海上補給線を叩くのが効率的であるのはわかってはおるのだが、海兵はすでに陸上戦力としてウォルヴェン防衛戦に投入しておる……それに我が帝国の戦船は遊牧民族国家であるDシャア朝の戦船にすら劣るほど貧弱であり、現在の技術・戦術的制限を考えれば制海権の確保を独力で行うのは不可能に近い。
そこで彼らヴァンズケリー海賊団の海上兵力が必要になってくるのだ、我らがスネーク教徒に打ち勝つためには海上からの援軍の阻止と陸戦においての殲滅である。
───ヴァンズケリア
我が帝国が領土南に位置する島丸々ひとつをヴァンズケリー海賊団に割譲することにより誕生する新国家、首都はヴァンズケリーと名づけるそうだ。表向きは傭兵国家として、裏向きは帝国に仇名す者に対する海賊国家である。
総人口は彼らの親類家族含め4000ほどであり、元々の島民が200ほどそれに加わることになる。島民の数が少ない理由はかの島が農耕や牧畜に適さぬ岩だらけの島であるということだ。だが海賊団はそこに別の価値を見出した。
島には多数の洞窟と、港に適した場所が複数存在する。海賊のねぐらとしては最適と言っても過言ではないようだ。
先週より随時海賊団が船でこの島に上陸しており、我が帝国の属国として独立後ただちに400近い兵力での海上封鎖をおこなってくれる手はずになっておる。これでスネーク教徒の海を封じる、後は陸で奴らを叩きつぶすのみ……と言いたいところだがの。
「……リマスクから何か報告はあるか?」
「はっ! 現在北部に出現した盗賊団の討伐に向かっているそうですが、戦力不足のため長期戦になる模様です」
「そうか、クィントゥス」
「はっ!」
「おぬしもウォルヴェン防衛戦に参加せよ、もはやDシャア朝や国土の西部を気にしている余裕はない。全兵力を持って援護に迎え」
「……いつか必ず取り戻して見せますっ」
我が帝国の双璧をなすクィントゥスとデオダトゥスでさえ現状を打破する事はこのままでは不可能であると言える。ほぼ全帝国軍兵士が参加するウォルヴェン防衛戦に敗北すればすなわち帝国の完全敗北となりえる。もはや予備兵力などと言う物は存在しないのだ。
「今は耐えろ、おぬしらや臣民には苦労をかけるが……今は耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶ時ぞ」
「はい……」
「わかっております……」
「全将兵に伝えよ。後世において、帝国がその歴史上最も危機にさらされた時、我らはこの国を誇り高く守り抜いたと歴史家ならず大陸全土の民から賞讃されるような戦いをせよ、と」
「わかりました、帝国軍全将兵全てが死力を尽くし戦いましょうぞ」
「それでは、陛下の元で戦えて光栄でありました……ではっ」
「……未来を、頼んだぞ」
我は退出してゆく将達の背を見送ることしかできぬ……今我がイスズから動けば民が動揺する上、未だくすぶっている貴族共が復権を企むやもしれぬ。
未来、か。我ながら大げさな事を……いや、サーレオンでの悪魔崇拝軍の行為とこの国でのスネーク教徒の行いはすでに大陸全土に知れ渡っているであろうな。
『世界を破滅へと』
『世界を革命へと』
その言葉の元多くの人々が殺され、犯され、略奪され、家を焼き払われ、家族を奪われ……現在スネーク教徒に占領されていた地域に住んでいた我が臣民がどれほどの血と涙を流したことかっ!!
防衛戦に敗れれば帝国全土がスネーク教徒によって灰燼に帰す……さらにどれほどの我が臣民が死なねばならん、後どれだけ我が国土が破壊されねばならんのだ?
守らねばなるまい。傀儡として据えられたこの身だが、たび重なる敗北により今まで発言力を持っていた貴族の影響が弱まった今こそ、我がこの命全てを持って臣民を守らねばなるまい。
「今のままでは後一手が足りぬ……ノルドール連合国へ使者を出せ」
「はい、どういった内容にいたしますか?」
「増援を、命を守るための助力を頼むと」
「はい……ただちに」
もはや使える兵力は全て使う、兵力と勝利を手に入れるのならばこの身を畜生に落としても構わぬ。後少し、後少しの力が我にあればっ……!!
<セニア視点>
カズキがぼろぼろのままノヴォルディアに帰ってくる直前、私は二つの報告を聞きなにがなんだかもうわからないというかもうカズキ似合うまでは完全に落ち着くことができませんでした。
───北領遅延作戦参加将兵、玉砕
───遅延作戦指揮官カズキ殿以下生存を確認
死んだと聞かされ、私という存在が粉々に砕けた感覚に襲われた後に生きていたと聞かされたのです。今私にはノヴォルディアの事や、ペンドール大陸の事など頭の中にはありません。ただただカズキに会いたい、カズキに触れたい、カズキの温かさを感じたいとそれだけでした。
そして今、目の前にはカズキがぼろぼろの装備のまま少し照れながら立っています。もう……本当にこの人は、私に心配ばかりかけて……
「あーっと、その、心配かけてごめわはっ!?」
「ばかっ、ばかばかばかっ! あなたはいつもいつも本当に、本当に本当に本当に、本当に……」
「うん、本当に心配かけてばっかりだね。本当にごめん」
「ゆるして……あげません。罰として今日は離しませんから」
「いいよ、セニアならいくらでも」
「もう……ばかっ」
「……」×4
「「……あ」」
えっと、その……今私たちが居るのはノヴォルディアの会議室で、カズキと一緒に帰還した兄上やノヴォ市長やラドゥ殿、セイレーネの、その、人前で……あぅ。
「おっほん、では北領駐屯地遅延作戦での戦果と損害、その報告を頼むでの」
「……えーと、はい。損害は協力してくれたラドゥ軍閥合わせて70名、内5名が遅延作戦終了後に負傷が原因での”戦死”です。戦果は確認しただけでも200を超えており、正確な数は残念ながら確認できません」
「確認できないというとどういう事での?」
「城壁ごと爆破した死体などです、五体満足どころか体の一部だけが焼け焦げて転がっているくらいなので」
「う、うむそうか」
城壁ごと『ばくは』ですか……精確に計算は現時点でできませんが、カズキ隊を含めた北領遅延作戦での兵力的損失、それに北領駐屯地の修繕費、ラドゥ軍閥への保障などなど考えただけでノルドール連合は大赤字でしょう。実際討伐に成功した場合の戦利品などに期待していたほどですから、この損失を考えるとそうですね……前述の損害に加え反乱軍の再統合と戦力の再編に半年かかることを考えると、戦力を未だ残したザルカー軍閥の影に今は怯えなければなりませんね。
「ではそのいずこかへ消えたザルカー軍閥の足取りはつかめたでの?」
「カルディナに聞いてもまったく手がかりがないそうです、主も駐屯地の再建と並行して捜索したのですが……」
「まあ忽然と姿を消したわけだ、おかげで俺もすぐに生き残りを率いてヤツの草原に帰るなんて怖くてな。損失の補てんも兼ねてすこし居座らせてもらうぞ」
「うむ、ラドゥ軍閥をノヴォルディア一同歓迎させていただきますぞ」
「後は俺の方から反乱軍の鎮圧についての追加報告をしたいと思う」
反乱軍はカザネの作戦によって貴族弓騎兵をほぼ殲滅したおかげで、弓騎兵以外はほぼすべて無抵抗で降伏しています。東部のベルギカへ向かっていた攻略隊も反乱軍の拠点ブローウィンキアが制圧され、指導者のアルウェルニ殿が死亡なされたとわかった途端降伏してくれたそうですし、一応完璧に近い戦略的勝利ですね。
一部がブローウィンキアでの抵抗を試みたそうですが、まあそこは兄上たちがうまくやったようです。こちらの損害は負傷者を含め30に満たないそうですし。
「実はブローウィンキアの制圧後アルウェルニ殿の兵士がとある情報をもたらしてくれてな……アルウェルニ殿の孫が、その……人質に取られていたらしくてな」
「兄上様、つまりその言いにくそうな表情から察するにアレなわけですね」
「……間に合わなかった」
「それはつまり、助けられなかったのですか?」
「いや、簡単にいえば体には手を出されなかった代わりに心を壊されてしまったらしい。今ではノルドールを見ただけでも震え上がるそうだ」
人質で心を……相当アルウェルニ殿に恨みを持つ者が監禁していたのでしょうか。私には一体何があったのか想像もつかない何かがあったのでしょう。
かわいそうですが今はその子よりも優先してやらなければならないことが山積みです……かわいそうな子供にも優先順位をつけて、私も内相になってずいぶんと冷めた女になりましたね。
「セニア」
「はい?」
「セニアは優しいさ、そしてそんな事皆知ってるよ、人の上に立つことになって物事に優先順位をつけなきゃいけないっていうのは本当につらいよね」
「え、あの」
「大丈夫、今回のごたごたが終わればまたいつも通りに生活できるって。つらい今はきっちり仕事モードに切り替えて物事を考えないといけないけどね」
「……はい、この国にとって厳しい情勢の今だけ『くーるびゅーてぃー』で頑張りますね」
「そういうこと、もう心の中で自分を冷めた女って卑下しちゃダメだぞ」
「な、なんでわかるんですかっ!?」
「ふふ~ん、セニアのことなら目を見ればだいたい何を考えてるかなんてわかるさ」
「カズキ……」
「……」×4
「「あっ……」」
「うぉっほん、とりあえずわしら連合首脳部の事前会にて決定した事項を先に伝達しておこうかの」
事前会……? なんでしょうそれは、内相の私にすら何の話も回ってきては居ませんが首脳部ということはなにか重要な事柄を決めたのでしょう。おそらく今後この国が進むべき道、もしくは今回の一連の騒乱について何か、でしょうか?
「決定事項か、俺も居ていいのかね?」
「かまいませんぞ」
「となると何だろうね?」
「うむ……こたびの戦いにおいて北領の住民を決死の遅延作戦にて守りきったカズキ以下将兵全てに大規模な報酬を授けたいと思う」
報酬ですか。たしかにあれだけの活躍をしたのです、相応の金品での報酬は当たり前ですが……財政的に1デナリでさえ余裕はないのですが。ああもうまた出費が、でも命をかけて戦ってくれた皆さんのためでもあるわけで……
「報酬か、カズキにはいっそ爵位でもくれてやればいいのだ」
「イスルは勘がいいのぅ、今回カズキには正式に爵位と領地が与えられるでの。またカズキの護衛兵4名に関しても正式にノルドール連合国の騎士として公認する事が今回決まった、というのがその決定事項での」
「な、なんだってーっ!?」
か、カズキが貴族に……考えてみれば部隊長ほどの人間が貴族ですらないというのも諸外国からすればずいぶんと不自然なことですね。
領地は今回反乱に参加した貴族のうち、身内ごと参加した貴族などから没収すれば十分でしょう。これなら確かに1デナリも使わずにすみますね。