前回のあらすじ
・帝国ヤバイ
・アルウェルニ様の忘れ形見
・ねんがんのきぞくになったぞ!
<和樹視点>
───ノヴォルディア、訓練場
「ふぅ……」
なあなあ聞いてくれよジョニー、ヘイッマイクどうしたんだいっ!? オゥ実は貴族になっちゃんたんだってYO! ワァオッ!? そいつはやったじゃないか!
いかんいかん思考がワケワカーメになっていた、今はてんぱってないで俺の新しい領地となる場所の地図とにらめっこしながら改善点を考えなきゃならんのだ。地図を見た限りではノヴォルディアと地理的条件が似通っているから、初期はノヴォ村長の村の時と同じように上水道と公衆トイレにノーフォーク農法の導入だね。
そこそこな大きさの川も領土内にあるから水車での農業の機械化を進めるのもいいなぁ……風車はプロペラ部分がどうなってるかよくわからないから小さな模型からトライアンドエラーでやってくしかないね。C言語やアセンブラのエラーとの戦いに比べればなんくるないさー!
「貴族になられたそうで、カズキ……殿でよろしいですか?」
「お、レスリーさんとこの傭兵隊長さん。あー別に公の場とかでなければ今までのままでいいですよ」
「ならカズキさんと。あとその肩書は再編成前の話で、今は特に役職はなにもありませんよ」
「何もない? そりゃなんでまた」
訓練場の端でのんびり地図を眺めていたら、以前ザルカー軍閥から投降してきた傭兵隊長さんが話しかけてきた。話に聞くところによれば容姿とカリスマ性、指揮能力と人脈……どう考えても兄上様とかと同じようなレベルにいるリア充です。いや、俺もセニアが居るから今はリア充なんだけどね?
彼の容姿はドイツ人っぽいナイスガイ、短く切りそろえた髪と相まって……うーんどこかで見たような、しゅわちゃんとは微妙に違うしどこでだっけ?
「ええ、実は旅に出ようと思いまして」
「ふーん……えぇーっ!?」
「……この話をして驚いてくれたのが、カズキさんだけなのは皆さんがおかしいのやら俺とあなただけがおかしいのか」
「うーん多分レスリーさんとこに居た時に旅に出たいっていう雰囲気無意識のうちにだしてたんじゃないか?」
「なるほど、そうでしたか」
そういえばこの人とは俺あんまり接点はなかったなあ。ザルカー軍閥討伐の際である程度活躍したと聞いたし、ちょっとこの一兵卒でも多く保持したい今の情勢を考えると彼が離脱するのはもったいない気がする。でもまあ本人の意思ならしょうがないだろう、たぶん今は客将の立場なんだろうしね。
「そういえばさ、ここに来る前はどうしてたの?」
「前ですか……この大陸で困っている人々を少しでも助けたくて傭兵団を立ち上げ各国を回りました。そのうちにだんだんと仲間たちは正義より金の事を考え始めたようです……ザルカー軍閥からのヤツ族討伐依頼が来たときはすっかり騙されてしまいましてね。『我らザルカー軍閥はヤツの草原に秩序を取り戻すために立った』と言われまして、信じて彼らの先鋒として何度か戦いましたよ……建前とは比べ物にならない本音でしたが」
「だから俺たちの話を聞いて見限ったわけか」
「はい、ですが皆は金と言う事を聞く女さえいればよかったようで、最終的には堕落した我ら傭兵団はレスリー隊長に撃破されました。個人としては今は少しずつ心を壊された彼女たちの心を癒していければいいな、と」
「そっか、がんばってね」
「はいっ!」
心壊されたか……アルウェルニ様から頼まれた子も今は心が……まったく、この大陸を覆い続ける戦乱が無関係な人や純粋無垢な子供の心を破壊して、そして心壊された人がさらなる悲劇を呼んで……やめよう、考えるだけで鬱だ。これまでがどうこうじゃない、これからノヴォルディアでそういう事を絶対に起こさない方法を考えないとね。
───トントン
ん? だれかに肩を叩かれた。だれだろ───プニ んなっ!?
「……」
「のわっ!?」
「こらナターシャ、だめじゃないか急に」
「……(しゅん)」
振り向いたらほっぺを人差し指でつつかれた、なんという小学生。だがしかしこの感覚は懐かしいものがあるってというかこの世界にもこの文化あったのね。
「あーいいよべつに、気にしてないから」
「……(にぱ~)」
「まったく、ナターシャはいたずらが好きだから困ります」
そう、このナターシャさんがこの人の嫁候補かつザルカー軍閥の被害者の一人。見た目は名前通りロシア美女と言った感じで、歳はまだ18前らしい。今はあの時連れてこられた人たちが心の傷を癒しつつ社会復帰できるようにと作られた特別介護施設でノルドールの工芸品を作ったりしているそうな、みんな女性で男にアレされてたので今は男子禁制の……いかん、まりあほりっくの見過ぎだ自重自重。
「ではナターシャともどもこれで失礼します」
「あーそうだ、俺すっかりあなたの名前聞くの忘れてました。お名前教えてもらってもいいですかね?」
「ええ、俺の名前はベルツリー……いえ、ベルツリーです」
「え、あ……うん。今後もよろしく、旅に出てもたまにはここに戻ってきてくれるとありがたい」
「ええ、この国に危機があれば各国のつてを当たってそれなりの義勇軍を連れて必ず戻ってきますよ」
……ナターシャさんと一緒に訓練場から去ってゆくベルツリーさん、まてまてまてこれはアレか? アレなのか? 義勇軍連れてくるとなるとこれはすごいんじゃないか?
「あ、カズキどうしたんですかこんなところきゃっ!?」
「セニアっ! やばい主人公居た主人公っ!!」
「い、一体何の……もしかしてカズキの世界にあるあの物語の主人公ですか?」
「そうそれっ!!」
「え、ええっー!?」
たまたま訓練場にやってきたセニアの肩をがっくんがっくんと揺らしながらまくし立てる俺、話聞いた後に俺を逆にがっくんがっくんと揺さぶるセニア。はたから見たら痴話げんかにみ見えたそうです……はずい。
そう、説明しよう……ベルツリーというのは俺がゲームでプレイしていた時のキャラクター名だ。他にはブリッジストンやストーム・アーウェル、ヒルケープ。ふっふっふ、賢明な人ならすでに気付いただろう。要するにこの名を持つ人はこの世界に居るはずがない。それなのにベルツリーということは俺のプレイキャラクタ(=主人公)となる。どこかで見たことあると思ったらエディットの時に見てたのね。
そういえばキャラエディットの時に没落貴族の息子とか設定してたな、だから物腰が上品でカリスマがあるのか。ステータスは大体覚えてるからこれはいいぞ……ふふふ、彼なら間違いなく優秀な指揮官になるはずだ。あのキャラで大陸征服とかしたしね。
<カルディナ視点>
最近のレスリー姉さんは落ち着いているように見えて、すごくいらついています。
原因はザルカー軍閥を討伐しに行って結局ザルカーを殺せなかったから……だからいらいらしてます。
最近は姉さんが中心になって部隊の再編成とかしているけれど、結局あれも早く姉さんがザルカーを殺しに行きたいから精力的に働いてるだけです。きっと誰も止めなければ国をいくら疲弊させても姉さんはザルカーと戦い続けると思う、だから誰かが止めてあげないといけません。でも私の声は姉さんの奥底までは届いてくれない……やっぱりザルカーを自分の手で打ち取るまではずっとこのまま、なのかな。
「どうしたのカルディナ、手が止まってるけど」
「なんでも、ない?」
「ふーん、恋煩い? なんちゃって」
「デニスこそ、ヘタレ?」
「へ、ヘタレ……ぼ、僕だってちゃんと攻勢かけたりしてるよ。でもやっぱり隊長にはもうセニアさんが居るし、僕みたいなのじゃ隊長とは釣り合わないよ……」
「……ぞっこん」
「主も罪作りな人だ、鈍感な振りして巧みに『すくーるでいず』を回避している」
「……屋上でセニアさんにツヴァイハンターで襲いかかるセイレーネ」
「そこでなんで私なんだっ!!」
今私たちが居るのは兵舎の食堂でなくて街の喫茶店。最近はノヴォルディアを中心に人間の国家との貿易が盛んになってきていろんな食材や食べ物がこの街にはあります。
精霊の加護をつけていない普通の工芸品でもノルドールの物は高い値段がつくらしく、物々交換の対象としてよくこの国には砂糖や香辛料が輸入されてきます。おかげで庶民の間でも甘いものがはやり始めて……ん~ほっぺが落ちそう。隊長が言っていた甘いものは女の子を幸せにする魔法という話は本当でした。すごいです!
「ん~♪」
「さっきまで深刻そうな顔してたのに、一口食べたらこれだよ」
「でもデニスもにやけ、てる?」
「えっ!?」
「……モグモグ、おかわり」
「カザネ、それ4個目だけど」
「おかわり」
たぶん護衛兵の皆は私が姉さんの事で悩んでるのをわかってて私をここに誘ったんだと思います、おかげで一口食べるごとに憂鬱な気分は徐々に幸せな気分に変わりつつあります。今くらいは……なにも考えないで幸せな気持ちになっても、いい?
「騎士様、気にせずどんどん食べちゃってください! おかわりお願いしまーす!」
「はーい、注文入りましたー!」
このお店、実は隊長が経営者と仲良しで一緒に運営している喫茶店で店長は……以前私たちが護衛していた隊商の隊商長カラヴァルドさん。なんでもメイド服を従業員に着せることで、平民の憧れであるメイドからの奉仕を身分問わずうけれるというお店。貴族の反乱の後、自由になった元奴隷身分に近かった人がこういった店で経験を生かして働いているそうです。貴族が居なくなると仕事がなくなって困る人の事も考えてこういったお店を作る隊長はさすがですね。
───カランコロン
「おかえりなさいませ、ご主人様っ!」
「おう、いつもの甘い茶頼むぜ」
「はい、それではこちらへどうぞ!」
お店に来る人は傭兵や兵士などを含めた平民が中心です、貴族の人でも甘党の人が来たりもするみたいです。かく言う私たち護衛兵も今やただの護衛兵でなくて、ノルドール公認の騎士となったわけですけど、変わらずここで甘いものを食べることが至福の時です……ぱくっ、ん~♪
「カルディナ、楽しい?」
「うん、楽しい?」
「そっか、僕たち今幸せだね」
「……右に同じ」
「私も同じだな」
「はい騎士様、おかわりになりまーす。日頃のご愛顧と昇進を記念して今回はお会計半額との事でーす!」
「「「(……)食べるぞー!」」」
「持ちかえりは割引、できない?」
「すいません、それはちょっと」
みんなで笑いながら過ごせる楽しい時間。やっぱり、平和っていいな。
あとがき
更新遅れてごめんなさい、背後のごたごたが終わったのでまた元の更新速度に戻します。